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伯爵令嬢カレナーティアの結婚――求婚者は大公と公爵  作者: 中里勇史


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7/10

プエリーエン伯

 プエリーエン伯は、メレレーン好みの体躯の持ち主だった。筋肉が盛り上がっており、礼服を押し上げている。全体的に窮屈そうだが、身のこなしは軽やかだった。


 「伯爵、ザルガンドロ伯領はお手にできそうですか?」とメレレーンが早速切り込んだ。

 「どこに行ってもその話題から逃れられませんな。ザルガンドロ伯のお立場は想像できる。にわかには決め難いのでしょう」と、プエリーエン伯は鷹揚に笑った。武人型の人柄のようだが、粗忽ではない。

 「この膠着状態をどうやって打開されるおつもりですか?」と、ホルエリンことカレナーティアは聞いてみた。どういう反応をするのか。

 プエリーエン伯は口を閉じると、眉間に皺を寄せてそこを指でトントンとたたいた。どう答えたものかと思案しているらしい。

 「自分でもよう分からぬのです。伯父上と父が積極的に動いている以上、私が下手に動くこともできない。ザルガンドロ伯にも無理強いはできない。皆のお立場も分かる。結局、ザルガンドロ伯のお返事を待つしかないのです。これが戦争なら突撃して敵将の首をはねれば終わるのですが」と言ってプエリーエン伯は豪快に笑った。

 と思ったら、急に表情を引き締めて「男の私でさえ、歯がゆさを感じている。カレナーティア殿も気の毒なことだ」と言って、首を横に振った。相手への配慮も忘れていないようだ。

 「これも戦争では? 大公殿下とどのように戦われるおつもりで?」と、カレナーティアはもう一歩踏み込んでみた。プエリーエン伯の、思慮分別のその先が見てみたい、と思った。

 「確かに……戦いですな。あなたは良い例えをなさる。しかし、戦いであればこそ、将軍の命には従わねばならぬ。伯父上が『待て』と言うなら、待たねばならん。今は待つとき」

 プエリーエン伯の言うことは理解できる。現状に納得はしていないようだが、己をわきまえて抑えている。

 彼の思慮深さは申し分なかった。ワルヴァソン公は一族といえども無能を許さない。プエリーエン伯をグルナーゼ公位継承者として認めているということは、彼を高く評価しているということだ。そのことは直接話してみてよく分かった。


 だが……。


 あれは私だ。少し前の私だ。親や一族の長の決定に従うだけの女性と同じだ。そして、男とてその呪縛から逃れることはできない。帝国においては好ましい在り方だが、今のカレナーティアはその枠内でやれる限りのことはしたいと考えていた。

 そのとき、プエリーエン伯を呼ぶ男性貴族の声がしたこともあり、プエリーエン伯はカレナーティアらに片手を軽く上げてその場を離れていった。

 「何だかつまらない男ね。筋肉は十分だったけど」と言って、メレレーンは口をひん曲げた。

 「まあカーンロンド家の人たちって大体あんな感じよ。夫は少し違うけど」とポールメリィが答えた。夫は特別扱いらしい。

 「ただの公位継承者でもあんな感じだし、皇位継承者の大公はもっと保守的な方かもね」と、テレテニアは嘆息した。

 それについては、カレナーティアは若干異なる感触を得ていた。ロレンフスという存在は、地位と美貌によって女性の関心を引かざるを得ない。帝都で彼を見掛けた、話をしたという話題もそこかしこから聞こえてくる。

 旧友との再会と祝賀会を経て、カレナーティアは昔の自分を取り戻した。そして、新たな目標もできた。ロレンフスに懸けてみたい、という気持ちが芽生え始めていた。


 「大公殿下とお話ししてみたい」。カレナーティアは思わず気持ちを吐露した。

 「それは分かるけど、大公殿下にお目にかかるのは少し難しいのよね」と、策士のメレレーンは腕組みして顔をしかめた。それを見たポールメリィとテレテニアも腕組みして顔をしかめた。


 「私に考えがある。協力して」

 カレナーティアは、3人を祝賀会場の隅に引っ張っていった。

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