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ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION:WONDERFUL PEOPLE#8

 不気味な廃校内での人間ではない悍ましいものとの激戦の果てに待つ、窮極的な恐るべき事実とは? ジョージ・ランキンの旅の終わりとその後に待ち受ける惨劇が今明らかになる。

登場人物

ニューヨークの新聞社、ワンダフル・ピープル

―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。



1975年4月下旬:ニューヨーク州、ブロンクス、クーパー小学校、ロッカールーム


 ぐずぐずになった皮膚からは野戦病院で放置された膿んだ傷口のごとき凄まじい匂いが漂い、それはジョージの鼻をこれでもかと蹂躙した。噎せ返る悪臭がためにジョージはそれを紛らわす目的で轟々と叫びながら、左手の鉄パイプで混血の実体へと殴り掛かった。銃で不意を突くのも可能ではあったが、自分の手で始末してやりたかった――銃よりも近い距離で。

 振り向いた怪物の内臓じみた触腕が立ちはだかり、触腕に鉄パイプを弾き飛ばされた。前脚で蹴られてジョージは仰向けに倒れ、幸い腕と膝で防御したが痺れるように痛み、しかも彼が立ち上がる前に混血は彼の上へと伸し掛かって、そのへどろじみた口臭がむわっと押し寄せた。ぬるぬるの苔が生えた床の事は完全に忘却し、牙が不規則に生えた邪悪な(あぎと)はグロテスクな唾液の音や蛇じみた奇声を発して噛み付こうとしてきた。猛犬のごとくがつがつと噛み付こうとしたが、ジョージに腕で抑えられたり殴られたりして空振っていた。やがて触腕までも彼を殺そうとし、服を纏っていない頭部を狙って、表面に何やら鉤爪か牙が生えた先端部が顔に迫り、ぎりぎりで避けたが顔を掠めた。あるいは1925年に発見されながらも未だに生態がはっきりしない大王酸漿烏賊(だいおうほおずきいか)の触腕に生えた悪魔じみた爪のようでもあったが、実際にはその何倍も危険であったため、拳銃を咄嗟に取り出した。己の顔が烏賊と格闘した鯨の背中のような惨状になるのは受け入れがたく、さすがに次は回避できそうにないと悟った。微かに痛む頬に苛々しつつも覚悟を決め、どかどかと蹴ろうと藻掻く怪物の脚などは無視し、次の一撃に集中した。スローになった世界では触腕が左斜め上から振り下ろされており、それは彼の顔を引き裂くか皮を剥ぐと思われた。だがジョージは左手の甲でそれを受け止め、肉を抉られる痛みに耐えながら、その瞬間に相手の顔面へと発砲した。弾丸は貫通せず頭部に留まってその内部で衝撃を拡散し、さしものこの実体も己への特効たる力を纏った、命中の衝撃で(ひしゃ)げた金属塊の(もたら)す激痛で仰け反り、触腕や脚でロッカーを凹ませながらふらふらと歩き、そしてロッカーに激突してそれを反対側へと押し倒した。凄まじい轟音の中でじんわりと痛む左手の甲に目をやり、そこが手袋越しに引き裂かれているのが見えた。だがその程度の事は知った事ではない――ジョージは立ち上がりながら銃を両手で構え、怪物の痕跡を追った。すると耳を(つんざ)く絶叫が前方から鳴り響き、ジョージが耳を塞いでいる間にどたどたという音が聴こえてきた。どうやらロッカールームの入り口とプールへの入り口、その両側から何らかの闖入者がやって来たらしかった。見れば吊り下がった照明よりも上の天井部を何かが這っており、床にも新手が見えた。どう見ても混血の怪物の眷属であり、彼は容赦無くブローニングBDA9を発砲した。湿っぽい室内で銃声が鳴り響き、見れば薬莢が地面に落ちるよりも早く、床を這っていた怪物の頭が吹き飛んだ。それは人間の全身を腐敗させ痩せ細らせた畸形であり、全身を腫瘍じみたものが覆っていた。天井、ロッカー越しに出現した畸形の頭、背後、横。その全てに銃弾を撃ち込み、腐った血と臓器の匂いがロッカールームに充満した。げろの色をした血がどくどくと流れており、弾切れした拳銃をホルスターに戻すと、床に転がっていた天板を蹴り、それは床を這っていた四足歩行の顔面に突き刺さった。ロッカーから力任せに蓋を引き千切り、金属製のそれを両手で持って構えた。


