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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第五十二話 騎士団撤退援護作戦、その8

演習を一通りこなした後、ユキを含めた分析班の働きによって情報がもたらされた。そのデータを手に彼女は早足で艦内の訓練場へと進む。

「そこまで」

ユキ・クロカワが訓練場に到達したのと同時にレオハルトが皆に短く指示する。

すると全員が迅速に並びユキの報告を待つ。

「……練度が上がってるわね」

周囲の成長に驚いた様子を見せつつユキも手早く報告用の映像を開く。

「そうか」

一目見た段階でレオハルトが納得した様子で頷いた。

何人かの仲間も同じ反応を示す。ソニアとペトラもすぐに気がついた側のメンバーであった。

「随分生き残っているわね」

ペトラがゆっくりと頷くと長い茶の長髪が揺れる。

「王立騎士団団長のジル・ベフトンね。緻密な指揮と本人の卓越した戦闘能力が騎士団の士気を支えているわ」

ソニアが的確な指摘をするとサイトウからも同様の意見が出た。

「ソニアのいう通りだな。一度、ジル団長と作戦を共にしたことがあるが凄えやつだったよ。俺も筋肉には自信があるがあいつはあいつで鍛え抜かれててな。肉体的にも精神的にも筋骨隆々とか頑強とかそういう表現の似合う人物だった」

「背丈は一八四センチはありそうね。うふふ」

そう言ってソニアが意味深な笑みを浮かべる。

「……あのー、ソニア……さん?」

キャリーが困惑した様子見せつつ何かを告げようとする。だが、レイチェルとアンジェラが止める。

「ふぇ!?」

「ちょ、ちょ。とりま黙っとこ。言っちゃうのまずい系よ」

「……ロマンチズムは知らぬが仏だったりするのです。ぬふふふ……はぁ……」

要らぬ忠告をしようとしたキャリーを止めながら二人はそれぞれ過去の失恋の痛みやら苦いロマンチズムやらの苦い思いを馳せていた。渋柿を食した様な顔の二人にキャリーは困惑をますます深めていた。

「そこ、レオハルト中佐の説明中だ。傾聴しろ」

スペンサーは別の意味で渋い顔を三人に向ける。

「騎士団はどうにか生き残っている様ですが……弾薬や燃料の不足に陥っている可能性も考慮すべきかと思います」

「無論だ。近接戦を交え、弾薬を節約してるだろうが、限界はある。厳しい状況だと考えるべきだろう」

そのタイミングでルードヴィヒが提案する。

「ならば、燃料と物資を積んだ輸送船を向かわせるべきだ」

「非現実的な提案です」

「なぜだ副長」

それを聞いて副長がため息をつく。

「……今、彼らが包囲されている宙域は敵の完全な勢力圏であり護衛を随伴させても撃墜されると考えるべきです。撃墜ならまだ幸運でしょう。最悪敵の手に物資を手渡されて騎士団掃討に使われたら目も当てられません」

「……むんぐぐぐ」

あまりに愚かな提案だったことをスペンサーに的確に指摘されたことで、ルードヴィヒは悔しそうに顔を歪める。そこにレオハルトが多少フォローを入れる。

「確かに作戦自体は王立騎士団の援護が最優先されるべきだ。しかしその後は、人員の収容や可能な限りの救助も必要になる。空母打撃群によるバックアップも前提とした作戦で進める必要もあるだろう。正規軍と合同で援護しつつ下がらせた騎士団は空母で補給を行わせることも視野にすべきと判断する」

「レオハルト……」

ルードヴィヒは多少とはいえフォローを入れてくれたレオハルトに対して感謝と敬意の視線を向ける。

「む、中佐がそうおっしゃるなら」

スペンサーもレオハルトの的確な改善案を受け入れ、納得した様子を見せる。

そこからレオハルトが次の作戦内容について言及した。

「我々がすべきは機動力のある部隊を王立騎士団の援軍として向かわせることだ。……そうなるとアラカワとジョルジョの二人を隊長として四人編成の二部隊を編成する。アラカワ隊のコールサインは『レイヴン』、ジョルジョ隊のコールサインは『イーグル』とする」

「了解」

「了解だ」

「レイヴン隊の僚機はフリーデ、エリーゼ、クラーラ。イーグル隊はロビー、アポロ、それとシーシャだ」

人員の名前を聞いたジョルジョは意外そうな顔になる。

「シーシャか。あのイルカちゃんはAF乗れるのか?」

「搭乗者資格有りだ。その点は問題ない。そこらのパイロットより優れた腕がある」

「へえ、経験は?」

「飛行訓練の成績も実績も申し分なしだ。きっと気にいる」

「へえ……まあ、あいつは機械に関しての適正すげえからな。何度か整備に関して相談に乗ってもらったが……」

「それにシーシャはユキに引けを取らないハッキング技術がある。AFの整備に関しても詳しいのを知っているだろう?」

「そうだな。なら四番機だとしても納得だ。……アラカワのは大丈夫なのか?」

「というと?」

「AFの操縦に関して天才的とはいえ訓練だけしかしてないじゃじゃ馬の新兵だろう。いざって時、苦労しないか?」

その問いかけにシンは冷静に返答する。

「問題ない。レオハルトと話し合った結果だ」

「そうなのか?」

そう言って双子の身辺調査書とAFの登場経験に関する書類の二つを渡した。いつの間に身辺調査を完了しているレオハルトにぎょっと驚いた様子を見せたジョルジョは二束の書類を読み終えてからも自身の目を疑っていた。

