10
~一週間後の村にて~
「着いたぞ、この村だな」
村に何十人もの武装した者達がやって来た。門番をやっていた男は警戒しながら訪ねる。
「なんだ?あんた達は?」
「失礼、我々は冒険者ギルドの者です。魔物の群れが現れたとの救援依頼を受けてやって来ました」
そう言って男はギルド証を見せる。
「おお、あんた達が!よく来てくれたな。でもあれ?救援依頼?」
「?魔物の群れが現れたんじゃないんで?」
「いやまあ、現れたけども・・・まあ詳しい話は村長に聞いてもらえるかい」
「??分りました」
「おーい、誰か!この人たちを村長の元に案内して差し上げてくれ!冒険者ギルドの人たちだ!」
冒険者ギルドの者達は村人に案内されて村長の家へと向かった。
「おお!冒険者ギルドの方たちで?よく来て下さいました」
そこで代表の男とあと数名だけ応接室に通された。そして村長である初老の男が対応に出て来る。
「どうも、冒険者ギルドの者です。魔物の群れが現れたとの救援依頼を受けてやって来ました」
「えっ?救援依頼?」
「えっ?何か?」
「あ、いえ、私どもは冒険者の方とギルド職員の方数名に来ていただけないかと依頼を出したはずなのですが・・・」
「ええ、私は冒険者ですがこちらの三名はギルド職員です。魔物の群れが現れたとの救援依頼ではないんで?」
「いえ、魔物の群れが現れたのは事実です。ただそいつらはすでに退治されました」
「「「「えっ!?」」」」
そうして村長が事情を説明した。
「・・・なんと!盗賊と魔物が手を組んだ!?しかも人語を話す黒いオークですか」
「ええ、私どもは脅されて食糧や金品をほとんど奪われてしまいました。このままでは遅かれ早かれ私どもは死んでしまうと考えて決死の覚悟で戦いを挑むことにしたのです。ですがその決行の日、いざ出発しようとしていた時でした。一人の変わった形の全身鎧を着た方がふらりと現れて魔物どもはすべて退治したと仰ったのです。しかも奪われたものを取り返せなかった代わりにと魔核やドロップアイテムを私どもに恵んでくださいました。正直、食糧や金品をほとんど奪われてしまいこれからどうやって暮らしていけばいいのかと思っていたのですごくありがたかったですよ。
その後討伐隊が森へ行ってみると凄まじい戦闘の跡らしく森が滅茶苦茶になっておりオークは一体たりともいなくなっていました。そうしてあの方が本当に退治して下さったのだとわかったのです。是非ともお礼をしたかったのですがあの方は名を告げる事もなく早々と去って行ってしまわれました」
「そんな事があったのですか」
「はい、それから私どもは食糧などの物資を購入するお金が必要なため頂いた魔核などを売ろうと考えたのですがなにぶん大量にありますし高価な物を私どもだけで運搬するのは危険ですし魔物の群れが現れた事についての調査もすべきだと判断してあなた方に来ていただけないかと使いの者に走らせて依頼を出したわけです。ですがどうやら魔物の群れはすでに退治されたという事はちゃんと伝わっていなかったようですね」
「そうだったのですか」
「はい、それで如何でしょう?魔物の調査と魔核などの買い取りを行って頂きたいのですが」
「それはまあ、じゃあ君たちに買い取りは任せていいか?魔物の調査は俺が引き受けるから」
「はい、分りました」
「ではご案内します。おおい、ギルド職員の方たちを魔核の保管場所へご案内してくれ」
やって来た村人に連れられてギルド職員は応接室を去って行く。
「ではもう少し詳しく話を聞かせてもらえますか?」
「はい」
・・・・・・・・・それからしばらくするとギルド職員が慌てた様子で戻って来た。
「たっ、大変です!」
「どうした?」
「買い取りの前に魔核とドロップアイテムの鑑定を行っていたのですがあれあれ・・・」
「落ち着け、何があったんだ?」
「じっ、実は鑑定したものの中にとんでもない物がありまして・・・」
「とんでもない物?」
「はい!まずは魔核ですが一つだけかなり大きく質の良いのがありましてそれを鑑定したらなんとマグマオーク・ジェネラルの魔核である事が判明しました」
「マグマオーク・ジェネラル?聞いたことがな、いやどこかで聞いたことがあるような・・・」
