混沌たる世界で踊る鉄仮面2
テロッサ大帝国城内――
ここは城の最上階の皇帝の間。
その部屋は部屋と言うには余りにも広く、ダンスホールのような作りになっている。
部屋に飾られた調度品はどれも一級品で部屋の真ん中には大きな12人掛けの机が置かれている。
窓辺は日差しに照らされており見晴らしがよく城下町まで一望できる、その窓辺には丸テーブルが置かれてあり、そこで向かい合って盤上遊戯をしている二人の人影がある。
「うーむ、中々やるではないか」
「まだ工作兵も隠れておりますよ」
「かっかっかお見通しよ、これでどうだ?」
どうやら盤上遊戯をしているのはこの国、テロッサ大帝国の皇帝アレクサンドラ・フォル・ テロッサだ。
そして皇帝と向き合う相手はこの城の全てを仕切っている初老の執事長リチャード。
皇帝は豪華な椅子の上に胡座をかいて座り黒い扇子をバタバタさせて盤上を睨みつけている、年齢は20代前後だろうか。
そこへ勢い良く扉が開いて鉄仮面の女が入ってきた。
身に着けていた鉄仮面を取り卓上へと目線を向けながらズカズカと向かってくる。
「何をされて居られるのですか陛下?」
鉄仮面の女の名はイザベラ、崇拝する皇帝アレクサンドラと少しでも絡みたくて仕方がない様子だ。
「ん?イザベラか、見ての通り盤上遊戯よ。リチャードも中々やりおる」
ソワソワしながら聞いたが、皇帝アレクサンドラのその言葉に遂に耐え切れなくなった鉄仮面。
「どけ!リチャード、私が変わろう」
「しかしっまだ途中で…」
そういって怯える執事長リチャードの肩をガシっ掴んで退かそうする。
「止めぬか、暑苦しい奴め」
「はっ!」
皇帝から叱咤を貰い途端に借りてきた猫のように萎縮する鉄仮面。
鉄仮面の女イザベラはこの皇帝アレクサンドラに心酔している、そのイザベラのアレクサンドラへの崇拝ぶりは、この世の何処かにいるであろう悪魔崇拝者や狂信者よりも恐ろしい存在だ。
「ところでイザベラよ、今暇か?」
「いえ、陛下をお守りするという天命を受け――」
「最近、帝国の領土である大森林から資源を持ち出している輩がいてな」
「なんですと!!!我が大帝国の!!!我が陛下の資源を!?」
それを聞いた鉄仮面イザベラは憤慨した。
執事長の頭を掴み勢い余って絞め殺さんとしている。
「や…やめて…頭が割れるっ首が千切れる…」
執事長の頭がギシギシ音をたて、頭の血が引いて顔面蒼白だ。
「落ち着け、お前は一々暑苦し奴だな、話を最後まで聞かんか。リチャード説明してやれ」
「ごほっ…ごほっ…」
皇帝に窘められ静かに執事長の話を聞く鉄仮面。
情報部の話で調べはついているらしく、何でもシャロン王国に本店を置くマルク商会と言う大商人が冒険者を使って大森林を伐採したり、そこの魔物を討伐してその素材で利益を得ているのだとか。
「なんと言う愚かな国だ…陛下…申し訳ありません。直ぐ戦争の準備をしますので――」
「イザベラよ早とちりをするな、シャロン王国は関係ない」
そこへ執事長が説明を追加する。
「シャロン王国に本店があるというだけで、そのマルク商会は色々な国に支店を持っています、大商人が元凶なのですよ」
「つまり愚かで不埒なその大商人に天誅を食らわせば宜しいのですね!では早速行って参ります」
早速出て行く鉄仮面。
その様子を見ながら皇帝は指を鳴らし何処かへ声を掛けた。
「おい、誰かおらぬか?」
「はっ!」
皇帝の間に入って来たのはこの帝国の特殊情報部隊の隊員。
「イザベラがまた阿呆な事をしないように隠れて見張っておれ」
「し、しかし我らではどうにも…」
「分かっておる、馬鹿な事を仕出したらこれで妾を呼べばいい」
そう言って机の上にあった通信用魔道具を隊員に投げる。
受け取った隊員は安堵し消えて行った。
「さてリチャードよ、続きをしようではないか。まだ妾は負けてないぞ」