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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第一話 再会

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

アルゴン・シティの事件から一週間後のレオハルトは大統領に呼び出されていた。大統領や軍幹部が揃う中レオハルトは大統領からあることを命じられる。

「レオハルト・フォン・シュタウフェンベルグ君。今から君に大尉への昇進を命じる。これ以降君は特務機関SIAの設立を認め本戦争におけるエクストラクター案件の対処及びツァーリン連邦のスパイの対処を主な任務として活動してほしい」

「……今なんと?」

「君は信頼できる。だから相応の地位を与えたい」

「失礼。僭越ながらその根拠を教えていただきたいのですが」

「君は士官学校時代も首席でその前も人望があり、シンシアシティの一件で正しい行動と勇気を示した。さらに軍人となってからもリーダーシップを発揮しサイトウら三人組やアラカワ、イェーガー、ドロシーらに支持を受けている。これは……なかなかないことだ」

「なかなかないと言いますと?」

「アラカワやドロシー大尉はともかくサイトウら三人組は従順に指示を聞くのは珍しい。相性が良好な証拠だ。大きな進歩と言える」

「進歩?」

「スチェイは毒舌で上官相手でも忌憚のない意見を言いすぎて嫌われている節がある。ジョルジョは女好きで、サイトウは変態性癖のデパートなので、女関係のトラブルに定評がある」

「…………確かに」

「それ以上に問題だったのは無能な上官に反抗的だったことだ。そういう時はあの三人はその結束が仇になってな。……まぁ、上官に問題があるケースなのが確かだが、軍隊は秩序が大事でな。頭痛の種だったのだ」

「なんと……部下がご迷惑を」

「だが優秀なのだ。何度も軍の苦難を救ってきた凄腕たちでな。きっと君の力になる。そんな三人がようやく認める上官を見つけたのだ。歴史が動くぞ」

「僭越ながら、私はそのような器では……」

「君はシュタウフェンベルグの生まれだろう」

「ええ。ですが兄にはまだ敵いません」

「私は兄以上になると睨んでいる。きっとな」

「身に余るお言葉でございます」

「それにドロシーらも支持している。前回の作戦の最大の功労者は君だとな」

「しかしどうして……私はまだ若輩者な上に独断の行動を」

「年齢ではない。前回の作戦では人命のために勇敢な行動に踏み切ったと聞く。それと君は味方に的確な指示を出し続けたとも聞いているぞ。頭脳明晰で人物の特性を十二分に理解した指揮であったと」

「ありがとうございます」

「根拠は以上だ。今後も国と軍のために尽くしてほしい」

「はい!」

レオハルトは大統領に最敬礼を返した。

大統領が相手だからという理由もあるが、彼自身の深い感謝も十二分に含まれていた。そして大統領のこの判断は大きな慧眼であったと後世の研究家の間で定説になっていた。






レオハルトは直ちに人員の選定を始める。

「僕の方で何人か気になった人員がいるんだ」

「マスター、その人員とは?」

「情報部のレイチェル・リード曹長、国防軍のアンジェラ・ヘラ曹長、キャリー・カリスト特務中尉を迎え入れたい」

「……難物ばかり揃えましたね」

「でも優秀な人員だ。鍛えれば見込みがある」

「その根拠は?報告書によれば彼らは問題行動の記録が多く、他の上官は皆匙を投げています」

イェーガーの発言は事実であった。

まず、情報部のレイチェル・リードは軍人というよりも不良生徒のような人物で服装と外見、そして交友関係にばかりこだわるような人物で口は上手いが情報を得るには成果が乏しい部分のある人員だと記録されていた。

続いてのアンジェラ・ヘラ、社交的で戦友たちの評判は申し分ない。だが、耽美的なBL趣味とアマチュア漫画創作に熱中しすぎるという点で上官からやや問題視されていた。総評として、彼女はメタアクターとして戦闘力に優れているがマイペースすぎて部隊の風紀と連携を乱すと記録されている。

そしてキャリー・カリストはメタアクト能力の戦闘力に秀でていたが、男性恐怖症故に制御の難しい難物として知られており、男社会である軍隊社会においては致命的な欠点であった。その強大な戦闘力と相まって安定した運用は不可能であると記録がされている。

当然記録上では彼女の軍隊での適性は皆無と記されている。

「まず……アンジェラ曹長と話したい」

それにもかかわらず、レオハルトはアンジェラのデータを見るなりこういった。

そこに割り込んでくる意外な人物がいた。その人物は軍用のコートを着ていたがその顔は驚くほどレオハルトがよく知る人物であった。

「あら、私の出番もありそうね」

「な?マリア!?」

これにはレオハルトもイェーガーも驚愕するばかりだった。

「マリア夫人!?」

「マリア……どうしてお前が……!?」

「あら?連絡行ってない?」

「そんな連絡は聞いてない。なぜ民間人の君がここへ?」

マリアは普段の朗らかな様子と違う真剣な表情で言葉を紡いだ。

「……私ね。『事件』に巻き込まれたの」

「事件?」

彼女らしからぬ不穏な言葉にレオハルトは不穏な気分へと陥っていた。

「……詳しく聞かせてほしい」

レオハルトの言葉はゆっくりと慎重に紡がれていた。

その発言を受けて、マリアもゆっくりと頷いてその内容を語り始めた。マリアは日常から非日常へと巻き込まれるまでの顛末を彼に話し始めた。

「そうね、何から話すべきかしら……あれはツァーリンとの戦争が始まった数日前のことよ。それが私が軍に保護される大きなきっかけの始まりだったわ。私が先天的なメタアクターなのは知っているわね」

