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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第三十八話 ルードヴィヒ・フォン・リッテンハイム、その22

セントセーヌの宇宙港は完全にツァーリン軍が掌握していた。

歩兵の数は一万数千人程の規模で装甲車も展開していた。幸い戦力は四方に分散しているため全員を相手取る必要はなかった。

SIAおよび共和国軍目的は一つ。脱出ルート確保のための船舶を確保し民間人の乗った装甲輸送車や軍用トラックを多く守り通すこと。もはや退路はそこにしかないと判断したレオハルトは決断を下した。

「アラカワ、準備は」

「既に済ませました」

アラカワの意気は最高潮に高揚していた。

「ありがとう。イェーガー、どうだ?」

「はい。こちらも位置に」

イェーガーも戦闘体勢に入る。

「了解。スペンサー。皆の準備は?」

「全員完了と」

「わかった。君も」

「了解」

ルードヴィヒ以外の面々は士気高揚としており、装備も入手できる範囲で完全武装を完了していた。ルードヴィヒだけは戦々恐々とこれから戦うという状況に慄くばかりであった。

大ぶりの機関銃に手榴弾、ナイフにタクティカルベスト、サイトウの出たちはアクション映画に出てくる万夫不当の軍人系主人公のような姿となっていた。

「撃ち合いなら戦闘機同士やAFならなぁ」

ジョルジョは軽量のプロテクターと飛行用バックパックに身を包んだ出で立ちとなる。

「ぼやくな、パイロット中毒め。こういう状況ならやむなしだろう。それに……いやでもその機会はある」

スチェイもまた銃火器とプロテクターを揃えながら憎まれ口と忠告を交互に交えて発言する。

「ど、ど、ど……どうしてこんな」

手早く準備を進める他の面々と対照的にはルードヴィヒは部屋の隅でひたすらガタガタと震えていた。

「……マーク、リッテンハイム殿はいかがいたしましょうか」

スチェイが苦々しく発言するとマークとフリーデの二人は互いを見つめ合ってから肩をすくめた。

「後方へ。レオハルト中佐の補助が一番でしょう」

「私も賛成します」

そんな多少のグダグダと緩慢した場面はあったものの宇宙港の侵攻準備はつつがなく進んだ。

戦いの始まりはアポロ・ローレンス、ロバート・アーサー・チェン、サイトウ・コウジの三名が中心となって先陣を切った。

「ウォォオオ、突撃だ!!」

「行くぞ、兄貴ぃ!!」

アポロの猛烈な粒子機関銃の銃撃に合わせロビーが突撃を敢行する。敵の攻撃も激しかったが防弾盾とバイクの突撃によっていきなり彼は敵陣に食い込んだ。そこから大暴れするロビーの戦いは見事なものでその隙に多くの共和国軍兵士が攻撃のチャンスを見出した。ロビーとアポロの見事な連携は敵に初手で混乱を与えた。正規軍時代に『マウンテン・ロビー』と称された巨漢ロバート・アーサー・チェンの大暴れだけでも竜巻が通過したような様相となる。そこにアポロの重機関銃は敵にとって絶望的な力の差となった。

サイトウはその絶好の機会を十二分に活かし、混乱する敵影の正確な銃撃を叩き込んだ。

「反応が遅え、……おらよ」

サイトウは敵の対応の遅さに呆れ返りながら見事な射撃で敵を次々と仕留めていった。

その見事な攻勢にイェーガーも見事な一撃を添えた。

「……スー…………」

呼吸と共にイェーガーは見事な狙撃を放つ。

その一撃は敵の一団にいる男の頭蓋骨を射抜く。

軍服の男は怯える兵士たちに向かって大声で何かを喚いていた。ツァーリン語で何かを命じていた。SIAの中でも特に語学に堪能なイェーガーはその意味を即座に理解し、その人物が指揮官であることを見抜いていた。

