イントロ 2
次回への布石です。
那由他と夏澄のお話になります。
この話、実は無駄に伏線張ってるんで、どうやって出して行こうかなと考えてます。
どうも、色々考えて書いている割には盛り上がりに欠けるというか、どこまで行ってもローブローというかオフビートと言うか……メジャーな作りを目指してる割にはアングラからまったく脱却できません。困りました。苦笑いです。
因みに、作中のレゲエボサノバ云々はすべて実話です。私も2度ほど観客として参加したことがあります。ライブハウスで聞くのとはまた違う雰囲気があってなかなか趣があります。
あたしはみなしごやった。
どこで生まれたかもわからん。
物心ついた頃にはハゲの坊さんしか周りにおらんかった。
あたしが髪切らへんのは、多分、その反動やと思う。
あたしが住んでたんのは寺の境内の中にある施設や。この寺は1000年ほど続く古い寺で、アホみたいに広い。それを利用して、大昔から、戦災やら飢饉で親亡くしたコを引き取って育ててたっちゅう話や。ちゃんとした施設になったんは、にじたいせんとかいうのが起こった後らしい。
施設いうても、あたしみたいな親に捨てられた子供の他にも、事故で親亡くしたコとか、後、親がほとんど家空ける仕事してるコらもおる。
だから、施設いうても、結構デカい。
ただ、場所柄いうんか、目に見えんもんが見える連中が、寺の坊主も含めて何人かおって、あたしは特にその力が強かった。最初はおもろうて話し相手になってたんやけど、タチの悪いのがたまにおって、あたしの元気を吸い取ろうとする奴とか、寂しいからいうて、【自分が本来行かなあかん所】にあたしを引きずり込もうとする奴らもおった。
むかついたからそいつらには蹴りいれたろ思たんやけど、入らへん。ま、体がないさかい当然なんやけど。
どうやったらそいつらドツきまわせるやろ思て試行錯誤してた頃、新しいコが入ってきた。
今でもよう覚えてる。あたしもちっちゃいけど、そのコもちっちゃかった。どことのう上品であたしみたいな野良猫とは違うと思た。目が大きいてよう笑うめっちゃ可愛いコやった。
あたしはちょっとひねくれてたから、そのコのことが最初気に食わんかった。たまにイジめたりもした。でも、そのコはいつも笑顔やった。あたしを避けたりもせんかった。
あたしは余計むかついて、イジメもどんどんヒドなってた。
そんな日がしばらく続いた頃のことや。
その子が便所入ってるときに、便所に爆竹投げて逃げた。お上品な顔クソまみれにして笑いもんにしたろ思たんや。
もちろん、坊主どもに見つかったらヤバいさかい、なるべく遠くに逃げた。
隠れた先は、ちょっと離れたとこにある池やったんやけど、ただ、そこは、にゅうすい自殺の多いところで、タチの悪いのもぎょうさんおるから、あたしらみたいな見える奴は特に近づいたらあかんって坊さんにいわれてたんや。そのときはすっかり忘れとったけど。
あたしは、元々祓う力が多少あったから、最初は、ここの連中ひつこいなくらいにしか思てなかったんやけど、両手両足つかまれたとき、ちょっとビビッた。
あたしがいつも相手してる連中とは違った。全然動けへんねん。悪さした後、境内の樫の木に縛られたときの方がまだ自由に動けたくらいや。
あたしはそのまま池に引きずりこまれた。ホンマに殺されるかと思た。正直、滅茶苦茶怖かった。
そのときや。
いつもイジメてるそのコが来た。さすがにウンコはついてなかったけど、綺麗なスカートやらシャツに黄色いシミができとった。自分でやっといておかしな話やけど、あたしを見るそのコの悲しそうな目見てたら、悲しいやら申し訳ないやら悔しいやら助けて欲しいやらで、あたしは思わず泣いてしもたんや。
てっきり笑いよるんかと思たら、そのコはそのまま池の中に飛び込んで、あたしを引っ張りあげようとした。当然、霊どもはそのコも引きずり込もうとしよった。
そのときや、そのコの右手がぱっとひかった。奴らはそれで一瞬で消えた。
そのコもそんな能力持ってて、しかも、あたしより祓う力が強いやなんて思いもせんかったから正直びっくりした。
2人で必死で池から出た後、そのコが言いよったんや。
あたしと友達になりたいて。だから探しにきたんやって。おんなじモンが見えるあたしのことが気になってたらしい。
でも、そのコはたぶんきがついてなかったやろな、あたしと彼女が見てるモンが少しだけ違うことに。
