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蒼の疾風  作者: 吉田独歩
第二章 第三次銀河大戦編
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第二章 第六十一話 コルマルの戦い、その1

惑星コルマルは極寒の環境である。

フランク連合王国領の居住惑星は温帯気候を広く持つ惑星が多いことで有名であるが、コルマルだけは数少ない例外の惑星の中でも唯一の寒冷惑星として知られていた。テラフォーミング技術とノウハウを持ってしても星系で六番目に位置する悪条件によってかろうじて居住性を確保だけで手一杯の惑星であった。

特に恐ろしいのは冬になった地域の気温が常にマイナス三十度を下回ることで、ツァーリンの準居住惑星に匹敵するほど厳寒な環境であることは連合王国での広く知られていた。

ただし、この厳しい氷と雪の惑星にも逞しくも植物と生物がいた。開拓期時点で酸素を作り出せるわずかな植物と多様な肉食動物たちによる厳格な生態系が存在していたのである。テラフォーミングと不断の環境適応措置・医療措置によってどうにか開拓に成功したフランク人たちの末裔は厳しい環境で生きてきた歴史ゆえに寒さと固有の原生生物に対しては非常に畏れ敬う文化を今なお持っていることは著名であった。

この地には今なお恐るべき生物たちが自らの種の生存をかけて厳しい環境を生き抜いていたのだった。

「………………寒い」

防疫措置を最後に済ませたユリコが戦闘服に加え寒冷地戦用の防寒装備を装着してなおそう不平を口にしていた。彼女の表情は完璧なまでに不機嫌である。

「ヒィィィ……寒いよぉぉぉ……」

ライムも同様の装備であった。しかしウーズ人と人昆虫混合型メタビーングである二人にこの寒さはあまりに過酷であった。寒さのあまりライムは産まれたての子鹿のようにブルブルと震えていた。

この寒さはSIAの面々のみならず他の軍の猛者たちですら手を焼くほどの厳しさである。

無論、厳寒を経験しているゆえに寒さに強い人物はどこにでも存在していた。

SIAの場合は特にイェーガーが強かった。

「すぅ……懐かしいな」

極寒の空気を前にしてイェーガーは却って活き活きとしていた。多くの兵員が寒がるなか彼だけは極寒の空気を前に深呼吸すらしていた。

「…………あなたバカなの?」

「そうだよ……こんな地獄みたいな環境で活き活きとしてさぁ……」

イェーガーの顔に微笑が宿るのを観てライムとユリコは信じられないものを見る目をしていた。方や粘液質の知的種族、方や虫の特徴を持った超生物。二人はあまりに寒さに不適な存在であった。

