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ティラミス  作者: ミノル
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箱の中身はなんだろな?

 「実はねぇ…ちょっと困った事になってるのよ」


 美人が眉を寄せると、なんとも言えない色気がある。香水の匂いも少しばかりキツくてクラクラする。そのせいなのか、地面がゆらゆらと揺れているように感じる。


 部屋のどこかからミシ…ミシ…という音が僅かに聞こえる。


 しかし、困った事とは…?


「困った事ですか」


 結城が不思議そうに聞いた。


「そうなの、結城君…だったわね、キミ、昨日マスクをちゃんとしてなかったでしょ?」


 ぴしっと人差し指を立てて、結城を指差した。


「へぁ?」


 結城は間抜けな声を上げて、俺ぇ?という顔をしている。確かに昨日に結城はマスクを外してウランちゃんの事を白熱して話していた時にくしゃみをしていた。


「あぁ…そういえば、でも、それが何か…?」


 やれやれといった具合に額に手を当てて、結城を一瞥して魔女は話し始めた。 




「キミの唾液に入っていたDNA型が、仮死状態だと思われてたUMA9994-3に飛び散って、キミのDNAを取り込んで活性化しちゃったのよ」




「ウマ…?」

「なんて…?」


 俺と結城は顔を合わせた、結城はとても変な顔をしている。きっと俺の顔も変な顔だっただろう。


「私達も迂闊だったけど、麻痺液に付けた仮死状態のUMA9994-3が、あんな方法で窮地を脱するとは思っても無かったのよね、話も通じないタイプだから、貴重なサンプルなんだけど殺すしかなさそうなのよ」


 魔女はいかにも、残念! といった具合に首を左右に振った。


「はぁ…?」


 コイツ、もしかして酒でも飲んでるのか?怪訝な顔で結城を覗き見ると、結城の眉間にも深い皺が刻まれていた。結城はゆっくりと左手の人指し指をこめかみ付近に持って来て、くるりと回した。ですよね。しかし、魔女は俺たちの様子など一向にお構いなしに話を続ける。


「本来なら民間人を巻き込んじゃいけないんだけど、今回のは、不味いのよ」


 気のせいだと思っていたが地面が、やはり、ゆっくりと揺れている。ギシ…ギシ…と静かな部屋で家鳴りの音がやけに大きく響く。地震かな…。



「不死生物って知ってる?アレに似てるんだけど、どうもねえ、キミじゃないと無理みたいなのよ」

 


 俺達と魔女の間の床が、何かの冗談のように、ゆっくりと山のように盛り上がり、その変化に耐えられずプラスチックの白いタイルがベリベリと音を立てて崩壊していき、後ずさりすると、溜めに溜めた力が開放されるように、突然轟音を立て、床が爆発した。


「うわ?!」


 転げるように俺と結城は床に倒れ、何が起こったのかと、そこを見ると人間一人分と同じくらいの巨大な拳が動いて、バリバリと大きな音を立てて床を突き破って出てきた。


 それは例えるなら、人間の足くらいの大きさの指が、爪の間にゴミが挟まり、不快そうに動かすしぐさをしていた。


 そして、ゆっくりと開けた穴から何か掴めないかとソロソロと探るように動き出した。生々しい傷が付いて皮膚が破れ、赤い血が垂れて、その周りは赤黒く紫色に内出血して、掌は少し汗ばんでいる。


 右手だ。


 俺と結城はその手に掴まらないように這い蹲って、部屋の隅に逃げた。

 お笑い芸人がよくやる「箱の中身はなんだろな?」って奴の中身になった気分だ…。

 巨大な指先はおっかなびっくりしているようにも見える。なんだこれ…。


「な、なんだこれ…」


「あらぁ…もう起きちゃったのねぇ…しかも、この床を破っちゃうなんてぇ、困ったわね…」


 ウネウネと動く指を挟んで、魔女はシレっとした顔で顎に指を当て思案している。


 その大きさは1メートルほどだが、酷く精巧に出来ていて、皺や爪や皮膚の材質は全く普通の人間の指と同じ、ただ大きさだけがおかしい。悪夢でもこんなのを見た事がない。


 しかし、俺はその指に見覚えがあった。スケールこそ違うが、それは結城のそれと、全く同じ形だった。


 いつだったか学校の昼休みに、「結城君の手指はスラリとして整っている」と女子が騒いでいて、焼きソバパンを持った結城の指を、まじまじと見せてもらうと、確かに言われているように綺麗な形をしていた。


