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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第三十四話 ルードヴィヒ・フォン・リッテンハイム、その18

レオハルトはセントセーヌに駐在する共和国軍全部隊の情報を大急ぎでかき集めていた。

旧型の兵器に至るまで動かせる設備や兵装は全て使えるか大急ぎで確認していた。それとは対照的にルードヴィヒ・フォン・リッテンハイムはあまりにも楽観的すぎた態度のままであった。

「上層部がそう言っていたなら我々にできることはないだろう?」

言いなりで思考停止の発言を繰り返すルードヴィヒにサイトウが苛立った様子を見せる。

「現場じゃそうはならんのですよ!」

「そうならぬよう上は考えているのではないのかね!」

「上が知らない状況だってあると言っているのです!」

口論が激しくなるのを見かねて周囲が止めに入る。

「サイトウ、ここで怒っても状況は変わらないから」

「落ち着いて……準備だけはしておこうって決めたでしょ」

「ち……わーったよ……」

ルードヴィヒに対してはマークとフリーデも仲裁に入る。

「少佐、ここはそれ以上の発言は不必要かと」

「現場の不安を退かせておくのも役目です。ここは……」

「むぅ……」

レオハルトには仲間同士で不和が広がるこの状況に対して非常に憂慮があった。兵員の士気の面にも連携面でも『ゾルゲの言う大艦隊』という情報が暗雲を形作っていた。それが敵の狙いかそれともゾルゲの発言は真実であるか、レオハルトの手元にはそれを判断する材料がまだ不足していた。

そこでレオハルトはイェーガーに指示を飛ばす。

「……イェーガー」

「はい」

「……周辺の哨戒を頼む。何人か連れていい」

「了解。では……ランドルフと正規軍から数名を連れます」

「……幸運を」

「承知」

そう言ってイェーガーはランドルフの方へ声をかける。

「来い。哨戒任務に出るぞ」

「了解。映像に関しては」

「任せる」

「よろしくお願いします」

そう言って二人は格納庫へと向かう。AF数機による哨戒のためイェーガー、ランドルフを含めた数機のAFが空へと飛び立っていった。

「みんな、あとは備えるしかない。これでいいね?」

その段階でようやくSIA側で落ち着きが戻った。

そんなSIA側の騒ぎとは裏腹に駐在する正規軍の方はどこか平和的な空気が漂っていた。普段と変わらず、下手すれば油断さえしているような正規軍の駐在部隊の様子にレオハルトはますます不安を募らせるばかりであった。

だがその一方でフランク連合の何人かの騎士階級らしき軍人たちがSIAと同様に何かに備える様子を見せていた。

「……」

「……」

「……」

華美な軍服を着た彼らはSIAと同様にどこか緊張感のある様子でせっせと装備や医療品、食料などの必要物資をかき集め、リストで確認を進めていた。

その一団の中にいる一人の男がSIAの面々に声をかける。

「……そこの。リーダーは?」

「え?」

一番近くにいたミリアが男の方を向く。

「君らのリーダーと話がしたい」

「……レオハルト中佐のことかしら?」

「そうだ。彼を呼んでくれ」

そのタイミングでレオハルトが彼に歩み寄る。

「レオハルトは私です」

レオハルトがそう名乗ると高貴な雰囲気のある男が値踏みするように見定める。

「そうか。君か」

「ええ、どのようなご用件です?」

「君はこの状況をどう思う?」

男の質問に対してレオハルトは慎重に、しかし率直に口を開いた。

「正直に申し上げますと、よくない傾向にあると考えます」

「ほう……ここには我々『フランク連合王立騎士団』もいるのだが」

高貴な男はじっとレオハルトを冷厳に見つめる。しかし、レオハルトは落ち着いた口調で自説を説いた。

「存じております。しかし戦は少数の精兵や猛将だけで成り立つものではありません。配下の兵の数そのものも戦には重要な要素と思います。それに加え、兵の士気も危機意識もおおよそ高いとは言えません」

「君の言葉を信じるならこのセントセーヌには不遜にも侵略する部隊が迫っていると考えるが?」

「はい」

「その根拠は?」

「ゾルゲの発言と挙動です」

「君はあの不届な密偵の言葉を信じると?」

「彼は多くの嘘と工作を行ってきましたが、その行動原理には祖国への信任と政治的な信条が伴っていました。ですが今回の祖国からの脱走と情報提供には祖国に対して何らかの不信と憂慮があると判断します。なにより……」

「……何だ?」

「……彼は余裕がない時には自嘲的な笑いが増えて、皮肉を言う頻度が減ります。父からゾルゲのことは聞いていましたが、あの時の彼は『追い詰められた時の姿』だと記憶しております」

「……父か。君の父は」

「私は父とその行いに関しては尊敬をしていませんが、彼は彼なりに我が共和国に尽くし家族を守ろうとしたとは思っています。今更ですが」

「……なるほど」

高貴な男は深々とレオハルトに頭を下げた。

「先刻からいくつかの失礼、改めてお詫び申し上げます。私はフランク連合王立騎士団の団長を務めてます、ジル・ベフトンと申し上げます。レオハルト・フォン・シュタウフェンベルグ殿は噂に違わぬ聡明な将とお見受けします」

「どうかお構いなく。ムッシュ・ベフトン」

「貴公を試す振る舞いをした手前非常に恐縮ですが、我々騎士団からSIAに助力申し上げたいと考えております」

「助力とは?」

「我々王立騎士団は私自ら風紀や規律の徹底を行なっているためにいついかなる時にも戦えるよう備えております。しかし、嘆かわしいことにわが国の正規軍も敵がいつくるともわからないことをいいことに注意が緩んだ状態が続き士気の低下と軍規の乱れが横行していおります。なのでSIAの皆様には兵たちの訓練と軍規の徹底を依頼したく思います」