ユリコとライム以上に寒さを前に震えるものがいた。ペトラである。

「わ、わ、わたしゃ……や、や、や、やばいやばいこれやばいやばいやばい……寒さ寒さ寒さ寒さ寒さでしにににににににににぎぎぎぎぎぃぃ……」

ペトラは不安の大人びた貫禄をかなぐり捨ててまで焚き木と厚着にその身を委ねていた。彼女の寒がり方はもはや普段の面影すらかき消すほど壮絶な有様であった。

反対にソニアは強かった。

「……確かに寒いわね。これは」

そう言いながらも彼女はどこか慣れた様子だった。

「いいなぁ……ソニアはさぁ……」

「さらっと私の切り札をバラそうとしない!」

「あだだぁ、ごめんって!」

ソニアはしれっと何かを口走りそうになったライムに手痛いお仕置きを行っていた。痛恨の連続ビンタである。

「ライムぁぁさぁぁぁ、しれっとばらそうとしないのぉぉ……ごご……」

寒がりながらペトラはライムにツッコミを入れる。三人の戦闘前とは思えないシュールなやりとりに仲間から笑い声が大いに響いた。

「ぷーくははは! 超ウケんだよ、くくくくぷ、ふひーひひひ!」

「あははは! ペトラもレイチェルも面白い……ぷひひひ……」

「いやこれ……無理……笑うなというほうが、ぷーくくく」

レイチェルは大いに笑い。その様子を見てキャリーとアンジェラにも笑いが伝播する。SIAはこの時も平常運行であった。

「……なんでSIAは寒さで笑えるんだ?」

「知らぬ。芸人集団じゃないか?」

「どんな芸人だよ……豪胆すぎんだろ……」

フランク連合の王立騎士団は豪傑揃いとして知られていたがSIAの面々が寒さをネタに愉快なやりとりをしているのを見て目を白黒させていた。コルマルの寒さは拠点での作業や訓練に差し障るほどのものであった。にも関わらずSIAの幹部たちは大の大人が無言になるほどの寒さを前に普段通りの愉快なやりとりを行えたこと自体が異常であった。

無論、王立騎士団の面々はフランク連合の並の兵士では太刀打ちできないほどの練度を一人一人が持っていたが、SIAの練度と精強さはその比ではなかった。なによりSIAの面々は過酷な環境でもユーモラスさを忘れないことは大きかった。

「……ききき、君。こここここの寒さを前に何を見せる気かねねねね」

「ルードヴィヒ少佐、声が震えてます」

「ちゅ、中佐……頼むむむむ……」

ペトラ以上に震えるルードヴィヒを見かねてレオハルトは単刀直入に切り出した。

「これから……銀河最強を目撃します」

「……は?」

「アラカワ・タカオという存在がどれほどの高みにいるかを見るのです」

そう言ってレオハルトは全員に追加の防寒具と共に電子双眼鏡を手渡した。それは軍用の最新型で映像の撮影も兼ねられる素晴らしい装備であった。

それを全員が覗き込んだ先には既にタカオ単独での激しい戦闘が行われていた。






ツァーリン兵たちは恐慌の中にいた。

目の前に存在するたった一人の『絶望』を前に叫びながら機関銃を撃ち尽くすしか無かった。

「何故死なない!? 何故死ななぃぃぃぃいいいい!?」

兵士の一人がそう叫びながら粒子機関銃を撃ち尽くす。

本来ならば銃弾は一人の人間を死体どころか挽肉にしてしまうほどの分量はすでに撃っていた。だが、撃たれたはずの人影は形を維持するどころか明らかに生存していた。

それどころかその背広の男ことタカオ・アラカワは兵士の一人の頭部を掴み上げて片手で粉砕してしまっていた。

短い悲鳴と共に兵士の頭部はまるで重機にでも押し付けられたかのように圧壊する。

次にタカオは兵士から小銃を瞬時に取り上げる。

「ヒィ……ヒィ!?」

そして、小銃の銃口を槍のようにして兵士の頭部に突き立てた。哀れな敵兵の頭部には血飛沫や脳漿とともに後頭部にまで小銃が突き刺さる。兵士は短い悲鳴だけ残して絶命していた。

タカオは既に小隊規模の敵戦力を単独で仕留めていた。

だが全速力でやってくる敵増援が存在する。なんと中隊規模の歩兵戦闘車の一団であった。歩兵戦闘車部隊は30ミリ粒子機関砲による弾雨を展開してタカオの足止め目的の制圧射撃を敢行した。

タカオを止めるにはあまりに不十分な火力であった。タカオは機関砲の砲弾を受けながら悠々と戦場を大股で歩く。

「……その程度か」

その瞬間タカオはIFVの一台に向かって手を突き出す。すると車両は蹴り飛ばされた小石のようの軽々と吹き飛ばされる。時速百キロで軽々と吹き飛ばされた車両は地面を転がりながら煙を上げて沈黙した。

「殺せ! 殺せ!」

無線越しに車両部隊の指揮官が全車に向けて怒鳴るように指示を飛ばす。

機関砲の弾雨がタカオの肉体を穿つべく鮮烈な閃光と共に空を切る。だが、タカオの肉体に着弾した直後、まるで鋼鉄の壁にでも当たったかのように異様な音を立てて弾丸が弾かれる。閃光がアラカワの肉体に弾かれるのを見た兵士たちはその度に恐怖心を掻き立てられる様相へと変貌する。

