第一章 四
「よ〜し、今日はホームルームだけで授業自体はないからな。この辺で終わりにしておくか。自己紹介なんかはオレの最初の授業の時にでもやることにする。それじゃぁ、各自気をつけて帰れよー。」
山内は足早に教室を後にする。しかも、ドスドスと回りの者を威嚇するみたいに…あれじゃ本当に野生のゴリラだな。
生徒達がまたざわつき出した。お互いに自己紹介なんかしてる奴もいる。オレは…どうする。あの輪の中に入っていくか?でも、何て声かけりゃ…
その時背中を思いっきり叩かれた。なかなかいい叩きっぷり。背中に絶対モミジ出来てるよ。
「いってぇなぁ、誰だよ!って、え〜っと安達か。マジ勘弁してくれよ。」
はぁ、やっぱり付き合いにくいかも。初めての奴におもいっきり叩いたりするかぁ〜普通?
「あぁ、ゴメンゴメン。そんなおもいっきり叩いたつもりじゃなかったんだけどね。須加も学級委員だろ?まぁ、挨拶しとこうと思ってね。よろしくね!」
よく見ると見た目はかわいい…ただ、性格はサバサバというか何というか男まさり…だな。少しはにかんだ感じに安達が笑ってる。
「あぁ、よろしくな。んで安達は何で学級委員なんてやろうと思ったわけ?普通やりたくないと思うんだけど…」
目の前の子は腕組みをしたり頭をかいたりして少し考えて、
「ん〜何となくかな。別に学級委員が嫌ってわけじゃなかったし。それにいきなり先生に怒られてる須賀にも興味をもってな。」
コイツは恥ずかしいことをよくもヌケヌケとした感じで言えるな。あっ、でも少しは照れてんのか?安達のほっぺがほんのりりんごみたいになってる。まだ少し収穫には早い感じ。
「うるせぃ!オレだって好き好んでなったわけじゃねぇっての!」
「まぁまぁ、これも何かの縁だし仲良くやろうよ。」
安達になだめられてしまった。別に怒ってたわけじゃないんだけど…オレうまく自分の感情伝えられてないのかな?
「絵美〜そろそろ帰ろうよ。」
教室のドアの辺りで安達を呼ぶ声がする。んっ、待てよ。あれは三國じゃないのか?
「あぁ、佳奈。今行くよ。それじゃあ、須賀またね!」
やっぱりそうだ。あぁ〜神よ。神はオレを見捨てなかったのですね。
安達は勢いよく走っていく。ポニーテールにした髪が右へ左へ激しく揺れている。この髪型がポニーテールって呼ばれてる意味がなんとなくわかった気がする。
「あっ、安達!オレも一緒に帰っていいか?」
勢いよく走っていた安達は急ブレーキして、
「んっ、いいよ。一緒に帰ろう!」
やった!オレ頑張ったよなぁ〜。自分で余韻に浸っていると、
「ほら、須賀早くしろ!置いてくぞ!」
安達が手を振って呼んでる。あれっ、さっきまで安達そこにいたのに。安達恐るべし。
「あぁ、今行く!」
荷物をまとめて足早にドアまで向かう。へへ、いいだろ〜オレは登校初日から女の子二人と帰れるんだぜ!教室にいる男子生徒はどことなくこっちを羨ましそうに見ている。
「あっ、オレも一緒に帰っていいか〜。」
どっか抜けてるような声が聞こえた。えっ、マジ?誰だよお前ぇ。
「あぁ、いいよ。一緒に帰ろう。いいよな須賀、佳奈?」
三國は笑って返事してる。そんなぁ〜三人で帰れると思ったのに。オレには選択の余地は残されておらず、OKの返事しか出来なかった。
こうしてオレ達四人は、本当は一人余計なんだけど…一緒に帰ることになったんだ。
オレはふと空を見上げ、まだ明るい空がどことなく青春の色をしてると思った。