あなたのメイドは存在しませんわ
ある日、弁護士が訪ねてきた。
「突然ですが、お祖父様がお亡くなりになりました」
「おじいちゃん?」
玲奈に覚えはなかった。
正確には、祖父の従兄弟の弟の―なんたらかんたら―と説明されたが、途中で理解するのを諦めた。
とにかく遠ーい親戚らしい。
その老人には身寄りがおらず、遺産の相続先を調べた結果、玲奈が最後の親族だったという。
「こちらが相続されるご自宅です」
玲奈は思わず声を上げた。
「でっか!」
まるで映画に出てくるような洋館だった。
「なお、維持費も相応です」
「返します」
「既に手続きは終わっております」
「なんでですか!?」
玲奈は一人暮らし。
誰もいないはずなのに、
朝起きると朝食がある。
服は畳まれている。
お茶が出てくる。
声だけ聞こえる。
「これは。メイドに違いない!
こんなバカでかい、見栄が生きがいのおじいちゃんのお屋敷なら、
メイドの一人や二人や三人…はあたりまえ!」
「そうよ!そうに違いないわ!」
「私をご主人に値するか、テストをしているのだわ!」
玲奈はメイドを探す。
夜更かししてみる。
隠れてみた。
見張ってみた。
しかーし、探しメイドは見つからない。
それでも翌朝になると、
完璧に仕事が終わっていた。
「これほど探しても見つからないとは……さすがメイド。もうくのいちレベルだわ」
「いや……」
「これは上級メイドね」
「きっと英国式だわ」
「主人に姿を見せないのが流儀なのよ!」
メイド捜索に疲れた玲奈はソファに倒れ込んだ。
気付けば朝だった。
冷え込んだ夜風が開けっぱなしの窓から吹き込んでいる。
「さむいよー」
グズズーーー
チーン
ヘクチンッ
翌日、案の定、玲奈が熱を出した。
あ”-、38度かぁ~。
高熱で倒れた。
いつの間にか布団に入っていた。
数日間意識が曖昧になって、記憶がない。
その間ずっと、誰かが看病されていた気配がある。
額のタオルが交換される。
お粥が置かれる。
優しい声が聞こえる。
「お嬢様、大丈夫ですか。」
むくっ
「良く寝たー!!!」
お陰で回復した玲奈がいた。
ふと思う。
「私、一度もありがとうって言ってない」
その夜、初めて声に向かって言う。
「いつもありがとう」
し~ん
返事はない。
しかし翌朝。
テーブルの上に手紙がある。
そこには一行だけ。
『もったいないお言葉ですわ』
玲奈は微笑む。
そして手紙を裏返す。
裏には小さく。
メイドは存在しませんわ
玲奈は天井を見上げた。
「じゃあ今まで誰だったのよ!」
最後の最後に弁護士から電話がかかってきた。
「そういえば申し忘れておりました」
「何をですか?」
「あのお屋敷には使用人は一人もおりません」
「え?じゃぁ、他の誰かがいるの?」
「いえ、屋敷が勝手に動きます」
「は?」
「先代様の趣味でして」
「趣味で済ませないでください!」
「あと、そろそろ食材を補充してください」
「え?」
「補充しませんと皿だけ出てまいります」
「そこは自動じゃないの!?」
「さすがにそこまでは無理かと…。」
電話が切れた。
ツゥーツゥー…
「ちょっと!マニュアルはないの!!」
台所の方から声がした。
「お嬢様、本日の夕食はいかがいたしましょう」
玲奈は頭を抱えた。
「だから誰なのよ!」
おしまい。