 ジョージは新手を皆殺しにし、再装填した予備弾も全て使い果たしていた。ロッカーの蓋の取っ手に手を通して盾とし、先端に角張った計器が付いているガスパイプを壁からもぎ取って剣とした。頭上から怪物の気配がし、それは同族を殺された事によるであろう怒りに打ち震えていた。その場から走って離れると天井を突き破って畸形の混血が再び姿を現して、凄まじい咆哮を放った。いいだろう、遊んでやろうじゃないか。

「来てみろ!」

 ジョージはパイプと蓋で手招きし、それに合わせて襲い掛かってきた怪物の触腕を蓋で防いだ。ガスパイプで触腕の付け根を殴って出血させ、げろの色をした血膿が溢れた。蓋で相手を殴打し、それで怯んだところで顔面を斜め下からパイプで殴った。相手が血反吐を吐く様は実に愉快であった。


 パイプも蓋も気が付けばジョージの手を離れていたが、彼は素手で怪物を殴り続けた。無論続く激戦で身体中痣だらけであり、口から血の混じった唾を横へ吐いた。下唇が膨らんで鬱陶しく、頭も少しがんがんと痛むようだった。上着の下で脇や胸、そして背中にかいた汗が少々不愉快で、息苦しくなって久しぶりに喉が焼けるように痛んだ。だが集中して敵の攻撃をいなし、アッパー、フック、そしてストレートの連携で怪物も遂に沈め、半分破壊されたベンチを持ち上げると一刀両断するがごとく本気で振り下ろした。胴も顔面も破壊され、その畸形は先程殺されていた四足歩行と同様に、己に訪れる運命を恐怖しながらリヴァイアサンの領地へと送られた。ぐしゃっと音を立てて組織が飛び散り続け、それは恐らく生命力が抜けた事でこの脆弱な肉体が神の血に耐えられず崩壊を始めたものと思われた。

 これは奴らにとっての終わりなのだ。



数分後:ニューヨーク州、ブロンクス、クーパー小学校、ロッカールーム


 汗や汚れを拭き取り、頬の血も拭き取り、水分補給し、ジョージは漸くグロテスクな湿っぽい区画を抜けた。リュックの中を確認すると、急いで装填したせいでケースから落ちたであろう弾丸が残っていた。最後の一発だが、無いよりは遥かに心強いと知っており、それを装填した。銃を顔の前に持って来て、銃口を上向けて祈りを捧げるように目を瞑った――息子よ、もし私の事がまだ好きなら見守っていてくれよ。

 手袋を外した左手の甲にタオルを巻き付けて止血を図ると、彼は地下へと足を踏み入れ、己の内で燻る悪魔の一端がこの先にある何かの存在をじわじわと感じさせていた。暗いため懐中電灯を再び点けた。デリントン・フォレストでの尋常ならざる儀式を察知した時よりは微弱な感覚であったから、あるいはここがそれだけ感覚を妨げ易い特殊な環境なのかも知れなかった。苔と別れられたお陰で随分気分がよく、転がる廃品や紙切れでさえも、乾燥し切ったその様子はとても嬉しく思えた。ここはコンクリート打ちっぱなしの適当な床と壁が立ち並ぶ、かつての生徒達が決して足を踏み入れないような場所であった。踊り場があって途中で折り返している階段を下りて地下に侵入すると、先程までよりは廊下が広かった。地下だからか先程よりひんやりとしており、洞窟のような感覚であった。髪に染み付いた汗が冷やされて心地よかったものの、長居すれば体が冷え込むだろう。

