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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第二十九話 ルードヴィヒ・フォン・リッテンハイム、その13

ランドルフが狂喜乱舞で撮影していたのは美人揃いのSIA女性陣が代わる代わる服試着を楽しんでいたことにあった。

「…………」

「…………」

ユリコとグレイスは赤面した状態で着せ替え人形と化していた。

ユリコは普段着ているような暗色の着物ではなく、フランク式の白を基調としたフリルと装飾の多いドレスを着せられていた。グレイスも同様だが、彼女に至っては淡い桃色を基調としたスカートの長いアフタヌーンドレスを着用させられていた。

「ちょっと男子ぃ、ユリ様とグレぴーが恥ずがしがってるんだけどー」

「誰のせいだと思ってるんだ……」

レイチェルのボケた発言にスチェイが思わずツッコミを入れる。

二人の容姿は整っていたが本人たちの人物像とは対極にあるような服装であり、さらにランドルフに貪るように撮影されている状況であるのが本人たちの羞恥心を加速させた。

「鬼か、お前は」

エリザベス・ノースがジョージ・ランドルフ・ブラウンを張り倒す。

「いで、僕はサイトウじゃないですよ!」

「黙れ怪人カメラ男。それよりお前何してんだ」

スチェイもツッコミに加勢する。

「よくぞ……僕の極楽浄土に興味をもってくれました。カメラというのは人類にとって重要な発明ですが、この状況を待ち望むために僕の人生はあったのかもしれま……」

「はよ言え」

「失礼。オシャレには記録が必要でしょう。それも目線の違う他者の意見が」

「本音は?」

「我がコレクションを増やそうと」

「しねえい」

今度はスチュワート・メイスンがランドルフを張り倒した。

「あで、僕はサイトウじゃないですよ!」

「なんべん言うんじゃお前」

「だってだって……これだけ美人がいたら撮影したくなるのは人情じゃ」

「黙れ、歩く肖像権侵害」

「ひどい」

「どっちがだ」

憎まれ口を叩く様子を見せつつも和やかなやりとりをスチェイは行った。合流してきた二人に向かってスチェイが説明する。

「すまない。僕がいながら……」

「一体何がどうしてこうなった」

「最初は買い物と試着だったんです。だけどどういうわけか変な女が乱入してカオスな様相に」

「変な女?」

「ダイアナ・ルーナと名乗る女で、一般市民と名乗っていました。服装がオシャレな女だと思って油断したらこんなカオスなファッションイベントに……」

噂をすれば影がさすとはよく言ったもので見計らったようにダイアナらしき女がその瞬間にサイトウらに歩み寄ってきた。

「あら、これはこれで楽しいものよ。キャリーと会えたし」

するとキャリーが着ぐるみの頭を外してダイアナに抱きついた。

「ダイアナー!」

うっとりとした恍惚と羞恥心の混ざったような笑顔でキャリーはダイアナに抱擁する。

「あらあら……可愛いキャリー」

「うふふ……」

ぎゅっと抱き合った二人にスチェイが声をかける。

「もしもーし……ちょっといいですかねぇ……」

スチェイに対してダイアナはじっと値踏みするように見つめる。

「……へえ」

「なんです?」

「口は悪いけど芯のある人ね。苦労はするけど優しさはあるようだわ」

「藪から棒ですね」

「失礼。これでもいろんな人を見てきたから」

「それはそうと貴方はこのカオスな珍事を起こした本人と聞いてますが?」

「あら、私は単純に服の魅力を伝授しただけよ」

「具体的には?」

「イメチェンね」

「イメ……?」

「要するに服の新しい可能性を開かせてあげたの。この子達は自分のキャラを理解した服装をするけどどうにも固いからね。服のプロとしてね……」

横からランドルフが割り込む。

「さすがは銀河屈指のファッションデザイナー、僕如きの矮小なアマチュア写真家では出来ないことをやってのける! そこに痺れる憧れる!」

「うるさい」

「あで」

ランドルフの頭をスチェイは手刀で叩く。

スチェイの見る限り状況は混沌とした有様をしていた。

ユリコとグレイスがフリルの多い古風なドレスを着たまま赤面し、エリザベスはミニスカにあったガーリーな服装でリーゼと笑う。リーゼは反対に普段着ないようなズボンを基本としたボーイッシュな格好で高笑いを浮かべる。

ミニスカといえばライムも女の子としての一面を押し出したような格好となっていた。それとは対照的にソニアとペトラは派手なギャル系の服装を楽しんでいた。

「これはこれで!」

そう言ってライムはセリアとゲラゲラと笑いながらイメチェンを楽しむ。セリアもズボン基調の普段のファッションのスタイルではなく、スカートと可愛らしい色彩のブラウスを着ていた。

女性陣も十二分にファッションを楽しんでいたが、驚くべきは男性陣の反応である。

「おお、これはかっこいいぞ」

「うむ、オシャレは奥が深いな。見識が広がる」

アポロとロビーの二人も今着ている服に感嘆の言葉を呟いていた。

ロビーはカジュアルスーツの着心地と機能性を楽しみ、アポロは普段のゆったりを基本としつつ色彩は落ち着いたものを中心としたものに変化していた。

「むぅ……こんな服装は着慣れぬな……」

「似合っている」

「む……もっと褒めてもいいんだぞ」

スペンサーの言葉にルードヴィヒは露骨に得意げとなる。

「やれやれ……」

スペンサーとルードヴィヒはラッパーを思わせるスタイルの服装に大胆チェンジしていた。ラップの歌詞を思わせる文字の書かれた帽子に黒いパーカーとズボンを中心にルードヴィヒは口にスカーフをスペンサーはサングラスをつけたファッションに変わっていた。