「伝説の災厄級魔物です!」
「何だと!?」
「大昔に存在した伝説の魔物マグマオーク・エンペラー、この魔物はたった一体でとある大陸を壊滅させあらゆる生命を死滅させて最後には大陸そのものを海の底へと沈めてしまったと伝えられています。脅威度はSS、世界中の国々や組織、勇者たちが一丸となって対応しなければいけない災厄級の魔物です。今回のはまだジェネラルですがそれでも脅威度はA、大国の全戦力を投入しなければいけない戦略級の魔物です。オーク・エンペラーも脅威度は同じくAですがマグマオーク・ジェネラルはこの時点ですでにオーク・エンペラーよりもはるかに格上です。こんな魔物が現れたのだとしたら大問題ですよ!」
「・・・マグマオークとはどういう姿をしているんだ?」
「記録では黒いオークだそうです」
「・・・人語を話す黒いオークか・・・」
「あとドロップアイテムのハルバートですが、鑑定したところあれは噴炎のフレアバルトと言う物でランクは文句なしのS級、国宝に指定されるような伝説級の武器です。正直、値段が付けられません」
「・・・ええっと、村長?本当に売っちゃうんで?村で保管したりとかは・・・」
「む、無理です!そんなすごい武器を管理なんてしきれません!」
話を聞いて呆然としていた村長は我に返ると大慌てて首を振る。
「しかしそうなるとそんな化物を一人で倒したと言うその全身鎧は何者だ?」
「さあ・・・?ただその人に冒険者ランクを付けるなら間違いなくS級認定されるでしょうね」
「村長は何か知ってますか?」
「い、いえ、私は何も・・・あ、でも村の者に依頼を受けたと言ってたような・・・」
「誰です?それは?」
#####################
「すいませんね、急にお伺いしてしまって」
数分後、冒険者の男はあの若い夫婦の家に訪ねて来ていた。
「いえ、それで今日はどういったご用件で?」
「いえね、村を救ってくれた全身鎧が何者なのか興味がありましてその者の情報を集めているんですよ、何かご存じではありませんか?」
「そうなんですか?いえ、残念ながら私たちは何も・・・。助けて下さったお礼がしたかったのですが名前すら名のらずに去ってしまわれたので・・・」
「そうですか、でもその全身鎧に何か依頼されたのでは?」
「いえ、お会いしたのはあの時が初めてで依頼なんて何も・・・。いや、待てよ?そういえば・・・」
「何です?」
「いや実は私たちが討伐隊を組んで奴らを退治しに行こうとしていた日の前日にウチの娘が旅人の男性と話をしていたんです。娘はその旅人に助けてほしいと懇願して旅人の方は自分には無理だけど代わりに凄い人を呼んであげると言って去って行きました。その翌日に討伐に行こうとしていた私たちの前にあの方が現れて魔物どもは退治したと仰ったのです」
「旅人の男ね、そいつは怪しいな。どんな男でした?」
「えっ?どんなって・・・どんなだっけ?」
「ええっと・・・あら?どんな方だったか全く思い出せないわ、何故かしら?」
夫婦揃って首をかしげる。
「えーと、じゃあお嬢ちゃん、その旅人の男がどんな感じの奴か憶えてるかい?」
「やさしいひとだよ?」
「他には?」
「ほか?」
「あーじゃあその全身鎧の奴はどんな感じの奴だった?」
「すごいひと!」
「そ、そうか・・・。う〜ん、これ以上の情報は得られそうにないな」
「すいません、大した事ができずに」
「いえ、いいんですよ。無理を言ってるのはこちらですから、それじゃあこの辺で失礼しますね」
「あ、あの」
そう言って家を出ようとした男を一家の父親が引き止める。
「?何です?」
「もしこの先あの方に出会うことがあったらお伝え下さい、今回の事は本当にありがとうございましたと、是非また村にいらして下さい、村人一同歓迎いたしますと」
「分かりました」
そして今度こそ男は家を立ち去った。
「化物をたった一人で倒し名乗りもせずに去って行くね。まさに英雄だな、一体どんな奴なんだか」
男はそう呟いた。
この日を境に謎の英雄の話は徐々に世間に広まっていくのだが当の本人はまだ知らない。
ここまで読んで下さった方ありがとうございました。
作者の次回作にご期待下さい。
もしくは続きでお会いしましょう。