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「・・・あれか・・・」
村を出た俺はオークたちがいるという北西の森へと向かった。そして今森の入り口にいる。
「さて、やるか」
当然ながら今の俺では勝ち目はない、だから今から勝ち目があるかもしれない俺になる。正直変身するのはこれが初めてでぶっつけ本番だから不安だ、でも四の五の言ってはいられない。俺は辺りを見渡し誰もいないことを確認すると木陰に入りあれを始めた。
「さあいくぞ。変~身~」
俺は腕を振りポーズをとると最後に片腕を天に突き上げ叫んだ。
「ヒーロー!!」
次の瞬間、俺の体は光に包まれる。瞬く間に輪郭が変わっていき光が弾けると俺の姿は先ほどまでとは違う姿に変わっていた。
「鉄拳ヒーロー、ゴウタイン!!」
頭部全体を覆うフルフェイスマスク、動きを阻害されない程度の装甲がついたボディ、鋼色のカラーリングを主とした近未来のバトルスーツのようなデザインの全身スーツに身を包まれた。なかなかかっこいいデザインである。
これが俺の変身ヒーローとしての姿か・・・。姿が変わっただけじゃなく体に力が満ち溢れてくる、この力を得た時に流れ込んできた知識によるとこのゴウタインは筋力や耐久、敏捷さや反射神経などの基本的な身体能力を超強化してくれる形態らしい。しかも元となる俺自身が強ければ強いほど強化される幅が大きくなり心身共に鍛えれば鍛え上げるほど強化倍率も上がるそうだ、要するに俺自身が心身ともに鍛え上げ強くなるほど変身時も強くなれるってことだな。
ただこの姿に変身してると力が湧いてくるもう一方で徐々に抜けて行く力も感じる、これが魔力か。魔力はこのスキルのエネルギー源、特に何もしなければ数時間はこの姿を維持できそうだが戦闘や特殊能力の使用を行えばガンガン減っていく、魔力が尽きたら強制解除だ。魔力は減りすぎると心身が衰弱状態になるらしい、そんな状態では戦えないし誰かに解除した姿を見られたらヤバイ、気を付けないと。ちなみに変身解除は変身するより簡単だ、解除すると念じるだけでいい。
魔力は生まれながらや成長に伴い強くもなるがもっと強くしていくなら心身を鍛える事が一番効率がいいそうだ。俺は昔から心身を鍛えるトレーニングを行ってきたのでかなり魔力が高いらしい、やってて良かったトレーニング。
「よし!行くぞ!」
ボイスチェンジャー機能によりハスキーな声を出しながら俺は駆け出した。体が軽い、普段とは比べ物にならないくらいに。時には樹の幹や枝を足場にしながら軽やかに、そして高速で森の中を駆ける。当然ながら目に映る景色は高速で変わっていく、目の前に突如障害物も現れる、しかし俺はそれらに全くぶつからない、視力や反射神経や脳の処理能力が強化されているおかげで俺にはゆっくり動いてるように見える。
そんな風に走っているとやがて俺の強化された聴力が人の声を捉える。
「あっちか」
声のする方へ走って行くと目の前に割と大きな広場が見えた。俺は木の陰に身を隠しこっそり様子をうかがうとそこに盗賊どもの姿も見える。どうやら食事中らしい、飯を食いながら楽しげに談笑している。だがオークの姿が見えない、どこへいったんだ?
