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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第四十四話 大海賊カトリーナ、その三

捕えられたカトリーナとカレナに対してSIAは尋問を行う。

女戦士の方も女海賊の方も勝負こともあって非常に協力的な態度で話し合いに応じていた。スペンサーやスチェイは難航するものとしてに見ていただけに二人は彼女らの様子に目を白黒させていた。

「ツァーリンの軍艦だったら問答無用で沈めっけどよ。共和国だったら通行料だけで勘弁してやっからと思ったわ。いやー、お前ら強いのなんのって」

「やけに素直だな」

「そりゃおめーら、軍艦にすら市民乗せとくレベルだったんだろ? 逃すの手伝うけど海賊のプライドもあっから戦いたくなったんだわ。久々にパイレーツ魂に火がついたぜ」

「迷惑だな!?」

スチェイは思わず目を見開いて叫ぶ。

「でも、面白かっただろう?」

カトリーナは歌劇さながらの気障な声色でウィンクする。

「やっぱ迷惑だな!?」

スチェイは奇想天外なカトリーナの言葉にいちいち翻弄されていた。

「まーおもしれー話題はともかくさ。市民ってどんなヤツ乗ってんだ?」

「お前に教えると思うか?」

スチェイが怒気を発しながらカトリーナの方を睨む。

「そう怒んなって、そりゃアタシは無法者で気に入らねえ奴は軍関係者でも血祭りにすっけどよ……弱いものいじめをするくらいなら海賊辞めて働くつもりよ」

「だがお前は民間の船も混じったこの船団を襲撃したろうが」

「富裕層の船かと思ったんだよ。フランク連合のお貴族様は歪んだやつ多いからちょっとビビらせてやろうって思ったんだって……ああそうだ、お前らセントセーヌの行きつけの店に誘ってやんよ、いいって、迷惑料だから……どした?」

あからさまに暗い表情に変わってゆく周囲にカトリーナは疑問を投げかけた。

「……セントセーヌはツァーリン軍の侵攻により大部分を占領された。現地には連合王国軍が奮戦しているだろうが、状況は芳しくない」

「…………んだよ、そりゃ……」

カトリーナは最初耳を疑う様子になった。そしてその意味を徐々に理解したと思えば烈火のごとく怒りを露わにした。

「んだぁオラァ、そんなにボルシチが好きかゴラァ!!」

女海賊の怒りの言葉と声色はそれまでに見ないほど激しいもので周囲の人間をたじろがせるほどの迫力があった。

それに驚いたのかシンとレオハルトが部屋の中へと入り込んできた。カレナも流石にカトリーナを宥めるべく声をかけるがそれでもカトリーナの怒りは収まらず、彼女が落ち着くまでに一時間ほどの時間がかかった。

それは取り調べという観点では時間の損失に思えたが、それは彼女の口から飛び出した言葉によって大きく覆される。


「……レオハルト、だったか? アタシを仲間にしてくれ」

「はぁ!?」

当然、スチェイが怒りを露わにするがレオハルトが片手で制止する。

「理由は?」

「ロクでもねー街だけどよ。美味い飯屋があったんだ。それを潰してボルシチ屋建てるなんて許せねぇよなぁぁ!」

謎の怒りの発露を見せながらカトリーナはレオハルトに握手する手を差し出す。

「そうだね。画一じゃない美味しい料理店はいくつあってもいい」

「いいねぇ! ノリが良いのは好きだ!」

そう言って二人は握手を交わす。

「いいんですか!?」

「今は戦力が必要だ。それに……そろそろフランク連合側もまずい頃合いだ」

「連合王国が?」

「騎士団は精強でAFの質も素晴らしいがいかんせん敵の数は多い。不利になるのは時間の問題だろう」

その言葉を聞いてシンが誰かを呼ぶ。

「来てくれ」

ユキがレオハルトらに敬礼をした後、シンの側へと歩み寄る。そしていくつかに資料を彼に手渡した。

「……騎士団のことね」

「まさか……」

「いえ、王立騎士団の大部分は無事よ。しかし、正規軍は手痛くやられたようね。通信記録を取得してきたけど、特に国防軍は酷いものよ」

「どれくらいやられた?」

「……騎士団側も三〇機やられて、艦船もぼろぼろだけど、その比じゃないわ。国防軍の車両は二千以上、AFは一二〇四機も破壊されたし、歩兵の死傷者は五万以上だと推定されるわ。もっと増えそうね……」

