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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第十一話 改造女神事件、その6

レオハルトは早速、ジョルジョに指示を飛ばす。

「ジョルジョ」

「イェッサー……へへ、空は俺の独壇場だぜ」

そう言ってジョルジョはホバリングと共に建物の外から敵のいる階を偵察する。ジョルジョのスーツはバックパック型飛行装置と粒子弾に耐性を持つ耐熱強化樹脂装甲と各種銃火器やミサイル発射装置が備わっていた。

「おわ!」

屋上と五階と同等の高度でジョルジョは攻撃に晒されたが、ミサイルや機関銃で果敢に反撃する。敵の沈黙を確認後、急いでジョルジョは一階まで引き返した。

「無事か」

「無事だ大尉。これくらいはモーニングルーチンだ」

「ならよかった。本部にいるスペンサーから銃火が見えたと」

「敵は撃っておいたぜ。明らかにギャングやマフィアの装備じゃねえ」

「装備だと」

「結構いい感じの機関砲があった。俺じゃなきゃやられてた。なにせAGUの兵器ショーで見た機種だったんでな」

「いつの間に……最新式か?」

「そうだ。明らかにな。ありゃチタン製の外殻もオシャカにできるやつだ」

サイボーグの骨格はチタン合金などの金属に生体部品などでそれを覆うやり方が主流で身体そのものの耐久性が常人より高まっているように調整されている。しかし、その内部骨格でも特殊な弾丸や高火力の銃撃の集中には無情な結果しか用意されていないことが多い。ジョルジョが対峙した敵はまさにサイボーグでも仕留めるほどの火力を放つ火器を持っていた。

「対人戦闘に関しては盤石か。ならばユキに潜らせる」

シンの提案にジョルジョとレオハルトが頷く。

「アラカワの相棒は優秀だな。電脳技術者だけは敵に回したくねえ」

「アラカワ曹長にも感謝だね」

二人が納得した様子を見せたのでシンはユキと通信をとった。

「ユキ、聞いてたな」

「ええ、最新兵器なら……やはりね」

「やはり?」

「アポロとロビーの二人のような怪力無双でもない限りサイボーグ処置受けているはず、そうなると無線接続されている可能性は高いし」

「つくづく出鱈目な二人だ」

「それにサイボーグ処置されると姿勢制御以外にも射撃精度も向上するし衛星からの支援も出来る。いいことずくめよ……私みたいなのの餌食になりやすくなることを除けば」

「なら任せた。我々は一度地下から調べる……ん?」

「どうした?」

「通信切る。待機してろ」

「……分かった。気をつけて」

何かを察した様子を見せつつユキは一度通信を切った。

ライム、ペトラ、ソニアの三人が何かに警戒していた。

「三人ともどうした?」

「……この子たち」

「…………」

「チッ、これは……」

レオハルトも三人の様子に最悪の予感を感じた。

「そんな……」

レオハルトは目の前の光景に絶句した。

目の前にいたのは最近さらわれた五人の内の三人が覆面の戦闘員を引き連れて現れた。

「随分と大暴れしたようですわね。大したものですわ」

金色をしたロールのある長髪と頭の左右にある白いリボン、華美なドレス、そして上品な物腰をした女が現れる。

救助対象であるホーエンハイム家令嬢のリーゼロッテ・ホーエンハイムがそこにいた。

「リーゼ、侵入者ってこいつらなんだ。あれ……レオハルト大尉がいる」

金色の長くふくらみのある髪型をした女軍人が現れる。エリザベス・ノーズ中尉だ。彼女の様子も明らかに何かおかしかった。

「そりゃあいるでしょ。SIAは共和国軍以上に厄介な相手じゃない」

長いブラウンヘアーと琥珀色の目がチャームポイントが特徴のアンジェリカ・デ・スパダ少佐はレオハルトと歳の近い人物であるが、若くして頭角を現した女傑である。男社会の軍隊において彼女とノース中尉とドロシーの存在は伝説的と言っても過言では無かった。

