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NEIGHBORHOODS#6

 ネイバーフッズに新たなメンバーが加入した。過去に何かがあったもののそれに負けぬ強さを持っているその男と共にネイバーフッズは頻繁する邪教や魔女の類の事件を追っていたが…。

登場人物

ネイバーフッズ

―Mr.グレイ/モードレッド…ネイバーフッズのリーダー。

―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。

―ウォード・フィリップス…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。

―キャメロン・リード…元CIA工作員。

―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。

―メタソルジャー/…ネイバーフッズの新メンバー。


その他

―禿男の男…政府機関に所属する人物。

―アレイスター・クロウリー…どこかで生きている亡くなったはずの男。



1975年4月:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース


「さてと…また随分凄い人が来たな」

 ストーンズのようにシャツとジーンズで固めた長身で立派な体格の男は、ネイバーフッズがよく(たむろ)する部屋でいつものメンバーに囲まれて出迎えられていた。リードはテーブルに腰掛け、他のメンバーは各々椅子に腰掛けていた――この部屋を始めネイバーフッズ・ホームベースの椅子はほとんどがホッピング・ゴリラを基準に作られ、この恒常的に二足歩行でき少し人間に近いシルエットのゴリラは、椅子に深く腰掛けて腕を組んでいた。リードとレイザーも腕を組み、彼との係争が収束へと向かっているもののまだ気にしているドクは値踏みするように新参者を眺めている。

「肉体的には健康そのもので、いい兵士…いや、いい戦士だと思う」

 数百年前にイギリスから来たものの結局あのままネイバーフッズのリーダーとして収まっているMr.グレイ――イギリス英語を真似ているつもりの下手糞な喋り方で彼の事をからかう連中もいたが、凛然たる彼の眼前でそれを実際に言える者はほとんどいなかった――は、黒板の前に立って教師のように新参者を手でやんわりと指し示した。リードは自分が女子のブラジャーの紐を引っ張っては両親を呼び出されていた頃の事を思い出して含み笑いし、隣に座るレイザーは何事かと小声で話し合った。卿は教師のように黒板をとんとんと叩いて視線で彼らを注意した。

「いや、私は今でも兵士なんだと思う。情けなく逃げ出したが」

 ウォードが口を挟んだ。

「どれ程酷かったのかね?」

「はい?」

「君の従軍体験だよ」

 新参者は首を横に振った。

「いずれ話そう、いずれな」

 明らかにその話をする事を拒んでいた――それ以上は誰も追及できなかった。

 わざとらしく咳払いしたモードレッドは己に注目を集めて、話を切り替えた。

「では別の話をしよう。ケイン・ウォルコット、我々は早くも加わってくれた新たな仲間である君を歓迎したいと思う。ところで君はヒーローとして活動するにあたって、どういうコードネームを用いる?」

 リードが「俺みたいに実名でも構わないぜ」と言うとウォードは「私達、だろう?」と付け加え、リードは肩を竦めて微笑んだ。

「ヒーローとしての名前、か」と立派な体躯のケイン・ウォルコットは呟いたが、そのまま何かを考え込むように10秒以上の時間が流れた。

「どうしたんだ?」

 ホッピング・ゴリラが静寂を破った。

「名前が思い付かないんだ」

「まあ、そういうものはシンプルでいいと思う。俺達のリーダーを見てくれ」

 ゴリラにそう言われてケインは卿の方を見た。数秒経って、彼のコードネームが至極シンプルである事に気が付いた。

「そうか…じゃあ適当にメタソルジャーとでも名乗っておくさ」

 ケインは皮肉の混じった調子でそう言ったが、ネイバーフッズのメンバーはその名称を特に変だとは思わなかった。


 地下に作られたネイバーフッズの訓練場で、新たにメタソルジャーを迎えたチームが集結していた。彼らはメタソルジャーの持つ身体能力と、その特異な才能をこれから見る事になっていた。訓練場は広いため、とりあえずパルクール訓練に使われている障害物・段差コースを試してみた――まずリードの無茶振りでドクがへとへとになりながらコースを駆け抜け、リードとレイザーは模範的に動いて見せた。リードは堅実な動きを、対してレイザーはアクロバティックな動きであった。そしていよいよメタソルジャーことケインの番が回り、彼は無言でだっとスタートを切った。

