到着 赤い月御一行様
この世界にやって来て半年が過ぎた。俺たちは来るべき赤い月の侵攻に備えている。諜報部の報告が確かならば、赤い月が満ちる今夜、奴等は侵攻を開始するはずだ。
俺はこの半年間、将軍としてのトレーニングを受け無事に(?)国軍の将軍となった。肩書きはJ将軍サトシだ。普段訪れていた板の名前が自分の肩書きに使われる日が来るとは思ってもいなかった。
『運命の五人』も全員揃った。勇者将軍ソウコウ(任命式で初めて名前を知った)、機人将軍アルデ、魔王将軍べリアル、機魔神官将軍サーシャ。
本来サーシャはレアジョブではなかったが、これ以上捜索に割く時間がなかったことと、本人の希望もあったため、アルデとべリアルの手によって魔改造を施され晴れてレアジョブとなったのだ。
俺たちは今夜の侵攻に備え軍を展開している。多くの犠牲により赤い月の使う星間転送魔法の仕組みも明らかになった。
赤い月の使う星間転送魔法はヌージィガの古代魔法とは別物で、月の軌道上にある小惑星群に転送魔法で降り立ち、その小惑星の墜落によって他の星に移動するというものだ。
そのため、使用できる時期と到達地点に制限がある他、宇宙空間での生命維持および大気圏突入、墜落の衝撃緩和に強力な結界が必要となるため移動完了までは一切の攻撃ができない。術後の生存率も低い代物だ。
これらのことから、侵攻してくる敵の数は多く見積もっても数万と予想される。とはいえ軍事国家の精鋭集団なので油断はできない。
「来たぞっ!」
東の空に無数の星が瞬く、やがて大量の流れ星が降ってきた。予め算出していた通りの着弾ポイントだ。大轟音と共に隕石の雨が降る。着弾ポイントにあった村の住人は全員避難完了しているためこちらの被害はないはずだ。
「敵の侵攻確認!残存兵力は約10万と見られます」
伝令が入る。思ったより敵の生き残りが多い。
「ゆくぞサトシ」
アルデからの通信が入った。今回の作戦における俺とアルデ隊の立ち位置は、侵攻直後で隊列が整う前の敵を偵察し、戦力の分析を行うことだ。
俺は部下と共にバイクに乗って敵軍の中心に向かった。このバイクはネットで拾ってきた情報を元にアルデを中心とした鍛治職人が作ったもので、燃料の代わりに爆発魔法を宿した護符で動く。アルデ仕様なので武骨なデザインかつ複雑なギミックが仕込まれている。
敵の着陸地点が見えてきた。辺りには人間の部品が散らばっている。相当数が着陸時に犠牲になったようだ。中にはまだ息がある者もいる。
「酷いなこれは」
思わず呟いた。飛行機の墜落現場はこんな感じなんだろうなと、思いながら敵陣の中を進む。やがて敵陣中心地点の近くまでやって来た。生存者の姿が目立ってきている。敵は子供から中年まで幅広い年齢層だ。
俺はあることに気づいた。死んだ敵の大半は鎧すら着ていないほぼ裸の状態だ。そして生きている敵はすべて鈍く光る鎧を着ている。
やがて視界に入った敵の移動用結界を見てその理由は判った。人間同士を何らかの方法で癒着し、巨大な生体結界としている。その事をアルデに連絡した。
「こちらでも似たようなもんを見つけたところじゃ。見たところ、肉結界に使われとるのは青い月と白い月の連中じゃな。外科魔法を使って生体の結界発生装置にされたんじゃろう。人間一人の魔力には限界があるが、肉体を直結させることで強い魔力を産み出すことができる。理屈ではわかっておったことじゃが、実践するとは恐ろしいやつらじゃな」
「この調子だと赤い月の奴等はほぼ無傷で侵攻してきたってことか」
「そう考えるのが妥当じゃろうな」
「さらに奴等の鎧、あれはバランと同じ対魔法コーティングが施されておるのう。本隊からの長距離破壊魔法も効果無しじゃな」
敵が視界に入る。
「よし、ここまでだ。帰還するぞ」
俺たちは偵察を終え帰陣した。