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ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION:THE AGENTS#2

 カイルとブライアンは悪化した戦況の中でどうすべきか迷っていた。テレパシーで思考を覗くとどうやら敵は何か裏で本命の作戦を進めている。敵の目論みを阻止するため、カイルはテレパシーで手伝ってくれそうな人物を探すのであった。

登場人物

―ダグラス・カイル・マン…CIAから派遣された対超常事件の要員、軽度のテレパシー能力を持つヴァリアントの大男。

―ブライアン・ジェイコブ・マクソン…同上、カイルの戦友。

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。

―ダン・バー・カデオ…かつてサイゴンで共に戦った南ヴェトナムの精鋭兵士。

―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。



1975年4月末:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン


「状況は最悪だな。空からクソも降ってきやがるし、わけのわからん計画も進行中。敵艦及び敵艦載機は圧倒的有利、歩兵部隊もまた然り」

 カイルの禿頭は汗で光り、彼の太い筋肉もまたじんわりと嫌な汗に(まみ)れていた。彼は状況の悪さに顔を顰め、そこら中に死体が転がる銀行の中で身を潜めた。

「で、どうする?」とブライアンはカイルに尋ねた。状況は最悪であり、撃墜されたガンシップの代わりに増援部隊が現れたのだ。駆逐艦は全長が1300フィートはあろうかという、地球の基準では信じられない程の巨体であったが、その運用法からして恐らく主力艦ではないと地球側からも推測されていた。上下が潰れ気味のラグビーボールに硬い殻を被せたがごとき様相をしており、巨大な甲殻類にも見えた。

「敵艦が出現、敵艦載機が出現、敵艦載機が出現、敵艦載機が出現、敵艦載機が出現――で、何か言ったか?」カイルは上の空で銀行のカウンターの裏から通りを覗きながら、これからすべき事を見定めた。

「お前アホだな。とにかく何かやらなきゃならん」

「アホとは心外だぜ。まず人手が欲しい。マジであれが大規模な陽動だってんなら、相当ヤバいぞ」

「でもな、今みんな手一杯でどうしようもないぞ。手伝ってくれる奴なんざ…」

 カイルは弱気にならないよう、最後の方がか細くなったブライアンの言葉に頭を横へと振り払い、そこでふとネイバーフッズの新人が今何をしているのかがわからない事に気が付いた。あの衝撃のデビューを果たした新人ヒーローは今どこに? 手が空いている可能性は?

「おい、ちょうどいい感じの奴が思い浮かんだぞ」

 カイルは眉間に皺を寄せて集中し、目を閉じて闇の世界へと浸り耳を塞ぎ、そしてこの街全体へと探査を掛けた。あまりやり過ぎると頭がふらふらしたり痛む事もある――徹夜明けのように。だが構わずカイルはあの会見やホームベースで見かけた際に感じたメタソルジャーの感覚を頼りに、それと一致する精神を探した。不可視の海の中でこの星のものではない獰猛な精神がいくつも混ざり、そして先程は感じられなかったものの、触れてはならない太陽がごとき巨大な精神波動がいずこからか感じられた。カイルは恐らくそれはあの新聞記者が言っていた風のイサカとやらだろうと推測した。そしてやがてメタソルジャーのものと思わしき精神を発見し、それはどうやら誰かと一緒であった。カイルは思い切ってその精神へとコンタクトした。いきなりの心への言葉の投げかけは危険であり、彼らがよく話すインディアンの血を引く同じCIAの科学者によれば下手すると発狂する可能性もあるらしかった――精神的な分野は彼の専門ではないはずだが。いずれにしても、無責任な話だがあの強壮そうな精神の男がその程度でどうにかなるとは思えなかった。しかも今はこの国の命運もかかっている。

『さっきホームベースで会ったよな。俺はカイル・マン、CIAだ』

 反応は無かった。プライバシーや良心がためにぼんやりと感情の種類が見える程度にしか心を読まず、思考を丸っきり読んでいるわけではなかったものの、メタソルジャーの精神は妙な感覚を受けて明らかに困惑していた。

