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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第一章 レオハルト覚醒編
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第一章 三十九話 内部調査、その7

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

保健福祉大臣とギルバートの拘束のため国防軍第1機甲師団と共和国海兵隊中央方面隊傘下の車列に二人は同乗していた。現場ではすでに多数の兵士たちが保健福祉省とその周辺を捜索していた。しかし二人の姿はすでにどこかへと消えていた。

「逃げたか」

ダルトンは苦々しくそう呟いていた。

「手がかりがあるかもしれない。逃げたばかりなら何か痕跡があるはずだ」

シンは彼にそう提案する。それに対してグレイス少尉も彼の言葉に賛同する。

黒褐色の肌と凛々しい目をした彼女が毅然とした口調で同調の言葉を発した。

「本官もアラカワ曹長に同意です。僭越ながら調査が必要かと」

「だが、追跡の人員も必要だ。グレイス少尉。すまないが君は周辺の捜索を頼む」

「了解です。中佐殿」

「調査はシンと私でやる。情報と痕跡の調査に関しては我々で事足りるだろうからな」

「は!」

そう言って彼女は敬礼をした後、その場から迅速に立ち去っていった。

「ダルトン中佐」

「どうした?」

「なぜ保険福祉大臣は我々に気がついたのでしょう?」

「勘が良いだろうな」

「……俺は別の理由があると考えています」

シンは丁寧な口調でダルトンの言葉に反論した。

「だといいな」

一方のダルトンは議論を皮肉めいた口調で即座に切り上げた、

そんなやりとりをした二人は保険福祉省大臣の執務室へと足を踏み入れていた。

執務室には深みのある赤色をした希少な木材で出来たデスクと本棚、倒れている観葉植物と乱雑に散らかった書類が存在していた。

「……」

シンは床に散らばった書類の一部を拾い上げる。

「どうした?」

怪訝な顔でダルトンはシンの方を見る。彼はダルトンの表情に目を向けることなく、書類をダルトンの方へと差し出した。

「……これを」

差し出された書類、報告書をダルトンは見た。


再興歴三二五年八月○日

『検体』の確保。隠滅手段。業者や口封じのための捨て駒の準備は完了。計画も情報統制も万全であるはずだったが、想定外の情報漏洩発生。

至急調査されたし。

再興歴三二五年八月○日

隠滅の失敗を確認。当該責任者は捨て駒ごと処理された。だが漏洩先について依然不明。詳細を至急調査されたし。

再興歴三二五年八月○日

漏洩先は『共和国宇宙軍のドロシー・アーリー大尉』であると判明。周辺人物の調査を推奨するものとする。

再興歴三二八年九月○日

情報取得者はドロシー大尉と三名の部下であると推定。情報源特定の尋問後、至急処理されたし。

再興歴三二八年九月○日

処理に失敗した。早急に指定の場所へ急行せよ。


その内容は明らかに人道だけでなく、軍の倫理規定を反したものであった。

「……指定の場所か」

「ユキに遠隔で調べてもらえないか?」

「やってみよう」

シンはユキと連絡を取り監視映像などを調べてもらった。

「どうだ?」

「多すぎるわね。街中の監視映像を引っ張ってみたわ。でも、まだ絞り込みをしないと……」

「どれくらいかかる?」

「三日間。私でもそれくらいかかるわね」

「了解だ。なんとかする」

そのやりとりの後に彼は通話モードを切る。

「なんと?」

「多すぎると」

「ユキでもか?」

「もう少し手がかりがないとな」

そう言ってシンは再度書類を見る。すると彼は何か思いついた様子でユキに再度通話を繋いだ。

「ユキ、分かったぞ」

「どうしたの?」

「今月分だけでいい。移動パターンを絞ってみろ」

「やってみる……ん?」

「見つけたか」

「そうね」

ユキは彼の端末に地図データを送信する。シンは画面を見て不敵な微笑を浮かべた。

「そうか……助かった」

「幸運を」

「ああ」

シンは通話を切った。

「結局のところ、何が分かった?」

ダルトンはシンに通話の内容を問う。

「保健福祉大臣の居場所だ」

「……早いな」

「俺の相棒はいつも仕事が早いからな」

「一匹狼の俺にない芸当だな。素直に敬意を感じる」

「貴方がそんな言葉を言うとは。ダルトン中佐」

「一人には一人の取り柄があるものだが、やはり集団の強さを感じる場面は多い」

「だが孤独を感じないわけではない。俺もユキも」

「なら寄り添えばいい」

「……なるほどな。そうする」

会話の後、二人はユキから提供された情報を元に追跡を続行した。

「どちらへ?」

グレイス少尉が怪訝そうな顔で二人を見る。

「俺が無線で合図したら全員を呼んでくれ。敵の拠点があるかもしれない」

「了解です」

敬礼と共にグレイス少尉がその場を後にした。部下を集めているためであるとシンは悟っていた。

大臣がいるであろう位置座標へと向かうべく二人は装輪装甲車を走らせることにした。

「運転は?」

「俺がしよう」

「分かった。任せよう」

シンは納得した様子でダルトンへ運転席を譲った。

ダルトンの車両への理解はその道のプロやマニアですら唸らせるものがあった。職業柄、戦闘よりも逃走や隠蔽の手段に秀でている必要があるダルトンは車に対してもその妥協なき探究心とプロ意識とが発揮されていた。

