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ギターと聖霊と彼女と奴らと(仮)  作者: セント・トミーの息子
10/11

ノー モア ヒーローズ

サブタイとはまったく関係ないバンドですが、先日、知人のバンドがサポートアクトを勤めたTurnstileの来日ライブに行ってきました。

Turnstileのホームタウンであるボルチモアというと、知ってる人は知っているハードコアのホットスポットで(と言っても、私はTurnstileとpulling teethくらいしか知らなかったのですが)、さすがに激戦区から選り抜かれて来日しただけあって、非常に盛り上がりまくっていたライブでした。

恐ろしくモッシーなステージングで、終始、人間が頭上をロケット花火のように飛び交っておりました(笑)

若いエネルギッシュなパフォーマー、そしてオーディエンスと身体をぶつけ合って、とてつもなく疲れましたが、非常に楽しかったです。


内容と全然関係ないですけど……。

次回から、主人公たちが本気で動き始めます。

 カスミンは昔、あたしと同じ施設にいた。彼女もまた親無しやった。

 カスミンは、飛行機事故で両親亡くして入ってきたんやけど、その他に双子の姉ちゃんがいた。

 ただ、彼女とは、生まれてすぐに死に別れたらしい。

 でも、元々同じ身体をもって生まれてきたからやろか、その双子の姉ちゃんの魂は成仏することもなく、ずっとカスミンの身体の中に入ったままになってた。

 それに違和感を感じることもなく、2人はずっと同じ身体の中で育っていった。

 その頃、カスミンにはあたしなんかよりはるかに強い霊能力があった。

 あたしも一度その力に助けられてるけど、すごい力やった。それも、今から考えたら当たり前や、カスミン自体が死霊の使い魔持ってる対死霊のエキスパートみたいなもんやからな、

 ただ、やっぱり身体の持ち主とそこに寄生してるだけの魂、いや、生者と死者の違いなんやろな、同じ視点を共有しながらも、2人の性格はまったく違うものになっていった。

 妹は、喜びと慈しみに満ち溢れた。

 姉は、怒りと恨みに固執して歪んだ。

 でも、姉の性格が表に出ることはなかった。光は闇を生み出すが、闇は光を生み出さん。光は常に闇を凌駕すんねん。カスミンのひまわりみたいな心は暗いエネルギーに侵食されることはなかったんや。それに、あくまで姉ちゃんの魂は生者のモンやなくて死者のモン。カスミンの体からエネルギーを貰って存在してるだけ。まっとうな生のエネルギーは、死のエネルギーに負けることはないんや。本来ならな。

 でも、ある日、そのタガが外れる。

 

 

 5年前のことや。

 カスミンは帰宅途中に雷に打たれた。

 大雨が降ってて、路面はほとんど池状態になってたそうや。だからか、電流が体を流れんと、表面上を流れ、水溜りで拡散して彼女は助かった――


 ――というのが、警察と病院の見解やった。

 でも、ホンマは違う。

 

 カスミンに落ちた雷撃はそのまま姉ちゃんの魂を貫いて、あるところへ抜けた。だから、カスミンは極端に軽症で済んだんや。

 死者である姉ちゃんの魂は地上の存在とは違う。その魂を打ち抜いた雷撃がどこに流れたか。

 所謂、異界っちゅう所や。

 ただでさえ、水っちゅうのは異界とつながりやすい。そこに、異界と波長が重なる霊魂が接触してる状態や。

 そんな状態で、数億ボルトのとんでもないエネルギーをピンポイントで流し込んだらどうなると思う?

 結果、異界の口が開いた。今までカスミンの身体の中に封じ込められてた魂は異界に解き放たれた。自我を持ち、怒りと恨みを目一杯孕んだ状態で。

 そして、異界で霊的エネルギーを溢れるほど吸収して肥大した彼女が次にやろうとしたこと、

 それは、妹の身体の乗っ取りや。

 再び、この世に生まれ返って、煮えくり返る憎悪と怒りをぶちまけるため肉体を欲した。

 同情するつもりなんぞないけど、哀れなもんやで。対象を持たん恨みや憎しみの感情だけが原動力になっとるなんてな。

 でも、そう簡単にはいかんかった。

 水を境界にして繋がっとったんは、妹の身体だけやなかったからや。

 そのとき、もう一人、カスミンと一緒に下校しとった男子がおった。そいつのせいで、うまく乗っ取れんかったんや。

 乗っ取りに失敗した姉ちゃんは、チャンスを求めて、一旦、異界にもぐりよる。乗っ取りに十分なエネルギーは蓄えたんや、後は機会さえ来れば何とでもなるさかいな。

 ただし、またしてもそうは問屋が卸さんかった。

 

