プロローグ2
照明は壁についた松明だけの薄暗い洞窟内の大部屋で一組のパーティーと、天井まで届くかのような大きな背丈に、大きな棍棒を持った隻眼の巨人が対峙していた。
「クソッ・・・おいライト!何か策はねぇのかよ、このままじゃ俺たち全員持たねぇぞ」
巨人の棍棒を大盾で左に逸らしながら、リクオが叫んだ。
「俺も同意見!でも、ただいま現在進行形でまったく戦力になっていないオイラがそんな都合がいいこと言えた立場じゃないけどね~」
さっきから、巨人の周囲を近づき離れながら周っているばかりのジンスケが続けた。
「……ッ、知らねぇよ!お前らが勝てるっていうから戦ってるんじゃねぇのかよ!!」
呼びかけられたライトは、怒りをあらわにして叫んだ。
「ちょっと男子ぃ~そこで喧嘩してないで早くこいつをなんとかしてよ~。私の魔法が全然効かないんですけど~??」
「魔法耐性あるとか聞いてないし~ていうか魔法耐性ある敵とか初めてだし~、もーーーーっ、一体どうすればいいのよ~!」
彼女特有の独特の口調で、真莉愛が言った。
「わっ私っ―どっどうすれば――かっ回復していればいいの?」
戦場の端で一人おどおどとする少女…セナは、冷静さを失いつつもしっかりと仲間に回復呪文を掛けていた。
(一体どうすればいいんだ……何か有効打は―)
ライトが思惑したその時だった。
ちょこまかと動き回る5人にしびれを切らしたのか、巨人は大きなうなり声をあげながら棍棒を握った片手を大きく振り上げた。
「へっ、そんな攻撃見え見えなんだよぉぉ!」
叫びながらすかさずリクオが盾で身構える。
巨人の片手が振り下ろされようとせんその瞬間に、巨人の動きに気付いたライトは叫んだ。
「違う!狙いはリクオじゃない!セナ、避けろ!」
ライトが叫んだのと同時に巨人の右手から棍棒が、詠唱中のセナのもとへと真っすぐに放たれた。
ライトの叫びを聞いたセナが驚いて詠唱を中断してそちらを向いたその刹那
回転しながら飛んできた棍棒は、セナの体を真横から吹っ飛ばした。
セナの肢体は、きりもみ状に宙を舞い、そのまま土煙をあげながら地面に叩きつけられて転がっていった。
「セナァぁぁっっ!」
その場にいたセナを除く全員が絶叫した。
土煙がやんだ後に見えたセナは全身から血を流していて、微動だにする気配がなかった。
「嘘だろっ、」
リクオが膝を着いた。
「え……」
ジンスケも、何が起こったのか理解できていなかった。
アズミも、ただ茫然と、立ち尽くしていた。
誰一人として微動だにしない彼らを尻目に、巨人は悠々と自身が投げた棍棒を拾いに歩いて行った。巨人が大きな音を立てて棍棒を拾い上げるが、彼らはそれでも動かないままだった。
巨人の棍棒がアズミに向かって振り下ろされた。その身体は、真っすぐに壁へと飛んでいき、叩きつけられた。
そのままの勢いで、今度はリクオとジンスケの二人に向かって、巨大な質量が襲い掛かった。ライトの視界から、二人が吹き飛んで消えた。
最後にライトに向かって、巨人の棍棒は振り上げられたが、ライトは、それをただ見ているだけだった。
振り下ろされた勢いが、ライトに当たるその一時の瞬間。
ライトは、知らず知らずのうちに自分たちの命を、簡単に天秤に賭けてしまっていたのだと悟った。
その勢いは、他の仲間と同様に、彼を吹き飛ばした。
彼の世界から、光が消えた。