「なんだあの動きは…」

 クールなレイザーでさえ唖然とした。ケインは予めリードとレイザーのコース取りを参考にしていたとは言え、あまりにも思い切りがあって躊躇いなく、かなり難しい動きをしていた。腰程の高さの奥行き3メートルの段差を、リードは()じ登りレイザーはごろんと背中で転がったが、ケインはそこをすうっとスライディングするように腰で滑って楽々通過し、2人が飛び付いてから登る羽目になったギャップをジャンプで軽く飛び越え、本来攀じ登るべき高い段差の箇所もジャンプで空中一回転して一瞬で登った。

 人類の限界か、あるいはそれを少々超過しているのではないかと思われた。下手するとゴリラとさえ競争できそうだった。


 その後彼らは射撃演習場に行ってそこでケインの特異な才能を確認する事となった。話によるとある時期からこの才能を認識し始めたらしかった――典型的なエクステンデッドの兆候だった。

 立派な体躯のメタソルジャーは両手でダブルアクションの拳銃を構えた。木の幹を思わす巨大な腕と頑丈そうな手は拳銃を玩具のように見せていた。だが彼は10秒構えたまま過ごしたものの、リードには彼が本気で狙いをつけているわけではない事が見て取れた。そしてこの屈強な男は構えを解いて振り返ると、振り向く事なく銃を背後に向け、そのまま的に発砲した。モードレッドはその素晴らしい視力で的の真ん中を弾丸が射抜いていた事に気が付き、リードと共に驚いていた。ウォードとドクはこうして落ち着いた状況で聴く銃声の大きさに驚き、びくっと震えた。そして当たり前だと言わんばかりの表情で、ケイン・ウォルコットは銃口を地面に向け、そのまま連射しつつ振り向いて弾切れまで撃ち続けた。後退と前進をして距離を適当に変え、その度に射角を調整しているらしかった――彼の奇行に驚いたメンバーが、全ての射撃が的の真ん中を狂い無く撃ち抜いていた事に気が付くまでに暫し時間がかかった。

「もしかして俺廃業?」

 リードがふざけた調子でそう言うと、漸く他のメンバーもざわざわと喋り始めた。

「そんな事はないさ」と新参者のメタソルジャーは冗談に対して真面目に答えた。「リターン・トゥ・センダー事件での君の活躍は聞いている。恐ろしいまでの集中力と冷静さ、チームに欠かせない存在だろう」

「あんたにそう言われると照れるな」

 彼らは握手を交わし、互いのこれからの活躍を祈ったものだった。



数日後:ニューヨーク州、マンハッタン、タイムズ・スクエア


 この日リターン・トゥ・センダー事件の追悼式が行われた。最終的な死者数は131人となり、今でも入院中の負傷者達が病院で苦しんでいた。あの狂気じみた未来人の男はドクの見立てではまず間違いなく10年前にやって来たあの男と同一人物であり、彼は今回の式典でそれをメディアの前で公表した。とは言え彼は未だに己の正体を隠し、あの滅んだ世界から脱出して来たという話も公表しなかった――世論を眺めると『マスク被った怪しい科学者が何寝言言ってんだ』という批判もあった。

 ついでに新メンバーであるメタソルジャー、及び彼の正体も自ら公表された。そして彼の凄惨な来歴も知られるところとなった。

 国歌斉唱が始まり、その様子がテレビやラジオから流れ始めると、一時的なタイムズ・スクエアの封鎖による経済的影響を唱えていた連中でさえ、それを忘れ去ったものだった。ほとんど消え去った傷跡の中、新たに建立された慰霊碑はこれからもあの事件の証人であり続けるらしかった。



数時間後:ニューヨーク州、マンハッタン


 式典が終わり、日常が戻ろうとしていた矢先、イースト・リバー上空に黒い染みが広がった。人々がそれを指差して見ていると、そこから何本もの触腕が這い出て赤黒い肉塊が迫り出した。そしてその表面に無数の目が一斉に出現し、それらは上空のある一点を見ていた。名状しがたい美があり、人々は恐れと美しさに心を奪われた。

 軍が出動したが呼び掛けには一切答えず、ネイバーフッズもそれの前で手を降ったりしたが、何も起きなかった。その巨大な肉塊はそのまま何もせず、それから少しした頃に一連の事件が発生した。



