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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第十二話 改造女神事件、その7

シンの突撃に合わせてレオハルトも並走する。

シンの速度は鍛え抜かれたアスリート程のスピードであった。レオハルトはもはや音速以上の速度を発揮していた。本来ソニックブームや空気が圧縮される問題が絡むがそれもない。レオハルトを中心に運動エネルギーが操作されていることによる賜物であった。

不意をつかれる形となったリーゼたちが驚愕しつつもレオハルトの攻撃を牽制する。

「無粋ですわよ!」

「斬ってやるわ!」

リーゼとエリザが攻撃の矛先をレオハルトに逸らしたと同時にシンがスパダ少佐に飛び掛かる。

「馬鹿ね。締め殺して上げる」

そう言って蛇の体がシンの肉体に巻き付く。

「タッチダウン」

だがシンは計算通りと言わんばかりに蛇の肉体に手を触れる。

「やってくれ。ユキ」

最初のスパダ少佐は怪訝な顔をした。そして何かに気がつきシンを振り解く。だが、その一瞬で彼は蛇の肉体から抜け出た後、スパダ少佐の頭に触れた。

「耐えろ。決して死ぬな」

シンは祈るようにそう言った。彼のスーツを仲介してユキがスパダの認識を操るシステムの妨害処置を行う。

「ひぃ、ぎゃ、あ、ひぃ、ひやあぁぁ!」

スパダ少佐の声が徐々に恐怖を帯びてゆく。

「……あ……ああ……あ……ああ……」

彼女の目は茫漠しながら徐々に正気の状態へと戻るが、次の瞬間スパダ少佐が悲鳴を上げる。

「あ……わああ……やだぁあ、体がぁぁ……わたしのカラダぁぁああ!!」

記憶と認識が戻ったショックでスパダは泣きながら恐慌状態となる。

そこにジョルジョが駆けつける。弾丸の合間を抜けながら鋭く一直線にスパダを体を抱き起こし安全な物陰に連れてゆく。

「アンジェリカ、アンジェリカ、気を確かにしろ!」

ジョルジョが真剣な面持ちで彼女に語りかける。

「や……やだ……助けて……」

「助けに来た。もう大丈夫だ。アンジェ……」

シンはジョルジョらの様子が気になったがそれ以上にリーゼロッテとエリザベスの対応を優先した。

「ジョルジョ、頼む!」

そう言ってシンはリーゼらに意識を集中した。

「今、何をしましたの!?」

「洗脳を解いた。抵抗するな」

「や、やめてくださいまし。気持ちいいんですのよ。ほら、頭の中に指示あが!」

リーゼロッテとノースは突然痙攣したように体を揺らした。

「まずい!」

シンは飛びかかって二人の頭に両手を触れた。

「ユキ!!」

シンが叫ぶとユキが二人の接続を無理やり遮断する。

「あぎぃ、い、ひぃ、や、やめぇ、ひぃぃ!」

「あが、ぎぎ、ぎゃああ、あがぁぁがぁ!」

二人は痙攣しながら白目を剥き始めていた。がくがくと震える二人の様子を見て間に合わないかとシンは覚悟した。

だが、間に合った。ユキは二人の肉体に埋め込まれた装置を遠隔で破壊していた。

「あ……あ……あぁ……あ……」

「ぎ……がぁ……はぁ……はぁ……」

二人は息を切らしながら周りを見渡す。生き延びた覆面たちは上の階へと逃げ帰っていた。

「ひぃ……いや……嫌です。離れ……あぁ……!?」

リーゼロッテは気がついてしまった。

「お、叔父様……嫌……こんな……私の……」

リーゼロッテの顔色が青くなる。人ならざる己の変わり果てた肉体。指先までも自在に触手に変異できるものへと変わった己の姿を見て彼女は涙を流して叫んだ。

「いや、こんなの嫌ですわ! 私の身体がぁぁ……わぁぁ……ああああぁぁ……」

「リーゼ……」

「エリザぁぁ、こめんなさい。私……私……私のせいで貴女までこんな……ああ……こんなの悪夢です。神樹よ、神様どうかエリザと私の肉体を元にもどしてくださいまし、好き放題弄られてもはや生きてゆけませんわ……神様どうかせめてエリザだけでも見捨てないでくださいまし……嫌です……嫌です……」

