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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第一章 レオハルト覚醒編
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第一章 四十五話 第三次銀河大戦

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

レオハルトがデミトリの相手をすると同時にタカオはリィ・ファと対峙していた。

「お前は……ワイズマンの!」

「……お前がヨンの妹か」

「ええ、貴方の大好きなワンチョウ人のね!」

「……皮肉が上手だな」

「あんたは私を殺すつもりなのでしょうね!憎きワンチョウ人としてね!」

「前の俺だったらな」

「……前のですって?」

「我ながら恥ずかしい話だ。国が阿呆な振る舞いをするからと言って国民全員が一律に阿呆とは限らないだろうと親友や弟に説得されるとはな」

「殺すなら殺しなさいよ!」

「そうはいかない。お前は親友の友の妹だ。誰にも殺させるわけにはいかない」

「ふざけるな!今更偽善なんて聞きたくないんだよ!」

「偽善で結構だ。それでも命がかかっている場面ならやることは一つだろうが」

リィ・ファはどこからか槍を取り出す。魔装使いは亜空間から武器を出現させる能力が備わっているためかどこからでも強力な自分専用の武器を取り出すことができた。ファは槍を突き出してタカオの腹部の真ん中を狙う。

「リャあああ!」

ファの槍捌きは胴に入っており、普通の人間が食らえば即死するほどの威力を持った槍の一撃に定評があった。

だが、槍は折れた。槍はタカオの腹部に当たると貫通することも傷をつけることもなく武器が耐えられずに折れた。

「…………は?」

ファは目の前の事態に目を疑うばかりだった。

「大人しくしようか」

タカオが歩み寄る。そこにファは再度武器の生成と攻撃を行ったが、無駄にエネルギーを削るばかりだった。絶望とエネルギーの浪費がコアの汚染を進行させる。本来ならこれは危険な状態だったが、問題はタカオがそばに立っていたことだった。

「やれやれだ……」

タカオが片手を伸ばすと、ファのコアから何かが抽出される音が辺りに響く。それはタカオがグリーフを抜き出すために出る空気の振動であった。タカオはグリーフ能力を極めているために近くからグリーフを吸収する術に長けていた。

それは少女を疲弊させつつ、少女を魔女獣にさせないための最適解であると言えた。

「お、お、……お前なんなんだよ!?」

「俺がタカオ・アラカワだ。今更だな」

「こんなのありか……」

リィ・ヨンはとうとう戦意を失いその場に座り込んだ状態となった。そしてリィは遅れてきた援軍たちの保護される。

そんな様子とは対照的にレオハルトとデミトリの死闘は激しく苛烈なものとなっていた。レオハルトの猛攻は怒りに支配されたものであり、感情の力で一撃は重かったが剣の軌道はどこか単調な部分が残ってしまっていた。そのせいかデミトリは少しがっかりしたようにあらゆる剣の軌道に対し軽々とした回避を続けていた。

「外道が!貴様は斬首刑だ!」

「軌道が丸わかりだな」

デミトリはレオハルトの横薙ぎを伏せるように回避する。

そしてデミトリは突いた。

通常の剣士ならばデミトリは心臓を射抜いていた。

「読み通りだ」

レオハルトは加速のメタアクトによって尋常ではない機動性を誇っていた。それはメタアクターの世界でも有数レベルに到達する段階に片足を踏み込んでいた。そして特質すべきは彼の頭脳。

学生時代、チェスで異様な強さを発揮した彼の戦術眼は数十手先を読んだ動きに定評があった。彼はその頭脳とメタアクトを駆使しデミトリの突きを完全に避けた。そしてすれ違うように彼はデミトリの脇腹を切り裂いた。

「貴様……」

「咄嗟に身を引いたか。わずかだが」

デミトリは驚くべきことに突きが外れたとわかったタイミングで体をわずかに逸らしていた。それにより彼は深傷を負うことから逃れていた。

「これが……『加速』のメタアクトか。聖典にもその存在は記されているな。厄介な」

「君には二つしか道がない。ここで死ぬか法に裁かれるかだ!」

「愚かな人類が制定した法に何の意味がある。この歪んだ世界では約束や法に意味などない」

「話をすり替えるな!父や少女たちを犠牲にした報いを受けろ」

「否、私は結末を早めただけだ」

「詭弁を!まだ話をすり替えるか!」

そこからはレオハルトが竜巻のような斬撃を繰り出した。

それをデミトリは器用に回避し去なす、彼の手にはナイフが握られていた。

「さて、茶番はここまでだ。本来の筋書きはここでアルゴンシティに大きな被害を出すことだが……これ以上は無意味のようだ」

そう言ってデミトリは懐から何かを取り出した。それは発煙筒だった。

複数の発煙筒がばら撒かれるとデミトリの姿を消してしまう。

「待て!」

レオハルトは追尾しようとする。だが足止めを行う存在が現れた。

AF、アサルトフレームである。作業用にデチューンされた六二型装甲人型機の一機がレオハルトの前に立ちはだかった。通常、五大国家においてこのようなタイプのAFが軍事利用されることは既にない。だが民間の機体においては古い軍用機をデチューンされたものが格安で出回っており土木作業や船外作業などで中小企業に運用されるケースが存在する。

黄色い土木作業用のAFがレオハルトの前に立ち塞がった。六二型は腕を振り回すようにして周辺の共和国軍に突進する。その腕部によってビルや信号機が破壊され街の被害が広がっていた。

「どけ!どけぇ!」

レオハルトは叫びながら六二型に攻撃を繰り出した。

カヒュッ!