数週間後:マサチューセッツ州、某所


 野山で行われるグロテスクな集会を偵察・強襲してみると案の定その内容は悍しいものであり、離れて設置されている2つの祭壇には生け贄として捧げられた動物と殺される寸前だったが薬物で無理矢理精神を昂ぶらされていた近隣州の民間人がいたものだから、ネイバーフッズはこの冒瀆的な行為に何とも言えない心境であった。かつてこの地で行われた魔女狩り以来、こうした事件はほとんど鳴りを潜めたかと思われていたからだ。それが短期間で連続して発生したのだ。

「敵は手強い、みんな気を付けろ!」

 リーダーがそう言う通り、連中は手強かった――連中によって持ち込まれた銃も多く、しかも何やら旧約聖書や『悪魔崇拝』、そして忌むべき『リヴァイアサンへの回帰』や『ドール讃歌』などの、空想の産物だと思われているものの人知れず実在している書物からの引用文も含む怪しげな秘術も使われたものだから、まさにウォード・フィリップスの本領発揮できる状況であった。彼と肉体を共有する異星の魔法使いが厭わしい響きの呪文に対抗してくれなければ、ネイバーフッズの勝利はあり得なかっただろう。

「これで5件目だな…リードがどこから情報を集めているのかは聞かない事にしよう」

 低い声でそう呟いたホッピング・ゴリラは発射された散弾を見切って回避し、射手が次弾を発射する前にそれを殴り倒した。

その横でレイザーはショルダータックルで一人を吹き飛ばした後、その近くにいた男を剣の腹で殴り倒した。飛行しながらMr.グレイとウォードは攻撃を引き付け、隙あらば地上の連中に攻撃を加えた。リードは戦場の状況を監視し、厄介そうな射手や黒魔術の使い手を見るやその額を非殺傷弾で強打したものだった――結局リードとドクの論争は、リードがネイバーフッズの理念に基いて殺人の禁忌を犯さない事で終わりに向かい始め、その代わり例の細工の件も相手を殺害しない事を条件に半ば黙認されるらしかった。言葉遊びにならぬよう、ドクは相手へ故意に後遺症の残るような重傷を負わせる事も、チーム全員に禁止させた。

 そしてそんなドクが催眠ガスやいつもの電撃銃で鎮圧を図る中、新参者のメタソルジャーは人並み外れたスピードで駆け回り、森の木々を遮蔽物にして敵の攻撃を回避しつつ、ドクに作ってもらった非殺傷弾を発射するライフルを持って戦場を支配していた。まるでアクション映画のように彼は次々と敵を薙ぎ倒し、そんな彼に苛々した敵の偉い手と思われるローブの男が空中から砲弾じみた威力の魔法を次々と放った――メタソルジャーはその恐らく初体験であろう攻撃にも軽々しく対処し、飛び散る木の破片や土の中を飛び跳ねて回避した。そしてそこでモードレッドが後方からその偉い手らしき男を攻撃し、彼らは数分程空中戦をしていたが、一瞬空中と地上とで目を合わせた卿と屈強な兵士は、その後卿が偉い手らしき男を低空へと追い込んだ時に意味を持った。

「任せろ!」

 卿に気を取られていた偉い手らしき男が何が起きたか悟る前にケイン・ウォルコットの太い腕が木の背後から伸び、それでがつんときつい一発をお見舞いされたその男は地面をごろごろと転がり、呻いてから気絶した。

 事件は解決されたが、祭壇から赤い光が上空へと轟音を立てながら放射され、それが消えた後も何とも言えない余韻を残していた。



翌日:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース


 この事件もまた今までの事件と同様ニュースになった。世間では何やらかつての魔術結社やら何やらの再来ではないかと思われていたが、公式には死んだ事になっているものの未だ世の裏で強い影響力を持ち続けている禿頭でがっしりとした体躯のアレイスター・クロウリーは一連の事件がただの魔女被れどものやらかす珍騒動ではない事を察知し、テレビの前でほくそ笑んでいた。そして現代に生きる魔術師の一人として、ウォード・フィリップスもアメリカ政府にこれから何かよからぬ事が起きると警告したものだったが、これから起きる事の全貌が見えぬ以上は何の対策も取りようがないと突っ撥ねられた。実際彼もこれが何の予兆なのかはよくわからず、現場で発見された魔道書の低質な英語版写本からは何も読み取れなかった。とは言え政府は逮捕者に少し強く『質問』したらしく、どうやら一人が口を割ったらしかった――政府機関からやって来た何某という禿頭の大男がホームベースへ大慌てで駆け付け、これまでの事件のミーティングを開いていたネイバーフッズへ警告したのは、あの大事件が起きた当日であった。


