トイレットペーパーが切れたらしい。
台所下の収納棚を漁りながら呟く。
「あ、トイレットペーパー切れた」
仕方なく買いに出かけた。せっかく晩酌で気持ちよくなっていたのに、冷水を浴びせられた気分だ。さすがに朝起きた時トイレットペーパーがない状況は避けたい。眠る前に買い出し。酔っているとはいえそれくらいの判断力は残っているようだった。外は半袖には少し肌寒い。
二十四時間営業の小さなスーパーはこういう時に非常に便利だ。世の中の人間はもっと二十四時間に感謝した方がいいと思う。
会計を済ませ、お釣りを募金箱に放り込む。
「誰かの助けになれ〜」
少し歩いた頃、どこからか鼻水をすする音と泣く声が聞こえてきた。
「ぐすっ……ひっ……」
声の方を見ると髪の長い女の子が道の隅でうずくまって泣いていた。見覚えのある制服だ、恐らくここら辺の学校の子だろう。にしてもこの光景……まるでホラー映画だな。家で視聴中のホラー映画を思い出す。
気付かないふりをしてそのまま通り過ぎた。数歩進んでから、また泣き声が耳に届く。やめろ、泣くな。
気付けば、トイレットペーパーの袋を破っていた。
「……大丈夫ですか。これ、良ければ使ってください」
そう言いながらトイレットペーパーを一つ差し出した。何をしてるんだ僕は。不審者にも程があるだろう。いや、相手は深夜徘徊の女の子。警察に言うべきだろうか?たまたま見かけたといえば何とかなるか……?
彼女は困惑の表情をしながら差し出したトイレットペーパーを受け取って、勢いよく鼻をかんでいる。
「うぇ、す、すみません。ありがとうございます」
髪はボサボサで、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。目は赤く腫れている。一体何時間ここで泣いていたんだろう。
「大丈夫ですか」
「……っ、だいじっ、じょうぶ、ですっ」
「ん。あんまりここで泣いてちゃダメだよ。寒いし。変な大人が来るかもしれないから気をつけて」
「はい、ありがとうございっ、ます」
その返事を聞いて、僕はその場を離れた。スーパーに戻り、買い物を済ませて、再び帰路についた。
同じところに差し掛かった時、あの子がもう帰っていたら、その方がよっぽど良かったのに。
いた。僕が離れてから十分は経っただろうか。それなのに、彼女はまだうずくまって泣いていた。隣には鼻をかんだであろうトイレットペーパーが積まれていた。
女の子に、今度は焼き芋を差し出した。
「……ん」
「え?」
「……お腹すいてない?」
「……ありがとうございます」
彼女の目はまだ少し腫れぼったいが、涙と鼻水は止まっているようだった。
僕は彼女の左隣に座り、星空を見上げながら呟く。
「……泣きながらご飯を食べたことがある人は、生きていけるんだってさ」
「……」
隣の彼女は焼き芋を頬張っている。
「どんなに辛いことがあっても、お腹はすいてしまう。心が辛い時身体も辛いと、元気になるための体力までなくなっちゃうんだよ」
「……」
二口目。
「だから、君は生きていけるよ。……って言葉が今の君に必要だったのかは、わかんないんだけどね」
もぐもぐと焼き芋を食べ続けている。よっぽどお腹がすいていたのだろうか。でも良かった、しっかり食べてくれて。
咀嚼を終えた頃、僕は立ち上がって彼女に向き合った。
「じゃあね。気をつけて」
そう言い残して、僕はやっと家に帰りはじめた。もう振り返らなかった。
家に着いた頃には午前三時を回っていた。いつもなら二十分ほどで帰ってこれたのに、僕は一体何をしてるんだか。
トイレットペーパーを部屋の隅に投げ、布団に倒れ込んだ。
「……つかれた」
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