混沌たる世界で踊る鉄仮面4
大森林を出てカリルの街近くの街道――
森からは魔物がたまに街道まで迷い出てくるのでこの辺りは他より若干危険な地域で、人も疎らである。
その為、人攫いや盗賊の類も少なくない。
しかしそういった類の者であっても森の中には入らない、それだけ危険なのだ。
日差しの照りつける街道を歩く人影がある。
人影は鉄仮面をつけており背に白い天秤の紋章があるマントを靡かせて、胸を張ってまるで行軍のような動きで歩いている。
その鉄仮面を遠目から見る5人の盗賊。
「おいおい、ありゃ何処の騎士様だ?」
「この国の兵隊では無いな…見たこともない紋章だ…しかも一人でこんな場所を歩いてるぞ」
「訳ありか?身につけてる物は全部高そうだぞ、闇市に売れば大金が手に入るな。しかもこの国の者でもない、へっへっへ」
「ハッハー、こりゃ天の恵みだぜ。運の悪い騎士様も居たもんだな」
盗賊達は歓喜していた。
たった一人の他国の要人などがここで消えても足が付くこともないだろう、そういった意味でもかっこうのカモである。
早速、追い剥ぎの準備をする為に仲間を呼ぶ、いくら相手が一人と言えどこの世界は理不尽だ。5人だけでは足りない可能性もある、圧倒的に強い人物などこの世界には幾らでもいるのだ。
「よう、騎士様」
盗賊のまとめ役が鉄仮面に声を掛けた。
「む?誰だ貴様は?私は騎士ではないぞ」
「お前が何処の誰かなんてどうでもいいんだよ、大人しく身に付けてる装備を全部置いて殺されてくれや」
鉄仮面の返事をどうでもいいと言わんばかりに盗賊たちは囲んでいる。
「貴様!私に裸になれと言うのか?この破廉恥め!!!」
鉄仮面はそう言いながら盗賊のまとめ役の男へとズシズシと近づいて行ったかと思えば自分の右手でまとめ役の男の顔面に強打した。
その瞬間、まとめ役の男は何がなんだか分からないまま頭が爆散する。
「あ?」「は?」「う…うわぁぁぁぁぁぁ」
「ひ、人殺しだー」「畜生っ!何がどうなってんだよ…」
囲んでいた20人近くいる盗賊たちは動けない。
その場で放心したり、尻餅をついて呆気に取られている、そんな中どうにか一人の盗賊が声を出した。
「お…お前は誰だ?何者だよ?何故いきなり殺した?」
「む?私はテロッサ大帝国のアレクサンドラ親衛隊にして帝国元帥イザベラだが?」
「大帝国?元帥?」
盗賊たちは絶望していた。
聞いた事もない大帝国なる軍隊の元帥だと名乗るこの鉄仮面の言葉に混乱する。
普通ならそんな戯言と思うだろうが現に圧倒的な力でまとめ役の頭が訳も分からず爆散したのだ。
今盗賊たちの目には鉄仮面の後ろにある決して手を出してはいけない巨大な何かがあるような陰謀めいた妄想が渦巻く。
「た、助けてくれ…頼む死にたくない」
「よかろう、私も遊んでいる暇はないからな。陛下からの勅命を受けているのを思い出した」
「本当か?こ、このまま直ぐ消えるが追いかけてきたりしないか?」
そんな盗賊の頼みを聞きながら鉄仮面はふと思い出したように感情的に演説をしだす。
その姿は狂信者の如きで一人で盛り上がっている。
「おい貴様らよく聞け!いいか?強きを挫き弱きを助けるのが陛下の信念だ。弱きものは助けるのだ、いいな?全ては陛下の寛大なる慈悲だ。この信念を裏切ったら殺しに行くぞ」
「は、はい。ありがとうございます…ありがとうございます」
咄嗟に両手をついて頭を地面に擦りつける盗賊。
もう用は無いとばかりに鉄仮面はカリルの街へ向かって歩いていった。
ほっと安心しながら頭と両手を地面につき土下座のような体勢で何度も感謝し続ける盗賊の一人。
それを見て納得出来ない様子の一人が声をあげる。
「お、おいキース…なんで全員でやらなかったんだ?」
それを聞いた土下座の盗賊キースが憤慨した様子で説明する。
「馬鹿か?全員殺されてたぞ。見たか?息をする様にドマを殺した。本当に空気のような存在を相手にするように何の感慨もなくだ、しかもあの様子を見たか?余りにも恐ろしい何かだった」
余りのキース剣幕に思わず怯む他の盗賊たち。
「た、確かに…」
「兎に角助かったんだ、今後あの鉄仮面ヤローを見かけたら逃げろ」
「でも弱きを助けろとか言ってたぞ?陛下がどうとか、あ、あれは何だ?盗賊を続けてたら殺されるぞ?」
「畜生…なんなんだよ…」
その後、この街道で盗賊を見たものは居ない。