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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第四十九話 騎士団撤退援護作戦、その5

作戦の一部始終を確認後、スペンサーは心底困惑した様子であった。

「……目的は果たした。作戦完了を宣言する」

対照的にレオハルトは冷静であった。

「……これ、見込み通り?」

スペンサーの質問にレオハルトは答える。

「結果は申し分なし。敵基地は完全に壊滅、情報も得た。ただ捕虜は残念だった……」

レオハルトの発言にルードヴィヒが糾弾する。

「長官殿はあのようなバーサーカーを飼っているのかね。現在進行形で!」

「ルードヴィヒ副長。飼うという表現は部下に対して失礼だ」

レオハルトは冷静にそう反論する。

「アラカワはもはや獰猛な猛獣かなにかであろう! ああ、天に御坐す神樹の頂上に……」

青ざめた顔でルードヴィヒがブツブツと神樹教典の一説を呟き始めた。普段からルードヴィヒは特段仕事をしないために反感を買う立場にあった。だが今回の発言自体は一理はあった。

「……えっと、ボクってあの……『未来世界の人型戦闘マシン君』と一度喧嘩したんだっけ…………あ、あれ……あれ……?」

アラカワの規格外の大暴れっぷりにライムもレオハルトと同様困惑した顔をする。ライムは正面から戦えば敵なしとすら言われている一流の戦士である。だが、その彼女を以前一度退けたことあるアラカワはあまりにも規格外であった。

「スチェイ」

「どうした?」

「アラカワは凄えよ。なんなんだろう、この……なに……?」

「そりゃ……あいつはウチで一番のインテリヤクザだからな」

「ああ。頭のネジがぶっ飛んでなければこうも戦えまい」

サイトウとスチェイはアラカワに対する認識を互いに深めていた。

そんなやりとりをしているうちに軍用輸送フロート側から通信が入る。

「中佐、任務完了だ。データを確保した」

「ありがとう。不測が起きた中でよくぞ生き延びてくれた。しかもデータも」

「味方の命がかかってましたので。……捕虜を救えなくて申し訳ございません」

「いや、想定外が多すぎた。むしろよくやってくれた」

「身に余るお言葉です」

「今、ジョルジョを向かわせている。安心していい」

「了解。追加の報告ですが……リーゼが任務中に負傷しました」

「え、リーゼは大丈夫?」

「はい。再生できる範囲内です」

「触手?」

「はい」

「わかった。ただ、なるべく早めに帰還して。救護班とベッドの手配をしておく」

「了解」

部隊の無事を確認した後、レオハルトは全員を集める。

「……情報次第だが、全員で騎士団の救出に当たることになるだろう。各自、準備完了後は休憩となる。次の任務まで英気を養ってほしい」

レオハルトが全員にそう告げて解散しようとする。そのタイミングでルードヴィヒが彼を呼び止める。

「ま、待て。君はこの問題児どもに罰も与えんのか?」

「問題児?」

「事前の内容と違う動きをした。これは命令違反で━━」

「副長、現場は変化するものです。よって最適だと判断した行動を取ることを僕は推奨してます」

「だが……」

「いい機会です。あなたに話があるので別室まで来てください。その間、他は休息を」

レオハルトとルードヴィヒはそう言って二人きりとなる。場所は大会議室から離れた休憩所でコーヒーなどの自販機の設置されていた。

「……ルードヴィヒ副長、秘匿情報を軍の別部署に伝えましたね?」

レオハルトは単刀直入に発言した。

「な、なんのことだ」

レオハルトの問いかけにルードヴィヒの反応はあからさまなものであった。目が泳ぎ、言葉の抑揚や口調に揺らぎが起こる。レオハルトのような人間心理の理解者でなくても明瞭に感じ取れる反応であった。

「どこかは察しがつきます。国立指定薬物取締局ですね? 誰の指示でやったかもお教えください。そうすれば……」

「そんな長ったらし━━」

「誤魔化さない!」

レオハルトの目がカッと見開かれる。明瞭に響き渡る怒りの声にルードヴィヒは縮こまる。同時に、彼の計算された口調の変化でもあった。

「ヒィッ!」

ルードヴィヒは相手の思わぬ豹変に思わず短い悲鳴をあげる。

続けざまに強烈な叱責がくると彼は身構えていたが、次に来たのは普段通りの優しい物腰であった。

「……ルードヴィヒ副長。僕は。君が本当の悪者を見抜いてくれるって信じているんです」

レオハルトはアドバイスを交えながら次にすべきことを淡々と伝達する。

「……え?」

面食らったルードヴィヒは目を白黒させる。レオハルトはそんな様子の彼にも根気強く言ったことを繰り返した。

「本当に悪い奴は人を利用するんだ。甘やかすだけ甘やかして利用して骨までしゃぶろうとする。……でも貴方は本来そんな甘いやり方に負けない強い人なんだって信じています。能力とか頭脳とかとは違いかもですが。誇り高いのは普段から知っていますので」

「……」

「だから教えてください。アラカワたちを危険な目に合わせたのは君に情報を求めた人だと思っています」

「……言うか?」

ルードヴィヒが何かを呟く。

「……え?」

レオハルトが聞き返しの声を発した。

「私が……『中佐』に利用されたとでもいう気か?」

中佐。その階級にレオハルトは嫌な予感を感じた。しかし、その具体的な意味を持てなかった彼はひとまずこう切り返す。

「今の僕と階級は同じですね。その中佐とはどの中佐で?」

レオハルトは冷静さを装いつつもルードヴィヒの反応を観察していた。無論、観察していると言う感覚を与えないよう愛想笑いの演出を交えて彼の方を見る。レオハルトの笑顔は元々人を安心させるような優しいものである上に、彼が愛想笑いを浮かべたタイミングが絶妙であった。