泣き叫ぶリーゼロッテをノースは泣いて抱きしめる。

「私のせいだよ……守れなかった。私だけが身代わりになれば……うう…………」

シンは二人に話しかける。

「泣くな。体はどうであれ……お前らは生きてる。だから泣くな。お前らはまだ生きている孤独でもない。だから泣く必要などない。乗り越えろ」

シンの言葉はエリザベスとリーゼロッテの心には届かなかった。

「貴方に何がわかるんですの! 私の体も親友も変わってしまって……うう……」

「うう……ごめん……リーゼ……うう……」

感情的になる二人に対しシンはそれ以上どうすることもできず途方にくれていた。

「どうすれば……」

そこでレオハルトは歩み寄った。

「二人ともよく頑張ったよ……辛かったね」

彼は二人の感情に寄り添うように声をかけた。

「うう……私……うう……」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

泣きじゃくる二人にレオハルトは懸命に声をかけ続ける。

「大丈夫。本当はシンも辛かったんだ。死んでしまったらと思うと心配でと。だからもう大丈夫」

「だって……私の……」

そこにライムらが割って入る。ソニアは黒豹から人に戻った後、ペトラから上着を貸してもらってから二人に歩み寄った。

「びっくりだろうけど……ボクも似たようなものだし」

ライムが少年のような笑みでこう言った。手を粘液に変えるのを見せながら彼女はリーゼらを慰める。

「普通じゃないってことでしょうね。でも私だって黒豹だったんだから。ほら……ティッシュを貸して差し上げますわ」

ソニアはティッシュを二人に差し出した。

「どういうわけかそういう子も多いし。あ、私もアルルン人だから」

ペトラは二人の頭を撫でながら優しい声をかける。

「私にもその気持ちは覚えがあります。ですが時間をかけて向き合えば良いのです。時間が貴方の悲しみを癒すでしょうから」

ユリコは人間に姿を戻しつつ、神父の様に厳かな口調でそう告げた。

四者四様に四人はリーゼらに寄り添う言葉をかける。ノース中尉とリーゼは啜り泣きをしていたがどうにか冷静さを取り戻しつつあった。あとからそれを見ていたスパダもジョルジョに連れられて外へと出た。

それを見てレオハルトがひとまず安堵すると地下からミリアが戻ってきた。

「大尉!」

「なんだ。地下で何が?」

「地下に生存者一名います!」

「なんだと!?」

「医学的処置が必要です。病院に搬送を……」

慌てふためくミリアにユリコが語りかける。

「そこに設備があるのだろう?」

「え……?」

「人を改造するのだ。医療機器や道具・薬品やらがあっても不思議ではなかろう」

「あ……あなた医療の心得が?」

「幼少から医学研究の知識を叩き込まれた。医師免許もある。ギュンター殿がそばにいないなら応急処置程度は可能だ」

「ではお願いします。大至急!」

「わかった。レオハルト残っているものに医療班の手配を」

「わかったやらせる」

レオハルトは医療班の手配をスチェイに一任する。

そのあとはミリアに連れられてレオハルトとシン、ユリコが地下へと急いだ。地下の階段や通路には戦闘員の死体と弾痕が多く残されていた。通路の先に行くと左右と奥に部屋があり奥の方には手術室を思わせる部屋が存在していた。