「最初は私達だけでどうにかしようと思ったんだけどね、インドゾウ5匹位を即効で眠らせる睡眠薬でも良いトコ2時間って所しか寝てくれなくて、毒も色々試したんだけど、中和されちゃって効かないし、不幸中の幸いは地下だったって所かしら?あんなに大きくなるなんてねぇ」


 困ったような顔をして魔女は話を続けた。


「いいかしら? 私達がコアを破壊しようとしても、刀が入らないのよね、今回のと同じケースが過去にあったから、それを参考にすると、DNAを盗まれ、作成されたUMAは、その同じDNAの存在にしか破壊される事は無いのよ、それがどんな理屈なのかは解明されてないけど、事実としてあるのよ」


 白衣のポケットから男子ロッカーの鍵を取り出し、俺たちが使っていないロッカーの扉を開け、中から何か長くて黒い棒のような物を取り出した。


「どうこれ、かっこいいでしょ?ハジャノオンタチって言うのよロマンよね~こういうの男の子って好きでしょ?最近は女子もこういうのが好きらしいけど」


 にこやかな魔女の手には一振りの黒い日本刀が持たれていた。


「結城君、これを使ってUMAの心臓部のコアを叩き壊して欲しいのよ、勿論私も協力するから、ね?」


 小首を傾げ、まるで、今度美味しいパンケーキのお店に食べに行かない?といったノリで結城にお願いしている。


「ちょ、ちょっと待てよ! 結城にそんな危ない事、危ないよな…? させられるわけ無いだろ?! ヤバイ大きさだろ、これ、拳だけで、この大きさだし、ゆ、結城はこう見えても、良いとこの坊ちゃんだぞ? もし何かあったら、あんた達だってヤバイんじゃないのか? 結城の実家がどれくらいデカイのか知らないが、何かしら軋轢だって生まれるはずだし、行方不明になれば明日にでも捜索願が出されるはずだぞ!」


 一気に捲くし立てると、結城も思考停止から戻ってきたようで「そ、そうだ、明日の朝になれば、メイドだって俺を探すはずだ」と声を震わせている。その顔からは血の気が引いている。


 頭のどこかで警報が鳴っている。ヤバイ、ヤバイと俺の本能が告げている。


「あぁ♡ 大丈夫、大丈夫、データー取っておくから、なんなら生きてる間に採血でもいいわよ、活きがいい方が早くできるかもしれないし。嫌だったら死体から採血できるし。結城君が死亡しちゃった場合は責任を持ってクローン作るわね♡ 大体早くて3日、遅くとも一週間って所かしら? 問題ないわよ、島津君ってば友達思いなのねぇ」


「クローン?!」


 問題おおありじゃないか! と言い返したい所だが、一言返すのがやっとだ。


 2018年現在、人間のクローンなんぞ聞いた事がない。この魔女が言ってることが全部でたらめだと思いたいが、目の前の生々しい指は穴を広げようと力を込めて動いている。

 指先が敏感なのか何かが指先に当たる度にビクビクして、たまに怖がって引っ込めてるように見える。完全に「箱の中身はなんだろな?」をしている時の人間の手の動きだ。


 幸いこれ以上は穴が広がる事は無さそうだ。受け入れがたい現実に眩暈がする。


「話を整理したい」


「いいわよぉ♡」


 混乱した頭をどうにか冷静にさせようと、深呼吸する。はぁ…。先ほどまで魔女が話した内容を頭の中で反芻して確認する。


「昨日、俺たちが居た場所にあった、なんだかよく判らない仮死状態のUMAとかいう訳の判らない生物?に結城が鼻水を飛ばしたせいで、その、なんだかよく判らないものが仮死状態から蘇り、結城の鼻水と契約?して、巨大な結城が出来ちまって、しかも、それは意思疎通が出来ない怪物で、倒すしか無くて、結城がその刀で、心臓部にあるっていうコアをぶっ叩いて壊さないと、死なないって事でいいのか?」


「そうよぉ♡ 判ってるじゃない島津君、お利口さんね♡」


「それがドッキリとか、そういうクソふざけた話じゃなくて現実だとしたら」


 一呼吸置いて、魔女を睨み付け。


「それが…真実の情報なら、なんで、そんな簡単にぺらぺらと話したんだ? 重要な話だよな? それは、漏洩しちゃいけない類の話だろ? 俺たちをどうする心算なんだ?」


「キミのように勘の良いガキは嫌いよ♡」


 上から睨み付ける様に魔女は悪い顔でニヤリと笑った。

「よかった」「今後の展開が気になる」等、思っていただければ

評価やブックマークしていただけると、ありがたいです。

宜しくお願いします。

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