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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第一章 レオハルト覚醒編
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第一章 四十二話 戦乱の影

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

ダグラス議員の逮捕後、共和国大統領はツァーリン連邦の管理党書記長と緊急の会談を行なっていた。

その会談の目的は同国にいるであろう『デミトリ・ボルコフスキー』と秘密結社『リセット・ソサエティ』に関する情報提供、および『ギルバート・ノース中佐』の行方に関する情報提要および各種協力関係の構築にあった。

この会談は目標に対する障害がいくつか存在していた。まず、ツァーリン連邦と共和国は政治体勢や経済、文化、人間社会に対する原理原則が根本から異なっていた。

アスガルド共和国などの五代国家は自由経済と民主主義、そして法治と多様な種族や人類文明による司法や治安の維持を主義としていた。

それに対してツァーリン連邦は人間という種を一つの群体として定義し、個体の死に頓着しない代わりに全ての人間の思考や権利を画一的かつ平等なものとして管理されるべきであるということを国是としていた。これを国家管理主義と言い、エクストラクター勢力や竜山連合、ジーマTHX国などがこの国家間陣営に属していた。

ツァーリン連邦と竜山連合は社会・国家体制を中央演算政治体を中心とした体制にするのみに留め、国家方針に反逆さえしなければ個人の自我や感情の所有をある程度認めている。それに対して、ジーマ国とエクストラクターは自我と感情を『危険で非効率』なものとして定義し、これを『治療』することを国是としていた。

前者の管理主義勢力を『容認派国家』、後者の勢力を『画一派国家』として定義されていた。

共和国大統領らはそんな勢力に対し共存の道を探るべく対話を根気強く行なっていた。だが、両者の関係は芳しくなく、管理党書記長のミハイル・アンドロポフは険悪で強硬な態度を崩すことは無かった。

