少女魔王と奴隷勇者
魔王と勇者の百合です。
「くっ、殺せ…」
薄暗い牢獄の中から少女の声が聞こえる。
サラサラの金髪に青い吊り目の西洋人のような美しい少女だ。
美しい顔とは違い、その身にはボロボロの鎧を纏い手足は鎖で繋がれている。
極め付けはその首に付けられた『隷属の首輪』だ。
この首輪はその名の通り、奴隷のなったものがつける首輪で主人の命令に逆らえなくなる、主人を傷つけることができない、などの様々な制約が魔術によって課せられる代物だ。そこには奴隷が勝手に自殺したりしないようにする制約も含まれている。
ーーつまり、この首輪を付けられたものは人権なんてものは存在しなくなるということだ。
話を戻そう、彼女の名前はサラ。本名、鹿野サラサ。イギリス人の母と日本人の父を持つハーフの少女で異世界から召喚された勇者だ。
2年前彼女は幼馴染で親友の愛川美波と共に学校に向かっている最中突如周りの風景にヒビが入り世界が崩壊していくような現象に襲われた後この世界に召喚され、親友の美波を探す手伝いを条件に王国の勇者となった。
それから2年間勇者として活躍し、様々な冒険を繰り広げながら遂に魔王城にたどり着き、仮面の魔王と三日三晩戦った末に魔王に敗北し先程気が付いたらこの状況だったというわけだ。
牢屋の前には死闘を繰り広げた仮面の魔王自身が立っていた。
「せめて、私の尊厳をこれ以上壊さずに逝かせてくれ…」
「………」
「すまない、美波。君を探すことはできなかったよ…」
仮面の魔王は牢獄の扉を開けると自身も牢屋の中に入り勇者の目の前に立つ。
「…やっぱり、サラサちゃんだね」
「えっ?ど、どうして私の本名を…」
「やっと、やっと見つけた…」
仮面の魔王は顔を覆っていた仮面を外す。
その下からは少したれ目気味の黒目に少し癖のある黒のセミロングが露わになる。
おっとりとした雰囲気の美少女はとても先程命を削りあった魔王には見えない。
サラサは仮面を外した魔王を見た瞬間驚愕し、口を金魚のようにパクパクさせていた。
「え…み、みな…み?」
「そうだよ、サラサちゃん。貴方の幼馴染で1番の親友の美波だよ」
「ど、どうして…」
この、「どうして」には何故ここにいるのかと、何故魔王になっているのかという二つの意味が込められていた。
「全ては仕組まれていたんだよ…この世界の神にね…」
「えっ、仕組まれていたってどういうこと?
」
「んー、一から話すと長くなるけどいい?」
サラサはこくこくと頷く。
頷いたのを確認すると話し出す。
美波の話をまとめるとこうだ。
まず、この世界に召喚された瞬間で迎えたのは大勢の化け物達で、美波の黒髪を見た瞬間黒髪の魔王様だ!と言われ魔王に担ぎ上げられてしまったらしい。
そして、魔王として活動しつつサラサを探しをしている途中で天使を名乗る少女からこの戦いは数十年前から神々の間で娯楽として使われていることを知る。
そしてーー
「まぁ、それでサラサちゃんを保護しようと思ったわけ。まぁ、勇者として本気で挑んでくるサラサちゃん相手に捕らえるのは結構苦労したけどね」
「私たちの戦いは……無駄だったの…じゃあ、何の…何の為に私達は…」
目からハイライトが失われ生気が抜け落ちたような顔でサラサは呆然と呟く。
ぶつぶつと言葉の羅列を紡いでいくが、その言葉は何の意味も持っていない。
やがてその言葉は謝罪に変わっていく。
「あ、ごめん美波ちゃん。…いっぱい傷付けてごめん…ごめんなさい、ごめんなさい…ゆ、許して美波ちゃん…」
自分の人生がまるで玩具のように扱われ、更に探し出すという目標を立てていた親友を故意ではないといえ、傷つけてしまったことによりサラサは錯乱状態に陥っていた。
そんな彼女に美波は近寄ると両腕でサラサを抱きしめ自身の胸にその頭を押し付ける。
「ごめんな…!?…えっ?」
「大丈夫、大丈夫だから泣かないで…」
突然のことに戸惑いの声を上げるサラサに美波は優しく声をかける。
「サラサちゃんは何にも悪くないよ。悪いのは全部この戦いを、勇者と魔王を娯楽に使っている神々共だから…」
「うぅ…うー」
サラサは声を押し殺して鳴き声をあげた。
数十分後。
「落ち着いた?」
「うん、ありがと美波」
泣き止んだサラサは少し恥ずかしそうに顔をそらしながら礼を告げる。
落ち着いたサラサを見て満足気に微笑む美波。
そんな彼女に見惚れてしまい、サラサは顔を赤らめてしまう。
「ねぇ、サラサちゃん。一つ提案があるんだけど…聞く?」
「提案?」
「そう、とっても素敵な提案」