その瞬間だった。

タカオの双眸から青紫の閃光が放たれた。

それは消滅と称するのが的確であった。

車両二台と兵士数名に閃光が命中すると兵士は一瞬で炭の粉のと化して消滅する。車両は中の人員を同様に分子レベルで分解した。その後車両は青紫の結晶を着弾点に形成した後、その一点を中心にバラバラと炭のようになって分解されていた。

その後、タカオに向けて敵部隊がやぶれかぶれの突撃を行うが、到底勝負になるようなものではなかった。

タカオは無数の砲撃と銃撃を意に介さず接近し、ただただ薙ぎ払うことの終始していた。たった一振りで真っ二つにへし折られる車両に投げ飛ばされて遠くの山で爆散する車両、遠距離攻撃を行う車両には次の双眸のグリーフ照射が待っていた。

もはや交戦と呼べるものではなかった。タカオによる一方的な蹂躙である。

ツァーリン軍はあまりに無慈悲にタカオの手で挽肉とスクラップの塊に変えられていた。

最後の一人となった指揮官は炎上する車両から逃げのびガタガタと震えながら雪原を逃げ延びるが、片足に短刀を投げつけられる。

担当は指揮官の足に深々と食い込んでいた。当然彼は悲鳴をあげる。

「生き延びてしまったな」

「ひぃ……お慈悲……お慈悲……」

カタコトのアズマ語で指揮官は命乞いをするが、タカオの目はますます冷たくなっていた。

「腹を召せ」

「え?」

「腹を……切るんだ。軍人なら」

指揮官はブルブルと震えながら首を横に振るった。拒否の意思表示である。

「そうか……」

指揮官は命乞いが認められたかのように醜悪に笑っていた。

だが、タカオは凍土よりも冷厳な目で見下ろしていた。

「ならば、首もいらん。……外道な無能はさっさと死ね」

タカオはその指揮官の首根っこを掴んだかと思うと雪原の雪でその肉体を徹底的に擦りおろされていった。あまりの高速度で赤熱化し雪が蒸発しながら一〇〇キロに渡ってすりおろされた無能な指揮官の肉体は血液すら残らず炭の粉末と蒸発した一直線の雪解けの痕となってこの世から消滅した。

戦いを遠くから見届けたSIAは実弟のシンと親友のレオハルト以外はあまりに規格外すぎるタカオの鬼神が如き蹂躙を見て、ただひたすらに恐怖と崇敬の意を感じていた。

「す、凄い……」

スパダ少佐はそう言って唖然していた。この場にいた者の代弁に他ならなかった。

「これが……タカオ・アラカワの住む領域か……」

イェーガーですら目の前の光景に目を見開いていた。普段、冷静沈着そのものであるイェーガーですら目を白黒させることで精神的に手いっぱいであった。 

「みんな見てくれたようだね。そう……僕の親友、タカオ・アラカワの戦いだ」

そう言ってレオハルトが真剣な顔で皆に語りかける。

「来たみたいだな」

いつの間にかタカオがレオハルトのそばに立っていた。

「やあ、相変わらずだね」

「管理主義者の蛮族どもの始末にはちょうどいいくらいだ」

そう言ってタカオはアズマ自衛軍の艦船へと戻って行った。

「……タカオ、一人でも良くはないか?」

ルードヴィヒの発言にレオハルトが返す。こればかりはと言わんばかりに同情気味の笑みを返しつつ、ルードヴィヒの発言に反証する。

「単に破壊するだけなら。……だがそうもいかんだろう?」

そう言ってレオハルトが全員を元いた艦船へと引き返させる。SIA含む全艦船が前線拠点へと向けて飛び立っていった。

タカオ・アラカワ、無敵、圧倒的、難攻不落!!


次回、戦いは続く

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