 まだ開くドアを開け続け、何か重要なものが無いかを確認したが、内心では第六感じみた悪魔の感覚により、真っ直ぐ行った先に何かがある事を知っていた。念のための確認に10分程は費やし、ふと今外ではどれ程の時間が流れたのかが怖くなった。一番の恐怖とはやはり案外視覚的なものではなく、もっと根本的に何かをいつの間にか奪われている事なのかも知れない。死さえ覚悟していたが、自分だけ数時間を過ごして外では数日経っているというのは己が外界と切り離されるような気がして得体の知れぬ悍ましさであった。

 ジョージは次の戦闘や探査のために己を再起し、こうしている間にも時間が刻々と過ぎているのだと言い聞かせた。そうせねば彼は置いて行かれてしまうのだ。真っ暗で静まり返った廊下の一番奥、錆で大部分が茶色に染まった色褪せた青い塗装の両開きドアの、向かって右側のドアのドアノブへと銃を持ったままの右手で手を掛け、どちらに開くか試して外側へと開いた。中は空気がどんよりと停滞し、名状しがたい不気味さを放っていた。銃をホルスターに戻しながら中へと入った瞬間、体の中であの第六感じみた感覚が一際大きくなった。すると天井がぼうっと淡い緑色に光り、何事であろうかと思い目を向けた。見れば天井には鎖を巻き付けて吊り下がった握り拳程の、正体不明の平行六面体の結晶が不思議な緑の光を放ち、淡い緑色のゼリーのようであった。下に目を向けると元々はポンプ室かボイラー室であったのだろうが、機械やパイプはいずこかへと撤去され、途切れたパイプが天井や壁に見えた。向かって左の壁には恐らく血と思われる赤い塗料によってラテン語らしき文章が5行書かれ、右側の壁には痩せ衰えた鹿の首が剥製として飾られていた。その首には人間の指と思わしき物体を3本連ねたネックレスが掛かっており、悪趣味極まりない有り様であった。後で持ち込まれたであろう棚には大小のガラス瓶が立ち並び、その中には正体不明の生物や肉片、そして肉塊としかいいようのない、ぶくぶくと泡のように細胞増殖したであろう謎の物体が液体に浸かっていた。よく見ればそれはまだ悍ましくも脈動していた――長く見ていると吐きそうなので目を逸らした。

 奥へと足を進めると、向かって正面の壁際には学校内から持ち込んだであろう教員の机が各々密着して置かれており、それらの上には解読不能の文字が彫られた石や図書館で見たようなけばけばしい装飾の古ぶしき本が置かれており、ここは恐らく魔術師にとっての論理的な研究所か、必要な呪物でも作る工房か何かだと思われた。あるいは吐き気を催す召喚の準備をする場所であるかも知れなかった。既に持ち主はおらぬと見え、劣化や埃の様子からしてここが最後に使われてから数年経っているらしく、薬品の匂いに黴の匂いが微かに混ざっていた。すると開けたままで放置していたドアが背後でぎいっと音を立てて閉まった。ジョージは10秒間背後を凝視したが、その後は何も起きなかった。


 机の上をよく見ると古びた日記帳タイプのノートがあり、ジョージはその中身を覗いた。ここの異様な雰囲気には圧倒されたものの、このノートならば彼の乏しい魔法的だとか儀式だとかに関する知識でも理解可能な情報が得られるかも知れなかった。そして角が削れたそのノートの表紙を捲ると、その瞬間から彼は身の毛がよだつ感覚に襲われ、しかして目を離す事叶わぬままその内容をひたすら見続けた。嫌悪すべき内容であるにも関わらず、見ずにはいられなかった。汗が顔から滴り、手袋に覆われた手にはじんわりと汗が滲んだ。読み終わった上で言えるのは、これを書いた人間が明らかに正気ではなく、そしてその内容は決して世間にはフィルター無しで口外すべきではないという事であった。だが得るべき情報は得られた。あまりに悍ましいものであったとは言え。