「何……なにをしているんだ?」

ジョルジョは信じられないものを見る目で三人を、特にスパダ少佐の方を見ていた。

「世界征服ですわね……でもひっかかりますわね」

「ブラッドクロス党の完璧な作戦遂行のためよ」

「今なんか頭痛いんだよね。お姉さんたちの邪魔をしないでくれる?」

その言葉を聞いてレオハルトはある予感を感じスペンサーと通信を取った。

「スペンサー」

「リーゼロッテらが怪しい会合にいたという事実はない。品行方正でホーエンハイムの技術を世界のために使うと言ってたはずだ」

「僕もそう思っていた。それにスパダ少佐とノーズ中尉は多少羽目を外す場面はあるが共和国軍軍人として清廉な部類の人物だったはずだ」

「洗脳か……人体改造込みで」

「可能性がある。もっともそれがなんなのかはわからない」

「ユキに分析させる時間をくれ。ギュンターも大急ぎで呼び戻す」

「分かった」

だが相手は倒す気満々の状態でこっちに歩み寄ってくる。

「シュタウフェンベルグ家の者は淑女を待たせる趣味がお有りで?」

「なんかひっかかるけど、新しい体にしてもらったからサクッと倒すからね」

「うふふ……甘く見たら痛い目に遭うわよ」

そう言って三人は不気味な笑みを浮かべる。

次の瞬間、三人は息を切らすようにして体を痙攣させる。そして三人の体が変化する。

いつの間にかリーゼは長いスカートや袖口から触手の束を生やして床を這わせていた。それと同時にノース中尉とスパダ少佐の肉体にも変化が起こる。

まずノースの肉体は腰のあたりから蜂の腹部、背中には蜂の羽が急速に伸びてゆき、彼女は蜂と人の中間の姿へと変貌した。

スパダ少佐に至っては足が骨格を無視して絡み合ったかと思うと鱗の生えた一本の尾へと変異した。彼女は蛇女の姿へと変わり果てていた。

湿った音と共にリーゼは触手を急速に突き出す。それに気づいてライム、ソニア、ペトラが後方に飛ぶように回避した。

「あぁ……血が欲しいの。真っ赤なざくろになってくださいまし!」

「毒を流し込むの気持ちよさそう……あは……!」

「お姉さんはねぇ……蛇さんになっちゃったのぉ!!」

三人は殺気と恍惚の入り乱れた狂った表情でレオハルトたちに襲いかかる。

「撃つな! 囮になる!」

レオハルトはそう叫んで三人の周りを高速移動する。

「ノース、これ」

リーゼがレイピアをノースへと投げ渡す。それを受け取ったノースが羽を羽ばたかせながら追走を開始する。

「流石に速いわね。私でも無理そう」

レイピアを持ったノースはレオハルトを追撃するがレオハルトの速度はその何倍以上もの速度が存在した。だが、レオハルトの前に戦闘員たちが妨害のために立ちはだかる。

レオハルトは斬ろうと軍刀の鯉口を切ったが、すでにアルバートが彼らを切り結んでいた。

「他愛ない」

そう言ってアルバートが納刀すると戦闘員たちが血飛沫とともにどうと倒れ伏す。

そこに追加の敵が飛び掛かるが、スチェイがメタアクトで作り出した発光する反実体の武器で吹き飛ばす。そこにサイトウとスチェイがトドメを刺した。

「質はともかく数が不利だ!」

「しかも殺しちゃいけないやつがいるからな!」

サイトウとジョルジョが背中合わせで敵に銃撃を喰らわせる。

「サイトウ、スチェイ、ジョルジョ、アルバートは覆面共の始末は任せた。ライム、ペトラ、ソニア、シン、ユリコは僕と三人を!」

「承知しました!」

「了解、迎撃開始ね!」

「了解、ボク頑張る!」

そこから間が入ってシンが答える。

「了解……孤独と絶望」

シンは不意にそう呟いた。

「シン?」

「何かに誤魔化されているが孤独と絶望の匂いだ。俺にも任せろ」