「ふい~、しかしまたおかしな事になったもんだな。魔物であるオークと手を組むことになるなんてよ」
「まったくだ。一月近く前に突然オークの大群が俺たちのアジトに現れてあっという間に頭がぶっ殺された時は人生終わったと思ったがまさかこんなことになるとはな」
「まあおかげでかなり仕事がやりやすくなったけどな。今朝の村の連中を見ただろ?ちょっと脅しかけてやるだけでビビりまくっておとなしく食糧や金目の物を差し出しやがる、笑えるぜ」
「だな、しかも奪ったものはほぼ俺たちのもんになるしよ。オークたちは金目のものはもちろん食い物にすら興味を示さねぇ、魔物は血肉しか食わないってのは本当なのかもな」
「やっぱそうなのか?だとしたら若い女を要求したのも繁殖用の他に食肉用でもあるってことか。村の連中も最後には喰い殺される事になるのかね」
「別にいいんじゃね?その前に俺らにもちょっと味見させてもらえりゃよ。俺たちはおいしい思いができりゃあいいんだ、女どもや村の連中がどうなろうと知ったことじゃねぇよ」
・・・・・和気あいあいとクズい会話をしてやがる。・・・さて、どうしようか・・・。やっぱこいつらも始末すべきか?正直、人殺しは気が引ける。しかしこういう連中は下手にを生かしておくと危険だろう。この世界で生きて行くと決めた以上、これから先こういう連中と幾度となく戦う事にもなるだろう。人殺しに慣れるべきではないがこの機会に覚悟と経験を得るべきではないだろうか?いざという時に躊躇して隙を作るなんてヘマをしてしまったら非常にまずい。ここは日本よりもはるかに死が身近にあるのだろうから。まだこういう連中相手なら良心は傷まないだろう、こいつら殺っちまってもいいよな?
・・・しばし葛藤した後に覚悟を決める。オークもいないし今のうちにこいつらを始末しよう。・・・昨日と今日だけでもう何度覚悟を決めただろうか?これからも俺はこうして覚悟を決め決断をしていく事になる様な気がするな。
「では・・・はっ!」
俺は地面を強く蹴り出し盗賊目がけて飛び蹴りを放つ、飛び蹴りを放った俺は空気を切り裂きながら高速で、水平に、まるで銃弾のごとく飛び盗賊の一人に命中した。
「ぷぺ!?」
骨が砕け内蔵が潰れる音と感触を感じる、とても不快だ。盗賊はそのまま吹っ飛び十メートルは先にある木の幹に激突するとそのまま動かなくなる。
「・・・はっ?」
「・・・へっ?」
突然の事に呆然としている盗賊どもを更に数人蹴り飛ばす。蹴られた盗賊どもは首や胴体をあらぬ方向へと曲げながら吹き飛んで行く。盗賊どもの数は約三十人、オークが出て来る前に終わらせねば。
「なっ!?敵!」
「ぶっ殺ろせべっ!?」
俺は高速移動しながら盗賊どもの鳩尾に拳を叩き込む、かかと落としを頭に叩き込み頭部を地面にめり込ませる、振り上げた拳を顎にくらわせて頭蓋を砕く、回し蹴りで胴体を横に折れ曲がらせて吹き飛ばす、盗賊どもが立ち上がり戦闘態勢を取る頃にはすでに十人以下になっていた。
「くそ!何だこいつは!?」
「くそがああぁぁ!!よくもやりやがったな!!」
盗賊の一人が剣で斬りかかって来る、俺はその剣の刀身を片手の指で挟んで止めると一瞬でへし折ってやった。
「んなっ!?ぺっ!?」
俺はその盗賊の鼻先に拳をめり込ませるとそのまま殴り飛ばした。盗賊は血を撒き散らしながら吹き飛んで動かなくなる。
「なっ、何だこいつ!?めちゃくちゃ強いぞ!」
「ちょ、マズいんじゃないか?俺たちじゃ勝てそうにねぇ!」
俺は狼狽する盗賊どもの一人に高速移動で近づく。
「ひっ!」
・・・・・が、危険を察知し直ぐさま横へと跳んだ。
「へぶ!?」
突如、俺の背後から飛来した槍に貫かれ絶命する盗賊。バク転などを繰り返しその場から距離を取った俺はすぐに槍が飛んで来た方に目を向ける。すると樹々の奥からオークの群れが現れた。