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デルゲゾルムの祝賀会

 1カ月後、4人はワルヴァソン公国の中心都市デルゲゾルムに居た。ドレングル伯妃ポールメリィの誕生を祝う会に招待されたという形だ。ドレングル伯領の城館ではなくデルゲゾルムにあるドレングル伯の別邸を使ったのは、プエリーエン伯を招きやすくするためである。

 質実剛健・質素倹約が家風のカーンロンド家では誕生祝賀会などめったにやらないが、ポールメリィが「友人たちを招きたい」と夫に懇願し、紆余曲折を経て実現した。


 この会を発案したのはメレレーンだった。

 「別に結婚前に会っちゃダメなんて決まりがある訳じゃない。会う機会がないだけ。だったら会ってもいいじゃない」とメレレーンは主張した。

 普通は、親が決めた婚姻相手に事前に会うことに意味はない。会ってみて気に入らなかったとしても覆らないのだ。だが、カレナーティアの場合はそもそも相手が決まっていない。

 「そこでポールメリィよ。あなた、もうすぐ誕生日でしょ。祝賀会をやりなさい。プエリーエン伯を招きなさい」

 「カーンロンド家は祝賀会なんてやらないわよ」

 「ドレングル伯にお願いしなさいよ。いつもそうしてるんでしょ」とテレテニアがポールメリィにほほ笑んだ。この笑顔は、脅しの意味を含んでいる。

 「ま、まあ、私がお願いすればかなえてくれると思うけど」と、ポールメリィは恥ずかしそうに目を逸らした。ドレングル伯は、粗忽者だが愛嬌あふれるポールメリィに甘いことを3人は知っている。結婚後も、彼女の笑顔が陰ることはなかったことを3人は知っている。


 子供の頃には想像も付かなかったし、「女なんかには何もできない」とカレナーティアは思い込んでいたが、2、3人の女性が共謀しただけで祝賀会が実現してしまった。ドレングル伯からの正式な招待ということで、ザルガンドロ伯領から離れることもいとも簡単だった。この3年間の無力感と閉塞感が、崩れ始めるのを感じた。幼い頃の全能感がよみがえってきた。

 「少し表情が良くなったね」と言って、テレテニアがカレナーティアの手を握った。カレナーティアがほほ笑むと、テレテニアもにっこりほほ笑んだ。これは喜んでいるときの笑顔だ。

 祝賀会は食卓に席を割り当てる形式ではなく立食形式で、自由に移動して会話の相手を選ぶことができた。これもメレレーンの発案である。この方がプエリーエン伯に自然に接触できる。ただ、カレナーティアが身分を明かすと後々面倒なので、メレレーンのいとこの「ホルエリン」ということにした。


 後は、ポールメリィがプエリーエン伯を連れてくるのを待つだけだ。カレナーティアは、その間に周囲の人々を観察することにした。男女の集団もさることながら、女性だけで話している集団も多い。夫同士は険悪だが妻同士の仲は良好で、互いに夫をなだめてすかして関係を修復するという相談、ある領地で産出する琥珀を安く流してほしいといった商談など、女性同士でさまざまな外交や駆け引きが行われていた。

 「女でも、男性を動かすことはできる。女同士のつながりには意味がある」ということだろう。なんだ、他の女性だって十分に賢く、小ざかしく、物事を動かしているではないか。

 自分で勝手に卑小化していた「女というもの」、現実の世界で賢くたくましく立ち回っている「女性というもの」。乖離していた2つの概念が、徐々に融合し始めた。「自分という女」は、この「女性社会」の中でどう生きるべきか。「女性というもの」の価値をもっと引き出せないか。まだまとまっていないことをメレレーンとテレテニアに語ってみた。

 「ならカレナーティアの戦場は帝都かもね」とテレテニアはつぶやいた。そこには、もっと力を持った女性たちが居る。しかし、さらに女性だけの閉じた世界が構築されている。


 「みんな! ウワサのプエリーエン伯よ!」と、ポールメリィが一人の男性を連れてやって来た。


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