先程の微笑みとは違い黒い笑みを浮かべる美波。その姿からは魔王としての風格が漂っていた。
サラサは生唾を喉を鳴らしながら飲み込むと静かに頷いた。
「一緒に私達をこんな目に合わせた神々に復讐してみない?」
「復…讐?」
「そう、復讐。今まで神々の思い通りに動いていた魔王と勇者がいきなり手を取り合って神々に刃を突きつけるのよ?面白そうじゃない?それに、私とサラサちゃんが手を取り合えば出来ないことなんてない。そうでしょ?」
口調こそ静かだがサラサは美波が怒っていることに気がついていた。15年間共に過ごした幼馴染で親友のことだ、常に微笑んでいると言っても過言ではない美波の微笑みの中に隠された喜怒哀楽といった感情を読むことなど容易いことだった。
今、美波は過去一番怒っている。
その原因も何となくサラサは察していた。
(きっと、私の為なんだ……)
美波の一番の親友を勇者に仕立て上げ、辛い思いをさせ、更には親友同士で殺し合いをさせるなど怒らない方がおかしいと言えるだろう。
「私の為に何だよね…」
「ん?」
「美波は私の為に怒ってるんだよね…」
「半分正解、だけど半分間違い」
「え?」
「私が怒っているのはサラサちゃんの為だけじゃないよ、この感情は私達の為の物だから」
「美波…」
変わった、とサラサは思った。
昔、というかこの世界に来る前は他人の為に怒るが自分自身の為には怒らない、美波はそんな人間だった。
この2年間、魔王として動いている間に変わったのだろう。それをサラサは嬉しく思う。
今まで自身の感情をあまり表に出さなかったのに今はしっかりと自分の感情を表に出しているのだ、幼馴染の成長をサラサは喜んだ。
「それで、サラサちゃんは復讐どうする?やる?」
再度、美波から質問が投げかけられる。
「私は……私も美波と一緒に復讐する。だって、二人いれば出来ないことはないんでしょ?」
サラサははにかみながら答えた。
その瞬間、美波がニタリと妖艶に笑う。
それはサラサが15年間共に過ごしてきた中でも初めて見る美波の表情だった。
「言質…とったからね」
「え、どうい…うむ!?」
サラサの言葉を半端無理やり押さえ込むように、美波はサラサの唇に吸い付く。
「んちゅ…あ…れろ…」
「んあ…んちゅ…れろ…」
二人の唇同士が交じり合う。
美波がサラサの口の中に舌を入れサラサの舌と絡ませあう。官能的な響きが薄暗い牢獄の中を満たす。
数分はそうしていただろうか、美波はサラサから唇を離す。
「みにゃみ…にゃに…しゅるのお…」
あまりに激しいキスによって与えられた甘い快楽はサラサの呂律と思考を奪っていた。
頬を赤く染め普段の吊り目が垂れ下がっている姿は扇情的で見るものをいとも簡単に誘惑してしまう。
その時、快楽の余韻に浸っているサラサの首に付けられた首輪が光り始めた。
突然のことに戸惑うサラサは反射的に美波の方を向く。そこには普段通りの笑顔なのにどこか蠱惑的な感じがする微笑みを浮かべた美波が特に慌てた様子もなくサラサを見つめていた。
数分もするとその光は治った。
サラサは恐る恐る自身の首についた首輪に触れる。
特に変化があるわけではなく、再度戸惑いの視線を美波に投げる。
「んふ、怯えた顔しないで大丈夫だから…これでサラサちゃんは私のもの。もう絶対に離さないから」
足枷と手枷を外しながら美波はそう告げる。
「え…ちょっと美波?どういうこと?」
サラサは訳がわからないといった様子で質問を投げかける。
美波はサラサの身体を抱き締めるとサラサに言い聞かせるように話しだす。
「つまり、これからは私がサラサちゃんを守ってあげるってこと。だからサラサちゃんも私を支えてっていうこと。良いでしょ?だって、一緒にいてくれるんでしょ?」
端から見ると美波の発言は狂気そのものでそれは地球でいうヤンデレに近いものがあった。
しかし、当事者であるサラサはそうは思っていなかった。
「うん、私は一緒にいる!私だってこの温もりを絶対離さないから!」
「サラサちゃん…」
「美波…」
二人はお互いの名前を呼び合うとまるで示し合わせたかのごとく唇を重ねる。
今度は貪る様な激しいキスではなく、そっと唇同士が触れ合うだけのソフトなキス。
どちらともなく離れると見つめ合う。
「ここから始めましょう、私とサラサちゃんの復讐劇を…」
「私と美波なら出来ないことはないよ…」
再び唇を重ねあう二人。
勇者を奴隷にした魔王と魔王の奴隷となった勇者の神々に対する復讐劇が、今ーー始まる。
この後滅茶苦茶百合した。