《長い夜の店》が開業するまでの経緯について
登場人物紹介
千里:文永中央大学卒業
鈴:学び舎カレッジ卒業
結子:元舞台役者
芥:元農民
千里は大学で法学部にいた。大学とは学者を育てる場所である。その目的に沿わない者は落とすのが、イデア国のトップ、文永中央大学の思想であった。
千里は将来の目標として、国内に娼館を開きたいと掲げて法学部に入った。前後に例があったかはそれとして、卒業後の千里は本当に娼館を開いてしまった。違う分野の仲間を連れて。
鈴は、学び舎カレッジという孤児院の出身であった。学び舎カレッジは文永中央大学の系列組織であり、学問ではなく教養を教える場として、社会の知能の強化に貢献した。
結子は舞台役者をしている者だった。そこを千里に雇われた。
芥は農民であった。自分から志願し、千里に面接をさせた芥は、標準語が発音できない事を理由に不採用になり、それでもというものだから事務員にさせられた。
最も仕事が多いのは結子である。何故なら客に合わせる汎用性に長けていたからだ。
しかしそれでも、千里と鈴、そして結子は給料が同じであった。何故なら、汎用の結子が補えない客を後ろで支える為に千里と鈴がいて、待っている時間は勤務時間に含まれるからである。
いずれも、開業者である千里の思想であった。
芥は事務員であった。しかし最も給料が高いのも芥であった。それは、千里が辞職者を出させないための施策であり、万が一人間関係などで内部トラブルがあった時、給料が高い者を盲目に攻撃対象にしてよいという、共同の仮想敵を作って従業員のストレスの緩和を目的とするものであった。
千里は本来、芥を店に入れるつもりは無かった。しかしある事に気付き、予防策として事務員にする事にした。それは、千里が鈴に対し、時に制御できないほどの同情を向けてしまっている事を自覚したというものだった。
組織の均衡という点での危険を感じた千里は、例外の四人目を入れる事にした。この施策は、人数を偶数に保ち、三すくみによる修羅場的トラブルを避けるのを目的とするものである。
続く。