混沌たる世界で踊る鉄仮面3
ここはテロッサ大帝国領である大森林に隣接する国の1つザザン共和国。
共和国――
その名の通りこの国に王はいない、この世界には珍しい国民による統治が行われている国だ。
国民から統治者が選ばてるとは言え国の有力者がメインで選ばれる、当然と言えば当然だが。
そんなザザン共和国にも冒険者ギルドがあり、国とは別の独立体制として運営されている。
冒険者ギルドは世界各国にあり言わば己の力を生業とする人々の教会のようなものだ。
何故各国が冒険者ギルドなる組織の運営を許しているのか。
それは国の職に溢れた貧しい人でも簡単に登録でき自分の能力に応じた仕事を紹介してくれたり、この世界には魔物がいてそれを討伐するには国の戦力だけでは全く足りない、そこでギルドの出番と言うわけだ。
しかもギルドは身分証明書を発行しているので国と国の行き来も自由に出来るのである。
もしも、この何百と国がある広い世界を統一するならば、いち国を率いて覇道を目指すよりも宗教を作りその教会の法王になるか、冒険者ギルドのトップになってその力で統一した方が簡単だろう。
話は逸れたがザザン共和国の南にある森に隣接した街カリルの冒険者ギルドの一室では二人の男が話していた。
「アンドレさん、この前の珍しい植物はかなり値がつきそうですよ。旦那様も喜んでました」
そう話を切り出したのは体は細いが背の高い長髪の男だ。
種族はエルフで温和な笑顔を浮かべている。
エルフは寿命が長く300年前後生きるとされているがこの若いエルフはまだ30代程だろうか、大商人のシモン・マルクに見出され大きな仕事を任されていてマルク商会のサザン支店の店長である。
「ふんっ。ボロい商売だな、あんなに簡単に金が稼げるんだから」
「それもアンドレさんの力あってこそですよ、他の方にもお願いしましたが余り良い返事は貰えませんでしたからね」
「ははは、馬鹿な奴らだ。こんな美味しい仕事を自らフイにするんだからな、まあ俺が可愛がってる奴らは多いから足りるだろう?」
「勿論です今後とも宜しくお願いします」
このアンドレと言う冒険者は40代程のAクラスの凄腕だ。
人族でありながら剣の才能があり魔法も使えるとあってAクラスまで上り詰めた男だ。
3年前にこのカリルの街に流れ着いてここを拠点に腰を落ち着かせた。
マルク商会は森林に一番近いカリルの街に支店を開き、ここを拠点に大量の素材を買取している。
二人は大森林を伐採し珍しい植物や魔物を討伐をしながら荒稼ぎしていた、勿論指示したのはマルク商会の大商人シモン・マルク。
支店長であるヴァンは最近この国の支店長になったばかりである、その為大森林が大帝国領である事も知らないのだ。
他の冒険者にも声を掛けたが他の冒険者からの返事は…そこには手を出さない方がいいという忠告を受けた。
冒険者ギルドにも大森林への立ち入りは禁止と言う張り紙があり職員に聞いてみるとそこは帝国の領土らしいのだ。
だがヴァンは帝国なる国は聞いた事も無いし(何を馬鹿な事…)魔物の被害を防ぐ為の方便だろうと一蹴りしアンドレに声掛けるとアッサリ引き受けてくれたのだ。
ザザンの冒険者ギルドにも沢山の冒険者がいるが、Aクラスと言えば国に片手で数える程の貴重な存在だ。
そんなアンドレにも派閥があり、アンドレを慕う若い冒険者も沢山いる。
それら若い冒険者を使って伐採作業をしながら素材を回収して行くだけで普通の依頼の何倍もの報酬があるのだ。
二人が打ち合わせをしている部屋が開き若い冒険者達が入ってきた。
「アンドレさん!今日も行くんですよね?」
「おう当たり前だ、何人集まってる?」
「50人程ですね、稼げるという噂を聞きつけて集まりが良くなりましたよ」
「はっはっは、お前も今日は高級娼婦3人は買えるかもな」
「うっほ!」
アンドレからの返事を聞き盛り上がる若者たち。
「では私はこれで失礼しますね、店がありますから」
「ああ、今夜は空けとけよ、豪遊だ」
そう言って立ち上がるヴァンにアンドレはニヤリと笑いながら声を掛けた。