空間を軽く切り取る軽快な音と共に六二型の腕部を一刀両断した。

レオハルトの加速の能力は彼自身の腕を通して高周波を作り出し軍刀の切れ味と速度を増幅していた。六二型は腕を両断された状態で頭部カメラ付近に無理やり備え付けられたから機銃掃射を行うが、レオハルトは軽快に掃射をバク転するように回避した後彼は飛び上がった。飛び上がった彼はコクピットの装甲を中の搭乗員ごと両断した。

「……デミトリはどこだ」

デミトリは既に二キロ先まで逃走していた。

彼が飛び乗ったところからデミトリの位置を見ると彼は逃走車両へと飛び乗り、どこかへと姿へと姿を消していた。

「やられた!光学迷彩!」

デミトリの車は光学迷彩によって姿を消せる機能が備わっていた。彼は綿密に逃走手段を用意しレオハルトなどから追跡されることも想定した備えを用意していた。






レオハルトら援軍部隊は惑星ヴィンセントの大都市アルゴン・シティの襲撃を退け、カール・フォン・シュタウフェンベルグ少将とヴァネッサの真実へと到達することになる。

レオハルトが全ての真実を知ったのはリィ・ファの取り調べの時であった。

「先代リーダーのことを知りたがっていたね」

ファはそう発言した。

「先代?」

「私たちはヴァネッサと呼んでいた。難民だったから苗字はわからないけども」

「話してくれ。なぜヴァネッサは父を殺すことになった?」

「……なら……コーヒー頂戴」

「わかった」

レオハルトがイェーガーにコーヒーを持ってこさせると彼女はゆっくりと口を開き始めた。

「……こうやってさ。先代とはコーヒー飲みながらくだらない話してたのを思い出すよ。私たちはね。ある組織の子飼いでさ。汚い仕事を請け負う代わりにコアのグリーフを除去してもらったり、食料や衣服を与えてくれたりしていたのさ」

「そうか。組織というのはどこの?」

「リセットソサエティがメインだけど他にもいる。ブラット・クロス党や変な宗教から依頼が来ることもあった。あ、あとカオス・アナーキストから依頼を受けることもあったな。共和国軍の情報を調べてもらう代わりに報酬を受けてね。割が良かったよ」

レオハルトにはそのことに心当たりがあった。パトリック・ロングアイランドの事件、そのことがレオハルトの脳裏をよぎっていた。

「先代リーダーのヴァネッサと父がなぜ?」

「……彼女たちを人間に戻す代わりにある取引をした」

「取引?」

「……エクストラクターの全貌。それを調査しているって。あと、ジーマ国やツァーリン連邦などの管理主義国家陣営に関する情報よ」

「エクストラクターはわかる。彼らは人類種の敵だからな。だがなぜ管理主義国家が出てくる?」

「管理主義国家とエクストラクターはイデオロギーを同一にする存在だからよ」

「イデオロギー?」

「エクストラクターは一見別々の個体が社会を作る生物に見えるわ。でもその実態は一つの群体。自我も感情もなく群体として同一型の端末型が生み出されているだけ、彼らの目的な『効率的な生存』そこに社会や他者というものは存在しない」

「管理主義国家の方を持つわけではないが向こうは社会だ。人間と機械が収めているようなものだ」

「ならいいことを教えてあげるわ。ツァーリン連邦には二つの派閥があるジーマ国のように種族全体を群体と位置付け一切の個性や感情を否定する全体管理主義派と演算システム『ツァーリ・N』の元で平等な社会の存続を続ける旧来保守派ね」

「今、管理党でそんなことが。どこでそんな情報を?」

「……デミトリ・ボルコフスキーよ。リーダーはカール大佐に初めは味方しようとしていた。だけど殺された。あの手この手で図られたの」

「……それが真相か」

「そうして私たちはデミトリらリセット・ソサエティの子飼いとして活動するようになった。こういうことよ」

「……」

「それでツァーリンの方の内戦はどうなったの?」

「……全体管理主義派が勝利したようだ」

「そう……なら戦争になるわね」

「そうだ。第三次銀河大戦だ。……君はどうしてこんなことを?」

「リセットソサエティの理念に賛同した。姉さんはなんだかんだでこの世界に未練があったみたいね。でも私はこんな世界滅んでしまえばいいって思ってる」

「……そうか」

「コーヒー、美味しかったよ」

「……良かった。でも、君が国家の敵になってしまって残念に思う」

「死刑でしょ?」

「終身刑にして見せる。姉さんに生きて償ってほしい」

「……もう少し早く会えたらさ。囚人にならずに済んだかもね」

「……かもな」

レオハルトはこう言って取調室から立ち去った。

そして、この三日後、銀河を震撼させる事件が起きる。

ツァーリン連邦がアスガルド共和国に宣戦布告したことである。その理由は『アスガルド共和国が政治体制に反した反乱分子を匿った』ことにあると共和国大統領へと伝えられた。これが後に第三次銀河大戦と呼ばれる戦争の始まりとなった。

父の死の真実、秘密結社、魔装使い。そして戦争へ……。


次回、新章開幕

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