「昨日突っ撥ねられた時に聞いたが、政府はオカルト関連の部署を新設するらしい。それまでの期間は私がこの分野の権威でいられそうだな」

 ドクの研究室の隣に作られているウォードの研究室にはあの粗雑な写本群が並べられ、黒板には現場写真がいくつも貼られていた。最初の事件では犠牲者が出た――駆け付けた時には死後数時間経つと思われる、奇妙な犠牲者の死体が粗雑な石造りの祭壇に横たわっていた。その死体は触るのも躊躇われるぐらいに冷たく、検死では未知の物質も付着していたらしい。

「こっちはタイフォンへの讃美が捧げられている。だがこれも関係はないだろう。あの神は最近活動が確認できないからね。この図案もそうだ。これは見ただけで心を砕かれるというオオマガツヒとヤソマガツヒを讃えるものだが、それとてこの件の本質ではない。あの月のように浮かぶ肉塊もだ。あれは聞いたところによるとただの監視者で、何も干渉はしない」

 こうした分野はほとんど彼の専門で、話について行けるのは長寿のモードレッド卿ぐらいであった。他のメンバーはおおよそながら、という具合である。話を聞きながら、レイザーはそいつが一体何を監視するというんだ、と疑問に思った。

「待て、こういう分野には詳しくないがこのトーテムは…」

 メタソルジャーは机から丸い5インチの石を手に取り、その図柄を他のメンバーに見せた。よくわからない輪郭の中に、2つの赤い点が横並びに配置され、何かの顔にも見えた。

「今までの事件でもこの点のように、森の中で祭壇が2つ作られていた。リード、一緒に偵察した時に確認したな?」

「ああ、俺もそいつは覚えてる。こういう連中が考える事はよくわからんが、ちょっと気になってたよ」

 そこでウォードが引き継いだ。

「君達もそう思うか。既に諸君も薄々勘付いているように、これらの事件は全て繋がっている」

 彼は机に積まれている擦り切れたペーパーバックを手に持ち、説明した。

「こういう本を好きな者はいるかね? というのも、今回の一連の事件を繋いでいる異星の実体がこの本に出てくるのだよ。間違いない、エアリーズでもバイアティスでもない、その正体は――」

 だが言い切る前にドアが開け放たれ、ネイバーフッズの意識はそちらに向けられた。

「大変だ! ヒーローさん達よぉ、今すぐ出撃しねぇとやべぇぞ!」

 大声で叫ぶ禿頭の男に皆の視線が注がれた。実はどこかで生きているアレイスター・クロウリーよりも更に屈強なその男は息を切らしかけていたが、矢継ぎ早に外を見ろと叫んだ。

 いきなり何なんだと思ったメンバーはだるそうに廊下に出て、最寄りの窓がある陸側の部屋から外を見た。何があったんだと言いかけたところで、空から尋常ならざる意匠の巨大な塊――後でそれが船だと気が付いた――が複数見え、そこからビル街へと毛むくじゃらの実体達が降下してゆくのが見えた。例の巨大な肉塊が見ていた一点こそ、侵略者の降下ポイントだったのだ。さっき一瞬爆発が見えたので、普通に考えれば侵略だろう。面食らった様子の卿は唖然としていたが、すぐに立ち直って指示を出した。

「確かに出撃しないとまずいな、みんなすぐに出撃準備を済ませろ! ドク、例の何とかという新装備の出番だ! 行くぞ!」

 ドクは「ああ、ウィルね…」と呟いて走り出し、他のメンバーも廊下に消えた。特に準備しなくてもいつもの鎧を好きな時に召喚できるMr.グレイは、乱入して来た禿男と話しながら外へと走った。加減しているとは言えかなり速い卿のペースについて来ている禿男に、卿はこれからどうするかを質問した。

「俺は相棒と連絡を取って、まあ色々するが俺のテレパシー能力は役に立つだろう。そんなに強力な奴じゃねぇが連絡には使える。CIAはヴァリアントも採用してくれたもんでな」

「それは助かる、我々は市街に出るが、もうとにかくあれを思う存分迎撃していいんだろう?」

「ああ、市民を助けつつやってくれりゃお上は大満足だろうぜ!」

「よし行くぞ!」

 全員が外へ出た頃には、既に市街が大規模な攻撃を受けており、彼らは戦慄した。

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