「そうだね……逆に苦労の種だったよね」

「ええ……私のメタアクトが重要なの」

「それってどういう?」

「……これを見て」

そう言ってマリアがレオハルトにある記録を手渡した。レオハルトはそれを信じがたい気持ちで読んだ。その記録は共和国特殊技術研究所の生物学部門の書類であった。


マリア・キャロル氏の能力検査と『有機巨人兵器転用実験』に関する記録日誌。

再興歴三二五年■■月■■日。

予期せぬ被験体Aの流出があったのにもかかわらず『インシデント事案』で済んだのは他ならぬマリア女史の善意によるものだ。しかもマリア女史は特異なメタアクト能力をゆうしこれまでの実験でも成し得なかったことを成功させてしまった。

本来なら保険福祉大臣、軍のトップを直ちに集めてこの記録を討議すべきだが被験体の性質上、極秘にする必要がある。今後は研究所長他、軍でも限られた人員のみで共有すべきだろう。

再興歴三二五年■■年■■日。

マリア氏と被験体との同調には目を見張る結果があった。その理由を調べるために複数回検査を実施した。その結果、マリア女史のメタアクト能力と被験体との相性が良好であるということが発覚した。惜しむべきはマリア氏の能力がメタアクトの中でも発現例の少ない種類の能力であることだ。だがこれは研究の進歩になるといっても過言ではない。さらなる調査が必要だろう。

再興歴三二五年■■年■■日。

驚くべきことに銀河にはAFに類似した『有機巨人』に伴って四つ足の不明生物の存在が確認されている。カール・フォン・シュタウフェンベルグの調査を鵜呑みにするなら『エクストラクターどもの非人道的搾取のための調査』だということになるが。いかんせん目撃されるだけだったエクストラクターの存在を確認した以上その信憑性は濃厚になったといっても過言ではない。最近の研究所内では外国の組織と思われる工作員の存在と痕跡が取り沙汰される。有機巨人の存在は隠蔽しなければ……。


「これは……」

レオハルトは目を白黒させた状態でその記録を二度見していた。

マリアはコートを脱ぎ捨てると、ぴっちりとした青いラテックス製の軍用スーツに身を包んでいた。明らかにテストパイロットの服装だった。

「私ね。レオハルトが大変だった間に変な事件に巻き込まれちゃって」

「事件だって?」

「うん、プロジェニアンの一体と適合しちゃって」

「どういうことだ」

「共和国領の惑星で最近発見された巨人のような生物が『何かから逃げてきた』ようなんだよね。それを軍の研究者が研究してたんだけど、うっかり逃げ出した子の一体が私に懐いちゃって」

「……凄い話だ。再興歴以前の異星人映画みたいになるとは」

「そうね。話はまんま映画じみてるけど……」

「半信半疑だが話してくれ。一体どういうことだ」

「うん。共和国軍以外にもね研究している組織があるようなの。何体か助けをもとめてるって」

「……助け?」

「プロジェニアン、巨人の子が」

「にわかに信じがたいが……マリアが嘘をつくわけないしな」

「ありがと」

そう言ってレオハルトは再度研究資料を読み直す。

プロジェニアン。有機巨人。近年発見された巨大人型生物で、体表は金属室だが下腹部に相当する機密性が保たれた空洞には植物と羊水に似た液体に満ちている。自我持っており簡単な会話に成功した結果、自分たちを『星の子孫』と称したことを由来に命名された。

「君の巨人はどこに?」

「マリンスタァはね。狭いところにいるの」

「狭いところ?」

「倉庫、研究者が手入れをしてて」

レオハルトはマリンに連れられるがままに倉庫へと向かう。

「これが……」

群青色の体表をした有機巨人が奥に鎮座していた。その巨人は検査機器に接続されていて下腹部の空洞、AFで言うコックピットに当たる部分には機器のコードと植物の蔦が入り乱れたような状態になっていた。空洞部にはツタのような部分がうねうねとマリアを探していた。

「マリンスタァ、わたしよ」

マリアがそう呼びかけると巨人の頭部から生き物の鳴き声を思わせる高音が響いた。

「ごめんね。遊ぶのまた今度ね!」

マリンがそう叫ぶとマリンスタァは明らかに残念そうな音を明らかに響かせていた。

巨人とマリアとのやりとりを見た後のレオハルトはSIA増強のために人員の策定を進めることを決意していた。マリンのこともあり組織の人的基盤の補強は急務だった。

「レオハルト様」

イェーガーが跪く。その気配は洗練されていてアズマ国の忍軍出身者に決して劣らない水準にあった。

「どうした」

「アオイ・ヤマノより興味深い人材についてお話しが」

「その線だとメタビーングか」

「はい、才気あふれる女傑ですが厄介な相手なので私とアオイがお供します。あと警察官のジン・カタヤマ氏も同行すると……」

レオハルトは新たなる人材確保のためまずアズマ国へと飛ぶことを決意した。その道中でレオハルトはアオイから顔写真付きの資料を手渡される。

名前の欄には『ユリコ・ミカミ』とあった。

マリアと有機巨人、そして人員確保。来るべき戦いに備えSIAの課題は山積する……!?


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