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書いてみたかった話の一つです。気が向いたらおつき合い下さい。
「ジャスティスキイィィィック!」
「うぎゃああああああ!!!」
正義のヒーローが放った飛び蹴りがあたり怪人の周囲に閃光と火花が飛び散る。そして怪人がその場に倒れるとひときわ大きな爆発が起こった。その後ヒーローは勝利の決めポーズをビシッと決める。
「はい、カットー!OK!良かったよー!撮影OKだ!」
監督の言葉とともに場の空気が弛緩する。監督はそのままヒーローへと近づくと労いの言葉をかけた。
「お疲れさん、今の動きは良かったよ。流石は期待の新人スタントだな」
「ありがとうございます!」
「この調子で頑張ってくれ、もしかしたら私が今作っている別の作品の主役スタントを任せる事になるかもしれん」
「本当ですか!?頑張ります!」
「おう、その意気だ」
・・・そんな和気あいあいと話し合う二人の姿を俺は怪人のマスクを外しながら見ていた・・・。
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「はあっ・・・」
溜め息をつきながら家路につく俺の名は藤城雄也、スタントマンだ。映画や特撮好き、特にヒーローものが好きでこの業界に入ったが正直上手くいかないものだ。
同期に入った奴はもうたまに主役級のスタントをやらせてもらえているのに対し俺はよくてやられる直前の怪人役だ。俺の実力が劣ってる訳じゃない、俺とあいつの実力はほとんど変わらない。社交性が無い訳じゃない、俺も自分を積極的に売り込んでいる。容姿で負けているというわけでもないようだ。
なのに何故ここまで差が出てくるのか。どうも俺は生まれつき他人に印象を与え難い、ぶっちゃけ少々影が薄いらしい、学生時代に友人から聞いた俺に対する女子の評価は勉強も運動もできるし容姿も悪くはないんだけどイマイチパッとしないだそうだ、パッとしなくて悪かったな!
同じ位の実力ならより好印象を抱かれやすい方が注目される訳で・・・。いまいち評価されないから見せ場をあまり貰えない訳で・・・。俺は主役を演じたい、ヒーローをやりたい、むしろヒーローになりたい!でもどうすればいいんだ?
「はあっ・・・」
そんな風にアレコレ考えてまた溜め息をつきながらアスファルトの步道を歩いていると・・・・・先程まで確かにあった俺の足元の地面が突如消失した。
「へっ!?あっあああああああ!!」
突如大口を開いたその漆黒の穴に俺は成す術もなく飲み込まれそのまま意識を失った。
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「ーーーい」
「・・・」
「ーーおーーい」
「・・・?」
「お〜い、いい加減起きてくれんかのう?」
「う・・・ん」
「おお、やっと起きたか」
「あ、あれ・・・?ここは?」
ゆっくりと意識が覚醒し目を覚ました俺は周囲を見回すとそこは何処かの執務室の様な場所であり俺はその部屋のソファで眠っていたようだ。目の前には立派な白ヒゲをたくわえたおじいさんがいる。
「ここはわしの執務室じゃよ」
「えっと・・・失礼ですがあなたはどちら様で?と言うか俺は何故ここで寝てたんでしょう?」
「ふむ、そうじゃな、まずは説明をせんと。まず前者の質問じゃがわしは・・・神じゃ!!」
「・・・」
俺は無言で携帯電話を取り出すと119番をプッシュした。
「もしもし?大至急救急車をお願いします。おじいさんの頭がおかしくなったようで・・・」
「わしボケとらんよ!?」
「大丈夫、何も怖くはありませんよ。俺も一緒に行きますから病院に行きましょうね」
「やさしい!?いやだからわしはボケとらんって!本当なんじゃ!本当にわしは神なんじゃよ!」
