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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第一章 レオハルト覚醒編
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第一章 二十七話 新たなる混沌・その5

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

白亜の空間に異質な速度で衝突する二つの影があった。

レオハルトとタカオ、そしてアオイは高速で空中浮遊しながら斬り合いを繰り広げる二人のメタビーングらしき少女に呆然とした表情を向けていた。

「……アオイ」

「この二人を捕縛して折檻すればいいのね。分かったわ」

アオイは微笑を浮かべていたが、声に怒気が混じっていた。

「その話、俺も混ぜろ」

「ありがたい」

「気にするな。俺の国がくだらない喧嘩のためだけに大被害など末代の恥だ」

レオハルトは抜刀し、タカオも群青の光を纏っていた。

アオイもニコニコ笑いながら、両手を構えた。古武道の構えであった。

「……あら、わたくしたちの勝負の邪魔をするおつもりで?」

「あんたたちは引っ込んでなさいよ」

巫女服の二人は刀剣を向けながらタカオらを警戒する。

「悪いが、お前らの喧嘩自体が迷惑だ」

「ちょっと、お灸を据えないとねぇ。みんなを困らせてやることじゃないでしょう?」

「……元々は教師を目指した一人として、年若い少女の殺し合いなど看過できない」

三人は三様の言葉で目の前の二人を非難した。

次の瞬間、『短髪の少女メタビーング』がアオイに向けて突進してきた。

それはもはや瞬間移動に等しいスピードでアオイの首元まで刃が迫っていた。

「用意してよかったわ。白い空間だしねぇ」

「な!?」

『短髪のメタビーング』の剣を持つ腕が固定されていた。蜘蛛糸が白い空間の中に溶け込むように潜んでいた。

「この私に罠を!」

短髪は見た目に似合わぬ怪力と剣の切れ味によって蜘蛛糸を切断する。そのタイミングでタカオに横から突き飛ばされ、そのまま彼との戦闘にもつれ込んでいた。それと同時にレオハルトは『長髪の少女』の方へと突進した。

「せぇい!」

掛け声が鋭く響く。空を切る音とともに神速の斬撃が少女の七支刀弾いた。

だが少女もすれ違いざまにレオハルトの軍刀を蹴り飛ばした。軍刀は回転しながら白い空間の床に突き刺さる。

「なら……」

レオハルトはその場で円を描くように回転する。レオハルトの青い残像が長髪の周りを囲うように周回していた。それはあまりにも目まぐるしい速さで動けるレオハルトだからこその戦法であった。

「このぉ!」

少女がレオハルトの足をかけようとする。だがレオハルトは足を跳び箱を跳ぶようにして回避に成功していた。そしてレオハルトは少女の腕を後ろから固定するべく組み付いた。だが彼女はレオハルトに捕まった手をあっさりと振り解いた。レオハルトはその力の強さのため10メートルを一気に投げ飛ばされることとなった。

「なぁ!?」

レオハルトは時空の壁を蹴るようにして衝撃を逃し、そのまま床へと着地していた。

刹那、彼の顔面に少女の手が迫る。

平手打ち。少女の平手打ちはこの場合とても危険な代物であった。首か最悪頭部を持っていかれる危険性を考え、レオハルトは回避活動を行う。

レオハルトの動きは疾風より速い。

ギュンという風を切る音と共に彼の身体が後方へと下がると同時に少女の腕が虚空を掠める鈍い音が響く。少女はさらに向きになって今度は握り拳を向ける。えいやっという掛け声と共に少女が連続した殴打を加えようとするが、レオハルトの俊敏さはメタビーングたちの予測を遥かに凌駕していた。レオハルトの動きはスウェーイングの領域を超えたもので、上半身の柔軟な挙に加え、足とメタアクトによる凄まじい移動能力がレオハルトの異質な回避を可能にさせていた。