その結果ルードヴィヒが意外な名前を口にした。

「……『ゴードン・グリフィン中佐』だ」

「そうなんですね……本当に?」

レオハルトは表に出さなかったが、声に少なからず動揺が現れていた。その名前は父のかつての親友にして戦友の名前であった。何故彼がという問いを飲み込みながらレオハルトは再度彼に確認を促す。

「間違いない。だって顔も見た。グリフィン中佐のことは冷血カールの親友とは思えないほど異質だから」

「……」

物言いには棘のある表現であるが、発言に嘘も間違いもないことをレオハルトは確信していた。ルードヴィヒは間違いの多い人物であるが、レオハルトの側で何度か優しく聞き返せば憶測のみの発言時には反応が出ていた。しかし今回はそれが存在しなかった。したがって憶測で適当な発言をしている線はここで消えた。

盛大に勘違いしている可能性もあるがそれはグリフィン中佐の行動を洗えば済むことであった。なのでレオハルトがすべきことはルードヴィヒの迂闊な発言に対する忠言と今後への士気の維持向上であった。

「ルードヴィヒ少佐。僕は君の良いところを知っています。君は誇りを大事にする人だと感じてますので」

「そうだとも。私こそ……」

レオハルトは敢えて彼が名乗りを上げる前にその名乗りを遮った。

「ならば僕と約束してください」

「約束?」

「そう……貴方は僕と同じ正義を共有できると」

「お、同じ正義とは?」

「民衆や年下の人の未来、そして国の未来のために尽くすこと。なにより……エクストラクターたちを許さないこと」

「何故だ?」

「僕の父の仇だからだ」

「な、なぬ!?」

彼の言葉と物腰の変化にルードヴィヒは再度目を白黒させていた。

「カールの息子だとどこかで名乗ったかもしれません。でも……それでも、僕にとって父とは未知であります。僕は父の死の真相を知りたいだけなんです。少しでも。……生きる分には相続された財宝や資産もあるでしょう。でも我が父は少しでも未来をよくするために足掻いていたはずです。それを知りたいのです」

レオハルトは自身でも驚くほど激しい動揺を見せていた。

それは彼にとって想定外であった。逆にルードヴィヒの信頼をより勝ち取る結果につながった。

「……そうだな……君もシュタウフェンベルグ家の家名を背負う高貴なる者……なら……」

「……僕は貴方とは逆に父のことを疎んじていました。何も知らず……わからず……」

「そうか……私は僕の誇れる一族のために足掻いていた……正直……」

「……」

「正直……私は……才能がない……知略もない……一族の誇りだけで生きているような男だ。無論、高貴な血筋というのは事実だが、とにかく毎日が精一杯だ」

「……」

「SIAの皆は羨ましいな。皆、才気に溢れ、強さがある。嫉妬ばかりの私とは大違いの集団だ」

「副長……」

「レオハルト……君にはやはり教育者としての才能がある。そして高貴なる者として大局を俯瞰して見る戦術家の才能もある。悔しいが……君は私の憧れだ」

「いえ。僕の勝利は皆のおかげですので」

「……羨ましいのだ。私は……ずっと嫌われ者だから」

ルードヴィヒはその場から逃げるように立ち去っていった。

「……」

レオハルトは彼の反応を見てどこか渋い表情を浮かべていた。自身に不安をもたらす感覚の正体をレオハルトは答えを出すことはできないでいた。

だが、悩んでいる時間はなかった。アラカワらがセントセーヌの敵基地から帰還し、艦隊に合流するためにあらゆる受け入れ準備が必要であった。全て準備が済んだタイミングで環境から通信が入る。

「中佐、潜入部隊の船艇が帰還しました」

「よし、まずリーゼの治療を優先してくれ」

「承知しました」

そのやりとりを終えると数十分足らずでリーゼが船内の医務室に運ばれるのでレオハルトは見舞いに訪れる。

「具合はどうで?」

「げ、激痛ですわぁ……痛ぁ……」

改造人間であるリーゼは幸いにも頭足類の生命力を有した改造が施されたことにより負傷に対する再生能力を有していた。現地での止血と取れた触手さえあれば縫合と消毒や医薬品の塗布を済ませて医療用カプセルに入る程度で済んだ。

「心中お察しするよ。でも無事でよかった」

「ありがとうございますわ……運命の皮肉とはこのことかしら」

苦笑を浮かべつつリーゼは軽妙な言葉を発する元気を保っていた。それに彼が安堵した後、アラカワが飛び込む。

「中佐」

「なにか……データのこと?」

「はい、急いで支度したほうがよろしいかと」

神妙な面持ちのアラカワを見てレオハルトは騎士団が置かれている状況が切迫していることを彼は理解した。だが悪いニュースばかりではなかった。

「急ぎみたいだね」

「はい。なので本国経由で援軍が来ます」

「援軍……正規軍かな?」

「アズマから『東の賢者』が来ます」

「タカオか!」

レオハルトの笑顔を見てアラカワが意外そうな表情を浮かべていた。

「ええ、中佐は嬉しそうですね」

「親友だからね。彼が来るなら心強いよ」

意外な援軍。それも知りうる限り最強クラスの戦力の名前にレオハルトは笑顔になる。それはレオハルトにとって最も信頼できる友人であることも大きかったが、タカオ・アラカワという名前自体が銀河でも有数の戦術的個人戦力として大きな名前でもあったからであった。

まさかのタカオ登場!?


次回、騎士団救出の準備始動!

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