混沌たる世界で踊る鉄仮面1
混沌たる世界。
その星は巨大で確認されている国は数百を超えており、この星の名前は統一されていない。
三つの大陸があり、その一つである此処アガルタ大陸だけでも大小100以上の国が存在する。
このアガルタ大陸の東側に大陸の3分の1程にもなる大森林がある、その大森林の中に密かに存在する国、それがテロッサ大帝国だ。
大森林に隣接する国々はその帝国の存在を知っているが庶民や離れた場所にある国では知らない方が多い。
大森林が余りにも巨大で帝国は言わば森の島国と言っていいだろう、その中に国があるなど想像もつかないのだから。
そのテロッサ大帝国の巨城は兎に角巨大な城である、ここでは城専属の執事や侍女、庭師、コックだけでも1000人を越える。
そこに文官や女官、護衛兵等を含めると3000人以上は絶えず常駐していて、町ほどの大きさを誇る城だ。
「貴様!それでも我が栄光なる帝国騎士か!!!」
「ゆ、許してください…もう動けません…」
「もう一度言ってみろ貴様!死にたいか!」
「か、勘弁してください…ぼぉぇ」
城から数キロ離れた場所で若い騎士は吐いていた。
ここは大帝国近衛騎士団の本部があり演習場でもある、そこでは腕を組んで仁王立ちした鉄仮面がいた。
「イザベラ殿、そろそろ勘弁してやってください。死人が出ます」
鉄仮面に声を掛けるのは白髪混じりだが覇気に満ちた帝国軍の中将でもある近衛騎士団の団長。
「なんだと!?貴様!そのような軟弱な態度でどうするか!」
「し、しかし、死人等出たら陛下に何と申すおつもりか?」
「む!それはイカンな…よかろう!今回は此処までとする」
獣人であるユーゴ中将は怯みながらも機転を効かせて鉄仮面に進言し事無きを得た。
ふぅ…何とか誤魔化せたか…。
「では私は陛下の元へ参陣せねばならんのでな、中将は陛下への部下の忠誠度を上げておくように」
そう言って城へと歩いていった。
鉄仮面――この女は理不尽だ。
陛下の側近である、しかし自称だ。
そして鉄仮面の女は自らをアレクサンドラ親衛隊と名乗りこの軍の元帥とも名乗っている、しかしそれも自称だ。
まず親衛隊なるものはこの国には存在しないのだから…。
此処までの説明で分かって貰えただろうか?この鉄仮面は頭がおかしい。
では何故このような理不尽がまかり通っているのか、それは単にこの鉄仮面が圧倒的な武力を持っているからである。
そして陛下のお気に入りでも有れば仕方なき事なのだ。
50年前まで鉄仮面はこの国の住人では無かった。
それまではマルス教会の聖騎士団の団長としてこの大陸全土で暴れ回っていたのだから。
頭の弱い鉄仮面はある時は騙されて戦争の道具に使われ、それに気づいた鉄仮面は言葉巧みに使っていたその国を滅ぼした。
またある時は魔王を倒しに行くと言う異世界から召喚された勇者パーティーに誘われ意気揚々とパーティーに入ったが、見てくれは抜群の鉄仮面に欲情した勇者がハーレムにならないか誘った処で不埒もの!とアッサリ殺された。
このテロッサ大帝国は平和な国だ、まず他国から攻められた事等ユーゴ中将が生きてきて一度もない。
ユーゴ中将は思う、そんな平和な大帝国で唯一震え上がる脅威は敵ではなく味方の筈の鉄仮面なのだ。
勇者を殺すなど…魔王とは鉄仮面の事ではないだろうか。
そんな武力の権化たる鉄仮面に転機が訪れたのが50年前だ、大帝国の噂を聞き腕試しに攻め込んだ所で陛下に片手で捻られたのだ。
それ以来鉄仮面は陛下を神のように崇めている、いや陛下こそ神だと思い込んでいる。
元々マルス教会の聖騎士等してたように信仰心が熱く思い込みが激しいのだ。
「団長…負傷した兵士達は治療室へ運び終えました」
そこへ衛生兵がやってきて団長へ報告する。
「ご苦労。それにしてもあの女は気まぐれが過ぎるな…」
「そ、そうですね。急に来たと思えば陛下への忠誠心を上げる訓練などと言う訳の分からないシゴキを始めましたし…」
「訳が分からんな。一応陛下へ進言しておこう」
「お願いします」