「のぉ……!」

直線的に加速した長髪はレオハルトに向けて鋭い突進を加える。レオハルトは流石に回避が難しくなったが、彼女の殴打の威力を片手で逸らすようにして受け流していた。少女らの身体能力は神的に卓越したものであったが、レオハルトは純粋な武道の技術だけでそれに対抗していた。積み重ねた基礎とメタアクトそれの合わさったレオハルトの動きはメタビーング、それも戦闘に特化した存在を相手取ったとしても十分すぎるほど対処できていた。

「やめるんだ!子供同士が殺し合いなんて!」

レオハルトは悲痛な表情と共にそう叫ぶ。レオハルトの真摯な言葉に対して

「何も知らないくせに邪魔するな!」

「引っ込んでろ!優男!」

二人の少女はレオハルトを睨めつけながらそう叫ぶ。

「自分より下の世界を破壊してまで、喧嘩するのがそんなに大事か!!」

レオハルトはそう叫ぶ、そして彼は少女たちに斬りかかった。レオハルトと少女は三つ巴の戦いへと突入していた。

「レンカぁぁ!」

「デルタぁぁ!」

叫ぶ二人に対してレオハルトは冷静に刀を一点に突き出した。

「な!?」

「え!?」

二人の少女は驚愕した。レオハルトは的確にある一点を止めていた。

少女たちが切り結ぶ一点に刀を突き出していた。レオハルトの軍刀が邪魔となり少女たちはそれ以上切り結ぶことができず後方へと飛んでいった。

「……やめなさい」

レオハルトは覇気を纏いながらそう発言した。レオハルトの発言と覇気の強さに二人の少女は引きつった表情を返すしかなかった。後ずさった二人はレオハルトを睨みつける。

「私はただレンカをヒライザワ村に留めたいだけですわ!邪魔しないでくださいまし」

「あんたがそもそも勉強していれば私のおしゃれな学校生活は!」

「私は勉強なんて嫌いですわ!」

「ヒライザワに三百年も囚われてうんざりよ!」

「私は勉強とあんな堅苦しい高校は嫌ですわ!レンカと一緒に故郷で……」

レオハルトは激怒した。地を震わすほどの覇気を放ちながら能面のような表情を二人に向ける。

レオハルトらは二人が何故凄絶な殺し合いをするかを初め理解していなかった。だが、その理由が『堅苦しい高校で勉強したくない』だと『故郷を出ておしゃれな学校生活を楽しみたい』だののあまりにも自分勝手な理由であると判明した時、レオハルトもタカオも激憤した。短気なタカオもあまりのふざけた理由で怒り狂っていたが、普段が温厚で冷静なレオハルトですら怒りに打ち震えていた。

「教授、この子らがしでかした被害は?」

フリーマン教授にレオハルトは声をかけた。

「そうだね。類似の並行時間軸が因果崩壊で七つ破壊、二〇もの軸にも被害を出しているね」

「つまり人も死んでいると」

「まぁ、全員が生きている時間軸も存在はするだろうけれど…………そういうことだよ。あとは分かるね?」

フリーマン教授は肩を竦めるポーズを取りながら心底呆れ返った素振りを示していた。

「……傍若無人」

「……人様の並行世界で暴れるバカどもが」

「ヒィッ!?」

「ヒィッ!?」

それを見て二人の少女は怯え、アオイは目を白黒させていた。

次の瞬間。タカオはまずデルタを殴った。

たった一撃であったが、戦艦の装甲に風穴を開けるような強烈な鉄槌であった。

デルタは白亜の壁に叩きつけられ、その壁をも突き破って時空間の狭間を飛んでゆく。そこにグリーフ・フォースによる斥力で飛来する高雄がデルタの顔面を三発追撃した。さしものデルタ、メタビーングも顔の骨が砕ける程の怪我を負う羽目になった。

「デ、デルタ!?」

「恥を知れェェ!!!!」

レオハルトはレンカに対して峰打ちの連撃を与える。それはタカオの一撃の威力と比べると一歩引くものではあるが、それでも残像すら見えるほどの超高速で食らわせる無数の流れる攻撃は大軍ですら屠れるほどの威力が確かに存在した。