「来るときは助けられた」

「礼はいい。俺はプロだ」

「だからこそだ。プロがプロの仕事をしただけだとしても感謝はしている」

「……苦労しているようだな」

「お察しの通り。色々いる」

「例えば?」

「一番最悪だったのは、『アンヘル中尉』、教養だけ一丁前だった。だが、はした金で敵である外国マフィアに寝返った。だから俺が始末した。次に通称『ビッグ・ジョー一等兵』。あいつは重大なヘマを重ねて死んだ。巻き添えを俺も喰らいかけた。彼の後にも気になる奴がいる。彼らに関しては少しだけマシな例だ……外人部隊にガウスとギースという奴らが」

「そいつらはそこそこか?ガウスと……」

「ガウスとギース。口論ばかりで仲が悪いが修羅場慣れしている。一般的な評価ならな」

「歯切れが悪いな?」

シンはしばらく黙った。彼は口元を手で押さえる仕草の後、言葉を発した。

「……引っかかるものがある」

「引っかかる?」

シンの一言を聞いたダルトンが怪訝な顔をした。シンはそれに後押しされるように口を開く。

「ガウスは悲観的過ぎる。外人部隊に来る前に受けた依頼の資料を見たんだ。判断が難しい局面ではあったが任務を『やむなく』放棄した記録がある。その際に……悲劇的で凄惨な人死が出ていると聞いている」

「……現場に着いた時には遂行不可能。スパイなら珍しくないことさ。もっとも共和国で随一の執拗さを持ったアラカワ曹長殿には不服だろうがね」

「……それもある」

「それも?他に何が?」

「もし……俺がその場にいたら、俺は任務を続行しただろうと思った」

「その根拠は?」

「……直感だな。それ以上の域は出ないが」

「……」

「すまない。余計な発言だった」

「いい。直感は大事なことだ」

「……?」

シンはダルトンの方を興味深げに見る。

「現場で最後にものを言ったのは微かな『直感』だった。違和感、引っ掛かり、欠けたパズルのピース。状況を打破したりどんでん返しのきっかけになることは多かった。それだって馬鹿にならない」

「そうか……」

「……『囁き』だ。内なる『囁き』に耳を傾けろ。違和感は己を救う重要な感覚だ」

そう言ってダルトンは別の方面で質問をする。

「そいつらはヘマを?」

「俺の時はない。だがこれから起こる可能性は大いにある」

「それは連携の悪さからか?」

「連携は大丈夫だ。悪口と喧嘩が奴らの競争心の源泉になる。……そこはいいんだ」

「なんだ?」

「俺が思うに二人は良くも悪くもエゴイストだ。兵士である以上はエゴの強さで生き抜いてきた面も強いだろう。……が、それ以上の何かがある」

「そこだな」

ダルトンは確信したように頷いた。シンもゆっくりと頷く。

「ああ……だからこの二人には仕事を共にして不安をなんとなく感じている。次の任務でもどうなるか?」

「なら疑っておけ」

「そうするよ中佐。ありがとう」

「言ったろ?それより次の仕事だ」

「そうだな」

そうして二人は何気ない会話を切り上げた。目的地に到着したからだった。

「行くぞ」

「イェッサー」

アラカワ曹長とダルトン中佐は互いに得意な武器を取り出した。

アラカワは短機関銃と拳銃を、ダルトンは粒子式自動小銃を車内から取り出した。彼らがたどり着いたのは首都ニューフォートからかなり離れた郊外で農場を思わせる地点にあった。そこには人気を感じない小屋と広い家屋が存在していた。小屋は扉が開いており無人であることが遠くからでも確認できたが、家屋には明らかに複数人の人間の気配が存在していた。

シンとダルトンは息を潜め、ゆっくりと敷地内を進む。敵だけでなくブービートラップの類や側面からの奇襲、狙撃の可能性なども考慮しながら屋敷を目指して進む。物陰から物陰へ、屈むようにして慎重に二人は敵影を探した。

「……」

「……」

風の音、そして沈黙があった。獣や野鳥の気配が感じられない郊外で二人は入口付近の位置まで移動していた。入口は両扉であったが、シンの筋力なら蹴破れる程度の薄めの金属板でできたものであった。

ダルトンが不意に『止まれ』と手で合図する。すると彼は胸元から何か小さな装置を取り出すとそれをドアの下に置く。ダルトンは腕時計の方を見る。彼の腕時計はスパイらしく特殊な改造が施されたものだとシンは悟っていた。

再度ダルトンがハンドサインを見せる。

『ドアを蹴破って進め』を意味した合図をダルトンは出す。シンも手で『了解』を意味する仕草を示した。そしてシンは思い切り扉を蹴り飛ばす。扉は蹴りの威力によって金具が外れ、勢いよく宙を舞う。そして扉本体は機関銃を持った内部の敵に激突した。

「全員武器を捨てろ!」

シンがそう叫びながら勢いよく室内に突撃する。ダルトンも同様に叫びながら小銃を敵に向けた。だが敵は武器を捨てずこちらに向けようとした。二人は即座に反応し、銃を持った敵を全員排除した。

逃げようとした人物が一人いたが二人によって取り押さえられる。

「保険福祉大臣殿、どちらへ?」

シンは音もなく彼の眼前に立っていた。

「……ヒッ!?」

その瞬間、アラカワが愚か者を組み伏せた、ダルトンも周囲を確認した後に取り押さえた人物に呼びかけた。

「貴方には人体実験を始めいくつもの非人道的な犯罪の容疑がある。ご同行願おうか?」

「大臣殿、貴方には黙秘権と弁護士を呼ぶ権利がある。手を」

二人は大臣と共に屋敷の外に出た。愚行を犯した大臣の身柄を二人は援軍部隊へそのまま引き渡すことに成功した。ダルトン中佐が無線で『合図』を出して数分後にはグレイス少尉ら海兵隊員たちが大臣を手際よく連行したからだった。

大臣逮捕。しかしギルバートは?


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