終わりの始まり
雑書き第2弾となります。
こちら短編のはずですがキリが悪く長々と面倒だと思うので、つまらなそうと思ったら途中でリターン出来るよう分けました。
人×人外?っぽいので苦手な方はお戻り下さい。
人とロボットの心についてをテーマにしたつもりです。
何でも大丈夫な方はどうぞ。
道を照らす紅き光。
けたたましく鳴り続ける警告音と凄まじい轟音。
それでも彼女は足を止めることなく、ただひたすら走り続ける。
頭に響くノイズと度々走る電撃。
徐々に自由がきかなくなっていく身体を無我夢中に動かしてまで、守りたいものが彼女にはある。
皆の優しくて痛い叫びが、今もまだ耳の奥に残っていて、
泣き出してしまいたくなる。
逃げ出してしまいたくなる。
だけど自分は、走り続けなくてはならない。
危険の中一時を過ごした大切な大切な仲間たちと、
自分の全てであるあの人を、守りたいのなら。
煙がモワモワと広がる通路。
その突き当たりを右へ曲がっていく。
タイムリミットまで残り僅か。
(大丈夫、怖くない。)
そう思っても恐怖という感情は未だ残ったままで、
足が覚束無い。
胸が痛くて苦しくて。
どうせならこんなプログラム欲しくなくて、
でも、あの人と話したくて、やっと話せて、
例え偽りの想いでも、とても嬉しくて。
叶うのなら、もう一度貴方と…
…タンタン、と刻まれる足音のリズムが迫り来る恐怖のように聞き取れた。
何を怯えてるのか。
最初からこうなることはわかっていたはずだ。
私は作られたモノ。
意思も何もかもが作られた、人の形をした玩具。
人の為に動き、人の為に朽ちる。
『ロイア。』
でも、あの頃の優しさが幻想だとは思いたくない。
初めてマスターが私の名前を呼んでくれた日。
込み上げる何かを知った、全ての始まり。
その日々に自ら終止符を打たなければならないなんて、悪い夢であってほしい。
だからもう、熱い雫で視界をふさがないでほしい。
今だってまだ、信じているわけじゃない。
貴方の部屋をチラと覗けば、また小難しい研究をしていて、ふとこちらに気付くとくしゃくしゃに笑ってくれる貴方がいると。
ご飯を持っていくと毎回必ず誉めて頭を撫でてくれる貴方が。ちょっと失敗して怪我をしてしまった私を、怒るどころかかなり心配してくれて研究も投げ出してしまうような貴方が、
まだ、私の中に鮮明に残っている。
今駆け込んでバタンと開けたドアの先に、あの人が…
________ピーッ ピーッ ピーッ ピーッ ピーッ ピーッ…
…そこに在ったのは、存在証明だけだった。
研究資料は散乱としたまま、作動していない無数のロボ。
温もりがあったあの日々が崩れ去った惨劇が、カメラでパシャリとおさめたような、本当にそのままの状態。
思い出すことを避ける為、貴方と在った日々を失わないようにする為、今まで決して近寄らなかった貴方の研究室。
自然と何処かに潜んでいそうな貴方を探しそうになる欲求を抑え、彼女は、ロイアはその最奥の部屋へと行く。
『マスター、どうして研究所に起爆装置など設置するのですか?』
『万が一研究に失敗した時の後始末の為だよ。』
『そんな、マスターが失敗をするはずがありません!』
『あはは!!ロイアは優しいね。
僕はロボットじゃないから、そんな完璧な人間じゃないよ。でも心配はいらないよ。
仮にこれを押す時は、必ず君たちを避難させるから。』
インプットされた記憶が甦るこの部屋。
普段は立ち入り禁止をされていた部屋のドアを鍵をこじ開け、勢いよく扉を開いた。
中は至ってシンプルで、目の前にはガラスに覆われた赤いボタンがポツンと佇んでいる。
(…大丈夫、ロボも人も皆避難させたはず。
あとは…私がこのスイッチを押すだけ。)
これで、終わる。
貴方と過ごした思い出の場所、ううん、記憶も全て無くなる。
全てが元通りになる。
(…マスターのミスで、これ以上誰かを傷付けない為に。)
優しかった貴方なら、きっとこの惨状を知って心を痛めるから。
だから、そんな思いはさせたくない。
ロイアが、ここで終わらせなければならない。
貴方と、他人と出会ったキッカケをくれた研究室。
貴方と見て、聞いて、触れた、大切な場所。
その記憶プログラムが走馬灯のように一斉に頭の中に押し寄せてきて、機械の自分が本来なら知らないはずだったソレも溢れてきて、造られ得たココロ全部詰め込んだ拳を、高く振り上げる。
(…ごめんなさい、マスター。)
_________パリイイィンッッッ!!!
『起爆装置ガ作動シマシタ。研究員ハ直チニ避難シテクダサイ…
起爆装置ガ作動シマシタ。研究員ハ直チニ避難シテクダサイ…』
「!?き、起爆装置!?」
「嘘…何とかするって、まさか…!!」
「…ロイアを助けなきゃ…!!」
「馬鹿!!今行ったらお前まで爆発に巻き込まれるぞ!!」
「じゃあロイアを見殺しにしろっていうのかよ!!!」
…これでいい。
これで良かったんだ。
…皆、今頃脱出しきれたのかな。
バグウイルスはそろそろ異変に気付いて暴れているのかな。
でも大丈夫、怖がらないで。
私がついているから。
これが終わったら、皆でまたあの日のようにマスターの研究のお手伝いをしよう。
貴方も本当は、こんなことしたいはずじゃなかったんでしょ。
もう、心配しなくていいんだよ。
『起爆装置作動マデ、アト30秒…』
ドサリと崩れ落ちるロイア。
身体が軋む。
機能がほとんど停止しており、思考も儘ならない。
指の1本さえ動かすことが出来ないというのを今まさに実感した。
視界をザザザッと砂嵐が遮り始める。
人工呼吸機器も、もう使い物にならない。
プログラム全てがシャットダウンしていく。
充電し損ねたあの時時同じ、ひどく恐ろしい感覚。
己の意識が闇に放られる。
暗くて底の見えないような怖いところに呑み込まれる。
そうやって大切な終わりを見れぬまま、意識が朦朧としていく。
先程少し、無理をし過ぎたようだと悟る。
『起爆装置作動マデ、アト10秒…9、8…7…6……』
終わりを告げるカウントダウンが研究所内に響き渡る。
薄れゆく意識の中、ぼんやりと人影のような物を見つける。
(…ひト……??…イヤ、ちがウ…アれハ……)
機能しないはずの器官がまだソレの生成を始めた。
ただでさえ見えにくい視界なのに、余計に見えない。
拭うにも拭えず、ただ終わりを知らぬそれが地を濡らす。
でもそれは、悲しさ故ではない。
そこにいたのは、会いたくても会えなかった大切な人。
変わらぬ優しい微笑みを溢しながら、そこにいた。
ロイアが溢せたのは、その身の最期に貴方の側にいられた幸せの雫。
(…マすt……)
『…3…2…1…0。起爆装置、作動シマス。』
ドゴオオオオオオオオオオオォォォォォォンッ!!!!……
「…嗚呼素晴らしい。実に素晴らしいよ、α。」