球技大会 前編
今日の午後は、クラス対抗のドッジボール大会が行われる。
午前中御影くんにこってり絞られ、野外炊飯で御影くんとの逢瀬(だと思われていた)の説明を友達にさせられた私は、かなり疲労していた。
「はぁ・・今からドッジボールかぁ・・」
「元気ないわね、まあ無理もないだろうけど」
運営に忙しいはずの桜良が、見かねて声をかけてくれた。
さすがに昔からの付き合いであるからか、彼女は私がなにか色恋ではない隠し事をしていることを察してくれたようで、さっきも誤魔化すのに手を貸してくれた。
「私だけ見学とか・・だめかなぁ?」
「気持ち的にはさせてあげたいけど、正当な理由がないからだめね」
「精神的疲労は正当な理由だと思うけどなぁ・・」
「男子の試合が先なんだから、その間にでも休んでおきなさい」
「はぁい」
私たちの学年は4クラスだ。
1クラスは40人で、今回のドッジボール大会では、それを男女別に10人ずつのチームに分けてやることになっている。
高校にもなると、男女の体力の差も出てくるわけで、男子の試合を見るということは、自分達の試合と比べたら圧倒的に速い玉が飛び交うゲームを見るというわけだ。
正直少し怖かった。
流れ弾に当たったらどうしよう、とか、あんなに強いボールを受けて痛くないのかな、とか、余計なことを考えながら見るゲームは冷や冷やするだけで、大して面白くもないもののはずだった。
しかし、いざ見てみるとどうだろう。
確かに、自分の投げるボールと比べたら速いし、強い。
でも、不思議と痛そうだとか、速くて怖いといった感情はあまり浮かんでこなかった。
「そっか、アレのせいか」
「・・どう、したの・・詩織ちゃん・・?」
横で一緒に見ていた理子ちゃんが、声をかけてくる。急に声を出したから、ビックリさせてしまったのだろうか。
「ん、なんでもないよ、ごめんね?」
「そう・・なら、よかった・・」
さすがに、御影くんに投げられたナイフの恐怖が脳裏にこびりついているから、ボールの速さに恐怖を感じない、とは言えない。
午前中の訓練で、彼は『貫通』の能力を乗せた、ゴム製のナイフをかなりの速度で投げつけてきた。
当然、『障壁』でなんとかしようとするわけだが、いかんせん能力の相性が悪すぎるようで、何度も何度も破られた。
その度にナイフを体に受けるわけで、いかな柔らかいゴム製といえど、数ヶ所の打ち身をした。
アレの怖さと痛みが未だに頭から離れないので、自分に向かって飛んできているわけでもないボールに、そこまでの恐怖を抱かなくなっているようだ。
「ゲームセット!2組Aチーム、準決勝出場!」
いつの間にか次が準決勝らしい。
1組A対2組A、3組B対1組Bが準決勝の組み合わせで、AチームもBチームも出ている我らが1組男子は、大いに盛り上がっているようだった。
Aチームは、槇村くんを中心としたコンビネーションプレイで、Bチームは、御影くんが細身の体に似合わぬ運動能力で、ここまで勝ち進んできたらしい。
このまま行けば、1組対決もあり得るわけだが、私としてはあまり好ましくない。
しかし、そんな思惑を嘲笑うかのように、決勝戦は1組対決となった。
「AもBもがんばれぇぇ!!」
「チクショウ!もうどっちが勝ってもいいから、さっさと終わらせやがれ!」
「槇村くんがんばれ!!」
「御影くんカッコいいー!」
学年全体が、思い思いの応援をしている。
理子ちゃんは、小声で甲本くんを応援しているらしい。
「・・御影くんを応援しておいた方がいいんじゃないの?」
「あれ、桜良、運営は大丈夫なの?」
「もうやることないのよ」
「ふぅーん?応援しに来たんじゃなくて?」
誤魔化しながらからかう。私だって迷ってるんだから。
「べ、別にあのバカの応援のために、早く切り上げた訳じゃないし」
「誰が槇村くんって言ったのかなぁ?」
いっそ清々しいまでのツンデレである。いつもこうならウザがられるだけかもしれないが、普段は凛々しい委員長なわけだから、余計にからかい甲斐がある。
「そ、そんなことはいいから、御影くんを応援しなくていいのかって聞いてるのよ!」
「まあ、そうだよねぇ」
午前のことは逢瀬と認識されてしまっているし、ここで応援しないわけにもいかないだろう。
そのくらいなら別にいいか、と声をあげる。
「御影くんがんばれー!」
ちょっと応援しただけなのに、きゃあきゃあ騒がれた。だから嫌だったのだが。
それに、甲本くんの肩がぴくっと動いたように見えた。昨日の夜から口を利いてないし、少し心配でもある。
「源!気張りなさい!負けは許さないわよ!」
なにを、許さないのか。
「うるせぇ!言われんでも勝つ!行くぞ!」
「「「応!!!」」」
Aチームは気合い十分らしい。
Bチームは御影くんに信頼の目を向けている。チームとして、それでいいのかは疑問だが。
「それでは、1組A対1組Bの対戦を始める!」
ピィ!というホイッスルのあと、試合が始まった。