「……だがなぜ、キャリーは着ぐるみ?」

おなじくギャングスタな服装をしたスチェイがそう疑問を投げかける。

「あら、試してなかったからよ」

「そんな理由で?」

「それにキャリーは印象とは違って力持ちなの。わかるでしょ?」

「そうだ。これから体を動かすとも聞いてるからな」

「そうなの?」

「キャリーの関係者なら見てもいいが」

「心配しないでお礼にいいことを教えるわね」

「いいこと?」

「ツァーリンにいる知り合いとコンタクト取ってあげる」

「それはまた気になるが……なぜ?」

国が国なのでスチェイが警戒心を出す。

「理由が三つくらいあるの」

「一つは?」

「善意」

「次」

「キャリーが死んじゃ困るからよ。あの子愛しているから」

「なるほど、最後は?」

「あっちの政権に恨みがある」

「恨み?」

「友達が殺されたの。権力争いと痛くない腹の探り合いの余波で」

「……心中お察しする」

「気にしないで。私は私のために動くだけだから」

「……好きなだけ見るといい」

そう言った後、彼はスペンサーの方に目線を送る。

「……本格的な訓練は軍法違反だが、休日の軽い手合わせを見るということならいい。それにキャリーと親しいのだろう?」

「そのようだ。キャリー?」

スチェイがキャリーを呼び出す。

「え……なにか?」

「ダイアナとは付き合いは長いのか?」

「うん、恩があるの」

「どんな?」

「怖い悪党から私を匿ってくれた」

「多大な恩だな」

「えへへ……素晴らしい人よ」

それを聞いてスペンサーが納得した。

「そうか。今から八年前にヴィクトリアシティに人身売買組織が進出したことに関連した事件があった。当時警察も手を焼くレベルの大組織だったが……その時の生き残りの名前にキャリーがあったな」

「ウラは取れているようだ。なら好きに見ていくがいい」

ダイアナは納得した様子で頷く。

「わかった。それでいいわ。なにせ私が恨みがあるのは……」

一泊置いてからダイアナはその名前を口にする。

「……ツァーリン連邦の現政権トップ、書記長のプチルノフよ。それと連邦宇宙軍第三特別揚陸遊撃隊の隊長ガリーナも」

「それはまた大きな名前だ」

「そうでしょうね。ガリーナは冷酷な処刑人でプチルノフは妄想に取り憑かれた老害だから。そうでなければ……」

「わかった。それ以上はいい」

「ありがとう」

そこからは話を切り上げ、一同はファッションを楽しむことにした。

「ミス・ダイアナ。今日は感謝する」

「むしろキャリーが仲良さそうで安心したわ」

「ご理解痛み入ります」

軽く食事を済ませてからSIA一同は『手合わせ』に相応しい場所へと車で移動する。駐留基地で行う手もあったが任務上の機密も多くある基地でその許可を得るには骨が折れるため、スペンサーは知り合いのツテを使ってどうにかそれに相応しい場所を確保した。

「セーフハウスの一つだ。ここなら」

「ぱっと見は郊外の小さな一軒家ね」

ダイアナの発言通り、そこは耕作地や林、平原のある場所に位置していた。セントセーヌから少し離れた場所に立地していたが共和国軍がダミー会社を使って保有した正真正銘の隠れ家であった。

「さて……手合わせってどんな感じ?」

「そうだな……ライム。それとエドウィン」

二人を呼び出したスペンサーは手合わせを命じた。

「ここで試合をする。やりすぎない範囲で」

「へぇ……相手はエドウィンなんだね。アラカワの次にやりづらいな」

「謙遜を。銀河屈指のセンスを持つ俺としても苦戦しそうだ」

「文句はいい。戦闘服に着替えてから始めろ」

「はぁい」

「承知しました」

エドウィン・フィッツジェラルド・ラヒミ対ライム・ブロウブ。この対戦は一〇分と五分の二ラウンド制で行われSIA一同を大いに注目させた。しまいには基地に待機していたからドロシーとシーシャが見学に来るほどの注目がされていた。

「これは難しいね」

「そうだな。よもやこんな形でSIAの実力を見れるとは面白い」

「どっちが勝つかな?」

「ライムだな。ドロシー教官の戦闘術を教わっている上に、本人の格闘センスは突き抜けている。今回の戦闘の条件を考えれば圧倒的に有利だ」

「ウーズ人で屈指の実力者なんだよね。肉体の操作と格闘戦は折り紙つきだし」

エリーゼとクラーラはそう予想を立てた。

「……そうとは限らん」

だが、マーク・ウルフ・モートンは反対の予想を立てる。

「エドウィン・フィッツジェラルド・ラヒミ。彼の実力は非常に有名だ。彼自身のナルシシズムは決してハッタリじゃない。軍の近接戦プログラムでは教官を打ち倒すほどの実力者だ。その時の相手は誰だと思う?」

「……まさかオグリス人の教官でも呼んだのか?」

「そのまさかだ。種族単位で全員武闘派のオグリス人、しかも教官クラスをやれる上澄みの猛者を相手に勝つのがエドウィンだ。有利なのはむしろエドウィンだ。彼は実践経験豊富で多くの危険な作戦に従事した猛者でもある。明白だろう?」

オグリス人。AGU領の山岳惑星『ガートバラン』にルーツをもつ赤い肌と角が特徴である戦闘種族。銀河のあらゆる戦場でオグリス人兵士の姿を見ない戦闘はないとすら言われる種族である。

「データありきの結論だな」

「なに?」

「見ていろ」

かくしてライムとエドウィンの試合は注目の中で行われた。その競い合いは非常に高度な駆け引きとなることは誰が見ても明らかであった。

全力全開の勝負が始まる? 両者、実力や如何に!?


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