レオハルトの流れるように繰り出される連続攻撃、これも通常の人体に与えれば、タカオの一撃同様、挽肉になる未来しか存在し得ないものであった。

「ガァ!!」

「ギャア!!」

二人が同時に悲鳴を上げたタイミングでタカオはデルタを投げ飛ばし、レオハルトもタカオのいる方角にレンカを吹き飛ばした。見事な連携である。

悪辣な少女二人は互いに激突して完全に白目を剥いたまま時空の間を浮いていた。

「あの、えっと……」

アオイだけが目を白黒させた様子でただ困惑していた。

タカオは次元の壁すら純粋な身体能力による力技で突き破り、レオハルトはメタビーングを純粋な速度と技術の暴力で翻弄した挙句、タカオと組んで苛烈なお仕置きを悪辣な少女らに与えた。タカオの荒れ狂うような戦い方は物理法則すら置き去りにしたものであり、バトル漫画やアニメーションで見るような縦横無尽の大暴れと表現するのが妥当であった。

当然、その光景を目にしたアオイの困惑は至極真っ当なものであった。

アオイも身勝手な他時空のメタビーングらの身勝手な大暴れに立腹していたが、レオハルトとタカオの憤激と破壊的なお仕置き、そして圧巻の強さを見て怒りよりも困惑が完全に優っていた。

「……初めて見たわ……次元の壁を素手で破る人間なんて……」

アオイはそう呆然とするばかりであった。

「教授、終わったぞ」

「ああ、彼女たちはな」

「黒幕か」

「そうだ。彼女たちは並行世界の元人間だ。彼女らをメタビーングにした存在がいる」

「……そいつがこんな馬鹿げた茶番を?」

「だろうね。快楽や退屈を凌ぐためだけに別次元や別時間軸を破壊する輩は尽きないものだ。困ったものだよ」

「……それだけのために人間をメタビーングに?」

「そうだ。時の領域へ入門したメタビーングは暇を持て余すからね。秩序をめちゃめちゃにしてでも快楽を満たそうとする輩が現れてもおかしくはない」

「困った奴らだ」

「タカオ君。この二人は私に任せても?」

「大丈夫ですか?」

「お仕置きは済んだからね。後は私の仕事だ」

「……教授は一体何者ですか」

「ヴィクトリア中央大学のしがない物理学教授だよ」

「……嘘だな」

「少なくとも、僕はそのつもりだ。それで満足だよ」

「なら良いがな」

「レオハルト君やアオイ君もありがとう。なし崩しとは言え手伝ってもらったことに感謝する」

「ええ……教授には恩がありますので」

レオハルトは丁寧にお辞儀を返した。

「まさか、サミュエルとレオハルトが知り合いとはね。世間は狭いものねぇ」

「はは、僕もレオハルト君とアオイ君が知り合いとはね」

「……ところで教授」

「何かな?」

「僕を助けたのは何が理由が?」

「そうだね……君にお願いがある。アオイ君もね」

フリーマン教授はそう言ってアオイの方を見る。

「お願いとは?」

「ギルバート中佐だよ。彼のことを調べておいてほしい」

「……教授も彼は危険な人物だと?」

レオハルトは以前ある人物に言われた言葉を思い返していた。

『ギルバートをこの世から消せる』という言葉だ。

カオス・アナーキストのパトリックが真っ直ぐな視線でそう言ったことの意味に対して、レオハルトは一抹の不安を覚えていた。

「……そうだ。彼と君の父には黒いつながりがあった可能性がある。……君も気になっているだろう」

「ヴァネッサの事件も……」

「ああ、その事件は彼ら自身がもたらした結果だ」

レオハルトは苦虫を噛みつぶすような表情を浮かべる。父カールを失った事件とギルバート中佐、カールとギルバート中佐の共通する黒いつながり。その意味をレオハルトはまだ測りかねていた。

異次元からの乱入者への制裁を終え、疑惑は膨らむ……。


次回もよろしくお願いします

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