『気のせいじゃなくてマジモンのテレパシーだ。いきなりで恐縮なんだが、俺はあんたに手を貸して欲しい。おっと、返答する場合は頭の中で言いたい事を意識すりゃいい』

 やや間が開いた。ぎこちない返答が来た。

『これで聞こえるか?』

『その調子でバッチリだ。さて、今俺と相棒は困った状況だ。何せ敵の増援部隊がわんさかだ』

『それはこっちでも確認した』

『そこでもう一つ、これはあんたも知らねぇと思う。俺はこんな具合にある程度テレパシーが使えるヴァリアントで、先程敵の精神を覗いた。そしたらあの派手に暴れてる戦力はどうやら囮らしい』

『敵は何を?』

『わからん。何かの計画があって、あの大部隊は陽動任務を成功させりゃ帰れるらしい』

『気になるな』

『そこでだ、俺と相棒は今のところは手持ちの武器じゃ全く反撃できないお荷物だし、敵の計画を仮に阻止するとしても無茶だ。もしもあんたが手を貸してくれりゃ、俺達はなんとかして連中を出し抜ける』

『まあ、とにかく君のところへ向かえばいいんだな? 今優れた兵士と一緒にいるが彼も連れて行こうか?』

『本当か? そいつは助かる、こっちの場所は――』


 メタソルジャーことケイン・ウォルコットとのテレパシー交信の終了後、カイルはもしかしたらと思い、次はあの新聞記者の精神を探した。今朝ブロンクスから電話を掛けてきた以上、未だNYCのどこかにいても不思議ではない。すると今度は簡単に発見した。彼の精神は感覚的にはそう遠くない場所にいると思われた。では呼び出してみるとしようか。

 カイルがただの新聞記者でしかないジョージ・ランキンに拘ったのには理由があった――ネイバーフッズのウォード・フィリップスからは元軍人だと聞いていたが経歴不詳、海兵隊にいた事、国外を主に飛び回っていた事、退役後に息子を亡くした事以外は何もわからなかった。カイルやブライアンがその気になれば、例えばその兵士お気に入りの娼婦から成人雑誌、どこで負傷してどこどこの病院の看護師と(ねんご)ろになった事や部隊の誰と同性の肉体関係にあるかという点まで網羅してリストを作ったりプレゼンの用意をする事さえも、3日あれば可能であった。しかしこのジョージ・ランキン元大尉は謎に包まれており、その分厚いカーテンの向こうに何を隠しているのかは(つい)ぞ不明であった。

 そしてこの男はあの危険極まりないデリントン・フォレストやクーパー小学校から無事に生還しているではないか。この事実は恐るべきものであった。無論の事、カイルは今朝ジョージとの電話を切ってから、ラングレー勤務に(くだん)の科学者に両ポイントの詳細を電話で尋ねた――以前ここが所謂魔法だとか古代の儀式だとか、信じられないにしても確かに存在する要素を含有している事を耳にしていたから、科学だけでなくそちら方面にも詳しい彼に尋ねたのだが、その危険度は途中でありがたい講義を打ち切って欲しいとさえ思えた。行方不明者が過去に何人も出ており、そしてその場所にある危険な影響とやらが眉唾ではないのは、かくして手出しが滞っている事からも明らかであった。あるいは東側であれば、少々の人的犠牲を度外視しながら強行偵察したり障害を排除するかも知れなかったが、それをやると政府内や議会の無用な対立や議論で向こう何年もの間貴重な資金と時間とを費やす事になる。

 いずれであろうと、ジョージ・ランキンは事実としてその危険な両ポイントを脱出し、有益な情報を持ち帰った。最初は何やら混沌の神々の儀式を見たという話や人間より手に入れ易い動物を生け贄に使ったという話、そして今朝は時間感覚の狂った廃校に蔓延る危険を突破しながら正気を失った民間人を助けつつ時間を正常に戻したという話――確認してみたところ、本当に人知れず行方不明になっていた外部や地元の低所得者やホームレスが救助されていた――やその最奥で持ち帰る事さえ憚られる愚劣極まりない日記を読み、地球の阿呆どものせいでせっかく先人達が地球へと来れないようにしていた邪神が地球侵略できるようになり、今頃宇宙空間のどこかを慄然たる軍勢が地球目指して向かっているという話を持ち帰った。