 カスミンの異変に気づいたんは、うちの施設の院長、当時、僧正やったおっさんや。

 院長は、そこらのナマグサと違て、日々の修行を怠らん真面目な坊さんでな、祓う力や封印する力はなかったけど、悪意ある霊魂の存在を感じることは出来た。

 カスミンを一目見て、事態の深刻さを理解した院長は、カスミンに近しくて霊力の強い一人の娘にこう言うたんや。


 カスミンと姉ちゃんを繋げてる一本の霊脈に接触、監視して、カスミンの身体の中に悪霊と化した霊魂が入り込まんようにせえと。その為には、一生、彼女を守り続け、その間も、霊力や肉体の研鑽を怠ったらあかん。それができるか?と。


 そのガキはその言葉に乗った。

 カスミンとその坊さんは、ガキにとって、同情や営利目的関係なく、自分に接してくれた人間やったからや。そのガキは野良猫やったけど、恩義には恩義で応える仁義は持ってた。だから、その日を境に僧侶になる道に進んだ。

 でも、出来んかった。恥ずかしい話や。

 自分が接触してる霊脈を他人に貸したことでどうなるか予測が出来んかったんや。えらそうに出来るてほたえたくせにこのザマや。目も当てられへんで。アホな女や。



 豹変した夏澄がレグバを連れ去ってから30分程が過ぎていた。

 光たちは放心する那由他を何とかなだめ、カウンター奥の控え室にいた。

 場内は何人かの怪我人が横たわっていたが、症状は落ち着いており、うめき声を発する者もなく、全員、静かに寝静まっていた。

 そんな中、全てを話し終えた那由他が深いため息とともに天井を仰いでいた。

 右腕の裂傷は、那由他自ら瞬間接着剤を流し込んで塞ぎ、その上から包帯をきつく巻いて、半ば無理やり止血していた。



「どいつもこいつも……力に翻弄されよってからに。カスミンもあのクソ女も一生懸命自分の人生を生きとるだけやないか。何で、力持った奴は、まっとうに生きようとしてるモンを自分の汚い欲望に巻き込みたがるんじゃ……それが人間っちゅうもんなんか?」

 一人ごちる那由他の顔が、寂寥に歪んだ。両目の端に何かが光っていた。

「那由他……」

 思わず呟いた光に、

「何でもないわい!血流しすぎて、アドレナリンとエンドルフィンが枯渇しとるだけじゃ!あ~、クソ!空しなってきたわ」

 慌てて目をこする那由他の背中を誰かが抱きしめた。

「……な、なんやねん、生穂。またかいな。ホンマ、今日はよう抱きつかれる日やで」

 生穂は首を振った。

「生穂じゃないわ、あたしよ」


「レグバ!?」

 思わず振り返った先にあったのは生穂の顔。だが、その顔に浮かぶのは、生穂らしからぬどこか大人びた、色気すら感じる微笑。

「お、おまえ……どうして?」

 光が聞くのに、

「フン、あたしの魂はまだ生穂と繋がったままよ。あんたから借りてた霊脈をいきなりふさがれて本体と分離しちゃったから、また生穂の体に戻ってきたってだけの話よ。急にエネルギー断たれてしばらく昏倒しちゃってたけど。なによ?あたしが死んだと思ったワケ?」

