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20 住み込みのリーゼル1


 早速リーゼルは、ディートリヒに連れられて住み込む部屋を見学しにいくことになった。


「ここがリーンハルトの部屋だ。俺の部屋と続きになっていて、そこの扉から出入りできる。夜はあまり呼ぶことはないから、楽に暮らしてくれ」


 案内された部屋へと入ったリーゼルは、思わず感嘆の声をあげた。


「わあ……。本当にこちらが侍従のお部屋なんですか?」


 リーゼルの専属メイドであるエマも、リーゼルと隣合わせの部屋に住んでいるが、エマの部屋とはあまりにも違いすぎる。

 それどころか、伯爵令嬢であるリーゼルの部屋よりも豪華だ。地方貴族と比べること自体が失礼なのかもしれないが、それにしても侍従の部屋とは思えないほど、繊細な彫刻が施されている家具が並んでいた。


「ああ。大した部屋ではないから好きに使ってくれ」


 これを大したことがないと言える陛下に、リーゼルは尊敬の眼差しを向けた。

 侍従に対してこれだけの施しを与えられるとはつまり、この国の財政が非常に豊かで余裕があるということ。

 そんな国を維持していられる陛下は、とてつもなく優秀な方なのだろう。


「陛下はとても家臣思いなのですね。私も見習いたいと思います」


 仕える身になって改めてわかる。主人の器の大きさがあってこそ、仕える者もやる気が出るというもの。


(私もお給料が出たら、エマに何かプレゼントしなきゃ)


 そんな二人の和気あいあいとした侍従部屋見学を、後ろから黙って見ていたレオン。

 顔には出ていないが、胃が痛くなるほど動揺しながら、心の中で叫んだ。


 こちらは、未来の皇后陛下がお使いになるはずのお部屋ですが!




 引っ越しの準備をするため、リーンハルトは邸宅へと戻った。それを見送ったレオンは執務室へと戻ると、物凄い剣幕でディートリヒに詰め寄った。


「陛下! どういうおつもりですか」

「何がだ?」

「リーンハルト卿のことです!」

「リーンハルトを保護するには、俺の隣が最も安全だろう?」


 涼しい顔でそう述べるディートリヒを見て、レオンは眩暈を押さえるように額に手を当てながらため息をついた。


「それはそうですが、彼は陛下の身の回りのお世話をするためにいるのですよ。これでは立場が逆ではございませんか」


 リーンハルトが心配なのはわかるし、レオン自身もリーンハルトには二度と昨日のような目には遭ってほしくない。

 だからといって、この待遇は過剰すぎる。


「ならばお前は、リーンハルトに昨日のような恐怖をまた味わわせるつもりか」

「そういうつもりでは……」


 しかし、これが大勢の貴族に知れ渡りでもしたら大騒ぎとなる。

 それでなくとも番が見つからずに、苦労しているというのに。今度は同性の侍従を過剰に可愛がっているなどと知られたら。考えただけで頭痛がしてくる。

 レオンは意を決して、ここ最近ずっと感じていたことを口に出した。


「無礼を承知で申し上げますが、彼と出会ってからの陛下は異常です」

「俺は至って正常だ」

「いいえ。叙任式の時からそうでした。陛下はまるで番を見つけたかのような態度ばかりお取りになっておりますよ」


 もっともおかしかったのは、叙任式でリーンハルトを舐めたことだが、そのあとも慣例を無視して彼を専属侍従にしただけでなく、過剰に配慮し、たびたび嫉妬心すら見せていた。


「…………」


 レオンの指摘に黙りこくるディートリヒは、わずかに顔が紅潮している。


「陛下。まさか……」

「……だから。確認している最中だ」


 執務室には重い沈黙が流れた。


 これは単に、『男色』という言葉で片付けられる問題ではない。番として認識しているなら、趣味趣向で済まされるレベルではないからだ。

 ディートリヒは、困り果てたような表情でレオンを見た。


「なあ……。同性が番となった事例は過去にあるのか?」

「どうでしょう……調べておきます。しかし、仮にそのような例があったとしても結婚は難しいでしょうね」

「なぜだ? 法律なら改正すればよい」

「しかし、お世継ぎはどうなさるおつもりですか。確実に陛下の子孫を残すために、わざわざ番を探しておられるのですよ」


 ディートリヒは単に、恋愛がしたくて運命の番を探しているわけではない。

 全てはそこが原点。シュヴァルツとヴァイスの覇権争い。


「ならば俺は、あいつと結婚するしかないのか……」


 ユリアーネのことが嫌いなわけではない。むしろ、幼馴染としてお互いを理解し合っている。昔は、シュヴァルツとヴァイスの争いがなければ良いのにと話し合ったものだ。

 同じ狼族なので、極端に恐れられることもない。結婚相手としては、むしろ理想的。だからこそシュヴァルツとヴァイスは、何度も婚姻を重ねてきた。


 けれど、シュヴァルツの血を絶やしたくない。これは遺伝子レベルで求めてしまうのでどうしようもない。


 それに加えて、リーンハルトの存在。同性とわかっていても、惹かれずにはいられない。

 自分自身がおかしな行動を取っているとディートリヒ本人がよくわかっているが、これも遺伝子レベルで求めているのか、どうにも止められない。


「陛下。まだ諦めるのは早いですよ」


 レオンが名案でも思い付いたかのように明るい声を出す。


「性転換の魔法でもあるのか?」

「そうではございません。リーンハルト卿は確か双子で、妹がいるはずです。双子は匂いが似ておりますから、陛下が勘違いをしている可能性もあるかもしれません」

「つまり……。リーンハルトの妹が、俺の番ということか?」

「その可能性は高いかと思います!」


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