「……訓練に関しては。しかし軍規の徹底に関しては我々よりも適任がいると考えます」

「ふむ……その理由は?」

レオハルトは気まずそうに視線を動かしつつ率直に答える。

「我々は……その……任務遂行力に関しては卓越してると信じていますが、組織の風土が自由過ぎるかもしれません」

「……それに関しては我々も伺っております。初めこそ我々もSIAこそ弛んだ組織の筆頭のように見ていた節がありましたので」

「さ、左様ですか」

「しかし、あなた方の組織はやはり優れている」

「ありがたいお言葉です」

「この組織は見たことがないほど練度が優れている。適応力と任務遂行力に関しては世界最高峰だ」

レオハルトはハッとベフトンの方を見る。彼の目は敬意と同時に闘争心に似たライバル視の感情が明らかにこもっていた。

「我々は君らの組織とは対照的でしょう、規律と統制、それによって組織を維持してきた。しかし君らの組織には我々にはない柔軟性と個々の能力の高さに裏打ちされています。それが……羨ましく思いつつその能力の高さゆえに嫉妬の気持ちが湧くのです。やはりあなたは優れた将です」

「私には身に余るお言葉です」

レオハルトは困惑しながらも彼の称賛には素直に感謝の気持ちを伝えた。

それと同時にレオハルトは目の前に立つベフトンの情報収集能力は自分たちに引けを取らないと強く実感していた。会うのはお互いに初めてであるのにも関わらず相手に素性を知られ、高く評価されていることに対してレオハルトは喜びよりも困惑が勝った心境となっていた。

だが、ここで協力的な人物に会えたことはレオハルトらSIAにとって非常に僥倖と言えた。そのことに安堵の気持ちを抱きつつレオハルトはベフトンら騎士団との協力関係を結ぶことを決定した。

ベフトンに連れられたレオハルトたちSIAの面々がいくつかの部隊の訓練や業務に視察する。その段階で、問題が多く浮上していた。

「……今攻められたら、大惨事だ」

あるタイミングでサイトウもたまらずそう告げた。

「言いたくはないですが、そのようですね」

共和国軍兵士たちの注意怠慢も酷いものがあったが、フランク連合王国軍はそれ以上であった。精兵たる騎士団員や近衛部隊を除いた正規軍は後方にいることをいいことに非常に緩んだ状態に甘んじていた。中には軍人であることをいいことに犯罪に手を染めた輩も散見され、それはアラカワが真っ先に鉄拳による制裁を加える結果に終わった。

訓練に関しては成績は想定より少し下回る程度であったが、士気低下と軍規の乱れよろかは幾分か気楽に見られる結果であると言えた。

そして物資。ここに関してはいくつか問題があった。AF用の予備の装備や修理の機材、食料、弾薬、医療器具などはレオハルトやサブロウタが考えているよりも不足している状態にあった。これは主力の艦隊や部隊が多めに持っていったことも大きかったがそれ以上に前述の犯罪によっていくらか横流しされたことも関係していた。

「共和国軍より酷いってどう言うことなの?」

ライムが率直な疑問を問いかける。するとフランク連合の惑星フランドルにルーツを持つペトラと同じくフランク育ちのセリアがそれに答えた。

「フランクは国民と軍の信頼がガタガタだったのよ」

「反乱でしょ。市民団体と軍の衝突で首都がやばかったし、毎日ギロチンが動いていたって近所のばあちゃんが言ってたっけ」

「そう言えばセリア、フランク人だったわね。私はフランドルだけど、出身は?」

「惑星キンツハイム。あたしのいたところはマシだったけど、ばあちゃんはセントセーヌ出身だったから苦労したって言ってたっけ。ま、良くも悪くも生きやすかったけどさ」

それを聞いてライムが暗い表情を浮かべていた。

「セリア……」

「あ、気にしないの。なんだかんだで楽しく生きているし。湿っぽいのはなしね!」

「え、あ、うん」

ライムが暗くなったのを見越してかセリアが陽気にベタベタと振る舞う。

「そうなると市民感情が悪いことも士気低下に拍車をかけているのかもしれん」

ロバート・アーサー・チェンの発言にサイトウがひどく悩んだ様子を見せる。

「非常に厄介だ。市民の方が軍を不満の捌け口にするなら軍も職務放棄をする可能性もありうる」

「おいおいおいおい、騎士団と俺たちだけでやるってことか?」

サイトウの発言にジョルジョが大仰に叫ぶ。

「中佐、これは相当にやべえよ」

サイトウの発言にスチェイとスペンサー、グレイスも頭を抱える。常識的な意見の多い三人に加え、レオハルトも深刻な様子であるのを見て他の面々も自分たちがいつの間にか悪い状況の中にいるということをはっきりと実感していた。

その時、ある人物がその場に現れた。

「お前……!?」

「え、あれ?」

「あれ、ちょ……大丈夫なの?」

サイトウ、ライム、セリアが近づく人物の素性に気が付く。

その後、全員が同じ方角を見て目を白黒させた。

「緊急ですね?」

レオハルトがそう質問を投げかけると彼は答えた。

「そうだ。まずいことになった」

ロジャー・J・ダルトンが酷く傷ついた姿でレオハルトたちの元へと帰還していた。

浮き彫りとなる問題、傷ついたダルトン、状況の不穏さは増してゆく……


次回、イェーガーとランドルフに何が起こる……?

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