「壮絶だな……」

「だけど生き残りも多くいる。しんがりを務めた部隊長……いえ、騎士団長が勇猛だったようよ」

レオハルトはその人物に心当たりがあった。王立騎士団は大隊をいくつか抱えている組織であり、そこに所属する幹部は激しい前線でも戦えるような猛者ばかりであったが、そんな組織を率いつつ被害を最小に抑えられるのは限られていた。

「ベフトンさんだね」

レオハルトの断言にユキは驚きを見せていた。

「よく分かりましたね?」

「状況と実力を考えると彼だと考えただけだよ」

レオハルトの予測は当たっていた。騎士団の猛者たちが激しい空と地上の戦いを切り抜けたのはベフトンの技量にも大きな要因が存在していた。

ジル・ベフトンは連合王国の誇りと評するべき人物であった。

身長一八四センチ、体重八五キロで筋骨隆々の武人であり、その見た目に反しない騎士道精神溢れる英傑として広く知られていた。その武勇は王室や海外の目敏い軍事関係者にも知られており、連合王国軍側も戦力として重宝するほどの猛者である。

レオハルトと彼と交流があり軍略や国防についての話題で議論を交わした機会が幾度も存在した。レオハルトの見識について非常に鋭利な意見を言う場面を経験したこともあり、レオハルトの評価も申し分ない人物と言えた。

「彼は優秀だ。むしろ三十機も落とされたほどに激しい戦いだったのかと驚くばかりだ」

「ええ、連合王国正規軍が痛手を負ったのはきついわね……」

悪化する状況にユキの顔が曇る。レオハルトは彼女よりかは冷静だったがそれでも渋い顔をしていた。その様子を見てSIAの幹部陣も緊迫した面持ちとなるが、二人例外が存在した。

