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人間の半分

 「私は女なればこそできる(まつりごと)をしとう存じます」

 「女なればこそ、とは?」

 「人間の半分は女です。殿方の理だけでは、考え方も半分。女の理も加味してこそ完全となりましょう。女の理を政に加えるなら、皇妃という身分が最適です」

 「女の理を生かすために私を利用する、という解釈でよいか?」

 「殿方の理にのっとった表現ではそうなりましょう。そして、『利用する』という表現になってしまうところが殿方の理の限界」

 言葉を交わすたびに、ロレンフスの目つきが鋭くなっていった。ほとんど睨んでいるような目でカレナーティアを見ている。一方カレナーティアの表情は終始柔和で、ロレンフスの刃物のような言葉をふんわりと受け止めている。

 「女の理とはいかなるものか。女性にとって都合の良い制度を作るということか」

 「社会構造を変えるつもりはありません。女は殿方を支えるもの。殿下こそ、もっと女を利用なさいませ。私が殿下のために女たちを従えましょう」


 ロレンフスはしばらく無言でカレナーティアを睨み続けると、突然表情を崩してフッと笑った。

 「改めて、カレナーティア殿を我が妃に迎えることを希望する。もし、私がカレナーティア殿に値するとご評価いただければ、だが」

 大公を相手に小ざかしい理屈を並べる娘に絶望し、半ば安心もしていたザルガンドロ伯は、ロレンフスの申し出に仰天した。ロレンフスから縁談を断ってくれれば楽になると思っていたのだ。

 「しかし……娘は理屈が先に立ち、見栄えが良いわけでもなく……」

 ロレンフスは顎を指で摘まんで首をかしげ、考えるそぶりを見せた。ザルガンドロ伯の言葉を理解しかねているらしい。

 「見栄えの良しあしはよく分からぬが、帝都で今はやっている化粧でもすれば印象が変わるのではないか? 理屈も気に入った。『両家のために努めます』などと言うより面白いではないか」

 一度は笑顔を見せたロレンフスであったが、再び値踏みするような目になってカレナーティアを見つめた。

 「『気に入った』ですか。『理解した』とはおっしゃらないのですね」

 「女の理がいかなるものか、愚昧ゆえまだ理解しかねる。カレナーティア殿がそれをどう実現するのか、見てみたくなった。帝都に来て、私の蒙を啓くがいい」

 ザルガンドロ伯は、助けを求めるかのように娘を見た。カレナーティアは変わらずほほえみを崩さず、ロレンフスに言った。

 「大公殿下は私がお支えするのにふさわしき殿方とお見受け致しました。必ずや殿下のお役に立ちましょう」

 「よし、最終決定権はザルガンドロ伯にある。よい返答をお待ち申し上げる」と言うや、ロレンフスは立ち上がって応接室から出て行った。

 ザルガンドロ伯らが慌てて追い掛けると、ロレンフスはそのまますたすたと城館を出て馬に飛び乗り、「では公務があるゆえ失礼する。またいずれ」と言って去っていった。太陽が15度ほどしか移動しない程度の、つかの間の訪問であった。


 「大公は想像以上に手強い相手だぞ。お前の手に負えるのか?」とザルガンドロ伯はカレナーティアに問い掛けた。

 「繊細さと粗雑さを混ぜ合わせた方でしたね。とても面白い。あの方の妻であれば退屈せずに済みそうです」

 カレナーティアのその一言で、ザルガンドロ伯の覚悟は決まった。凡庸な自分が思い悩んでいても何も生まれない。カレナーティアたちが好きなようにやればいいのだ、と。

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