「はいはい、分りましたから」
「ああ!信じとらんな!ならば今から証拠を見せてやるわい!」
「証拠?」
「そうじゃな、まずは・・・浮く」
「!!」
その場で胡坐をかいたおじいさんが空中に浮かびあがった。
「更に火を吹く!手足を伸ばす!極めつけは・・・テレポーテーション!!」
おじいさんが火を吹いたり手足を何メートルも伸ばしたり連続で瞬間移動をして見せた。
「はあはあ・・・どうじゃ!こんなこと普通の人間にはできまい!信じたか?」
「あなたはダル○ムですか」
ちょっと息を切らしながらドヤ顔を向けてくるおじいさんに俺はすかさずつっこんだ。
「まあ取りあえずあなたが危な・・・普通の人じゃないってことは分かりましたが」
「今危ない人とか言おうとしなかった!?」
「気のせいです。それで俺はどうしてここにいるんでしょう?」
「うむ、それは天より高く深淵より深い恐るべき隠謀によってもたらされた結果なんじゃ」
そう言うと机の上のPCを指差す。
「あれはわしが普段仕事で使っているPCでの、わしはあれでいろんな世界を管理しておるんじゃよ」
「ふむふむ」
「あの日もわしはいつもの様に仕事しとった。世界を管理するのもなかなかハードでの、しかも複数の世界を管理しとるから大変なんじゃ」
「ほうほう」
「そこでわしはちょっと息抜きしようと日課のエロサイト巡りを始めたんじゃ」
「・・・え?」
「女子の艶姿を堪能し大興奮しとった正にその時にいきなり冷水を浴びせられる様な事態に陥った。なんと・・・わしのPCがウィルスに感染してしまったんじゃ」
「・・・・・」
「わしは大慌てで対処しようとしたが時すでに遅く世界管理システムに異常が出てしまっての、すぐに修復を行ったんじゃがまだ所々に異常が残ってしまってる状態なんじゃ、おぬしはその異常により発生した次元の狭間に落っこちたんじゃよ、そんなおぬしをわしが拾い上げてここへ運んだというわけじゃ」
「全部あんたの所為かい!!仕事中に仕事用PCで何してんの!?」
「あ、いや、すまん」
「ふ〜っ、とにかく早く俺を元の世界へ帰らせて下さいよ」
「あ〜いや、そ、それがその・・・」
「何です?まだ何か問題でも?まさか帰れないとか言いませんよね?」
「い、いや帰れる、帰る事は出来るんじゃが・・・」
「じゃが?」
「じ、実はその・・・おぬしが次元の狭間に落ちて世界の外へと放り出された後におぬしのいた世界で自動修復が行われてのう。それで開いた次元の狭間は塞がれたんじゃがその際世界はおぬしの事を異物と認識し全データの削除、すなわち最初から存在しなかったものとして修正してしまったんじゃ」
「えっ・・・、つまり俺は家無し、銭無し、職無し、経歴無し、さらに言うなら家族などの親類縁者との繋がりも無くなり天涯孤独の身になったと言う事で・・・?」
「う、うむ、そう言う事になるな。データの復元を試みてみたがダメじゃったよ」
「えええええーーーーー!!!」
俺はその場で絶叫した後膝から崩れ落ちた。
「そんな・・・何故俺がこんな目に・・・」
「す、すまん。マジですまん」
「そ、そうだ!復元できないなら再入力すれば・・・」
「いや〜ただでさえ不安定な状態になっているのに因果をいじるような事はちょっと・・・どんな不具合が出るか分からんし・・・」
「ぐはっ!!」
望みは潰えた。
「そ、それでじゃな。おぬしの今後についてわしから二つ提案があるんじゃが」
「提案?」
「うむ、一つ目はこのまま元の世界へ戻る事。何もない状態で一から再出発せねばならんが元の世界へ帰れるぞ。そして二つ目は別の世界、おぬしからみて異世界へ行き新たな人生を歩んでいくかじゃ」
「異世界へ・・・」