目の色が変わったシンは臨戦体制に入る。それを見てレオハルトは追加の指示を飛ばす。

「今言った者以外は地下の制圧を頼む。これは厄介だ」

「了解だ。ボス!」

「了解、……こっちだ!」

アポロとロビーがそう答えつつ残りの面々が地下へと降りてゆく。

それを見届けてライム、ペトラ、ソニア、レオハルト、シン、ユリコの六人が三人の怪人と対峙する。

「やれやれ……最初の戦闘かこれか。実に因果だ」

「僕も本気出さないとだめ?」

「殺す気でくるからしょうがないでしょ」

「そういうことね。備えなさい」

そう言ってユリコが下半身をムカデへと変貌させる。それに合わせるようにライム、ペトラソニアも変貌してゆく。

ゲル状の知的粘液生物、葉緑素の肌を持つ鮮やかな赤い髪の妖婦、黒豹に変じたメイド服の女戦闘員がそこにいた。味方も負けず劣らず奇怪な戦闘形態へと変じていた。

「止めるぞ。自害させられる可能性もある!」

レオハルトがそう言ってユリコと共に突撃する。途中、レオハルトはノースのレイピアを愛刀で受ける。ノースの剣撃は素晴らしいものでレオハルトに距離を取らせるほどの腕と威力が存在した。ユリコも鉄扇で攻撃を受け流しながら敵の動きの不自然さに気がつく。

「……レオハルト」

「どうした」

「シンのスーツとユキのシステムはリンクできるな」

「おそらく可能だ。そうだな?」

レオハルトの問いにシンが頷く。

「なるほど。外部から脳の認知を操作されている可能性か」

「やれるか?」

「やれる。それなら解除は簡単だがその後が……問題だ」

その言葉にレオハルトはハッとなった。しかし、もはや選択の余地はなかった。

三人の洗脳を解くこと自体は容易だとしてもその後に正気に戻り自分の肉体を見て自殺を試みたり正気を失ったりという可能性はあり得ることであった。

だがそれ以上に外部の操作によって三人を強制的に自害させたり、取り返しのつかない処置が遠隔で加えられる可能性を少なからずあるため大急ぎで支配を解くことが求められた。

悩みはしたもののレオハルトはシンが三人と接触することを援護することを決意した。

「やってくれ!」

「承知」

シンは目を見開いた。そしてスーツの出力を上げて三人に飛び掛かる。だがリーゼの触手がシンをはたき落とす。シンの肉体が硬い床に転げ落ちる。

「うぐぅ……!」

スーツがなければその触手の殴打は死に直結する威力が存在した。シンはスーツによって衝撃が軽減されていたが、それでも腹部に衝撃が残ったためか口から少し血を吐いていた。

「アラカワ曹長!」

レオハルトが声を上げる。ライムたちも駆け寄ろうとするが、敵の猛攻や覆面たちの銃撃によって足止めされる。

「……どうということはない。もう一度突っ込む!」

口から血を流しながらシンがそう叫ぶのを見て三人は目を見合わせる。

「そこの黒いお方、殊勝な勇猛さに敬意を表し叩き潰して差し上げますわ」

「うふふ、それとも締め殺されるのがお好みかしら、毒牙でもいいわよ?」

「毒なら私もあるよ。あ、レイピアの方が良かった?」

そう言ってリーゼたちが濁った目で笑う。

「俺の望みは……」

血の混じった息を吐いたシンは三人を見据えて言葉を紡いだ。

「たとえ死んでも、お前らの心を救うことだ」

シンの目に太陽のような強烈な眼光が宿る。そして三人の操り人形を人に戻すべく再度突撃を試みた。彼を見てレオハルトも覚悟を決めた表情をした。

覚悟の眼光、果たして三人の改造人間の運命や如何に!?


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