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空っぽの町、ただ一人。

作者: 水瀬 りま
掲載日:2026/06/28

次は新平岡、新平岡です。お出口は左側です。

そんなアナウンスが流れ、席を立つ。

しかし、私の他に誰も席を立つ人はいない。

トンネルを抜けた先にはやかましいほどに快晴な春崎平野のだだっ広い風景が映る。まもなく駅に着く。

左右を向いて誰かが降りているか確認するが、やはり誰もいない。

新平岡駅。平岡市の中心から6kmも離れたところにある新幹線駅。平岡市自体も人口減少で活気が減っているため、休日だというのにこの有様である。

でかいホームのガラスの方を向く。

平岡市街もロータリーも反対方向であるため、本当に田んぼと山しか視界に入らない。でも、この景色が落ち着く。

「こんなところで暮らせてたらな」

ふとそんなことを呟く。

誰も返事を返してくれやしない。

でも、これくらいがちょうどいいのかもしれない。

私は袋に入ってる花束を見て、花を手向けるためにきたことを思い出す。

次のバスまで5分後だ。私は花束が崩れないよう抱えて歩き出した。

駅の改札口に着く。

ここでいつもばあちゃんが見送ってくれてたな

いつも一番右の改札使ってたな。

駅がキラキラに見えてたな。

とめどなく、記憶が溢れ出す

もう今となっては思い出なのだろうか、そんなことを考えながら改札を抜ける


バスロータリーには私の乗るバスただ一つだけが止まっていた。

崎戸行の小さなのバスには運転士だけが静かに出発を待っていた。

「出発します。ご注意ください」

とだけ残して、バスは駅を去っていく。視界一面に田んぼが広がる。その他には数キロ先に、まばらに集落が見えるのみである。

バスは急行列車のような速さを見せて停留所を次々と飛ばす。

結局途中で誰も乗ってくることなく、目的の停留所についた。

春崎平野の端のこじんまりとした集落だった。

二十戸ほどの小さな集落の端には寺院が建っている。戸数に見合った小さな寺院だ。

そこ上がったところにある右から3個目の墓に手を合わせ、花を贈る。

「天国から見守ってくれてる?私は今も生きてるよ」

なんて届くはずもないのに言う

この辺りは平野が遠くまで見える。

ばあちゃんがいた家もよく見える。

数ヶ月後には解体されるらしい。どうやら親は引き取ってくれなかったようだ。

私は目にかかった髪を振り解き、その小高い丘を降る。はずだった。

「おーい」

誰かが、いや確実に知っている声が耳に届く。

聞き間違えるはずもない、だけど聞こえるはずもない。死んだはずの妹の声だった。

私には晴海という妹がいた。

ここにきたのも晴海に花を手向けるためだった。

一番右の改札なのは晴海がいつもそこを通っていたから。

駅がキラキラに見えたのも晴海がここにくると目を輝かせていたからだった。

振り返って丘を駆け上がる。

「晴海!」

しかし、名前を呼んでも返事はない。

どこかにいるのかとあたりを見回すと、ふと気づく。空に妹の顔の輪郭に似た雲があることに

快晴も相まって、笑っているように見えた。

「晴海、そこにいたんだね。」

私のかけがえのない妹はそこにいたのだ。

「今会いにいくからね」

ふわりと体を浮かせた

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