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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第一章 レオハルト覚醒編
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第一章 三十八話 内部調査、その6

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

シン・アラカワとロジャー・J・ダルトンの二人は軍用の四輪駆動車を飛ばして大統領府まで急行する。レオハルトたちが救助を行う間に政府に証拠を届けるべく、二人は一秒を惜しんで車を走らせていた。

「……まさか、伝説の諜報員と一緒とは」

「そんな大層なものではない。常に考え、躊躇なく動くだけだ」

「ならば、俺と同じと」

「ああ……お前と同じように仕事をしている。それだけだ」

「俺の仕事は俯瞰的、あなたの仕事は繊細で完璧。似ているようで違いもありますな。でもやるべきをやるという点では同じようにも見えるでしょう」

「ほう……ならば曹長、一つ聞く」

「なんでしょう?」

「妨害は来るか?」

「必ず来ます。ギルバートは狡猾なので」

ダルトンの問いにシンは即答した。

「そうか……おや、早速当たりだ」

「では、迎撃は俺が。運転をお願いします」

「任せろ」

そう言ってシンは車の窓から体を乗り出した。そのタイミングで後方の車から機関銃の弾丸が飛んでくる。しかし、シンに当たる前に射手は彼の手で射殺された。

頭部を撃ち抜かれた敵の体が次々と道路へと投げ出される。

「拳銃か。いい腕だ」

「取り回しが利くからな」

シン・アラカワの拳銃の腕は超一流であった。アラカワらの車と敵の車の間には二十メートルほどの距離があった。しかし、車の揺れを考慮しながら敵の頭部を精密に撃ち抜く。銃身の短い拳銃で行われたその射撃は非常に卓越した腕であった。しかもそれは一回限りではなく複数の敵においてである。さらにシンは横から来たバイクの敵にも卓越した腕を発揮した。

敵は乗り手とショットガンの射手。

シンは撃たれる前に撃った。射手の頭部、乗り手の頭部、その時間差は1秒以下であった。絶命した二人乗りのバイクは横転し敵の車両に激突する。激突した敵の黒い車両は三回転半転がった後、炎上した。

だが、敵車両・バイクの群れは執念深く二人の四輪駆動車を追尾する。

「熱心なファンだな。くれてやるよ」

シンは徹底的に苛烈だった。次にシンは敵の車両にグレネードを投げ込んだ。その投擲は精密無比で投げ込まれた手榴弾は敵を車両ごと爆破した。

「えげつないな」

だがそう発言するダルトンもアラカワに決して劣らぬほどの拳銃の腕を見せた。

最初にダルトンはノールックでサプレッサー付きの拳銃を横に発射する。ヘルメット越しに頭部を貫通されたバイクの敵が横転して道路へと投げ出される。その数秒後に今度は横を並走した敵車両の運転手の頭部と胸を射抜いた。敵を目で狙った時間は一秒にも満たなかった。

敵のワゴンは明後日の方角に暴走したのち壁へと激突して大破炎上する。

すると今度はトラックが二人の車両の横に現れる。

「回避は!」

「無理だ!なんとかしろ!」

「了解」

そのやりとりを行いながらトラック上部の敵をシンは狙い撃ちしていた。

首や胸を射抜かれた敵がマシンガンを振り落とした状態で、道路へと落下してゆく。

その後、トラックが車体をぶつけるべく肉薄する。だがダルトンの運転は敵の想定をはるかに上回っていた。

「アラカワ!」

ダルトンが窓から身を乗り出していたアラカワに車内へと戻させる。そしてダルトンは小道を可能な限り選びながら逃走を続けた。回り道ではあるが大統領の前で銃撃になるよりかはマシな選択だった。それと民間人への被害を抑えるべくダルトンらは人気の少ないルートを選択する。

「シュッ!」

シンは敵の群れに銃撃を浴びせる。死体となった敵の群れは壁やゴミ箱、ガラスなどに激突しながら数を減らしていった。

そして敵は迂回していたトラックだけとなった。

「待ち伏せか!」

シンは目を見開いた。トラックの上方に対車両用追尾弾発射装置を抱えた敵が立っていた。

「アラカワ!撃て」

シンは拳銃から共和国軍特殊部隊用の粒子式自動小銃『WR-416』へと持ち替えた。

「了解」

シンはただそう言って、敵の頭部、額を正確に狙撃した。照準が定まる前に敵は頭部を砕かれて絶命し、そのまま道路へと投げ出された。

そしてシンは敵車両の運転席にありったけの粒子弾を浴びせる。

ガラスが砕け、運転席と助手席に座っていた敵が雨のような銃弾によって身体を震わせる。コントロールを失ったトラックはそのまま横転した。

「後方クリア」

「このまま向かうぞ」

ダルトンとシンの間にあったのはプロ同士の冷淡なまでのやりとりだけが存在していた。その後は沈黙と緊張とが支配する。

戦闘の後にはただ静けさだけがあった。

到着した車両には共和国シークレットサービスの黒服たちが詰め寄ってくる。

シンとダルトンは銃をその場に置いて両手を挙げた状態でフラッグハウスに向かって叫んだ。

「ダルトン!ロジャー・J・ダルトンだ!重要な証拠の発見につき大統領の元へ参陣した!謁見の許可を求めたい!」

「シン・アラカワ!階級は曹長でレオハルト・フォン・シュタウフェンベルグ少尉の命令で行動中!右に同じであります!」

黒服の隊長らしき男が現れ、黒服の群れに銃を下げるように命令した。

「許可が下りた。こっちだ」

アラカワとダルトンは黒服の隊長、複数人の黒服たちと共に大統領の元へと向かった。

「大統領。彼です」

「通していい」

黒服らはダルトンに皆敬礼していた。通された場所は大会議室で室内には大きな四角く広いテーブルと複数の椅子が存在しており、大統領とその秘書、シークレットサービスの護衛たちと隊長、そしてアラカワとダルトンが室内にいた。