 悪戯っぽく微笑むレグバ。が、その笑みは光ではなく那由他に向いていた。

「相変わらず食えん女やなぁ……一生、寝といたらええねん」

「心配した?」

 再び悪戯っぽく微笑むレグバ。

「誰がするかい!早よ離れんかい、気色悪い。慰めはいらんのじゃ!」

「慰めじゃないわよ。本体奪われて魂が冷えちゃったから暖取ってるだけじゃない。あんた、このチームのマスコットキャラでしょ」

「プッ……那由他がマスコットキャラ……」光が吹きだすのに、

「バカにしてんのか、おまえら!身体小さいから言うてなめたことぬかすなよ!」

 顔を真っ赤にして怒る那由他。

 レグバはそんな那由他を愛しげに強く抱きしめ、頬ずりせんばかりに顔を近づけると、その耳元で優しく囁いた。

「そんなことないわよ、こうしてると落ち着くもの」

 「……そうけ」

 居心地の悪そうなつっけんどんな言葉。

「……そうよ」


「…………おおきに」


 ぶっきらぼうに呟いた那由他の頬が赤く染まっていた。今度は怒りではなさそうだった。

 その姿に、レグバ≠生穂の顔が優しく微笑む。

 ともに辛酸を舐めてきた古い友達のようにも見える2人の姿に、光が満足げに微笑んだ。そう、まだ、終わったわけじゃない。

 みんな、ぶつかり合って、蹴躓いて、でも、結束は強くなるんだ。


「……と、六価にどう説明すれば」

 一人だけ、今は当該しない少女のことを思い出し、頭をかきながら振り向いた先に、当人の姿を発見してギョッとする光。

「……六価」


「わかってるわよ」

 出かけた言葉を遮ったのは六価。

「……え?」

「今までの経緯で、大体、現状は理解してる。大丈夫よ、ちゃんと付いてこられてるから」

 六価はそう言って、胸ポケットから何かを取り出した。

 それは、ゴツい黒縁に牛乳瓶の底のようなレンズがはめ込まれた、眼鏡。

「それは」

「これ? あたしの私物よ。普段は基本、メガネだから」

 そういうと、何事もなかったかのように蔓をはじいて装着する。

 見慣れた派手なイメージは一変し、どこか気の弱そうな委員長タイプの真面目少女が出来上がった。

「へぇ……眼鏡似合うな」思わず光が発した言葉に、

「人前でかけるのは好きじゃないんだけど、コンタクト外れちゃったし、崩れた化粧もさっき全部拭っちゃったから。それに、眼鏡の重みがある方が落ち着くの」

 蔓を指でクイッと押し上げる。

「さて……あたしはどうしたら良いの?」

「……本当に、状況わかってるのか?」

「言ったでしょ。理解してるわ。それよりも、夏澄助けに行って、この状況何とかするんでしょ。さっさと段取り教えて」

「大丈夫……なんだな?」

「さすがにここまで来たら腹もくくるわよ。さっきは無様な姿を見せてごめん。もう、大丈夫だから」

 微笑んで、落ち着いたまなざしで自分を見る視線に、

「六価は、メガネかけてる方がいいな。よく似合うよ」

 思わず出てしまった本音。直後、顔を真っ赤にする光。

「ま……真っ赤な顔して何言ってんの?ふ、普通逆でしょ?」

「い、いや~、何だろうな……。俺にもわからない。でも」

「いつものケバい六価より、今の六価のほうが親しみやすいって言うか、肩の力抜けてる感じで良いっていうか、そう思ったんだよ」

「いつものあたしってそんなにケバい?なんか、それはそれでショックだわ」

 肩を落として、消沈する六価に、

「単純に可愛……いや、なんでもない」

 再び出る本音。メガネをかけた顔にいつもの険はなく、つい、思ったことを口から滑らしてしまう光。

「な、何か、俺もトチ狂っちゃってるのかな。異常事態だしな。まぁ、今の言葉はちょっと忘れといてくれ」

 再び顔を真っ赤にして目をそらす光に悪戯っぽく微笑んで、

「忘れないわよ、嬉しかったから……」

 ボソリと呟く六価。どことなく気恥ずかしい空気が流れた直後、


「イギャアアアアアアアアア!」


 扉の向こう、カウンターの方で悲鳴が聞こえた。


「あのアホが目覚めよったみたいやな」

 レグバ≠生穂の腕を解いて、那由他が扉へ走り寄る。

「お、おい、那由他。大丈夫なのか、その体で?」

「そ、そそそそうだよ!お願いだから今はじっとしてて!」

 背中からかかった光と生穂の言葉に振り返って親指を立てる。

「大丈夫や!もう血も止まったしな。これから楽しい楽しい尋問じゃ!」

 その顔にはややサディスティックな笑みが浮かんでいた。

「ほんと……アンタってどうしようもないわね」

 レグバの呆れたような声。

 その様子に、クスッと笑い声。六価が口元を押さえていた。


「ボ、ボクのはは歯があいい~!いあい(痛い)よ~!」

 

