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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第一章 レオハルト覚醒編
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第一章 三話 運命の時(その2)

『蒼穹の女神』と比べ、かなり時間をおいてしまって申し訳ありません。今回は研究所内での父と子の会話が中心となります。楽しんでいただければ幸いです。

研究所内の部屋という部屋に穴があいていた。銃弾の穴だ。

比較的無事な部屋でも血の跡と少しの銃痕が残っていた。レオハルトはその中へと初めて踏み入れてゆく。レオハルトは生涯最初の戦場へと足へ踏み入れてしまったのだ。それは、彼のお節介な性分によるものか、それとも好奇心か。あるいは父への反骨心が原因か。いずれにせよレオハルトは戦場へと足を踏み入れた

「……ひどい」

何人かの警官と軍人が包帯で巻かれていた。彼らの包帯は血がにじんでいた。

レオハルトは何人かのそばに近寄った。

「……はは、あんた誰だ」

力なく笑いながら軍人はレオに話しかけた。

「……レオハルト。父が軍人だ」

「お前は、巻き込まれた」

「……お前も大概な運勢みたいだな」

「……そうみたいだ」

「なら、これもっとけ」

「銃は使えない。拳銃は撃った事ない」

「幸運のお守りさ。虚仮おどしにはなる」

「そうか。ありがとう」

「気にするな。行け。連れが……カ、カール大佐ァ!?」

「……バカ息子が迷惑かけたな。ほらいくぞ」

「……それじゃあ」

呆然とするけが人たちを置いていき、レオハルトは穴と瓦礫だらけの通路を抜けた。銃弾や敵を避けるため、慎重に、慎重に進んだ。カールとレオハルトは音を立てる事を避けた。極力、敵との鉢合わせを避けようとした。

「……まずい」

「?」

レオハルトはどういう事かと目で聞いた。小声でカールが返事をする。

「敵だよ。足音がする。数は二」

「避けよう。殺す事はない」

「そうは言うがついて来れるか?」

苦虫を噛み潰した顔でカールはシンに語りかけた。

「……かくれんぼは得意だ」

「ガキの遊びじゃない」

「駆け引きは得意だった」

「……ち、見つかるなよ」

中腰のまま、カールとレオハルトは進む。

無音。強いて言えば、二人の『魔装使い』が会話するだけだ。

「……ほんとに『濁らなくなる』の?」

「そうらしい。その『エン何とか機関』を手に入れれば私たちは人間の様に生きられるらしいわ」

「マジで?」

「マジマジ。そうすれば縄張り争いしなくてすむかも」

「……それは凄いわ。『エクビー』に願い事を言った時より凄いかも」

「……あんた何願ったの?」

「内緒」

「彼氏でも願ったの?」

「う、ほっといてよ」

物陰から少女たちの脇を通り抜けながら、レオハルトは彼女たちの会話を聞いた。正面から襲ってきた少女と違い。比較的理性を保っているようであった。

「そう言えば、あの『ジャブ中女』は?」

「あいつ?『薬より凄い快楽』だって」

「……ちがう。通信がない」

「……やられたの?」

「みたい」

「蜂の巣にされて砕かれたんじゃないの」

「コアを?そう簡単に砕かれるかしら?」

「能力自体単純なものだしね。それに健康も不良じゃ話にならないわ。それに来ているって噂が」

「それって『冷血カール』かしら」

「そうよ。カール大佐よ」

「噂も何も、それが目的みたいなものだし」

「どうして?」

「私たちのリーダーはカールを仕留めるのが目的みたい。まあ、その間に奪えるもの奪っちゃいましょう」

「そうね」

そんな会話を聞きながら親子は息を殺して進んでいった。仲が悪いが連携は最高だった。

トラブルもアクシデントもなく二人は敵に見つかる事なく進んだ。




「ヴァネッサか……」

カールは忌々しい様子で襲撃犯と思われる人物の名前を口にした。

「……思い当たる節があるんだね」

「そうだ。ヤツは宿敵といってもいい」

「宿敵……か……どうにか武装解除できないか?」

「無理だ」

「どうして?」

「……ヤツは俺を恨んでいる」

カールは自嘲気味にそう言った。

「ヴァネッサって誰なんだ?」

「……アスガルド人だ。アスガルドのヴィクトリア出身。年齢十七歳」

「え?……十七って……」

「ヴァネッサの親は……一般人だったが、危険な思想を持っていた」

「……危険な……思想?」

「人は『死』でしか救済されないと言っていた」

「そんな……どうして……」

「そんなクレイジーなヤツもいるってことさ」

「はぐらかさないで、殺気の恨みって?」

「……俺は助けたんだよ。自分でも分からないけどな」

「助けた?」

「自殺しかけていたのさ」

「!!」

「あの子は虐められていて学校にも行けなかった。家にも居場所がなく、死ぬしか道はなかった。今思えばそのまま死なせてやれば……」

レオハルトは父の顔を思いっきり叩いた。

「……父さんはいつも言い訳ばかりだ。父さんは冷酷なところがある。でもそれは多くの人間を救う事に価値を置いていたからだって思っていた。僕はその時の父さんは少なからず『人間』だと思っていた。……今の父さんは……『人でなし』だ。何かできたはずなんだ。何か……」

「それが分かれば苦労はしてない」

「また言い訳だ。父さんはそうやって……」

「ふせろ!」

カールはレオハルトを庇った。

爆発音と共に瓦礫ががらりと床に散らばる。

「おい、後にするぞ。巻き込まれたらまずい!」

「……わかった」

二人は通路を直進する。警備兵の生き残りと『魔装使い』が銃撃の応酬を繰り返していた。『能力』やグレネードによる爆発が所構わず響く。致命傷を与えられたらアウトの警備兵側に対して、足や手がもがれようと、頭部を破壊されたり、コアを壊されない限り、戦える『魔装使い側』にとっては訓練されただけの兵士は雑魚に過ぎなかった。メタアクター能力者の正規軍部隊が加わってようやく状況は拮抗した。