 最初に遭遇した実体は人間の亡霊であるらしかった。通常あのようなものは人間としての形を保てず、あのような名状しがたいものへと成り下がるという事が事細かに書かれていた。そして次に遭遇した混血の怪物は拉致した人間の女に召喚したオサダゴワーの仔を産ませたとあり、オサダゴワーの宇宙的な美しさに心奪われたその女は己が産んだ子供のあまりの悍ましさ故に、精神的ショックで発狂した事で肉体が異様な速さで限界を迎え即死したという。心臓が破裂し、脳も出血で潰れていたという記述には確かに納得させられた。そしてその混血児の悪意の強さにはこの日記の筆者も手を焼いたという。細胞分裂の要領であのような四足歩行どもを産み、そして迷い込んだ浮浪者達に己の細胞を埋め込んだ――思えばあの殺さずに対応した人々の事を、その後も激動の体験が続いたが故にジョージはすっかり忘れていた。だが混血児本体が死ねば、人々は正気に戻ると書かれていた。それはこの極限の体験の中でこの上無き救いであった。

 そしてノートの最後の方の記述により、最も恐るべき事をジョージは知った。その文字は人間のものとは思えない、筆記体を冒瀆的に歪めたグロテスクな字体であり…。


 ジョージは走って部屋を出た。来た道を戻らねばならない。何せ彼は人類の存続に関わる情報を知ってしまったのだ。早くあの連絡員に言わなければ!

 彼は地下の廊下を階段目掛けて走った。廊下は20ヤード程度であったから、すぐに階段へ辿り着く予定であった。しかし最後のドアの前を通り過ぎた瞬間、彼はいきなり前方から何かに跳ね飛ばされたかのような衝撃によって吹き飛ばされた。体がじんわりと痛み、見れば彼は10ヤード以上も背後まで吹き飛ばされて倒れていた。明らかに通常の現象ではない。ジョージは咄嗟にこれが最後の難関だと悟った。

 倒れたままの彼の頭上、すなわちあの悍ましい研究室の方でがらがらと音がして、彼は仰向けからうつ臥せになり確認した。がらがらと音を立てて突風のようなものがドアをばたばたさせ、転がっている小さな塵芥が舞い上がった。そしてそれは明らかに悪意を滾らせて彼向けて突撃して来たため、無我夢中で転がって廊下の中央から逃れた。立ち上がって振り向くとそこでは再び同じ光景が見え、ジョージは限られた時間で物事を考えた。すなわちあれこそは夢に現れたポルターガイストであり、最初に遭遇した名状しがたい霊体とはまた別であるらしかった。どうやらジョージは思い違いをしていたらしく、厭わしい不可視の悪戯には夢では到底感じられなかった窮極的な悪意が潜んでいたのだ。彼はリヴァイアサンから授かった感覚によって、なんとなくポルターガイストの正体が理解できた――あの不可視の実体は明らかに彼をこの学校から逃すまいとしており、それはすなわち…。

 ジョージは一か八かで判断を下した。敵は遠隔操作であの突風を起こしているのではなく、不可視の本体が移動しつつ、あの見かけ上の突風を直接起こしている。突風が向かって来たが、ジョージは既に両手で銃を構えて待ち構えていた。相手の位置をばたばたと舞い上がる埃や欠片などから判断し、引き金を引いた。

 風は彼の隣を通り過ぎ、ジョージはもうこれ以上発砲できない銃をホルスターへと戻した。背後から見かけ上の突風が起こす断末魔の物音が聴こえ、彼は振り返る事も無くそのまま走り去った。ドアを吹き飛ばして壁のコンクリートを陥没させる勢いで暴れ狂った見かけ上の突風は、己の駆け出し使徒に悪魔的な力を授けたリヴァイアサンの領域へと送られ、想像する事さえ危険行為に他ならない饗宴の主菜として供されたのであった。