アラカワとカトリーナである。

カトリーナの方は飄々とした様子で、アラカワは普段通りであった。イェーガーですら渋い顔をする中アラカワが冷静だったことはレオハルトを驚かせる。

「だが幸運もある。騎士団の戦力、特にAF部隊の損失が比較的少ないのは幸いだ」

「アラカワ?」

レオハルトの疑問にアラカワはホログラムを動かしながら説明を行う。

「我々にはできることがある。共和国やまだ無事な連合王国領への受け入れ先を確保しておくべきだな」

「王立騎士団の救助に行くのか?」

「そうだな。何人か仲間が欲しい。王立騎士団は今も撤退中ならば追撃を受けている可能性が高い。援護が必要だ」

「だが現在位置も不明なまま動くのは危険だ。AFや航宙機で探索するのも敵の大部隊と接触するリスクがある」

シンとレオハルトがそんなやりとりをしたタイミングでカトリーナが提案する。

「なら別のやり方が必要だろーぜ」

「なにか策があるのか?」

「そりゃおめー傭兵やら民間の運送業者装って敵に接触すればいいんじゃね?まあそんなスパイじみた真似できる人員は限られるけどよ」

「良いアイディアだ。それなら問題ない」

「へ?」

「レオハルト、顔が比較的割れてないメンバーを連れていきたい」

「ふむ……なら、カトリーナ、リーゼ、マーク、セリア、イェーガーの面々が適切だろう」

そこに双子が割り込む。

「ねー」

「私たちは?」

少し思案してからレオハルトは次のように答えた。

「エリーゼ、クラーラは別命まで待機。暴れるのは無しだからね」

「ちっ……」

「バレたか」

「舌打ちもしない。ここは軍事組織だから上官は絶対だよ」

「ラジャー」

「ラジャー」

双子は同時に答える。

「素直でよろしい」

レオハルトが頷いた後、シンと四人の仲間を集めてブリーフィングを行う。場所は艦内の会議室を用いて行われた。

「……全員、聞いてくれ」

その言葉で幹部陣が全員顔を向ける。例外はルードヴィヒだけだった。

「……今回、アラカワと複数人のメンバーである作戦を行う」

「……」

「……カトリーナ、リーゼロッテ、マーク、セリア、そしてイェーガー。以上、名前で呼ばれた者はアラカワを含む五人の少人数による敵地の情報収集を行う。質問があれば今のうちに答える」

レオハルトの問いかけに最初に手を挙げたのはエリザベス・ノーズであった。

「まって。私が呼ばれなかった理由を教えて」

「顔が割れている。もしくはその恐れがある」

「私が宇宙軍の叩き上げだから?」

「そういうこと。それにその中から隠密作戦に適した人員を選定するとなると限られる」

「だからリーゼも?」

「いざという時に戦闘が出来て頭脳面でも優れている。弁舌も立つし教養もあるから咄嗟の駆け引きに優れている。潜入要因として極めて優秀と考えているよ」

「それならイェーガーは彼は狙撃手として銀河中で有名でしょ?」

「彼は遠方に待機させるだけ。彼はいざという時の援護要員だ」

「なるほどね……わかった。ただし、リーゼは絶対に帰還させて」

「もちろんだ。君の親友に限らず人員の帰還率は百パーセントが大前提だよ」

「ならいいわ。蜂のように俊敏に頼むわね」

「無論だとも。作戦の内容だが、イェーガーを除いた面々はアラカワと共に軍用でない船舶に乗って敵地に潜入し、敵がどれだけ王立騎士団を追撃しているかを調べてきて欲しい。無論何もなければ敵地に工作だけして撤退する」

「工作?」

セリアの質問にレオハルトが答える。

「カトリーナがいいものをくれた。サイトウが使えるとお墨付きだ」

そう言ってレオハルトがアラカワを呼ぶと高性能爆薬の入ったアタッシュケースが目の前に置かれる。それを見たセリアが歓声を上げた。

「さすがカトリーナ!」

「そういえばセリアはカトリーナのことを知っているな?」

レオハルトの発言にセリアが頷く。

「前から。まさか今、海賊やってるとは思わなかったけど。悪いやつではないよ」

「……あんなに能力でやばかったのに?」

スパダが心底呆然とした表情でセリアの方を見る。当のセリアは楽しい過去を懐かしむ様子でいた。

「あれは命まではやらないはずでしょ? もっと本気だったら海賊の幻影とか出るはずだし」

「もっと早く言ってよぉ!」

「無理でしょ。会うの久しぶりだし。大体、昔の旧友が大海賊やってるとか想像できないって!」

「いつ気がついたの!?」

「砂浜の能力見てしばらく経った時……ごめんって、タイミング悪くて! わぁ、みんなぶたないで!」

セリアに対してスパダ、ライム、ペトラを含めた数人がデコピンや平手で軽く頭をはたき始めた。アポロとロビーはやや困惑気味に仲裁に入る

それを見てカトリーナがゲラゲラ笑い始めたが彼女も彼女でユリコに羽交い締めにされた挙句、ミリアと双子にイタズラされる結果となった。

「……なんだこれは」

「承知しかねます」

スペンサーとスチェイが困惑する中、レオハルトとシンは互いに目を合わせるなり肩をすくめていた。

「仲が良くてなによりだけどね」

「癖は強いが有能だ。気を配ってやらないとな」

レオハルトとシンは作戦に備え連携の手筈を整えるべく話し合いを続けていた。

奇想天外な仲間を得て、救援の準備が始まる


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