そんな地獄の戦場をレオハルトとカールは進む。

「……どうしてこんな」

「……魔装使いというのは被害者だ。同時に加害者でもある」

「……因果律がどうとかってそれに関係するのか」

「そうだ。彼らは皆願い事をしてああなったのさ」

「……学校で言っていたのはこの事が……」

「そうだ。この国の学校で必ず始めに教える事はそれだ。それを徹底しなければ、三二〇年前に逆戻りする」

「……そんな気がしたんだ。今日の教授の授業でも俺の質問を強引に打ち切られたよ。……」

「そうだ。歴史で学校が教えない事。この国では『血の一週間事件』と呼ばれていた。それより前には、母星があった。俺たちの先祖の文明があった。それがおかしくなったのは『魔装使い』と『抜き取るもの』が原因だ」

「……都市光学迷彩と特殊な通信技術をもつ知的生命種族だよね?『抜き取るもの』って。いるの?魔装使いとそれくらいの年の女の子は見えるって聞いたけど……」

「いる。麻薬をやったヤツの妄言じゃない。俺たちの歴史は最初に奴らに狂わされた。アスガルド共和国を始めとした『サピエンス種』の国だけの問題じゃない。多くの民族が『抜き取るもの』に滅ぼされた。『必要な犠牲』の名の下にな。だが今は、俺たちは彼らを証明できない。奴らはしっぽ一つ出さない……」

「……そうか」

「……いくぞ。お前にも仕事を頼みたい」

「……そのために来た。なら父さんと俺で」

「かっこつけるな。死んだら家族に示しがつかねえ」

「父さんこそ……」

「うるせえ。自分の事だけ考えてろ」

「……そうする」

二人は研究所の奥をひたすら進んだ。

瓦礫も、死体もかき分けてひたすら進んだ。たまにカールがレオハルトを困惑させるような道も進んだ。書斎の裏の隠し通路や暖炉の灰の中、そしてまた隠し通路。スパイ映画もびっくりな厳重な隠蔽ぶりであった。

「……どうしてこんな奥を?」

「……すべてがあるからだ」

「……すべて?」

「魔装使いって言うのは、原子力発電のプルトニウムみたいなものだ。人間の命。それも若い人間の感情や精神のエネルギーを少しずつ摩耗させて化け物にする。そうしてエネルギーを抽出する。そのエネルギーは莫大だ」

「……ひどい」

レオハルトが苦々しく顔を歪める。レオハルトの舌が苦みを感じていた。しかし、それは味覚だけの苦みだけではなかった。

「そんな事をしてまで連中はエネルギーが欲しい。それにつけ込んだエネルギー研究をしていた。ただし軍事の分野で」

「軍事!?」

レオハルトは仰天した表情を見せた。

「そんなに欲しいならくれてやる。ただしその代償は奴らの命だ」

「父さんは『抜き取るもの』を殺す研究をしていたんだ……」

「これは三百年前のシュタウフェンベルグだけでなく、全人類の悲願だ。奴らの存在は宇宙の邪悪そのものだ。生け贄に飢えた種族などこの宇宙に不要だ」

「……父さん」

二人はそれっきり黙々と通路を進み続けた。隠し通路は研究所内の通路と比べると安全が確保されていた。瓦礫も一切なく、死体もない。音は遠くからするだけであった。

二人は黙々と進む。靴音だけが寂しく響く。

そして二人は仰々しい金属の扉の前に立った。

カールは扉の隣の装置に手をかざす。その後番号をうち、簡単な質問にも答えた。そうしてようやく扉が開く。

「……覚悟はいいか?」

カールは銃を渡した。レオハルトは黙々と受け取る。警官から受け取った銃とは違い装飾の着いた儀礼的な銃であった。

「ないよりマシだ。持ってろ」

「既に持ってる」

そういってレオハルトは軍人の銃を見せた。

カールは納得したように扉の方に向き直る。

「気をつけろ、いつでも撃てる方が良い」

「ああ、わかったよ」

カールが扉のレバーを回す。大きな扉は自動制御の動きによってゆったりと道を開いてゆく。レオハルトの目の前に大型の機械が現れた。それは巨大ではないが、かなりのエネルギーがレオハルトたちにも感じられた。

ゴウン、ゴウン。

ゴウン、ゴウン。

脈打つような機械の駆動音が二人の鼓膜を重苦しく振るわせる。だが聞こえてきた声はそれだけではなかった。

「どうやら先客がいたようね」

二人の背後に女の子のものと見られる靴音が響く。

禍々しい鎌を持った少女が現れた。

ヴィクトリアシティ市内のものと見られる学校制服を着た少女は、荒んだ目線をカールに向けながらレオハルトたちの前に歩み寄る。

「それ以上動くな。動けば……撃つ」

カールは冷徹に睨む。レオハルトは緊張の面持ちとなる。レオの方は額から冷や汗が流れてもおかしくなかった。カールは少しレオハルトを庇うように下がらせる。

だが、少女は満面の笑みでにっと笑った。それはこれから殺しあう相手に向けるには奇妙な笑顔であった。

それまでの邪悪さすら飲み込んだような、少女らしい明るさに満ちた笑顔であった。

お読みいただいてありがとうございます。次回、レオハルトとカールに大きな事件が起こります。

次回もよろしくお願いします。

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