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第一章 淑女教育、合同クラスはじめます!〜なんか私、またやっちゃいました?〜

教室へ足を踏み入れた瞬間、空気が若干ぴりっとした。

(ああ、やっぱり……思われてるよね。“悪役令嬢”って)


王宮の廊下でも散々耳にした。

やっぱり冷たそう、わがままそう、婚約者を泣かせたらしい――そんな噂話。

(まあすっごく悪役令嬢!って見た目よねえ)

ぼんやりため息をつくが、とりあえずこれからだ。


「本日から合同淑女クラスを担当するエリス・ハルストです。よろしくお願いします」

高位貴族の子女の少女たち4人にしっかり笑顔で挨拶をした。



「先生!」

真っ先に手を上げたのは王女リディア。

「リディアはお菓子とお散歩が大好きです!」

「素敵だわ!

では、“お茶会の計画係”を任せてもいいかしら?好きなことを得意に変える学びの近道よ!」

「たくさんやります!」


 教室に小さな笑いが広がる。

 緊張が少しほぐれた。



「……エリナです」

黒髪をおろした少女が控えめに立ち上がった。


「勉強が苦手で……

皆の足を引っぱると思います」


「そんなことはないわ」

私が即座に首を振ると、彼女は驚いて目を瞬いた。


「エリナの机や棚は教えなくてもとっても綺麗!

整理整頓は立派な淑女の才能よ。皆にお手本をこれからも示してね?」

「……っ、はい!」

ぱちっとウインクをすると色白の頬がぱっと赤くなった。



「ミリアよ!勉強なんて退屈!体を外で動かす方がいい!」

ふんぞり返る赤髪のお転婆娘に、私は軽く笑った。


「いいわね!じゃあ今日は“護身術”を教えましょうか?淑女たるもの、身を守るのも大切よ!どうかしら?」

「え、それもお勉強!?」

「もちろん。世の中の見方は色々よ!貴方の好きな剣が作られた歴史、知ってる?」

「……ちょっと面白そう!」



最後に立ち上がったのは、ノートを抱えた既に才女と名高いという三つ編みのアナベル。


「……考えすぎて、話が苦手で、よく嫌われます」

「とっても素敵なことよ。たくさん答えを出してみて、ゆっくりでもいいから。そして書き止めてあとで見せて!それを見ながらもっとたくさん一緒に考えられるから!」

「……そんな風に、初めて言われました」

 彼女の目が少し和らいだ。



私は黒板に大きく書いた。


“学ぶことは、自分で未来を選ぶ力になる”


「これが今日のテーマです」

少女たちは顔を見合わせ、ぱっと笑顔になった。さっきまでの緊張は跡形もない。



休み時間。廊下を歩くと、侍従たちのひそひそ声が聞こえてくる。

「……あの方が、噂の悪役令嬢?」

「でも、生徒たちの様子は……」


(そうよね、まだ私は“悪役令嬢”)

私は心の中で小さく笑った。

(期待値が低くてラッキーよ。新米教師としてじわじわ、確実にこの子達と成長してみせるわ)


 初日の教室から漏れる少女たちの笑い声は、王宮に軽やかに響いていた。

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