「こちらです!」

ユリコが連れてこられた部屋には両腕をコウモリの翼に変えられたフランク人らしき小柄で前髪の長い女が手術台の上でひどく苦しんでいた。

「苦しい……苦しいぃぃ……!」

ユリコが一通り女の体を観察した後、周囲を見渡す。

「そこの棚。鎮静剤」

「何?」

「早く!」

ユリコの叫びにレオハルトは即座に鎮静剤の書かれた瓶と注射器を渡す。まず、名前も知らないコウモリ女を落ち着かせた後、彼女はこう言った。

「アラカワ。そこの棚の手記とカルテを」

「ああ……これだ」

それに目をやるとユリコは得心を得た様にこう言った。その間にユリコは急いで両手の消毒をアルコールで済ませる。そして彼女は急いで手術用の手袋を着用する。

「改造が途中で中断されたのだろう。そのまま放棄されて……むごいことを」

「どうすればいい。人間に戻せるか」

「不可能だ。全部弄られて全身の細胞も完全に変異させられている」

「どうすれば……」

「アラカワ。特殊部隊の人間は簡単な外科手術はできるのだろう」

「応急処置的にメスを入れる程度だ。生命維持の確保程度は単独でもやれなければ任務すらできん」

「ならよし。助手として手伝え」

「わかった。何をする?」

「神経系がおおよそやられているからなるべく落ち着かせる。あと肉体の変異が泊まっているからそれを進行させて改造を完遂させる」

「どういうことだそれは!?」

「言っただろう。改造人間になり損なっている。失敗すれば全身の臓器を司る細胞が壊死して死ぬ。だからやってない手順をこっちで完成させこの子を救う」

「…………」

「それともこのまま死なせると?」

「いや、やるぞ。死なせない」

シンも手術用手袋とマスクなどを装着し処置に必要な衛生面の確保を急いだ。

「それでこそだ。いくぞ。まずそっちの薬品を取れ」

「ああ」

「次、そっちの装置の出力を上げろ」

「いくぞ」

シンが装置の電流を入れると名も知らぬ女が苦しむ。

「ぐぐぐぅ……」

「耐えろ。頑張れ……死ぬな!」

声をかけながらシンは女の細胞の安定を待った。

「ユリコ、次は……?」

「すでに注入されているナノマシンにプログラムを施す」

「了解。ユキ……」

シンが通信を入れるとユキは彼の直面している状況に酷く驚いていた。

「どういう状況!?」

「話は後だ。ギュンター先生いるんだろう?」

その言葉により通信先の映像が変化する。ギュンターがユキに入れ替わる様にしてこっちの映像を覗き込んでいた。

「ここだ。まさか改造手術をしているとはね」

「途中で放棄されていた。生存者確保のため改造を完遂させる」

「なるほど……そこまでやられてたか」

「そうだ。必要な処置はあるか?」

「ある。ナノマシンはこっちで操作しておくから、現地で生命活動の保持を頼む」

「ありがたい」

遠隔での支援によってユリコとシンの処置は進む。呼吸と心肺の状態、血圧、体温の状態などにシンが気を配る。その間ユリコはカルテと手記などのデータを基に途中だった改造を完成させた。持続点滴を行いながらシンは女の様子とバイタルサインを注視していた。

ある瞬間にユリコは手を止め、腹部や腕などの創傷部の処置だけに戻る。そして、女の処置を完遂させユリコとシンは手術室から女を運び出す。

「……ここまで。あとは定着を待つ」

「そうか……助かるのか」

レオハルトが出てくる二人にそう声をかける。

「あとは、この子次第ね。搬送さえすれば完了よ」

「これは一体なんだ?」

「……カルテ、随分とおぞましいものね。人を神に改造する手術だそうよ」

「狂っている」

レオハルトの言葉にユリコが頷く。

「そう。狂った計画の名は『改造女神計画』よ」

その名はユリコが見ていた手記の中に記載されていた。

「改造……女神……」

さしものシン・アラカワも仰々しくも狂気的な名前に言葉を失っていた。

ブラッドクロス党ミュラー一派の起こした事件、その計画の全貌がユリコが手にした手記の中にあった。

恐るべく人体実験、人命を救ったもののその闇は深い……。


次回、死闘激化!

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