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ギターと聖霊と彼女と奴らと(仮)  作者: セント・トミーの息子
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レイニング ブラッド

この話、もともと書いていた文章に加筆修正しながら書いているのですが、直せば直すほどおかしく感じています。あれ~?って感じです。


「あたし、六価呼んでくる。あの子、まだ多分、控え室のほうにいるから」

 そう言って、控え室のほうへと向かおうとした夏澄を光が「ちょっと待て」と呼び止める。

「六価、一度もこっち来なかったけど、本当に大丈夫なのか?ある意味、正解だったかもしれないけど……」

 複雑な面持ちでため息混じりに言う光に、夏澄も複雑な表情で返した。

「……身体はね。でも、ものすごくショック受けてるみたいで……。心神喪失状態っていうの?相当参ってた。あの子、本当はすごく気が小さいから……あの太った人に襲われたのが、相当ショックだったみたい」

「……まぁ、でも、それが普通の反応だよな。俺、まだ興奮してるから、なんとかもってるけど……」

 そこまで言ってから、少し安堵の表情を浮かべ、

「……でも、夏澄まであそこにいなくてまだよかったよ」

 その言葉に、夏澄の眉が少し吊り上った。

「なに、それ?生穂や六価だったらいいってこと?意味次第じゃ、おにいちゃんでもあたし怒るよ?」

 両手を振って焦る光。

「いや、そういう意味じゃなくて……変な言い方になるけど、夏澄まで六価みたいになってたら、俺一人じゃホント、何も出来なかったから。マジで夏澄がしっかりしててくれたことに感謝してるんだよ、俺」

 夏澄は少し目を伏せると、思い返したかのように、

「あたし、あの時、飛んできたバスドラよけたはずみで奥の控え室に転がり込んで……一瞬だけだけど気を失ってたから……一部始終は見てないの。だから、まだ少し冷静なだけだよ」


 …………。


 短い沈黙。畳み掛けるように起こった現実離れした怪異に、光も、そして夏澄もそれ以上続ける言葉を発することが出来なかった。困っていいのか、悲しんでいいのか、怒ればいいのか、それすらもわからない。

 光はチラとレグバ≠生穂の方を見る。生穂がパニックを起こしていたのはほんの数分ほどで、その後は落ち着いた様子を取り戻し、那由他と彼女の体内にいるレグバが順を追って経緯の説明をするのを、何度も頷きながら噛み締めるように聞いていた。

「案外、度胸据わってるんだな、彼女……ちょっとびっくりした」

 感心したようにもらす光の言葉に夏澄が頭を振る。

「ううん、そうじゃないよ。生穂はすごく頭がいいコだから状況把握が早いだけ。相当ショック受けてるのは間違いないよ。だって、さっきから吃音でてるもん」


「……吃音?」


 その言葉に、光は再び生穂のほうを見る。レグバと那由他の説明を聞きながら、時折彼女が漏らす言葉には、確かに吃音が混じっていた。

「そういえば、さっきから彼女のろれつが回っていなかったのって……」

「うん。あのコ、もともと吃音症の気があるから。今でこそ大分マシになってるけど、1年のときはもっときつかったよ。あのルックスでただでさえ目立つのに、吃音症のせいで余計に悪目立ちしちゃうから、普段はメチャクチャ気を張ってしゃべってるの。だから、わかんないだけ。今、そんな余裕も失くしてるから思い切り出てるけど……」

「彼女が無口なのって、そういうことだったのか……なんでまた、ボーカルなんて……」

 吃音賞の人たちは、自分の吃音を恥じるあまり、極力目立たないようにする傾向がある――そう何かの本に書いてあった記憶が光の脳裏をよぎる。にもかかわらず、生来、目立ちたがりでも気が強そうにも見えない彼女がバンドで一番目立ってしまうボーカルを選んだことが、単純に不思議だった。

「さぁ……それはあの子に直接聞いて。それよりも……」

 夏澄が困ったような目で光の顔を見つめる。

「ん?」

「本当によかったの?あたし、今、頭の中グチャグチャだから現実感がまったくなくて、なんて言えばいいのかわからないけど……」

「契約のことか?」

「……そう」

 悲しそうに俯く夏澄。光は精一杯元気な笑顔を浮かべ、

「俺も、正直なところ実感がないんだ、自分のことなのにな。さっきまで身体中痛かったのに、今はまったく痛くないし、何なんだよって感じだ。もしかして、さっきのことは何かの勘違いだったのか?俺たちって集団幻覚でも見てるのかな?」

 少し冗談めかして言う光に、夏澄は俯いた後、深いため息をつく。

「ううん。これ、間違いなく現実だよ。幻覚にしては少しもロマンチックじゃないもん」

「まぁ……そうだよな。幻覚にしちゃ感覚がリアルすぎるよな」

 気まずさと困惑が混じった空気が流れる。空気を変えるように、光は半ば芝居めいた様子で周囲を見渡し、

「そういや、救急車遅いな。警察もとっくに来てたっておかしくないんだけど……」

「あたしもさっきから気になってた。それに、これだけの騒ぎなのに、外野の声も聞こえないなんて……いくらなんでもおかしいよ」

「俺、外の様子見てくるよ」

「ちょっと待って。あたしも一緒に行く」

「いや、夏澄は六価を呼びに行ってくれ。なんかあったらすぐ動けるように。意味わかるよな?」

「……わかった。そっちも何かあったらすぐに帰ってきて」

「わかってる。俺もまだ死にたくないしな。いくら期限付きだっても」

「……」

 眼前で泣きそうな顔になる夏澄に、しまったと心中で舌を出し、逃げるように入り口の階段へと向かう光。とにかく余計なことは考えたくなかった。混乱する心中に気を取られるより、少しでも先に進みたかった。

 階段を駆け上がり、ライブハウスのドアを開ける。同時に、吹き込んでくる大粒の雨。思わず顔を逸らせた光の近くで、突如、白い光が弾けた。

 ビッシャァァァン!

「うぉっ!」

 思わず声を出し、顔を背ける光。ライブハウス脇の電信柱から白い湯気が上がっていた。

 「大雨に落雷かよ……頼むから俺のところには落ちないでくれよ」

 祈るように手を合わせると、そのままドアを閉め、激しく雨が打ちつける遊歩道を走る。体質的に雷が落ちやすいことは自覚していたが、立て続けに起こった異様な体験に感覚が麻痺してしまっていたせいか、何故か恐怖はそれほど感じなかった。


 吹きすさぶ風雨の中を数分ほど走ってから、光はある異変に気づいて立ち止まる。


「おかしいな……なんで誰もいないんだよ?さっきライブハウスから逃げた人は?警察は?何だこれ?」

 雨の打ちつける通りには、ただ街灯がうっすらと灯るだけ。人はおろか、生物が活動している気配がまったく感じられない街を、光はただ呆然と見つめていた。

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