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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第二十八話 ルードヴィヒ・フォン・リッテンハイム、その12

SIAの面々が買い物を楽しんでいる間にサイトウは準備を進めていた。

「すまないな。お礼は弾む」

そう言って彼はある二人の協力を仰いでいた。

一人は褐色の肌をした巨漢である。サングラスとタクティカルベスト、迷彩柄のズボンの上からでもわかる鍛え抜かれた大柄で筋骨隆々の肉体は見るものに強者であることをひしひしと感じさせるような貫禄が存在していた。

もう一人は色白な肌をした妖艶な美女であった。短く切り揃えられた黒い髪に知的な印象を与える楕円の眼鏡、左の口元にある小さなほくろ、そして豊満で女性的な肉体が見るものを惹きつける美貌を感じさせる。そんな彼女が不敵に微笑むとサイトウも思わず顔をほころばせる。

「……フルハウス隊の協力は高くつくぜ?」

「随分と大胆な男ね?」

ジャック・P・ロネンとザザン・アディーネ・スコルピ。傭兵でこのコンビを知らないものはいないほど高名な腕利きである。サイトウが頼んだのは装備の調達と下準備であった。

「ちょっと野暮用があってな。装備の調達とお前さんらの若いのを支援役に一人借りたい」

その依頼に二人は顔を見合わせた。

「ちょっと人に会うんでな相応の装備が欲しい。できる限り精度の高い小銃に拳銃、ナイフに無線機だ」

「……簡単に言ってくれるな。俺たちだって装備はタダじゃない」

「同感ね。だいたい銃器なんて人にすんなり渡して悪用されたらしょっ引かれるのは私たちよ。随分とぶっ飛んだこと言うわね」

「……まあ、だろうな。すんなり行くとは思わねえよ」

サイトウが踵を返すタイミングでジャックが声をかけた。

「まあ待て。条件がある」

「条件?」

サイトウの怪訝な表情にジャックはニヤリと笑みを浮かべた。

「金に加え、情報が欲しい。それも……『カズマ・L・リンクス』に関する情報だ」

「誰だいそいつは?」

「お前さんのところにいるだろう。アラカワってやつのご友人だ」

「……なるほどな」

にっと笑ったサイトウが何かを手渡す。それはだれかの連絡先が書かれた番号だった。

「ここに連絡してみろ」

「助かる。そんで代金のはいくらだ?」

「仲介の手間賃やリスク回避含め三ってところか?」

「わかった。三万だな」

「話が早くて助かる」

「こっちとしてもな。お前さんはプロの情報屋でも知らねえ、ネットワークがある」

「本職は傭兵だったからな。あらゆる分野のプロとのコネはあった方が生き残りやすくてさ」

「まあ、俺らも傭兵団やってたから分かるさ。それにしてもお前は情報屋としてもセンスあるぜ。俺らと来ないか?」

「あいにく、今は重要な雇い主がついててな。フルハウス隊は昔だったら魅力だが今は間に合ってしまったよ」

「ほう、レオハルトとやらは随分と人気者みたいだな」

「まあな。仕事を何個かこなすと人柄や頭脳が見えるが、あの人はは可能性を持ってる。間違いなく大物になるぞ。ああいう人たらしは大きなことを成し遂げると相場が決まってるからな」

「そいつは興味深いが俺らの興味は『カズマ』だけだ」

「そりゃなんでだ?」

「俺らはカズマに恩義があってな。あの善良な男には『借り』があるんだ」

「借り?」

サイトウの怪訝な表情を見てジャックは意味深に笑みを浮かべる。

「なるほど、傭兵は信用第一だからな。俺はSIAは鞍替えしたがな」

サイトウの発言を聞いてジャックは頷く

「そういうことだ。これは傭兵としての矜持と人としての道義がかかってる」

「噂通り誇り高い漢だ、お前は」

そう言ってサイトウがニヤリと笑みを浮かべる。

「嬉しいね、兄ちゃんもレオハルトの坊ちゃんも幸運を祈るぜ」

「そのうち、旦那とか呼ぶのを覚悟しとけ」

「どうだかな。それは生き残ってからだ」

「なら生き残ったら確実だ」

「お前ほどの腕利きをそこまで惚れさせるか」

「まあな。あの男は出世するぜ」

「どうだかな。お前さんのところ随分と大変な横槍が入ってんだろう?」

「……ルードヴィヒ・フォン・リッテンハイム少佐だな」

「そいつはどうだい?」

「正直な。あいつは無能だよ」

「そいつは災難だな」

「……頭がとにかく悪くて感情的でな。しかも無駄にプライドが高い。状況を見渡せてないのは軍の指揮官として致命的だ」

「随分と酷評だな」

「人としてはそれなりではあるがなにぶんな……一番問題なのは判断力がない。閑職の左遷とSIAの実態調査を兼ねた軍の人事だろうがいかんせんあいつが副官であることに意味を見出せないでいる」

「まあ軍っていうのはどこもそんなもんさ。お役人根性とマッチョイズムが合わさった組織なのは変わらねえ。上層部は判子を押した仕事をして同期と醜く陰湿な出世競争の睨み合いをするっていうのは万国共通さ」

「それはツァーリンも同じなのかい?」

「もっと酷い」

ジャックの顔がきついものに変わる。

「随分だな」

「あっちの仕事はひどいもんさ。何度も取引先と喧嘩したし、『流れ弾』にしたことも珍しくねえ」

「天下のフルハウス隊にそうさせるのは末期だな」

「俺たちはまだいい方だってさ。個人でやってるやつはもっと酷いもんで装備も食事も貧弱と嘆いているならまだいい。最悪なのは洗脳まがいの調教を受けた挙句一般兵と混じって突撃させて消耗させられたって話だ。うちの若いのもそういうことやらされかけたからな。『流れ弾』しておいたのはそういうことだ」