「怯むんじゃない! 雑兵程度が活気ついた程度だ。さっさと撃ち」

『撃ち殺せ』と言葉を言う前に彼の頭部には弾痕が生じていた。それに怯えた生き残った配下の兵士たちに恐慌が走る。

無論、敵にもスナイパーはいた。しかし、あまりにも遠距離で先手を打たれた彼らにできることはなく、逆にイェーガーの戦果として返り討ちとなった。彼らは『見えない射手』の姿を探したまま不意に急所を撃ち抜かれた。

イェーガーはなんと一キロメートル後方の小高いビルから狙撃に成功していた。その建物よりも狙撃に適した地点はいくらでも存在したが、イェーガーはあくまでも安全かつ位置情報が割れることのないこの地点での狙撃にこだわった。そのため敵狙撃手四名に気づかれづらく逆に反撃しやすい状況を作り出すことに成功した。

このようにしてイェーガーは見事、圧倒的有利な状況で味方の援護を行うことに成功した。

その援護の甲斐もあって、SIAの猛者たちが次々と突撃する。

まだ士気の落ちてない敵の一団に三人の女たちが突撃する。ソニア・ペトラ・ライムのトリオである。

ライムの突撃に合わせ、ペトラが蔦の鞭を自分の体からするりと生み出した。そしてペトラの中距離での横薙ぎに合わせソニアが銃撃を加える。

「おらおらおらおらッ!」

ライムは軽快な動きで敵の銃撃を避けながら次々と近場の敵を次々と吹き飛ばしてゆく。距離のある敵に対してはペトラが持つ蔦の鞭は神経毒があり、敵の動きを完全に鈍らせていた。そこにソニアが精密な銃撃で止めを刺す形となる。

『変貌三人娘』の見事な連携に負けず劣らず、キャリー・レイチェル・アンジェラのコンビも見事な連携で敵を仕留めてゆく。

アンジェラの引力のメタアクトで場を支配し、キャリーが熊の姿へと変貌して暴れる。そしてレイチェルが軽快に動き回りながら変幻自在に銃撃を加える。

九人の豪傑・女傑たちの大暴れによって敵部隊はズタボロに痛めつけられる。だが、敵にとっての悪夢はこれだけで終わらなかった。

「撃て、撃て!」

「敵に隙を与えるな!」

ジョルジョとスチェイ、エリザ、セリアの四人が間髪入れずに攻撃の手を加える。彼らの銃撃にミリアやグレイス、ドロシーも加わる。弾雨と称するにふさわしい激しい攻撃が無数の敵影を仕留めてゆく。

特にジョルジョとセリアの飛行を交えた攻撃は敵にとって厄介なもので、彼らの注意の範囲外から次々と攻撃を成功させる。

それに呼応するように物陰に潜んでいたアオイとユリコが敵を次々と着実に仕留めた。また、閉所に逃げ込んだ敵はリーゼの触手とアンジェリカの蛇の尾に絡め取られていった。

敵は『ここはダメだ』と言わんばかりに何かを叫んだ後、とうとう退却すべく通路に逃げ込んだ。だがそこにはアルバート・ネイサン・イノウエが抜刀した状態で待ち構える。

「愚か者。ここは戦場だ」

逃げ込んだ敵の一隊は彼が全て切り刻んだ。目にも留まらぬ速度で繰り出された抜刀で敵はレーザーで瞬時に切られたように全身を裁断された。

たまらず敵の生き残りが無線で装甲車を呼ぶ。だが、とっておきの手段である五台の装甲車は無残にも爆散することになった。

フリーデはドロシーによって手渡された対車両砲で二台を吹き飛ばし、その混乱の隙にエリーゼとクラーラのコンビがそれぞれ一台をひっくり返した。恐竜状態へと変身した二人は装甲車ごと敵の群れを薙ぎ倒してゆく。

