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ギターと聖霊と彼女と奴らと(仮)  作者: セント・トミーの息子
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イントロ

はじめまして。旗鎚と申します。

以前から、落書きのようなものはポロポロ書いていたのですが、これは、まともに人に見せようと思って書いた作品です。

お目汚しにしかならないかもしれませんが、暇つぶしになりそうだと欠片でも思われた方は是非読んでみてください。

私が個人的に大喜びします。

 そこは、総面積40坪ほど、地下室のような造りの古いライブハウスだった。

 場内のテーブルはほとんどすべてひっくり返り、床に散乱した割れたガラスや水や料理らしきものが照明に照らされてミラーボールの如く乱反射していた。

 床に腰を着いたままで、(あきら)はカチカチと何かが鳴っているのを聞いていた。それが恐怖に震える自分の奥歯だと気づくのに少しの時間を要した。


 特に有名でもない地方都市の、特に有名でもない地元の高校生バンド4組が集まって開いたライブ。土曜日の夕刻過ぎの倦怠に満ちた空気を、彼らやその仲間たちはささやかな騒乱で吹き飛ばそうとしていた。

 一番手、悠々と先陣を切った光たちのバンド。

 しょっぱなからアップテンポなノリのポップス。耳なじみのいいメロディは、聴くものが聴けば、ただのヒットナンバーのおいしいとこ取りだとすぐばれてしまうものだったが、ある意味で[実績がある]音の組み合わせは、やはり強力だった。

 サビに入る頃には、観客の半数近くが身体を揺らしてリズムに乗っていた。

 演奏者も、対バンのメンバーも、観客も、皆が楽しそうだった。


 異変は、突然起きた。


 2曲目のイントロ部分が終わりかけたそのとき、不気味な3人の襲撃者たちは、50人ほどの観客をかき分けながらステージへと近づき、人間とは思えないような怪力で楼木の重いテーブルを軽々とひっくり返した。

 異変に気づいた誰かの悲鳴を皮切りに、襲撃者の一人が、ステージ上に設置してある数十キロのアンプを片手で掴んでところかまわず投げた。投げつけられたアンプの下敷きになったドラムセットは、踏み潰されたアルミ缶のようにひしゃげて四散した。

 逃げようとした観客が入り口の階段で足を滑らせ転倒し、その上を後続に踏みつけられた。滑って転んだ者が階段で雪崩を起こし、後にいたものはその下敷きになった。

 取り押さえようとした男性スタッフと勇敢な観客数人は全員があっという間になぎ倒され、吹き飛ばされ、昏倒したまま動かない。

 渦を巻いて荒れ狂う、恐怖、苦痛、暴力。そして、悲鳴と苦悶。

「ブビビビビビビ、ゲゲゲゲゲ……。潰した潰した」

 首謀者の一人がガマガエルそっくりの口を吊り上げて笑う。歪んだ口元から、人間が持つには太くて長すぎる黄ばんだ犬歯がチラリと覗いた。

「ウッキキキキギギギ。これで準備は整った。ギギギ」

「後は本番を待つのみ。ギギ。これであの方は……グブヒヒヒヒヒヒヒ、ヒ?」

 と、そこで笑いが止まる。彼らの視線の先には、ドラムセットの脇、後手をついて硬直する2人の少女の姿があった。

「ギギギ……おにゃのこが2人いるブビビ。片方はエロゲヒロインみたいな美少女だギャギギャギギャ。ヘアバンド萌えェ!ゲブブ。持ち帰って部屋に飾ってやるビビ」

「化粧の濃い方はビッチだグギグギ、一口かじってゴミ箱に捨てようギョリギョリ」

 赤い目を爛々と光らせ、犬歯からよだれを垂れ流す3人の男に、人間っぽさは欠片も感じられない。情欲に燃える目が自分たちに向けられていることを知り、少女たちは、「ヒッ」と悲鳴を上げた。

「ブビビビ。グヒ。怖がらなくてもいいよ。僕らに任せてたら大丈夫だよ、グヒビビビ」

 顔をギラギラと脂で光らせた男がニタリと笑う。黒縁のメガネが頬の肉に押し上げられ、脂で滑って地面に落ちる。赤い瞳には歪んだ情欲の炎がチロチロと燃えていた。

 やめろ……光は必死で身体を起こす。だが、恐怖で喉が引きつって声が出ない。

「キャアアアアアアアアアアアアア!」

 恐怖に耐え切れず、少女たちが発した叫び声がライブハウスに轟いた。

生穂(いくほ)六価(りっか)……畜生!うおおおおおぉぉぉ!」

 光は全身の力を振り絞り、立ち上がると同時に半ば自棄気味に襲撃者へと突っ込んだ。

 一体どうしてこんなことに……。その言葉は、雄叫びをあげる光の脳裏に一瞬明滅するも、怒りと興奮で塗りつぶした恐怖とともに、どこかへ吹き飛んでいた。

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