 勢いよく開けられた扉の向こうで、口元を押さえたムロブチがいた。歯こそ丸ごとなくなっていたが、不気味な赤い瞳は普通の目に戻り、そこから水溜りが出来そうなほどの涙を流していた。

「せっかく人間に戻れたんやから喜ばんかい!ビィビィ喚きさらしよってからに。たかが歯がなくなっただけやろが。歯がなくても人間は生きていけるわい!」

「ほ、()んな……抜いたのキミじゃないか……こんな顔じゃ絶対に女の子に振り向いてもらえないよ」

 膝をついて、恨めしそうに見上げる涙目に、呆れてため息を漏らす那由他。

「次のセリフがそれかい……かなり歪んどるけど、おまえの女に対する執着は正直呆れるわ。心配せんでも歯がなくなったところで大差ないわい。元々モテへんかったやろが。それに……」

 那由他は言ったん言葉を切ると、ニタリと笑い、

「それはそれでエエやんけ。そこまでなくなったら違う需要もあるど」

「なにがだよぅ……ひどいことばっかり言うなよぅ……」

 口元を押さえたまま涙をボロボロこぼすムロブチに、

「あぁ?フェ 『――キャーッ!!!――』 オ上手になったやんけ。女がダメでも男に行ったら……って、おい、生穂、脇でギャーギャー叫ぶな!うるさいわ!」

「キャーッ!キャーッ!ナユタちゃん、そんな言葉使っちゃだめだよぉ!」

「なにがやねん。普通の言葉やんけ。それとも上品に【お】つけて、おフェ 『――ダ、ダダメだってば!――』 っていうたらええんか?」

「よ、幼女の口からそのセリフ……グブヒヒヒヒ。も、もう一度言ってくれないかな。今度はもっと恥じらった感じで……ブヒヒ……萌え~」

 嬉しそうに、マヌケな顔で唇を歪めるムロブチ。

「何ぼでもゆうたるわ。その代わり、条件があるで」

「那由他ちゃ……那由他!ダメだよ、女の子がそんな言葉!」

「あたし幼女やから~……じゃない。子供だから意味わかんないも~ん。だから何言ってもいいんだモン。お願い聞いてくれるかなぁ、腐れ……じゃなかった、おにぃちゃん」

「な、ななななにかな?ブヒヒヒヒ」

 直後、那由他の両目に暴力的な光が宿る。

「一体何が起こってんのか洗いざらい吐いてもらおか。後、さっき聞きそびれたけど、おまえらがここに来た理由もや」

「かわいくないから、いやだ」

 ふてくされて顔を逸らすムロブチ。連動して那由他の頬がピクリと動く。

 那由他はおもむろに背中へと左手を回すと、今度は電光石火の速度で何かを取り出しムロブチの顎に突きつける。

「ヒィッ!」

「おんどりゃ、あんまし調子のってたらあかんど。本来、あたしの専門はこっちじゃ。さっさと吐かんけぇ。吐いたらお望みどおり、何ぼでもエロいこと言うたるわ。せやないと、今度はこれでお前の皮膚全部剥いで豚皮のから揚げ(チチャロン)にしたるど、コラ……」

 ドスの効いた声と共に突きつけていたのは、先ほどムロブチの歯茎を出家させた(丸坊主にした)金剛杵ならぬ黄金杵(ビール瓶の破片)

 ギラリと鈍い光を放つそれを見て、ムロブチが全身に粟を立てた。

「ヒギイイィィィィ!殺されるぅ!」

「あたしは僧侶じゃ、殺生はせんわい!そのかわり、死ぬまで十穀と五葷と三厭とスケベ()を断たせるど」

「いやだァァァ!ひからびちゃうよ!言います、言います、何でも言います!」

「おどれぁ、ほんま根性ないのぉ……力なくなった途端それか?手負いのあたしに一矢報いるガッツもないんか?まぁええわ、話せ。わかりやすく、簡潔にやぞ」

 那由他の皮肉めいた声もどこ吹く風か、ムロブチは堰を切ったように話し始めた。

 

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