 そして重要なのは、彼がそれぐらい優秀であろうという事だ。即席工作チームの戦力に加えられる程の。

『よう、俺だ。あんたと連絡していたカイル・マンだ。実は俺にはこういう能力があったってわけだ。いきなりで悪いがテレパシーであんたの精神を探してこうして話し掛けている』

 突然の事への困惑は、ジョージの精神にあまり見られなかった。むしろ不可思議な事にもある程度慣れているかのような――当然だ、彼はデリントン・フォレストとクーパー小学校を制覇した男だ。

『心の中で言いたい事を意識すりゃあんたの言いたい事が伝わる。おっと、さっきメタソルジャーには言い忘れてたがあんたが大体どういう感情を抱いているのかぐらいしか読まないようにしてるぜ。つまりあんたが今どういう事を具体的に考えているのかまでは読んじゃいない。大まかな感情がバレるのも嫌ならそいつもやめるさ』

『こういう事か』

『おお、いい感じだ。ちゃんと聞こえるぜ』

『だが君が私の心を完全に透視していないとどうして言い切れる?』

 痛い指摘だがこんな時にはやめて欲しかった。カイルは少々苛ついた。

『ああ、まあそいつはそうだけどよ』

『冗談さ。別に大体どういう感情を抱いているが程度は構わないよ。その方が会話? でいいのかな、そいつも楽だろう。昨晩、いや実時間では3日程凄まじい体験をしていたから少し冗談でも言いたくなったんだ。怪我もしたからね』

『何? 大丈夫か?』

『手をちょっと縫って出てきたところであの大虐殺が始まった。私はひとまず物陰に隠れている』

『位置は? もしよけりゃあんたにちょっと俺達の任務を手伝って欲しいもんでね』

『私が?』

 カイルは色々な感情が混ざった曖昧な色合いのジョージの思考を読み、それがどのようなものなのか本人が『口』で言うまで待った。

『機密だとかが構わないなら…まあ手伝いたいとは思っている。自分でもよくわからないが、こうして自分が荒事で必要とされている事をどこか嬉しく感じているらしい』

『退役前は一体何を?』

『ふっ、知らない方がいい』

『そいつはごもっとも。で、あんたの現在地だが』

『私は今東42丁目の工事中のビルに隠れている。生憎相棒は弾切れのブローニングだけだが、なんとかそっちに行ってみる』

『大丈夫か? 迎えに行っても構わないが』

『いや、なんとかするさ。そっちの位置は?』

『俺達は7番街沿いの銀行にいる。40丁目が交差してる近くの奴だ』

『あそこか…かっこつけて自分で行くと言ったのは間違いだったな。だがやってみる』

『本当にいいのか?』

『それより私が到着するまでに戦力でも整えておいてくれ』

 かれはやると決めたらやるのだろう。突っ走り易いようだが、それもまたよし。スタンドプレイ好きというわけではないらしかった。

『ちなみに君はエクステンデッド? それともヴァリアント? 亡くなった友人がヴァリアントでね』

 カイルは理解のありそうな者の出現に、思わずカウンターの後ろでだらしなくカバーを取っていた姿勢を正した。相棒の巨漢が妙な動きをしたのでブライアンは戦場の緊張も忘れて思わず怪訝な目を向けた。

『俺はヴァリアントだ。あんたは偏見とかそういうのは持って…ねぇっぽいな』

『ヴァリアントも人間だと私は思う。亡きヴァリアントの友のためにも、私はこの街を守るために何かをしたい』


「カイル、どうだった?」

「悪くはねぇな。3人の従軍経験者、内一人は超人兵士でエクステンデッドだ。しかももう一人はデリントンとクーパーを切り抜けたあのジョージ・ランキンで、残る一人もあの屈強なエクステンデッドによれば優秀な兵士らしい」