なんて返事したかはおぼえてへんねんけど、あたしは、その日からそのコと仲良くなった。そのコはあたしが思てたとおり、元々はエエ所のお嬢さんで、飛行機事故で家族亡くして、院に入って来たらしい。
入所のときに、親戚か親族かわからんけど、そいつらからぎょうさん寺に寄付があったんやて、あたしが仲良うしたってる小坊主から聞いた。そんな金があるんやったら引き取ったらエエのに、色々面倒くさい絡みがあるいうて金だけ渡しよったわけや。だからあたしは金持ちがいまだに嫌いや。あいつらは金さえ払たらそれでええと思とるからな。
でも、そのコはそんなこと気にした様子もなく、あたしと仲良うしてくれた。紅茶やらハーブやらに詳しくて、楽器もうまくてピアノもヴィオラもベースも弾けるコやった。あたしも楽器教えてもろたり、音楽教えてもろたりした。
あの上品な雰囲気が気に食わんで、イジメようとしよったあたしみたいな奴もやっぱりおったんやけど、そいつらはあたしが片っ端からドツきまわしたった。
あたしらはそうやって生きてきた。
小学校卒業する前くらいやったかな。
そのコはクラス委員もやってて、その日はその用事がある言うんで、あたしは先に帰った。
ただ、ホンマの理由は、そのコがちょっと前からやたら懐いてた男子がおって、あたしは何か胸糞悪いから顔も見たことなかったんやけど、そいつも一緒にクラス委員やるんかて聞いたらそうやっていうたさかい、ムカついたんや。
でも、途中で思い直して、やっぱ一緒に帰ろうと思って校門前で少し待ってたんや。そのうち、暗くなってきて、空見上げてたら真っ黒に曇って今にも降りそうやった。その空見てたら自分の気持ちと妙にシンクロして、ものすごミジメな気持ちになって、走って帰ったんや。
その日は、あたしのいる寺と懇意にしてるキリスト教の教会があるんやけど、そこの連中がみんな楽器うまくて、その連中と法堂で一緒にセッションをやるっちゅうんで、あたしはそのコが帰ってきたら一緒に参加しようと思て部屋で待っとったんや。
みんなでデカい音鳴らしたらあたしのモヤモヤもふっとぶんちゃうかて考えもあった。
寺でセッションとか聞いて驚く奴もおるかも知れんけど、檀家の連中の中には音楽好きなんもぎょうさんおって、レゲエとかボサノヴァのライブを法堂で開催したりしよるんや。だから別段珍しいことでもない。その教会の連中も音楽仲間みたいなもんらしい。音楽は宗教の垣根を越えるてか?あたしは、そういうのあんまり好きちゃうけど、みんなで楽しく音楽やるのは嫌いやない。
ただ、いつまでたってもそのコが帰ってきいひんねん。ライブはじまってもまったく帰ってこん。
さすがにおかしい思て探しにいこ思たときや、寺に電話があったんや。
そのコが雷に打たれて意識不明の重体やて。施設の院長もやってる坊さんがあわてて病院に行きよった。あたしも連れてけいうたんやけど、連れてって貰えんかった。
キレて暴れまくったん覚えてるわ。錫杖やら木魚のバチで何人か若い坊主の頭ドツいたった。
しこたま暴れた挙句、捕まって縛りつけられた木のところで大泣きしてあたしはそのまま寝てしもた。
気がついたら朝やった。あたしはちゃんと布団に寝かされてた。そのまま、そのコの容態を聞こうと思て、院長の部屋に駆け込んだんや。
そしたら、そのコがおった。奇跡的にも、からだは全然大丈夫やて聞かされて、あたしは嬉しいて、思わず抱きついた。そのコもあたしの顔見て、嬉しそうな顔したんやけど、何か様子がおかしかった。その横で院長はものすご複雑そうな顔しとったんを覚えてるわ。
そのときは普通に喜び合って抱き合って、もう、あたし嬉しいてそのコが嫌がるのも無視してホッペにチューしまくったった。そのときはそれで終わった。
ただ、次の日に知ったんやけど、そのコの記憶が落雷のショックで一部吹っ飛んでた。いうても、断片的な記憶や。あたしの顔も、自分の歳も境遇も全部覚えてた。学校の授業のこととかそんなん大したことないからな。あたしは大して気にもせんかった。なによりも、そのコが無傷なんが嬉しいて仕方なかったんや。
さらに次の日やった。
あたしは院長に呼ばれた。大事な話があるって聞いた。
そのコはおらんかった。院長室では、一昨日よりも疲れた顔した院長が座っとった。気のせいか、ハゲ頭の輝きも衰えとったように見えた。
最初、あたしは、そのコの記憶喪失の話かと思ってた。でも、違った。そして、それが、院長の顔が暗かったホンマの理由やった。
そして、すべての話が終わった後、ただ一言、出来るか?って聞かれた。
あたしはこう答えた。
出来る。
カスミンを一生守ったる。