「……始まる前から末期戦とは救えないな」

「あの国は戦争と大型計算機を信仰しているからな。宗教や文化を捨て、国家を信仰させた挙句、戦争を生業として無限に見栄を張ってやがる。管理の名の下に国内に疑心暗鬼を蔓延させた挙句、封建時代さながらの理由で他国に侵略戦争とは笑えない冗談だ」

「封建時代かよ」

「歴史研究者によっては中世時代とも言うらしいな。おたくのレオハルト坊ちゃんはどう呼ぶんだい?」

「封建時代だな。わかりやすい表現で伝えることを好むから、たまに『騎士や領主の時代』とも呼んだりする。だが大体は時代の元号で呼ぶことが多いな」

「随分な歴史マニアなんだな」

「ちげえねえ。だがそれが大きな助けになることも多い。俺らの上官はとにかく人たらしのインテリでな。それが救いだ」

「そのようだな」

ジャックが笑うのに合わせてサイトウも笑う。

その後のやり取りは淡々としたものに終始した。武器や装備を一人分用意し、支援役の若手を一人向かわせ対価を話し合う。それが終わった後、ジャックとアディの二人は踵を返し、その場を後にした。

その後、サイトウはどうにかレオハルトの元へと急行する。レオハルトらの位置は詳しい位置までは不明なものの支援役の若い兵士の手引きで大まかな足取りを彼は知ることができた。サイトウが最初に出会ったのはイェーガーであった。

「よ」

「……なんの用だサイトウ」

イェーガーが殺気を立った様子でサイトウの方を見る。彼の手には狙撃用の小銃が存在していた。

「俺が周りの状況を見落とすと思うか?」

サイトウの発言に納得した様子でイェーガーが頷いた。

「それもそうか。お前はあの中では一番のプロだからな」

「流石にお前やシンやダルトンには敵わんよ。だが手伝うくらいは出来る」

「一人でいい」

「俺だって経験はある。スポッターとシューターの二人組の方がいいだろう?」

「問題ない。俺は一人でもやれる」

「そういうな。これはレオハルトの命令でもあるんだ」

「……レオハルト様が?」

「お前は俺たちの重要な仲間だ。人知れず死ぬような事態は万に一つでも避けろと」

「……」

「俺はおふざけも火遊びも好きだがな。それは仲間あってのことだ。お前のような堅物だってSIAのメンバーだってことだよ」

「不器用な物言いだ」

「お前がいうか」

「フン……好きにしろ」

「おっしゃ……!」

サイトウがガッツポーツをしてから仕事に同行する。

そのあとはつまらないギャングに絡まれたが、イェーガーが体を逸らすようにして敵の数を減らした。

サイトウはそれに恐ろしいほどの力量の差を感じたがすぐにイェーガーの動きに合わせる。サイトウはナイフを当てずっぽうに投げ、弾丸の飛来してきた方角を察知する。

そこからはイェーガーの仕事だった。

それが済んだあと、サイトウは敵の居た場所へと向かう。

「……恨めよ」

サイトウは敵を遺体を見下ろすように呟く。彼の足元にはコアを撃ち抜かれ糸の切れた人形のように事切れた少女の肉体があった。

「センシティブだな。もう死んでる」

「分かっている。だがそう言わずにはいられんさ」

サイトウは悲しげな目で少女の遺体に手を合わせていた。

その後の会話と相手が悪党で敵対を避けられない相手だったという事実だけがサイトウの慰めとなっていた。サイトウらは現場の証拠や情報を集め終わると軽口を叩き合いながらその場を後にする。

そこから二人がSIAの馬鹿騒ぎに戻ると待っていたのは意外な存在だった。

雑踏を越えてSIAのいるであろうブティックへ戻ると大柄で妙な存在が店の入り口に鎮座していた。

「な、なんだあ!?」

サイトウは心底驚くことになる。それは意外にもイェーガーも同じであった。

「……これは?」

イェーガーが目を見開いた先に存在していたのは『着ぐるみ』であった。

丸いフォルム、真っ赤なカラーにふさふさのボア生地の使われた質感。

目の前には熊を模した着ぐるみが二人の目の前に存在した。

「……キャリー、か?」

「へ?」

イェーガーの問いかけにサイトウが間の抜けた顔を向ける。

「……せ、正解」

着ぐるみの中から内気そうなか細い声が発せられる。

「サイトウどこ行ってたのさ?」

「あ、イェーガーいるし」

「珍しい。イェーガーも買い物付き合ってよ!」

女性陣たちがイェーガーとサイトウに気がついて集まってくる。

「キャリー、なぜ着ぐるみを?」

イェーガーの問いかけにキャリーは照れくさそうにするばかりだったが、代わりにレイチェルが答えた。

「ノリ! キャリーってさ熊変身すんじゃん。だからもじもじ動じない訓練も兼ねて着ぐるみ着とくかって」

「どこで手に入れた。妙……ユニークだな?」

「あ、聞いちゃう? これねー現地に変わった雑貨屋があって売ってたん。ファンキーじゃね。安かったし、いっちょかましとくかってさ」

「……どういう?」

「フランクはアズマ国趣味が流行ってんだって、シェパードはこういうの詳しい?」

シェパードはレイチェルがサイトウに対するあだ名の一つである。彼女が言うに軍用犬に似てるからとそう呼ぶようにしたとのことである。

「それ以外にも気になるが……」

そう言ってイェーガーが別の方角に目をやるとランドルフが異様なハイテンションで踊るように写真撮影を行なっていた。

珍事は続く?詳細は如何に?


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