「久しぶりだな。ダルトン君。楽にしたまえ」

アスガルド共和国第五十二代大統領のジョージ・J・ハリソンが紳士的で温和に出迎える。五十代の穏やかな茶の髪の紳士が愛想良い微笑と共にゆっくりと椅子の方を指し示した。

「はい、失礼します」

「は!失礼します」

ダルトンとアラカワは敬礼の後、言われるがまま着席した。

「大統領、特殊探査船団で不正な実験の証拠を確認しました。非人道的で違法な実験です」

「違法……その証拠とは」

「実験の記録映像です。どこで開発された技術かは詳細は不明ですが……魔装使いと名乗る特殊能力者に対する実験であります」

「……前に……カール・シュタウフェンベルグ君が言っていた『エクストラクター仮説』か」

「ええ、その技術は存在したようでギルバートが不正に軍事転用している可能性があります」

「……その映像を見せてほしい」

「ええ、ですがかなり刺激的な映像です。ご覧になるならお覚悟を」

「この仕事をする以上は……しているよ。覚悟は」

そう言ってハリソン大統領は投影された映像を決意ある様子で視聴する。その後、非常に悲しそうな表情でこう言った。

「……そうか……ギルバートは我々に黙って……」

「ギルバートは危険です。我々にご助力をお願いします」

「分かっている。……それにしてもレオハルト君か。因果なものだ」

「因果と言いますと?」

「カール君と僕は政治的なスタンスにおいて立場を異とするものだった。その息子が彼の部下だった男の悪行を暴くというのは因果なものだとしか思えんよ」

「……なるほど。おっしゃる通りです」

大統領の言葉にダルトンが頷いていた。

第52代大統領のジョージ・J・ハリソンは連合労働党の出身である。統一共和党の政治家にも敬意を払われるほどの大人物であった。アスガルド共和国の政党は二大政党制で連合労働党と統一共和党の二つが存在する。ヴィクトリア中央大学政治学部を卒業後、若き日のハリソンは連合労働党の議員として当選し、経験を重ねていった。その職務は順調というにはあまりに災難の多いものであったが、彼は再興歴三二二年に大統領に当選し、彼という人物の政界への影響力・人望の強さを世に示した。

決して小さい人物ではないハリソン大統領は暇を見ては詩を愛読しており、座右の銘は共和国の古い詩人であるロングアイランドの『慈愛ある言葉は黄金と豊穣の風である』としていた。

そんな人物なので休日は穏やかに友人や家族と過ごすことを好み、時に小説の話題で家族と議論することも多かったと言われている。

そんな彼はとにかく規範と思いやりを何より重んじる人物であった。

「……あまりにも……むごいことだ」

大統領は苦々しい表情のまま、有能な一人の秘書を呼んだ。

「すまないが……このメモを」

大統領は何かを書いたかと思うと秘書にそうとだけ告げてある人物の元へと向かわせた。

「……了解です」

秘書は早足でその場を後にする。

「大統領今のは?」

「私の秘書だ。彼にはある仕事を頼んでおいた」

「仕事?」

「海兵隊に経験豊富な部隊がいる。彼らをレオハルト君の味方にと思ってね」

「そういうことですか」

「特に隊長の『グレイス・E・ディヴィス』は優秀だ。彼女は叩き上げで経験も豊富だ、きっと助けになる」

「ありがとうございます」

「それに全ての軍に命令を出しておく、ギルバート中佐の身柄を直ちに拘束するようにと」

「ご協力に感謝します」

「君には助けられている。今回も助けられたね」

「いいえ、むしろ我々が助けられました」

そう言ってハリソン大統領とダルトンが握手を交わしていた。

不意にアラカワの端末から呼びかけがある。

「……CP、こちらシャドウ01。大統領への証拠品の引き渡しは成功……そうか。分かった」

アラカワは大統領に声をかける。

「……大統領、もう一つ残念なお知らせがあります」

「今度は?」

「保険福祉省の大臣がギルバートと繋がっていたそうです」

「……そうか」

大統領は項垂れた状態でアラカワの報告を聞いていた。

保健福祉省大臣はハリソン大統領と旧知の中であったために大統領は非常に打ちのめされた様子であった。

「ダルトン。すまないが」

「ええ、我々の手で拘束しておきます」

大統領が項垂れた様子になった後、グレイスが室内へと足を踏み入れてきた。

「大統領」

「……グレイス少尉。彼らと同行してギルバートと保健福祉省大臣の拘束を頼む」

「了解です」

大統領の言葉を皮切りに二人はグレイス少尉や海兵隊隊員、国防軍兵士らの乗る装甲車に同乗する。そして軍用車両の列は保健福祉省へと向かった。その車内でアラカワとダルトンは互いの武器の弾薬の補充と武器そのものの動作チェックを念入りに行っていた。車内に無駄なやりとりはなく、後には沈黙だけが存在していた。

腐敗は根深く、妨害は激しい……。それでも任務は続く。


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