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ティラミス  作者: ミノル
2/4

姉襲来。

 夏休みはまだまだある。バイトでお金も入りそうだし、どこに遊びにいこうか…。沈む夕日を見ながら、仮眠から汗だくで目が覚めて、そんな事を考えてた。


 今日も夜中に結城とポストの所で待ち合わせなんで、のそのそと家をでる用意をする。


「気をつけて行って来いよ」


 こちらも見ずに親父がパソコンに向かって、何かを入力しながら、声を掛けてきた。


 俺も親父に「頑張れよ」と声を掛けて自転車に乗り、結城が待つポストを目指して自転車を走らせる。昼より幾分過ごしやすい。家の前でパチパチと花火をしてる親子なんかも見かける、夏だな。


 閉店して、シャッターの降りたタバコ屋の前でママチャリの隣に結城が居るが、何か騒がしい、誰かと口喧嘩をしているようだ。


「だから、こんな夜中にバイトなんて、お父様とお母様が許しても、私が許さないっていってるでしょ!」


「いいだろぉ!もぉ~ほっといてくれよ!朝にはちゃんと帰るし!変なバイトじゃないってぇ!!」


「何してるんだ…」


 二人に声を掛けると、地獄に仏を見たって感じで、パアと輝くように嬉しそうな顔をした結城が俺に情けない声で泣きついてきた。


「あっ!島津!!助けてくれよぉ…俺の姉ちゃんが、こんな夜中のバイト駄目だって言ってついて着ちゃったんだよぉ…」

「…貴方、どちら様?」


 姉ちゃんと呼ばれた女が腕組みをしたまま振り返り、美しいがとても冷たい声色でこちらを見た。夜中だというのにサングラスをしているので、その表情は伺えないが、不機嫌のようだ。


 「初めまして、こんばんは島津です」と挨拶をして、ぺこりと頭を下げると、結城の姉と思わしき女は、190センチはある結城と同じくらいの身長で、服装は肩が丸出しの水色の薄いワンピース。サングラスと華やかな白いつば広の帽子を被って、膝まで届くほどの長い縦ロールされた見事な美しい黒髪が零れている、こちらを訝しげに、まるで値踏みするように、じろじろと上から下まで見てきた。


「君が、ジュニアのお友達なの?」


てんぷらでも食べてきたのかと思われる、てかてかとした淡いピンク色の唇からリンとした鈴のような声が響いた。


ジュニア…?


「そういうの!!恥ずかしいから!!!ほんと!止めろよぉ!!!」


 結城が普段へらへらした感じなのに、夜の照明の下で判るくらい真っ赤になって叫んでる。こいつがこんなに怒るなんて珍しい。俺の前でジュニアと呼ばれたのが余程恥ずかしくて頭にきたのだろう。


「静かにしろよ…夜中なんだから…」


 結城の怒気に多少気圧されつつ、自転車を留めてどうどうと宥めた。


「名前なんて、どうでもいいでしょ ジュ・ニ・ア」


ふふんと馬鹿にしたように一区切りづつ名前を発音して、サングラスでよく見えないが、多分、邪悪で高慢そうな顔で笑っている、クラスでもおっとりとした癒し系の結城の姉の割りには、意地悪そうだ。


「くっこの…まだいうか…じゃあ…姉ちゃんだって、………芍薬だろ!」


 しゃくやくだろ…!しゃくやくだろ…!しゃくやくだろ…!気のせいかエコーが聞こえる。芍薬って言う名前は結構珍しい名前だよな。するとその言葉を聴いた結城の姉と思われる芍薬は、戦慄きながら震える指でサングラスをたっぷり10秒使って外し、カシャーン!!と音を立て、地面に思い切り叩きつけた。思ったとおり美人だ、だが目が釣り上がり怒り狂ってる。高そうなサングラスなのに、見事に壊れてる。


「あたしを!!!その名前で!!!呼ぶんじゃないわよ!!!」


 澄ました顔をしていた癖に、芍薬と呼ばれた途端、何かのスイッチが入ったように歯を剥き出し、鬼のような形相で結城の髪に掴みかかった。


「暴力反対!暴力反対!先に手を出した姉ちゃんが悪いんだからな!!!!母さんに言うからな!!」

「あんただって!私の顔さわんないでよ!!!」

「どこ触っても怒るくせに!どこさわりゃいいんだよ!!この!!髪やめろって!!」

「セクハラ!セクハラ!!セ・ク・ハ・ラ!よー!!!!!」


 痴漢とは叫ばないのは、弟に対するせめてもの情けなのか…?


