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26 ディートリヒの誕生日2


「それにしても今さらだが、本人の了承も得ずにリーゼル嬢のふりをしても大丈夫なのか?」


 馬車へと乗り込み出発すると、ディートリヒは心配そうにリーゼルをみつめた。

 今でも女装作戦には否定的な様子。提案した際は少し強引に許可を求めてしまったが、あの時のリーゼルはなぜだが、ほかの女性にディートリヒの隣を取られたくないという気持ちもあった。

 貴族は皆、皇帝に恐怖している。誰かが嫌々パートナーとなるより、自分が名乗り出たほうが彼に寄り添えると考えていた。


「問題ございません。妹はきっと……、光栄に思うはずですから」


 リーゼルは気分を変えるように、ディートリヒへとにこりと笑みを浮かべる。


「陛下。本日はお忙しいでしょうから、先にお祝いさせてください。二十五歳の誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、リーンハルト」

「こちらは、お祝いの贈り物でございます。心ばかりの品ですが……」


 手に持っていた箱を差し出すと、ディートリヒは驚いた様子で受け取る。


「嬉しいな。開けてみても良いか?」

「はい。どうぞ」


 箱に納められていたのは、アスコットタイとタイを留めるリングだ。

 何を贈るかはとても迷ったが、幸いにも陛下の衣装部屋担当という役割を生かし、陛下に似合いそうで尚且つ、お持ちでない柄のタイを選んだ。


 ディートリヒはプレゼントを嬉しそうに見つめてからなぜか、自らの首に巻いてあるタイをするりとほどいた。


「こちらを結んでくれないか」

「あのっ陛下。こちらは本日のお召物には相応しくありませんわ。どうか、普段使いとしてお受け取りくださいっ」


 せっかく誕生日パーティーのために新調した衣装なのに、雰囲気が異なるアスコットタイでは申し訳ない。


「そんなことない。俺はリーンハルトが選んでくれたものを身に着けて、誕生日を迎えたい。誕生日の祝いとして、リーンハルトが結んでくれないか?」


 そこまで望まれてしまうと、拒むわけにもいかない。リーゼルは諦めて今日の主役の希望を叶えて差し上げることにした。


 椅子から立ち上がりタイを結んでいると、なんだかどきどきしてくる。

 いつもは彼を見上げながら結んでいるが、今はリーゼルがかがむ恰好のせいで彼の顔が近い。


 集中しなければと思い直していると、馬車の車輪が石でも踏んだのかがたりと大きく揺れた。

 思わず体勢が崩れたリーゼル。「きゃっ」と悲鳴を上げながら座り込んださきは、まさかのディートリヒの膝の上だった。


(よりによって……!)


 女装中とはいえ、侍従の身でなんたる失態。せっかくのお祝いが台無しだ。

 「もっ申し訳ございませんっ。すぐにどけますっ――」と慌てて立ち上がろうとしたが、なぜかディートリヒがリーゼルの腰に腕を回してきた。


「いや。このままのほうが、落ち着いて結べそうだ」


 確かに、この場でタイを結ぶにはベストポジションではあるが。リーゼルがさらに態勢を崩さないために、支えてくれるのもありがたいが。


(私の心は落ち着かないのですが……!)


 これではまるで、恋人同士ではないか。今日のリーゼルの役目はパーティーでのパートナーのふりであり、恋人のふりではないはずだ。


 動揺しまくりながらもなんとかタイを整えたリーゼルは、ポケットからコンパクトミラーを取り出して、ディートリヒへと向けた。


「いかがでしょうか……?」

「ああ。気に入った」


 ディートリヒは何度もミラーを確認しては満足そうに微笑んでいる。

 ハプニングはあったが、気に入ってもらえたようで良かった。

 

 ほっと一安心しているリーゼルの手を、ディートリヒがすくい取るように掴んだ。

 どうしたのだろうと見守っていると、彼はそれから手を自らの口ものへと導き、どいういうわけか、リーゼルの指先に口づける。


「ありがとう。大切にする」

「へっ陛下ぁ……!」


 顔を真っ赤にしながらリーゼルが驚くと、ディートリヒは気まずそうに視線を逸らしながら小さく咳払いする。 


「悪い、つい……。今のは練習だと思ってくれ……」


 この練習は必要だろうか。

 動揺しすぎたリーゼルは、彼の膝の上から立ち上がるタイミングすら逃してしまった。





 それからしばらくして、ディートリヒの誕生日パーティー会場。

 皇帝ディートリヒがパートナーを伴って入場すると、大きな拍手とともにざわめきで溢れた。


「あのご令嬢はどなただ?」


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