「……慣れてるんだな」

「アラカワはそういう人だろう?」

レオハルトがそういうとなぜかジョルジョが改まった物腰となる。

「……今日からアラカワの兄貴と呼ばせていただきます」

「それはいい」

流石に寡黙なアラカワもツッコミの一言を入れた。

「作戦は騎士団のAFと艦隊を援護するって聞き及んでます。ですが敵も大部隊で友軍は損耗した以上厳しい戦いになると予測できますが?」

フリーデはタブレット端末を操作しながら今回の作戦について質問を投げかけた。

「騎士団には王族関係者もいる。それに騎士団長のベフトンを失う事態だけは避けたい。戦局が悪化するリスクがある」

「なるほど……それに今回の人選は私の考える限り、攻撃性と生存能力、機動性を考慮した人選としております。それならランドルフを隊長としたもう一部隊を後方支援としておくべきでは?」

「確かにそれは考慮したが機動性を考慮するならば安全圏から二部隊を向かわせて支援攻撃させる方が良いと考えている。無論、補給と退路の手段はすでに用意してあるからその点は安心してほしい」

「それもですが敵が大規模な攻勢を加える可能性が高く電子戦や物量による手数での圧倒が考えられます。少数精鋭では各自の負担が大きすぎるのでは?」

「それに関しても考えてある。物量による人海戦術はツァーリン連邦の十八番だが良くも悪くも突撃ありきなのが奴らの弱点だ」

レオハルトの発言にスペンサーがハッとした様子を見せた。

「縦深攻撃か」

「その通りだ。そこに彼らの弱点がある」

そう言ってレオハルトがホログラムを動かす。

「我々はこの地点に空母打撃群を待機させ、レイヴン、イーグルの二個小隊を発艦させる。その際、グレイスを中心とした面々でAF部隊が艦上で警戒体制で待機させる。搭乗員資格のない者に関しては引き続きCICにて私が指示する業務を補佐してほしい」

全員の了解を引き出した後、アラカワが質問を投げかける。

「作戦についてだが、装備に指定はあるだろうか?」

「各自裁量に委ねるが、空戦を想定した装備が必要になる」

「了解。徹底させる」

「今回の任務は騎士団の撤退支援だ。撤退という状況である以上は機動性重視でいてほしい。火力に関してはその次でいい。ただし、状況を考慮すると敵は多数の軍艦を展開していることが判明しているため対艦攻撃も想定すると状況は優位になるだろう。敵機との交戦をしつつ余力があれば対艦攻撃も視野に入れてほしい」

「了解。それは俺に任せてもらおうか」

「おいおい、それは俺もだぜ」

「今回は頼もしいな」

「いつもだろう?」

軽妙なやり取りの後、二人が前に出て部隊のメンバーに向けて呼びかける。

「今回の作戦はあくまでも友軍の援護だ。味方の状態に気を配りつつ敵の動向に注意してほしい。異変に気がついたらすぐに報告を行え。相手が突出してきた時は特に注意しろ」

「大暴れするのは大前提だが、こちらは帰還率100パーでいく、絶対死ぬなよ!?」

ジョルジョらの発言に頷きながらレオハルトが会議をまとめる

「その通りだ。本作戦はジョルジョの発言通り全員生還を前提とする。いつも通りだが今回は特に注意すること。では各自、準備にあたれ」

レオハルトの発言をきっかけに作戦会議は終了する。そこから格納庫へと場所を移した一同は搭乗員資格のあるメンバーを中心にAFの整備と調整が進められる。

「その部品はこっちだ!」

「部品の位置こっちでしょ!」

「四度こっちに!」

「システムとの噛み合わせ急げよ!」

整備班員たちはてんてこ舞いになりながらSIAのパイロットたちの要求に応えられる機体に最後の仕上げを急ぐ。

「デビューだな。クラーラ」

「そうだね。エリーゼ」

「華々しくやろう。生き残るのは当然だろう?」

「もちろん、これくらいの任務はこなさないとね」

パイロットスーツを着用し終えた双子はそう言ってアラカワとフリーデの二人へとスーツの推進器で近寄る。格納庫は船の重力発生装置から遠いためか重力がやや弱く、重力係数の値が『二・一』を指し示していた。

「衛星並だな。整備目的か」

「重力発生器から遠いし」

双子がそう言いながらアラカワたちの近くに着地する。

「……来たか」

シンがじっと双子を見つめると恐れ知らずと名高い双子も、流石にウッと尻込みする様な様子を隠せずにいた。なぜならシンはじっと観察の眼差しを双子に向けたからだった。腹の奥を読み込む様なクレバスがごとき眼差しに双子は恐怖すら感じていた。

「慢心、油断、傲慢……。昂りすぎた感情は命に関わる枷になる。……ふむ、俺なら枷は捨てろと忠言するが、レオハルトが言うには感情は力になると言っていた。最低限は尊重する」

「……」

「……」

沈黙する双子にシンはフリーデの方に向き直る。

「どう思う?」

「……正直、私には不明です。感情と戦闘の相関は私には想像つきません」

浮世離れした銀の短髪、ビスクドールより精巧さを感じさせるような美しい青の虹彩、そして非常に整った顔の造形が見る者すべてを魅了する。淡青色のパイロットスーツが彼女の人間離れしたような美貌を引き立てるのを同性である双子ですらも感じていた。

「そうか。ならばこの戦いで片鱗くらいが見れれば上々とする」

そうアラカワは結論づけたのち、双子に最初の指示を出した。

「今回の任務は俺についてくるだけでいい。指示は追加するが基本はそれと生き残ることだけ考えろ。やばかったら呼べ。全員返事はいい。機体の調整に戻れ」

シンはそう言って機体の方へと歩を進めていった。経験に裏打ちされた隙のないシンの立ち振る舞いに双子はただただ息を呑むばかりであった。

シュトルベルグ姉妹の操縦技術やいかに?


次回、宇宙大戦争の真っ只中へ

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