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ただ、平和な毎日を過ごせるだけで  作者: リア狂
第一章 日常
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思い出

 昨晩騒ぎすぎたからか、皆は全体的に眠そうだ。

 かくいう私も目を擦って朝食の場にいた。


「おはようございます、槇村くん、甲本くん」

「おはよう・・ございます・・」

「よお、風間。眠そうだな」

「おはようございます。僕らもまだ少し眠いですね」

「ぅぅう・・あんたたち、遅くなかったの?」


 桜良はあまり朝に強くない。いつもは、醜態をさらさないようにと、必要以上に早起きして目を覚ましているのだが、昨日の晩は遅かったので、起きられなかったのだろう。


「ん? そこまででもねぇな。テッペン越える前には寝たぞ」

「合宿にしては早いですね。何かあったんですか?」

「教師の監視だ」


 見ると、トレーを持った御影くんが、テーブルのそばに立っている。

 珍しいことに、私たちと一緒に朝食をとろうとしているらしい。


「よう、御影。珍しいな、1人で飯食わねぇなんて」

「たまたま席が空いていなかった。入れてくれるか?」

「んぁ、いいわよ?」

「ええ、いいですよ」

「いい・・ですよ」

「・・どうぞ」


 甲本くんだけ若干不満げなのが気になるが、和やかな朝食が始まった。


「あー、で監視ってなんなのよ?」


 ようやく目が覚めてきたらしい桜良がそう切り出すと、男子皆で説明してくれた。


「実は、僕と源の主催で枕投げ大会をしていたんです。途中まではいろいろ気遣っていたんですが、皆熱くなってしまいまして」

「さすがに、選手に送る声援が大きすぎた」

「まぁそーいうわけで、先生に見つかっちまって、寝るまで監視されてたってわけよ」


 呆れるべきなのか、災難というべきなのか分からないが、甲本くんも運営に携わっていたのが以外だった。


「・・だから、私たちが話してても・・先生が来なかったんですね」

「バカどもが騒いでくれたお陰ってことね。ありがとう?」


 実にイラっとする流し目で、桜良が感謝を告げる。というか、セリフは感謝でも、心が感謝していないのは誰の目にも明らかだ。

 そして、目を覚ました彼女がいつも通りなように、


「誰がバカだ、誰が」

「べっつにぃ? あんたのことを言った訳じゃないしぃ?」


 それに食って掛かる槇村くんもいつも通りだ。

 理子ちゃんはあわあわし、御影くんは我関せずと、黙々とご飯を食べている。

 唯一甲本くんは、盛大にため息をつき、二人をとめた。


「朝食くらい静かに食べたらどうなんですか?」

「チッ、勇太に免じて許してやんよ」

「まあ、勇太が言うなら仕方ないわね」


 甲本くんも苦労しているのだろう。頭を抱えて、やれやれといった風貌だ。


「苦労しますね」

「いいんですよ、これが僕の役目なんで」

「おう、勇太がいねぇとこのアマ、うるさくってしゃあねぇ」

「勇太がいないと脳筋が暑苦しいからね」

「あ゛?」

「ケンカ売ってるのかしら?」

「だ か ら そういうところなんですよ、静かにできないんですか?」

「むぅ、分かったわよ・・」

「ケッ」


 相変わらず仲がいい2人だが、さすがにずっとこれというのも疲れる。よくもまあ、耐えられているものだ、彼も。


「この2人に付き合えるなんて、忍耐力すごいんですね」

「まあ・・慣れてますから。それに、家族みたいな2人と、こんな平和な日々を送れるのは、幸せなことですから」


 そう言って食事に意識を戻した彼の目には、悔しさや寂しさといった感情が浮かんでいるように見えた。


 ーーーーー


「お世話になりました!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 朝食を食べ終えた私たちは、自然の家のスタッフの方々に挨拶をする。

 長いようで短かったオリエンテーション合宿ももう終わり。あとはバスで帰るだけだ。


「これで合宿は終わりな訳だけれど、帰るまで気を抜かないように! 油断してると事故るわよ!」


 桜良の注意を聞けている人は少ない。皆眠気と疲れでへとへとだからだろう。

 一部の生徒はゾンビの行進のように、バスに乗る。私は、肉体的にはそれほどでもないが、女の子たちを捌くのに精神的に疲れた面はある。

 帰りの席も行きと同じなので、私は理子ちゃんの隣に座った。

 彼女は席に座るや否や、寝息をたて始める。

 元々体力がある方ではないらしいので、疲れが出ているのだろう。

 私はなにをするでもなく、外の景色を眺めたり、理子ちゃんの寝顔をみたりして時間を潰した。

 ふと、合宿後半様子がおかしかった彼のことが気になって、話しかけてみた。


「甲本くん、少し、話しませんか?」

「・・いいですよ」

「なにから話しましょうか・・そうだ、妹さんのことを聞かせてくれませんか?」


 彼には、妹がいるらしい。桜良からも聞いたことがある。『あの事件』の前は、よく遊んでいたという。


「妹ですか・・前にも言った通り、留学している、くらいしか話せることもないと思うんですが・・」

「いえ、他愛もない思い出話なんかでもいいですよ」

「うーん、そうですか。じゃあ少し、昔の話をしますね」


 そう言って彼は、妹との思い出を語り出す。


 そこに私は、違和感を覚えた。


 彼女は中学生らしい。ならば、思い出話は小学校の頃のものが多いはずだ。記憶にも新しいし、それだけ期間も長いのだから。


 しかし、聞いた話の多くは、彼女が小学校に入学する前のものばかりだったのだ。

 2つ年下、つまり14歳であろう妹さんとの思い出が、小学校入学前のものばかりというのは異常だ。

 関心がなかったわけではない。彼女のことを話す甲本くんの表情は、とても柔らかい。


 ならば、何故。


「8年前、両親が()()()()()()()()亡くなってからは、2人で支えあって・・もちろん、源やケンさんのお陰というのもありますけれど、なんとか生きてこられたんです。彼女は僕の、大切な家族なんですよ」


 そう言って、彼は思い出話を締めくくる。

 ただの1度も、8年前から今までの話をせずに。


『あの日』の記憶を、話すこともなく。

なんだか徐々に長く書けるようになってきて・・嬉しい。

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