「なんで弟がセクハラになるんだよ!だいたい!顔しかさわってないだろ?!」


 司の姉なので相当の美貌なのだが、無慈悲にムニィと耳と頬を摘まれ歪まされて、マスカラと付け睫が取れて、顔に黒いムカデがひっついてるように見える。無残だ…。


「いたい!いたい!顔は止めてっていってるでしょ!!!」

「どこさわりゃいいんだよ!!姉ちゃんだって俺の髪掴むなよぉ!」


 手足が長い二人が取っ組み合いのケンカをすると、なかなか迫力があるな、なんて呑気な事を考えていると、髪を引っ張られた結城の手が、姉の髪に掴みかかると、ズルリと帽子と共に見事な長い黒髪が取れて地面にぶわさぁと落ちてしまった。カツラだったのか…。そのカツラの下にはベリーショートの緑に染められた髪が汗だくで収められていた。


 まるで小動物の死骸のように道に落ちたカツラと帽子を見て、姉弟で同時に「あ」と間抜けに発音した。一瞬、世界が止まって見えた。


 芍薬は呆然とした顔をした後、見る見る、更にびきびきと額に血管を浮かせ阿修羅のような顔になり「じゅにぁあああ!!」姉は一吠えして、結城の髪に掴みかかった。


「このぉ!!!あんたをハゲにしてやるうううううううううう!!!!」


 口から火を吐く勢いで姉が結城の髪をさらに引っ張り、ぶちぶちと何本かは切れてしまった。美人を怒らせると怖い。


「や、やめ、やめろよぉおおお!!」


 そういえば、いつだったか、夕焼けに照らされた教室の中で、結城は「俺の髪、柔らかいし細いだろ?はは…将来ハゲるんじゃないかなぁ…」って哀愁を漂わせて言ってたのを聞いたことがある。それだけは止めて差し上げろ。わざとか?わざとなのか?


「おい、やめろよ…泣いてるじゃねえか」


 結城は髪の毛を引っ張られる手を掴んで、必死で抵抗している。


「もぉ~やめなよぉ~お姉ちゃんも、ジュ…司も~」


 するとそこに、突然間延びした声で、もう一人闇の中から女が現れた。芍薬をお姉ちゃんと呼び、結城を司と呼んでるので、多分芍薬の妹であり、司の姉なのだろう。結城家は皆身長が高そうだ、全員190センチありそうなくらい背が高い、うらやましい。やっぱりモデルみたいな体格で、肩が丸出しの派手な青と紫の上着と、太ももまで丸見えのホットパンツを履いて、茶髪はボリュームがあって長くクルクルとソバージュのように美しく巻いている、なんで夜中にサングラスとお洒落なカンカン帽子してるんだ…?こいつもカツラなのか…?ていうか、結城は家でジュニア呼びされてるのか?


 色々な疑惑が持ち上がりつつ、困惑しているが、いい加減そろそろバイトに行かないと遅刻なんだが…。


「姉ちゃんは私が抑えてるから、あんた達もう行きなよ~~」


 ガシっと牡丹と呼ばれた姉が、怒り狂っている芍薬と呼ばれた姉を羽交い絞めにした。手馴れている感じがするのは気のせいか?


「ちょ、やめ!は、離しなさいよぉ!!牡丹!!まだ話は終わってないわよ!!」


 その間に結城が自転車に乗って漕ぎ出したので、俺も慌てて自転車にのって結城を追いかけた。


「恩に着るよ、ちい姉ちゃん!!」

「早くいきなって~ばいばい~」


 間延びした声に見送られ、結城と俺は自転車を漕いでその場を後にした。


「色々聞きたい事が渋滞してるんだが…」

「うぅ…」


 今夜の暇つぶしは決まったようだ。

主人公「俺」

島津しまづ 景光かげみつCVイメージ櫻井トオル

身長165センチ

至って普通の男子高校生。一年生


「俺」の友達

結城ゆうき つかさCVイメージ浜田賢二

主人公の友達。189センチ

至って普通の男子高校生。一年生


司の姉、長女。

芍薬しゃくやくCVイメージ三石琴乃

お姉ちゃん。自分の名前が嫌い。芍薬と呼ぶと激怒する。

何かと司に突っかかる。弟の司に対して色々コンプレックスを拗らせている。


司の姉、次女。

牡丹ぼたんCVイメージ森泉

ちぃ姉ちゃん。天然系。だが行動は理知的。司に突っかかる姉を抑えてくれる。

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