そして、最後の一台はたまらず逃げようとする。だが、それはいつの間にか投げ込まれた爆弾によって吹き飛ばされる。投げ込んだのはアラカワであった。

SIAの面々を中心とした共和国軍の大攻勢により敵は散り散りに逃げ惑う。逃げそびれた敵兵は捕虜として共和国軍に捕縛された。

「これは……僕が出る幕は、なさそうだ。ハハハ……」

ナルシストを地で行く、さしものエドウィンも目の前の光景に苦笑いを浮かべた。

「…………百鬼夜行か、これは」

マークに至っては呆然とした様子すら見せていた。

二人は着実に敵を銃撃したり、物陰で華麗に仕留めていたりして数を減らしていた。彼らも非常に卓越した戦い方であったが、単純な破壊力の大きさ比べに関しては他の面々の方が得意であると言えた。実際、二人が仕留めた敵の数は数十人程度であるものの仕留めた敵は指揮官や精強な老兵など厄介な存在ばかりであった。二人は状況を見て賢く戦場で立ち振る舞い自身の無駄な消耗を抑えることを目指したのに対し、他の面々は力技で百人単位の敵を仕留めることを目的としていた。対照的ではあるが二人は自分らにない価値を他の面々に見出していた。

宇宙港は滅茶苦茶な戦い方にもかかわらず船舶は全て無事で、民間の大型宇宙船に至ってはほぼ無傷であった。

その状況を見てレオハルトは心底満足げに頷いていた。

「素晴らしい。予想以上だ」

「……中佐、予想はどうなってました?」

「船一個は壊れるかと思ったけどみんな頑張ってくれてよかった」

「…………予想以上だこれは」

スペンサーはレオハルトの言葉と大戦果に目を白黒させていた。レオハルトの狙いは戦いの事前に聞いていたもののかなりの被害が出ることを内心覚悟していた。しかし、共和国軍の死傷者は少なく、目的の船に関しても無傷で調達できていた。

宇宙港の確保と船舶の奪取に成功したSIAと共和国軍、そして後詰めとして控えていたフランク連合王国軍の面々も一様にこの勝利を喜んだ。

「みんなまだ油断しないで」

レオハルトの言葉にSIAの全員がスッと静まる。

「これから色々と準備をしなければならない。どうか皆指示に従って手伝ってほしい」

そう言ってレオハルトは各員の名前と役割を読み上げた後、テキパキと作業に取り掛かる捕虜の扱いや船の塗装、工作、それに必要な物資の調達に共和国本国の領土惑星に最も近い距離や航路の算出、それらの指示に走り回ることに尽力していた。

そこで活躍したのがマークとエドウィンである。頭脳が鋭く、身の回りのものや情報を活かすことに長けた二人はここで活躍の機会を得ることができた。

「悔しいが天才が多いと認めざるを得ないな。ならばこのエドウィン・フィッツジェラルド・ラヒミとて修練を積むのはやぶさかではない」

まずエドウィンが意外にも謙虚な姿勢を見せた。ナルシシズム全開ではあるものの彼の探究心は本物であることがその発言だけで十分窺えるものであった。

「ああ、どうやらこれからは出し惜しみは悪手と判断する他ないな」

次にマークもため息をつきながらエドウィンの発言に賛同する。

最も共和国兵士たちからすれば二人の戦闘能力は十分に完成されたものであり、経験豊富な老兵たちですら舌を巻くほどの水準に到達していた。つまり二人は弱いのではなく他のSIAの面々があまりにも戦力として完成されすぎていたのであった。

その様子を見てレオハルトは満足げに頷く。

「アラカワ曹長もよくやってくれました」

「いえ、敵の足並みを乱す手筈をいくつか仕込んだだけです。戦果を挙げたのは皆の成果でしょう」

「それでも、ユキのハッキング技術と君の潜入によってここまでできたのです」

「身に余る言葉ですが、そろそろ民間人を」

「そうだね。次の段階に進もう」

レオハルトらは大急ぎで民間人の大半をある船に乗せた。レオハルトの奇策は静かに次の段階へと進行を始めたのであった。

緊迫の作戦は次の段階へ……。


次回、宇宙へ

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