「そちらの元軍人が我が国内でテロを起こし要人の暗殺までしたんです。協力をするのは銀河の治安に関わることだと先ほどの説明で……」

「お言葉だが、我が国においてもそちらのギルバートがしでかした『犯罪行為』によって国家が滅茶苦茶になりかけたのです。我々主導で動くのが筋では?」

「犯罪行為とは?」

「……国家騒乱罪だ。我が国においてもギルバートが首謀した事件を多く起こされたのだ。現地の警察組織から複数の報告が聞いている」

「テロですか」

「ああ、傍迷惑な話だ。おたくらの過激派はおたくらが始末して欲しいものですな」

「ええ、そちらもそちらの過激派を野放しにしないならある程度譲歩できるのですがね」

「我が国の軍人は皆忠誠を誓っている。そちらの野放図な連中と一緒にしないでもらいたいですな」

「その割にはメンタルケアが足りず病んだ軍人の事件が頻発しているようで。薬物事件の温床もマフィアの勃興もそちらの無計画な戦争政策の応報でしょうな」

会談は緊張状態が続く。両者の姿勢は『どちらが主導で事件を解決するか』で平行線を辿っていた。

「……」

レオハルトはこの状況を芳しくないと判断し、どうにか険悪な雰囲気を和らげようとした。

そのタイミングだった。両者の会談に割って入る者が存在した。

「これは険悪ですな。僭越ながら、せっかくの会談ですから最初くらいは両者で酒でも飲み交わすのもよいと私は考えますな」

「同志ライコフ、気遣い無用だ」

「……ん?」

レオハルトはその顔に見覚えがあった。 

レフ・ライコフ。高校時代のレオハルトとタカオがヴィクトリア・シティと帝都ヘイキョウを又にかけた犯罪組織と戦っていた時代に彼と交流があった。

彼を短い言葉で表現するならば『理知的で温和』である。

彼はツァーリン連合領の辺境で生まれ、戦火を逃れるようにして永世中立国プロシア大公国へと逃れた過去を持っていた。

国は違えどレフとレオハルトは話の合う友人であり、共に学問に対し切磋琢磨を重ねるべく議論を重ね合った知的な隣人であった。

「君は……レフ・ライコフでは?」

「ん?」

レオハルトの問いにレフは少し黙ったのちにこう答えた。

「そういう君は……レオハルト・フォン・シュタウフェンベルグ」

「やはり!元気だったか!」

意外な再会にレオハルトは喜びの声を上げた。

それは普通の反応である。だが彼の反応はどこかそっけなかった。

「ああ……お前か、レオハルト」

「?」

「いや、なんとなく夢を見ているような心地でな」

「そうか!僕も夢みたいだよ。ここで旧友に会うとはな」

「……ああ」

レフは機械的に返事を返すが、レオハルトは対照的に人間的に喜んでいた。

「同志ライコフ教授、共和国のレオハルト長官と知り合いで?」

「ええ、古い知人です」

レフは書記長の質問に淡々と答える。

一方のレオハルトは大統領と当時の思い出のことを語らっていた。

「彼とは友人か」

「はい。親友のタカオと高校時代に青春を過ごした際に知り合いました」

「ほう……さぞ、ドタバタ騒ぎに連れ回しただろう」

「ええ、彼には助けられました」

「……具体的には?」

「ええ、本の虫だった彼から学識による協力や人脈などで……」

「目的は?」

「トラブルの解決です」

「そのトラブル、いくらか君も関わったのでは?」

「ノーコメントです」

「はは!優等生の皮を被った悪ガキだな君は」

そんなやりとりの後、会議はいくらか冷静で和やかなものへと変わった。

「やれやれ……国民同士の交流がある以上はやりづらいな」

「全くですな。書記長殿」

「険悪な関係になって打撃を被るのはそちらだろう?」

「そちらも資源の産出が必要だったり航路が減るデメリットは避けたいでしょう?」

「お互い様だな」

「同感です」

「できる限りの情報は渡そう」

「こちらもそのつもりです」

そんなやりとりの後、会談はようやく順調に進んだ時のことであった。

「同志!同志ミハイル書記長!」

ツァーリン側の兵士が慌ただしい様子で駆け込んでくる。

「緊急か?」

「はい本国において軍の一部が離反し、首都ロスダムに向けて進軍中、首都防衛隊の何割かが反乱軍によって殲滅されました!」

「何!?」

「え!?」

「なんと!?」

「反乱軍は正統帝政派を名乗り我が管理党に対し宣戦を布告しました」

「なんてことだ。私がここにいる間に……」

書記長は糸が切れたように項垂れた様子になる。この事件は第四次帝政派内乱と後に呼ばれることとなる。だが、不幸なニュースはこれだけに終わらなかった。

「大統領!報告します!」

今度は共和国軍の兵士が会議場に駆け寄る。

「どうしたのだ!?」

「共和国領惑星ヴィンセントのアルゴンシティでメタアクターともサイボーグとも違うテロ集団が出現、市民を殺害しながら軍と交戦を行なっています!」

「なんだ……どこの組織だ?」

「彼女らは……自らを『ホワイトフェザー』と名乗る声明を発表!目的は人類の救済を謳い市民を誘拐、もしくは殺害しているとの報告が既に!」

「なんだと……新手のカルト集団か?」

「ただのカルトではありません。現地の車両部隊や装甲歩兵部隊に被害を出しています」

「分かった。テレビ!テレビつけて!」

レオハルトは近くにいたサイトウにテレビをつけるように指示を飛ばす。

テレビではアナウンサーが各地で起きているテロ事件について報道を行なっていた。画面では混乱の中逃げ出す大勢の市民の姿や煙の上がる市街地の様子が出ていた。

「信じられません。戦闘用フロートや車両部隊が応戦してますが……苦戦してます!現地での今の光景は映画の撮影ではありません!実際の光景ですッ!」

アナウンサーが叫ぶようにして現地の混乱の様子を言葉で伝達していた。それに合わせたかのように少女が戦闘車両と真正面から激突していた。あるものは車両を投げ飛ばし、あるものは巨大化させた砲身を向け車両部隊を爆散させていた。かと思えば、どこからか出現させた刀剣で刀身より大きな戦闘車両や戦闘用歩行ドローンを両断し、共和国軍の歩兵部隊にも甚大な被害を出していた。

「……これは」

「魔装使いだと!?なぜ!?」

大統領も書記長も言葉を詰まらせた状態で画面の状況を注視していた。レオハルトが両者に対し提案する。

「大統領、それとミハイル書記長。この攻撃はまだ序の口に過ぎない可能性があります。お二人には安全なところへの避難をお願いします」

「だが、国民と我が軍の兵士が血を流しておる。大統領として残る必要がある」

「大統領に賛成だ。私に至っては国自体が混乱している」

「だからこそです。お二人は両国のために生存を確保する必要があるのです。国内の騒ぎに関しては我々と共和国軍の双方が適切な指揮と対処を行います」

両者はゆっくりと頷いた。

「仕方なかろう。それしかない」

「だろうな。ああ……なんてことだ」

レオハルトは共和国シークレットサービスの黒服らに大統領と書記長の安全を任せ、動ける人間を集めた。

アラカワ、サイトウ、スチュワート、ジョルジョ、スペンサー、イェーガー、ダルトン、グレイス、B、ソニア、ペトラ、ライム、ドロシー。

レオハルトを含め、レオハルトは見知った十一人の人員を階級や所属を問わず集めた。

「まず我々は惑星ヴィンセントのアルゴンシティへと急行する必要がある。ジョアッキーノ少尉、なるべく早い移動手段を確保するから操縦を君に任せたい」

「レオハルト少尉は理解が早いですな」

「頼むぞ。……スチュワート少尉も僕と共に足の速い船を一隻こっちに回してくれるように上層部への手配を手伝ってくれ」

「了解です」

「サイトウ曹長、イェーガー曹長、アラカワ曹長は武器、弾薬、爆発物、パラシュート等の降下用装備、強化服とヘルメット等の装備の手配を、出来れば戦闘に耐えうる車両かAFの手配も」

「あいよ」

「承知」

「了解」

「我々も手伝おう。良いかなドロシー大尉」

「ええ、指示も完璧でいうことはないわね。必要ならソニアら三人にも指示を頂戴」

ドロシー、ダルトン、スペンサーの三人も手早いレオハルトの判断に感心した様子を見せつつ、自分らの装備をまとめ始めた。

「ドロシー大尉、スペンサー大尉。感謝します」

「少尉、気遣い無用よ。感謝はアルゴンシティの鎮圧後にして」

「イェス・マム」

レオハルトは敬礼の後、サイトウらとソニアらと共に戦闘準備と各種装備のチェック、軍用輸送船の確保のために東奔西走の様子で駆け回っていた。準備と最終チェックを五分で終わらせたレオハルトら一行は現状用意できる中で一番速いアルスター級フリゲート艦に搭乗し共和国海兵隊等の援軍部隊と共にアルゴン・シティ上空へと急行した。

本作品は『孤独なる人間』をテーマに様々な物語を展開していきます。


次回もよろしくお願いします。

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