「実はのう。わしが管理しとる世界の一つに前から調子がおかしい世界があっての、今回の事で更に歪みが酷くなり世界の外からじゃうまく修正できずに困ってるんじゃよ。そこでおぬしに内側から修正して欲しいんじゃ」
「ただでさえこんな事になっているのになんで俺がそんな危なそうな世界に行かなきゃいけないんです」
「頼むよ、そこをなんとか。わしは基本的に世界の中に入ってはいけないんじゃよ、元の世界へ帰らなくていいなら行ってくれんか?色々と融通させてもらうから」
「結構図々しいですね。・・・はあ〜・・・仕方ない、どうせ苦労するなら異世界で再出発してみるのもいいか」
「おお!引き受けてくれるのか!?今回の事は本当にすまん、そしてありがとう!」
そう言って俺の手を取り上下に振った、調子がいいなおい。
「おぬしに行ってもらうたい世界は魔法やスキルといったおぬしの世界で言ういわゆる異能力が実際に存在する世界じゃ。科学技術よりもこれらの異能技術が発展し文明を支えておる。西洋の中世期ごろの文化を軸に異能技術が発展しておる感じかの?あと魔物もおるぞい。そこでおぬしが何をするかじゃが・・・取りあえず好きに生きてくれて構わんよ」
「?良いんですか?そんなんで?」
「ああ、いいんじゃよ。きっと悪いようにはならんから」
おじいさんが俺の顔をジッと見て言った。何なんだ?
「さて先ずはこれを渡しておこう」
おじいさんが俺に小袋を渡してきた。
「これはアイテムボックスの魔導具じゃ。向こうの世界にもアイテムボックスの魔導具はあるがこれは特別製でな、容量無制限でかなりの大きさの物も入り楽々持ち運びができる、入れた物の時間停止や促進もできる優れものじゃ。中には向こう十年は楽に暮らせるだけの貨幣と色んなお役立ちアイテムを入れておいた、無くさんようにな」
「おお、これは有り難いですな」
「あとこれもおぬしに」
おじいさんが俺に手を向けると俺の身体がほのかに光る。おお?何だ!?
《ユニークスキル:“変身!ヒーロー”を取得しました》
急に頭の中に声が響く。何だ?ユニークスキル?変身ヒーロー?うっ!頭の中に何かが・・・。
「これはユニークスキル、スキルの中でもレア中のレアスキルじゃ、持っている奴はごく僅かなんじゃよ。このスキルに関する情報が頭に流れ込んで来てるじゃろ?
このスキルは変身ヒーローに変身できるスキルじゃ。変身すると身体能力などが増幅されたり特殊能力が使えるようになる、凄く強力なスキルじゃよ。変身するには数秒間好きな変身ポーズを取り声に出しても出さなくてもいいから変身ヒーローと叫べば変身できる。ただ変身中は常に魔力を消費し特殊能力を使っても大きく減る、自身の魔力が無くなったら変身は強制解除されるから気を付けてくれ。なおこのスキルには絶対厳守しなければならない事が一つある」
「絶対厳守?何です?」
「極一部の例外を除き正体を誰にも知られてはならぬという事じゃ。この変身ヒーローの正体がおぬしだという事を誰かに知られたらペナルティが発生しおぬしは大変な事になる」
「・・・?具体的にどの様な?」
「ペナルティが発生したらその時は・・・・・おぬしは無力なただの人形と化す」
「なっ・・・!?」
「このスキルにはそういうリスクがあるがそれを差し引いても有用なスキルなんじゃよ。必ずやおぬしの助けになるじゃろう」
流れ込んで来た知識によると本当にそういうリスクがあるようだ。正体がバレたら一発アウトって何気に厳しいな、まあ上手くやるしかないか。
「さて、取りあえずこんなもんかの。何か困った時はお役立ちアイテムを活用してくれ、そろそろ送ってよいかの?」
「え?え、ええ・・・」
「では転送を開始する。今回の事は本当にすまん、おぬしの新しい人生に幸おおからんことを、さらばじゃ!」
俺は光に包まれるとこの場から消え失せる。一人残ったおじいさんが一言ポツリと呟いた。
「これもまた、運命かの・・・」