外の時間で3日後、夜明け:ニューヨーク州、ブロンクス、クーパー小学校、ロッカールーム


 ジョージは走り続け、来た道を戻りながら、あの見かけ上の突風を仕留めた瞬間からこの校内に蔓延る黯黒が消え失せるのを感じた。それは目で見たり耳で聞いたりできるものではなかったがぼんやりと感じられる悍ましさであり、それは彼の予想通りに一掃された。全ては順調だ――得た情報の重大さを除けば。

 やがて長い走行の果てに玄関口へと辿り着いた。先程通り過ぎた、気絶した人々の事も心配だが一応倒した時点で応急的に命に別状が無いかを確認しており、全員無事である事は確かめたし、帰り道でもざっと目を通して異常が無い事を確認した。後で通報するか何かした方がいいだろうが、まずは外へ…。

 玄関から外へと出ると、朝日が差し込み、明け方の放射冷却で汗がとても冷たく感じられた。だがそれと同時に心地よく、徹夜明けに感じるような日光による目の痛みや眩しさでさえも懐かしく、そして手が(かじか)む感覚でさえ親しみ深く感じられた。当然の事であろう、彼は再び人間の世界へと帰還したのだから。ふと今更になってリュックに息子の写真を入れていた事を思い出した。結局写真自体に縋る事は無かったものの、あるいは死んだ最愛の者が彼を守ってくれたのかも知れなかった。それ故彼は喪ってしまった心の空白、その位置にかつて収まっていた愛する息子を収めた写真に心から感謝する事ができた。既に死別の苦しみを乗り越え、彼は現実を受け止めて悲しみに負けず生きていけるところまで人間性を取り戻していた。

 気が付くと彼の方へと通りの両側から人々が近付き、よく見れば黒人やヒスパニックだけでなく様々な人々がいる事に気が付いた。そして十把一絡げに黒人やヒスパニックと認識していた人々とて、目を凝らせば十人十色の特徴が見て取れた、やはりこの街に暮らしている人々もまた、普通の泣いたり笑ったりする人間なのだ――決してあのデリントン・フォレストの悪意に満ち見かけ上は人間の姿をしている畸形や、この廃校内で遭遇した邪悪な人間もどきどもとは違うのである。何せ彼ら地元民達はこの3日間、彼が出てこないかと、外を彷徨いたりしながら待っていたと言っていた。それはとても嬉しかった。

 ジョージは彼らと話し、それから海を割るかのようにすうっと道を開けてくれた人々の間を通ってその場を立ち去った。彼らにはここが安全であり、もうあのような名状しがたい時間のずれや怪奇現象も起きず、そして中には気を失った人々がいる事を伝えてある。

 しかしジョージは帰還の感動によって恐るべき事実を忘れており、あっと思い出して再び走り始めた。彼があの連絡員に伝えなければならない事実、それはすなわちここの最奥に潜んでいた魔術師――その狂い果てた成れの果て――が、訪ねて来た何者かに知らず知らず唆され、そして付き合いのある連中に儀式のやり方を何らかの伝達手段で伝えたのだ。そしてそれこそが、あの肉塊の神の登場以来の数週間に起きていた、慄然たる風のイサカ召喚の儀なのである。彼らは愚かにも過去に地球から追放されていた風のイサカを引き寄せてその障壁を突破できるようにし、今頃は星々の彼方からその恐るべき地獄の軍勢が地球目掛けてやって来ているのだ。それ故あの美しい臓器じみた神は、これから起こる大事件を監察して記録するため、この宇宙の大海に浮かぶ片隅の惑星へと空間を跨いで現れたのだ。

 早くしなければ有史以来最悪かも知れない災厄がこの星を襲う事は疑いようもなかった。ジョージは死にものぐるいで見付けた最寄りの電話機からあの連絡員へと電話を掛けた。もしこれから起きるであろう大事件に直面してなお生きていられれば、彼の勤める会社が発行する新聞にはショッキングな記事が載る事になるだろう。マサチューセッツやブロンクスで得られた情報を慈悲深く大衆のためにある程度(ぼか)しながらも、それでもなお恐怖で顔が引き攣るような記事が。

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