「素晴らしい、歩兵5人の工作部隊、出撃ぃーってな」

「いや、マジで叩き潰してやろうぜ。マジでな」

 カイルは真顔でブライアンを見据えて肩に手を置いた。ブライアンも真剣さを察してその手を取り、彼らは友情を示すやり方で固く握手した。



数分後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン


「これで全員揃ったか?」

 ジョージは改めて即席チームを見渡した。退役した己はこの場には場違いであるように思えた。メタソルジャーとその旧友のカデオも既に退役してるとの事だが、それでもどこか気恥ずかしかった。だが彼が昨晩発揮したスキルは全て本物であった。そして抜け目無く、ジョージは最初の大反撃で戦死した敵猿人兵士のプラズマ兵器を奪い、それの使い方も隠れていた時に覗き見して知る事ができていた。どこか生きているようにも見える甲殻類じみたプラズマ兵器は見た目よりは軽く、歩兵のライフル程度のものであった。念のため件のリュックにも拾った予備のマガジンを収納しており、ジョージ以外のメンバーもまた、一体この元海兵隊は何者なのかと訝しんだ。しかもその元海兵隊は隠し事はしないようにすると言って、己が悍ましくも美しい悪魔と契約してオカルト的な生物に対する特効能力を持っていると打ち明けた。今のところ敵は科学を用いる普通の異星人であるらしかったが。

 ケインとカデオのコンビもまた異彩であった。一人で遊撃して敵を蹴散らしていた超人兵士兼ヴァリアントのヒーローと、彼と再会して早々に援護を開始できた元南ヴェトナムの特殊部隊員。CIAの2人とジョージは彼らの研ぎ澄まされたナイフじみた戦闘能力に思わず畏怖した。

 無論だが、カイルとブライアンもまた他のメンバーを内心驚かせていた。彼らはカイルのテレパシー能力による情報収集を軸にした作戦遂行が可能であり、両者ともよく訓練され、かなりの巨漢であった。今までにどれ程の困難な作戦を成功させたのか?

「そ、そうだな。これで全員だ」とブライアンが少し動揺し、かつ期待感と共に答えた。何故だか知らないが、カイルの言うようにこのチームならなんとかなるような気がした。それからカイルが最後の説明を始めた。

「よし。じゃあさっきも説明したが簡単におさらいだ。連中はどうやら駅に侵入して地下へと何かを仕掛けるつもりらしい。はっきりとはわからんが、連中はそいつの破壊力が…信じられんだろうがこの星全体に及ぶみたいな事を思考していた。思考を手繰って行けば核心まで辿り着くのは不可能じゃない。もし敵にこっちの接近がバレた場合その抵抗はかなり激しいだろうが、本命の作戦を必ず阻止する。あんた達は軍属でもどっかの工作員ってわけでもない。だから今逃げたい、ここに残りたいって奴がいれば、それは仕方ないと思う。事実俺もチビりそうだからな」

 くすっと全員が笑った。誰も逃げ出すつもりはないらしかった。

「みんなこれ以上ないってぐらい戦意があるみたいだ」とカデオが言った。カイルが頷いて話を進めた。

「あんたらの目を見るとわかる。逃げたいけど場の空気で言い出せないとかそういうのじゃない、マジでこれからやってやるって目をしてる。俺はそういうのを待ってたんだ。じゃ、俺は戦闘しつつ引き続きテレパシーで偵察するから、指揮自体はメタソルジャーに頼むぜ」

「了解だ。最後に…」

「何か言いたい事が?」

 カイルは首を傾げた。

「いや、大丈夫だ。ネイバーフッズの他のメンバーに知らせるかどうかで悩んだんだが、更なる混乱を与えるだけだと思う。やめておこう」

「あんたがそう思うならそれでいいんじゃないか? 俺は部外者だからわからんが」

「そうだな、では行こうか。我々は必ずこの街を取り戻し、そして地球を救う。やってやろうぜ(レッツ・ドゥ・ディス)!」

 それまでは普通に話していたケインだが、そこはなんとなくMr.グレイの言っていた言葉を真似した。そして何故か全員更にやる気が出た。

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